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「ヒ・ミ・ツ・・・のペンダントちゃん」③

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「なあ、ロンヤ。こいつはいったい何者だ?」

「え……いや、自分にはさっぱり……」

「だよな。俺もだ」

「焙義さんもさっぱりなら、自分なんかそりゃ、全然……」

 北の街、ブアイスディー中心部にある二百にひゃくぼしホテルの一室いっしつ

 ロンヤは直立ちょくりつ不動ふどうで、焙義ばいぎは一人けのソファに浅く腰をかけ、

 二人は目の前の寝椅子ねいす横臥おうがする一人の見知らぬ男を、疑惑ぎわくのまなざしでながめていた。

 男は長旅で腰を痛め、起き上がれないらしい。

 全身グレー系のよそおいで地味じみだが、身分はかなり高いようだ。

 家来けらい数名が男を取りかこんで立ち、護衛ごえいの目を光らせている。

 この家来たち、焙義とロンヤが泊まっている宿屋やどや唐突とうとつたずねて来るや、

「主人の待つホテルまで来てほしい」と、熱心ねっしんたのみこんできた。

 どうやらおしのびらしく、自分たちがどこの誰なのか、どんな事情があるのか一切いっさい告げずに「主人が直接お話されます」の一点いってんりで、

 むろんことわったのだが彼らはしつこく熱意ねついもハンパなく、

 二人はなかば押し切られる形で不承ふしょう不承ぶしょうにホテルへおもむいたのだった。

 しかし、100%一方いっぽう的に連れて来られたわけでもない。

 彼らはなぜか焙義とロンヤ、モモタローやヒロキの名前まで知っていた。

 それが気になり、30%ちょっとは自分たちの意志いしで付いて来たのだ。

 そんなこんなでホテルに着き案内された部屋まで来てみると、主人の男が腰痛で横たわっていた……という不可解ふかかい経緯けいいだ。


「ぶ、無作法ぶさほうを許してくれたまえ。

 本来なら私が君たちの宿へ向かうべきだったのだが、この通り、どうにも動けなくなってしまって……

 ハハッ。情けないっ」

 痛みをこらえつつ、男は焙義とロンヤの警戒けいかい心をこうとムリヤリ笑顔をこしらえる。

「名乗るのが遅れて申し訳ない。

 私はヨージアン=ガフェルズ。

 君たちが助けてくれたコラルンジェラの父親だよ」

「……コラルンジェラ?」

 焙義はやおら立ち上がり、ロンヤの隣りに並んだ。

「コラルンジェラさんて……あの、ミロさんにトランクを置き引きされた……?」

「ああ。あん時の天然てんねんボケ……じゃない。世間せけん知らずの……いや、なんつうか、その、温室育ち、お花畑の……」

「焙義さん、もうやめた方が……」

 言い直しをり返し、しどろもどろでだんだん自分みたいにスローになっていく焙義を見かね、ロンヤは耳元でささやいた。

「ハハハッ。いいんだよ、気にしなくて。

 娘が天然ボケなのは何をかくそうこの私の血を受けいだせいなんだよぉ~

 世間知らず温室育ちってのも私たち親のせいなんだよねぇ~

 アハッ、お花畑はどおかなぁ~?

 い、いたたっっ」

 笑って上体を起こそうとしたヨージアンだったが、腰にピシッと激痛げきつうが走るや、背中を丸めて身もだえた。

「あ、あの……大丈夫……ですか?」

 ロンヤは反射はんしゃ的にけ寄ろうとする。

 が、家来に止められヨージアンに近づく事はできなかった。

 家来は家来でこちらを警戒しているらしい。


「ちょっと待てよ? ガフェルズって……

 アンタ……じゃない。オタク、ひょっとしてドリンガデス国の王族なのか? あ、ですか?

 てことは、あのコラルンジェラも……もとい、コラルンジェラ殿も……」

 苦手な敬語をぎこちなくあつかい、焙義はきいた。

 すると、もだえ苦しむヨージアンに代わり、家来たちが交代で、全てを簡潔かんけつ明瞭めいりょうに語り始めた。

 コラルンジェラがブルヴァオンレ王の従姉妹いとこにあたるという、衝撃しょうげきの事実から始まったのだが……

 ここからは、焙義とロンヤにとっておどろきの連続だった。
 
 コラルンジェラが焙義らと別れた後日、あの極悪ごくあく人ガアス=パラスにおそわれそうになりミロが守ったという驚き、

 現在ミロがコラルンジェラの住むノンヴォワイド城で庭師にわし見習いとして働いているという驚き、

 そして焙義とロンヤが何より疑問ぎもんだったここへ呼ばれた理由、どうして自分たちの名前まで知っていたのか――

 ヨージアンは、コラルンジェラとミロから焙義たちブレンドの青年の話を聞き、

 娘が旅先で一文いちもんしになる危機ききを救ってくれた青年らに礼をするためはるばるブアイスディーまで出向いて来たというのだ。

 律儀りちぎなヨージアンらしい行動だ。


「けどよ。俺たちがブアイスディーに滞在たいざいしてるってのは、どうやって……」

「チョセコポアから、サトナシではなくこちらへ進路しんろ変更したようですね。

 足どりをたどるのは容易よういではありませんでしたが、王家の力をってすれば決して不可能ではありません。

 ところで、後のお二人はいかがされましたか?」

「とっくにブアイスディーから離れてるよ。

 天下てんかの王家様もそいつはまだたどれてねーんだな」

「そ、そうでしたか。では、くれぐれもよろしくお伝えください。

 ヨージアン様はこのようなご様子ですので、とても後のお二人を追う事はかないません」

「これ以上追わなくていいけどよ。

 けどアンタら、『主人が話す』とか言いながら結局てめえらで全部話しちまってるじゃないか。

 どーせなら会った時にざっくりでも説明してもらいたかったぜ」

「ちょっ、焙義さんっ。言い過ぎ……!

 しかも、敬語……どっかにいっちゃってるし……」

 相手は王族とその家来だ。

 ロンヤはたまらず焙義の肩に手をけた。


「うううっ、いいんだよ、気にしなくて……

 君の言う通りだよ。

 だが、悪いのはこの者たちではなく私だ……

 私が……ううっ、不甲斐ふがいないばかりに……」

 家来の手を借り、ヨージアンはゆっくり、ゆっくりと、上体を起こすのに成功した。

「ふぅ~、あらためて……

 そのせつは、娘が大変世話せわになったね。

 本当にありがとう。おんるよ。

 でも君たちに直々じきじきに会って礼がしたかったのだよ。

 君は……バイギ君。それから君はロンヤ君だね?

 娘とミロから四人それぞれの個性こせいを聞いていたのですぐに分かったよ」

 王族とはにわかに信じられぬ程、ヨージアンはフレンドリーで、親しみやすいぬくもりにあふれていた。

 確かに、コラルンジェラと親子なのはうなずける。

 強い不審ふしん感からとっていた焙義の刺々とげとげしい態度も、次第しだいにやわらかくなっていく。
 
「……わざわざどうも。

 しかし、ミロをつかまえ改心かいしんさせたのは俺……いえ、私ではなく友人のモモタローでありまして」

「ハハッ。バイギ君、ムリせずいつも通りのしゃべり方でかまわないよぉ~

 モモタロー君はもちろんだが、私は君たちみんなに多謝たしゃ多謝たしゃなんだよっ。

 娘に友のように親しくせっしてくれたのがたまらなく嬉しかったのだ」

 ヨージアンは、若いブレンドの友達が出来たと満面まんめんの笑みで思い出話をするコラルンジェラを目に浮かべ、口元くちもとをほころばせた。

 焙義もロンヤもえんのなかった、愛情深い「父親」の顔で――


RRRRR……

 不意ふいに、ヨージアンの手元てもと電話が鳴った。

「ああ、グッドタイミングだね」

 ヨージアンはコートの懐中かいちゅうから電話を取り出すと、

「二人とも、もっと驚くだろうよぉ~」

 父親の顔から一転いってん、いたずら小僧こぞうみたいなしたり顔で通話つうわボタンを押し、

 どういう訳か家来をかいして電話を焙義に渡してきた。

「へ? お、俺……?」

 意味不明のまま、焙義は戸惑とまどいつつも電話を手に取った。

(……そうか。なんとなく想像できちまったぜ。

 向こう側で待ちかまえているのは、おそらくお花畑……)

 サプライズを仕掛しかけ、ワクワク小鼻こばなを広げているコラルンジェラなのだろうと予想し受話口じゅわぐちを耳に当てた焙義だったが、

 鼓膜こまくに届いたのはコラルンジェラではなく、想像をはるかにえた人物の声だった。
 
『……お兄ちゃん?』

 ――――豆実まめみだ。
 
 焙義の引きしまった口元が、先ほどのヨージアンに負けないくらいみるみるほころんでいく。

「豆実……豆実なのか?」

『そう。私よっ。

 ウソみたいっ! ホントにお兄ちゃんだ……!!』

 豆実はかすかに涙声になっている。

 焙義の声を聞いたとたん安心しきってしまい、りつめていた気持ちが涙腺るいせんと共に一気いっきにゆるんだのだ。

「どおなってんだ。豆実、お前がなんだってこの電話に……」

『コラルンジェラさんの手元電話からかけてるの。

 今、コラルンジェラさんと一緒なの。プルダちゃんとミロさんも一緒よ』

「プルダも? つうか、お前たちどこに居るんだ? サンドヨッツじゃないのか?」

『サンド……あ~、そっか。そこからか。

 うんと長くなっちゃうけど、実はね……』

 ――――――――――――――――

「なあ、ロンヤ。頭ん中かたづいたか?」

「え……いや、自分はまだ……」

「だよな。俺もだ」

「焙義さんもまだなら、自分なんかそりゃ、全然……」

 自分たちの宿屋に戻ってから一時間、とっらかった脳内のうないを整理すべく、焙義とロンヤは静かに奮闘ふんとうしていた。


「てっきり、豆実ちゃんとプルダちゃんは、サンドヨッツで普通に過ごしているもんだとばかり……」

「ったく……何やってんだ、アイツら。

 おばさんもよくみとめたもんだぜ」

 ――豆実とアップルダがパンブレッド、サンドヨッツ村をってから今日こんにちいたるまでの一部始終は、かなりい内容だった。


山賊さんぞくたおしてくれたギベタスさんて……それこそ、何者なんだろうね」

「その人がいなけりゃ、二人そろってよその国へ売り飛ばされていたかもしれねえ」

 考えただけでゾッとする。

 焙義は、豆実とアップルダの無事を安堵あんどすると同時に、仮名かめいギベタスなる男に心から感謝した。

 だが、行方ゆくえ知れずで連絡もとれないクッペについては心がかりだ。

 ヨージアンが別れぎわ、クッペの捜索そうさくに協力する事を約束してくれたのだが……

 この大国たいこくで、自分たちの居場所をきとめた王家の力に期待きたいするよりほかない。

 ヨージアンとコラルンジェラ親子はクッペの捜索のみならず、豆実らがブアイスディーへ安全にたどり着けるよう、

 なんと二人に身辺しんぺん警護けいごを付ける約束までしてくれた。

「なんか……煎路さんりゅうで言うと×ばい1000せんの恩返し……だね」

「恩返されるようなこと、俺たちは特にしてねえってのに悪いよな。
 
 あの親子には足向けて寝られねーよ」

「でも、いいの?

 二人を、サンドヨッツに帰さなくて……」

「そおしたいのは山々やまやまだがな。どおせ帰りゃしねえだろ?

 おとなしそうでも豆実はけっこう頑固がんこだからな。

 アイツらだけでウロウロされるくらいなら、そばにおいとく方が心配がねえよ」

「だね……こっちは、煎路さんを探し出すまで、ブアイスディー周辺を離れられないしね。

 じ、自分のせいなんだけど……」

 煎路人形を置き去りにした自らの愚行ぐこうをいまだ引きずり、ロンヤはひそかに自己じこ嫌悪けんおおちいっていた。

「それはそうと……焙義さん。

 豆実ちゃんのペンダントって、なに?」

「母親の形見かたみだよ。豆実あいつにとっては宝みてえなもんさ」

「でも、あの、自分はそんなの、見たことないけど……」

「人間界には持って行かなかったからな」

「宝物なのに?」

「ああ。

 けどよ。豆実のペンダントを、なんでコラルンジェラが……」

 豆実から聞いた話では、二人はクッペを探してトリンケルツの街を歩いている途中で道に迷い、たまたま声をかけてくれたミロと仲良くなった。

 ミロはコラルンジェラのおともでトリンケルツに来ていたのだ。

 短い時間ですっかり意気いき投合とうごうした三人は、休憩きゅうけいがてらある喫茶店きっさてんに入り、

 豆実とアップルダはそこで初めてミロの主人、上流じょうりゅうの香りただよう美女、コラルンジェラと会った。

 もちろん、豆実たちはロクハタス(=ギベタス)の忠告ちゅうこくはしかと胸にめていた。

 留めていたはずなのに、自己じこコントロールがまるでかず喫茶店へと引き寄せられてしまったのだ。

 やはり、豆実のペンダントのみちびきだったのか――


 時間は、豆実とアップルダが道に迷った時にまでさかのぼる。

 地図とにらめっこしつつ、誰かにたずねようとキョロキョロしている二人にミロが声をかけたのは、実は偶然ではなかった。

 ミロはコッソリ二人を尾行びこうし、声をかける機会きかいをうかがっていたのだ。


 さらにさかのぼり、豆実とアップルダがロクハタスと別れた直後の事。

 コラルンジェラは馬車の中からたまたますれ違った少女、豆実のペンダントが目に入り、心臓が止まるほど驚倒きょうとうした。

 義理ぎり伯母おばのペンダントにそっくりな色、形だったからだ。

 近くで確認したくても、いきなり呼び止めたのではいぶかしまれ、逃げられてしまうのがち。

 そこで、コラルンジェラの元に二人を連れて来る役目を買って出たのがミロだった。

 泥棒《どろぼう》だったミロなら、尾行なんかはお手のものだ。

 あくまで偶然をよそおって道を教え、さりげなく喫茶店まで誘うのも、ミロはとても上手うまくムリなくやってのけた。


「なにげなく入ったものの……

 豆ネェ。ぼく達フツーにやばいよね……」

「ええ。場違いなのは確かね……」

 豆実とアップルダは、やたら豪華ごうか内装ないそうの店内を見回し、困惑こんわくした。

 向かいの席では、コラルンジェラがニコニコして肩をすくめている。

 彼女が何者であるのかは、席に着きお互い自己紹介した際に判明はんめいした。

 上流だと予想はしていたが、まさかの王族だったとは想定外そうていがい驚愕きょうがくなる真実。

 つまりここは、庶民しょみんなど一歩いっぽも、いや、足先1ミリすらみ入れてはならない王域おういき

 ウルトラスーパーハイグレードな喫茶店なのだ。

 あまりにおそれ多く、二人は気後きおくれからカチコチにかたまってしまった。

「そんなに固くならなくてもよろしいのコクですわよ?

 リラックスなさってのコクですわっ」

「……な、なんだろ、豆ネェ。“コクコク”って……

 王家の抹殺まっさつ指令しれい暗号コードとか……?」

「しっ。プルダちゃんはだまってて……」

「またそれを言うっ。ぼくだって発言はつげんする権利があるんだ……!」

「いいから黙ってて……!」

「お二人とも、どうかなさってのコク?」

「なんでもありませんっ!」

 ヒソヒソ声で言い合っていた二人が、背筋せすじをシャキーンと伸ばして声を合わせた。

 どんなにニコニコしていても、悪名あくめい高いガフェルズ一族の女。

 サトナシさい中継ちゅうけいでテレビ画面にうつし出されていた、あのエゴイスチックな第一王子の身内みうちなのだ。

 油断ゆだんしてはならない。怒らせてはならない。

 豆実とアップルダは、息がつまる程に緊張きんちょうしていた。

 コラルンジェラの口から、なつかしい名前の数々かずかずが出るまでは……

「ねえ、ミロさん。

 こちらのマメミさんて、バイギさんとたような上着じゃありませんのコク?」

「言われてみれば……はいっ。似てますね」

「今頃みなさんどうなさっているのコクかしら。

 モモタローさんもヒロキさんも、それからロンヤさんも……」

「え……?」

 豆実とアップルダは目をまん丸く、キョトンとした。

「やだ。あたくしったら、ごめんなさいのコクですわ。

 関係のない話なんかして……」

「……か、関係……」「……なくない……」

「その人たち、関係おおありです!!」

 二人は再び声を合わせ、そろってイスからおしりを浮かせるや、コラルンジェラの方へと身を乗り出した。

 この場で、この状況で、焙義たちの名前を耳にするとは……

 コラルンジェラとミロが焙義たちの知り合いだったとは……

 これはきっと、奇跡きせきのめぐり合わせなのだ――

 豆実とアップルダは焙義たちを通じてコラルンジェラとも完全に打ちけ、身分のかべえミロ同様どうように仲良くなった。


「あら? マメミさん、ペンダントをしてらっしゃるのコクね?

 あたくしに見せてくださらないのコク?」

 おかげで、コラルンジェラは本来の目的であったペンダントの話にごく自然にれ、それとなく切り出す事ができた。

「ええ。コラルンジェラ様になら喜んで」

「まっ。『コラルンジェラ様』なんてイヤのコクよ?

 あたくし達、お年は離れていてももうお友達のコクなんですもの。

 ミロさんにもそう言ってるのに、彼は“様”付けをやめてくれないのコクですわ」

勘弁かんべんしてくださいよ。俺もお城で働いてる以上はケジメってものがありますから。

 コラルンジェラ様の方こそ、いい加減かげん俺に“さん”付けはやめてください。

 呼び捨てでいいんですよっ」

 ミロはこまり顔で軽く抗弁こうべんした。

 二人がそんなやりとりをしている間に、豆実はワンピースの中にしまい込んだペンダントを取り出してくさりを外すと、

 手の平に乗せてコラルンジェラが見やすいようにと差し出した。

「まあ……なんてステキのコク……」

 ペンダントに目をらしコラルンジェラはつぶやいたが、

 ユーディアライトの石のかがやきや美しさなど、実際じっさいつぎだった。

 第一に、豆実のペンダントを確かめたかったのだ。

(こうして間近まぢかで見ると……似ているなんてレベルではないのコクよ。

 コナウディアおばさまのペンダントそのもの……)

 ますますペンダントを熟視じゅくしするコラルンジェラ。

 その時、コラルンジェラの手元電話にヨージアンから着信があり、

朗報ろうほうだよっ。コラルンジェラ。

 ブアイスディーでブレンドの青年たちが宿泊しゅくはくしている宿を発見した。

 さっそくこれから会いにアアアッ!! ウアアッ!! 

 こ、こ、腰がぁ~っっ!! うっ、うう……

 あ、あとで……連絡して……ウオオ~ッ!!』

 ――との、喜ばしい? 知らせを受けた。

「お父様ったら。あんなにはしゃいだりして……

 子供みたいのコクよ」

 コラルンジェラは細くため息をつき、電話をテーブルに置くとペンダントに視線を戻した。

 ところが、視線の先にはすでにペンダントはなく、ちょうど豆実が首にかけ直しているところだった。

(しまったのコクよ! お父様ったらなんてバッドタイミング!

 マメミさんさっさとペンダントをしまってしまったじゃないのコク!

 だけどもしかしたら……お父様の電話のせいではなくて、マメミさんがあたくしをあやしんだのかもしれないのコク。

 あんなふうに真剣しんけんにペンダントを観察してしまったのコクだから……)

 もう一度見せてほしいとはとても言い出せず、コラルンジェラは小さく落胆らくたんした。

 とどのつまり、ペンダントが義伯母おばの形見だと確信かくしんできぬまま時間がち……

 窓の外は、いつのまにか夕闇ゆうやみせまろうとしていた。

「コラルンジェラ様……じゃなくてコラルンジェラさん。

 私たち、いったん宿に帰りますね」

「あ……そうのコクね。あたくしもそろそろ帰りますから、宿まで馬車でお送りしますわのコクよ。

 貴女方のお連れの方にもきちんとご挨拶あいさつしておきたいのコクですし」

「ギベタスさんに……ですか?」

「お二人があたくしにだまされているんじゃないかって、その方も気が気ではないのコクでしょうから」

「でもさぁ。ギベタスさん、今夜は遅くなるかもだよ」

「そうなんですのコク?

 お会いできなければ、明日にでも出直しますのコクですわ」

「あの、コラルンジェラさん。

 身辺警護といい、私たちのためになぜそこまでしてくださるんですか……?」

 どこか怪訝けげんな顔つきで豆実に問われ、コラルンジェラは一瞬口をつぐんだ。

「……大げさに感じるかもしれませんわのコクね。

 けれど、あたくしも人生初の一人旅でものすごくこわい体験をしたのコクですわ。

 貴女たちも体験したのコクでしょう?

 だから、だからもう二度と……」

 ガアス=パラスのにやけづら脳裏のうりをかすめ、コラルンジェラはギュッと目を閉じ首を左右に振った。

「コラルンジェラ様っ。に、二度なんかないですよっ」

 ミロもまた、恐怖の記憶がよみがえりそうになったのか、じゃっかん手がふるえている。

 あんなに明るかった二人の表情がこわばり、じわじわと血のを失っていく――

 豆実ははげしく後悔し、反省した。

(私ったら、うたがうようなことを……

 ご厚意こういを素直にお受けしていれば、お二人ともつらい体験なんか忘れていられたのに……)

 ただ、豆実はほんの少し不安になったのだ。

 やけにペンダントに見入みいっているコラルンジェラをの当たりにした瞬間、

 なんの抵抗ていこうもなく誘われるまま喫茶店ここへ来た自分、ペンダントののままになっている自分が不安で不安でたまらなくなっていた。

 思えば、ロクハタス(=ギベタス)もペンダントを気にかけている。山賊さんぞくみたいに金銭きんせんなどが目当めあてではないものの……

「コラルンジェラさん。

 私のペンダントに、見覚えがあるんでしょうか……?」

 豆実は思いきって、コラルンジェラに直球ちょっきゅうできいてみた。

 すると、パラスの回想かいそうにおびえていたコラルンジェラが振りきるようにパッと目を開け、豆実をしばらく凝視ぎょうしした。

「……やっぱり、感づかれていたのコクね」

「はい。かなり関心かんしんがおありのようだったので……」

「あたくしの知人のペンダントに酷似こくじしているからのコクよ」

「知人の……?」

「……ええ……」

 日没にちぼつ前の、純黒じゅんこく支配しはいされつつある黄金こがね色の空へと視線を流し、

 コラルンジェラはある男性のたねを思い起こしていた。

 母親から剣のペンダントをゆずり受けた王子。

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