上 下
104 / 201
第3章・残念なドラゴンニュートの女の子

101:女々しくない

しおりを挟む
 俺たちはアラグとの模擬戦を終えると、早く王都グラスに向かわなければいけないので支度を整える。そんな最中でもアラグは俺に恥を晒されて睨んできている。当たり前だが、俺は知らんぷりして荷物を整える。
 俺の気持ちとしてはアラグではなく、粉々になって無くなってしまったエルードの方に向いている。良作と聞いて、俺の手にも馴染んでいたのに直ぐに壊れてしまったからだ。


「はぁ……新しい剣でも買おうかなぁ。でも、俺としては素手の方が戦いやすいんだよなぁ………」

「ミナト様、すみませんでした!! 私が守っていれば、大切にしていたエルードが壊れる事は………」

「えっ!? そんなに気にしなくたって良いよ。物にだって寿命があるんだって、エルードの寿命が今日までだったって事なだけだからさ」

「ミナト様っ!!」


 そう、今回の事でエッタさんを責めるのはお門違いだ。エルードを守れなかった俺に全ての責任がある。だからこそエルードが壊れてしまった事に後悔している。
 だが落ち込んでもいられない。ここからはオリヴァーという、俺が大敗した人間と第2ラウンドと行くのだから。中途半端な気持ちだったら、今度こそ俺は命を落とすだろう。
 俺たちは荷物を馬に乗せると、俺の後ろにエッタさんを乗せて次の街に向けて出発する。それにはフローレンたちも着いてくるらしく、その時もアラグは睨んできている。いつまで根に持っているのだろうか、男として器が小さい奴はモテないぞ。


「それでアンタらも首都のグラスまで着いてくるのか?」

「もちろんです。私たちもオリヴァーを捕まえたいと思っているので、協力させていただきます」

「協力だって? アンタはクロスロード連盟軍と繋がっている奴なんだろ? 俺たちを欺こうとしてんじゃないのか?」

「そんな事あるわけねぇだろ!! フローレンは、確かにクロスロード連盟軍の口利きで冒険者になったが、別に軍隊の使いっ走りなわけじゃねぇよ!!」


 俺としては着いて来られるのは問題ないが、クロスロード連盟軍が横取りしようとしているのならば、軍隊と繋がっているフローレンは信用しきれないというわけだ。
 さっきの模擬戦の恨みもあってアラグは、俺のフローレンに対する態度が許せなかったのだろうな、馬上から叱責された。そんなに憎たらしいのなら着いて来なくて良いのにさ。


「まぁ邪魔をしないっていうなら良いが、怪しい動きをしたら離脱してもらうからな………それで良いな?」

「あぁん? こっちは お前よりもランクの高い冒険者で、フローレンに関しては十二聖王だぞ!!」

「だから何なんだ? 俺は、もう役職に縛られるのは嫌いなんだよ………それは俺の自由にやりたいポリシーに反する」


 そうなんだよ。前世の俺は社畜というものに囚われて、何も楽しめずに死んだんだ。今回の人生では階級なんかに囚われず、自由に生きたいのに、十二聖王だからって敬語を使うのは全力で拒否させてもらう。
 そんな俺の態度にアラグは、さらに怒り心頭になって殴りかかってくるのも秒読みなのではないだろうか。今にも喧嘩が始まりそうな雰囲気のまま進んでいくと、日が暮れる前に街に到着したが、俺は信用が無い感じがする。


「むむむー。ここの街は共和傭兵団の根城じゃないだろうな」

「そうですね。あの街みたいに襲われては、いくら休んでもオリヴァーとの闘い前に疲れちゃいますよね………」

「それなら心配ないですよ。共和傭兵団の根城は、東西南北の4ヶ所しかないので、ここは安全だと思います」


 俺としては天邪鬼になっていて、ここの街は大丈夫なのかと不安感を募らせている。まさか村全体が共和傭兵団の根城なんて想像がつかないだろうよ。
 だがフローレンがいうには、共和傭兵団の根城というのは東西南北の4ヶ所しかなく、ここの街は安全なはずだと説明する。まぁそれなら信用できるだろうと俺たちは街の中に入る。
 意外にも街の中は多くの人が行き来しており、砂漠の街とは思えない程に賑わっていた。やはり普通の街とは異なり、フルーツも桃やリンゴなどではなく、バナナやココナッツと言った南国のフルーツが多くなっている。


「エッタさん、あのフルーツを買ってあげようか?」

「あれですか? あのボールみたいな形をした奴ですよね?」

「そうそう。あのフルーツの中に、薄皮ってのがあるんだけど、パックとかに使うと肌に良いらしいよ」

「本当ですかぁ!! それは女子としては気になる事ですねぇ」


 俺が異世界に来て読んだ本に、ココナッツのようなフルーツの中にある薄皮をパックに使うと良いというのが載っていた。
 まさかいらないだろうと思った知識が、こんなところでエッタさんの喜ぶ顔を観れるとは役得役得。まぁエッタさんなら知ってると思ったんだけど、意外にも知らなかったみたいだ。
 そしてココナッツを見ながら美容に良いんだと、好奇心満々の顔で持ち上げたりしている。俺はスッと懐から金を出すと店主に渡して、俺なりのスマートな買い方をした。


「おいおい。男とあろうモノが、そんな女々しい情報を手に女を侍らせてるとは………このアラグ様は、お前にとことん軽蔑しちまってるわぁ」

「なんだと? そんな事も知らないで、フローレンのような美しい女性の側にいるのか?」

「あぁん? 俺は腕っぷしで守ってんだよ!!」


 ニコニコッとエッタさんが喜んでいるのを、俺も喜んでいるとアラグが小馬鹿にした笑いをして来た。女の人を気遣うのは男として当たり前だが、アラグの言った女々しい奴という言葉にプッチンと来て胸ぐらの掴み合いになる。


「ちょっとちょっと!! こんな街の中で、胸ぐらを掴み合って喧嘩はやめて下さい!!」

「でも、フローレンよ!! この男が冒険者だってのに、女々しい事をしてるからよぉ」

「アラグ。貴方は、もう少し女性に気を遣って下さい………」

「なっ!?」

「ぶふ!! 言われてやんの!!」


 俺たちの喧嘩を見かねた、フローレンが止めに入って無理矢理に剥がされるのである。アラグは俺の事を、またも女々しい奴だとフローレンに言った。
 しかしフローレンは俺の事を女々しいという事なく、逆にアラグに対して女子心を勉強しなさいと叱った。あまりにも心地よい状況だったので笑いが堪えられなかった。


「なに笑ってんだよ。俺はテメェに勝ってんだぞ? お前は、俺よりも遥か下なんだよ!!」

「ちょいちょい。俺が皆んなの前で、恥を晒さない為に気を遣ったのを忘れてんのか? あんなのを自分の勝ちだって言えちゃう心は、俺も尊敬しちゃうわぁ」

「テメェ!!」


 最高に気持ちが良い。
 さっきの模擬戦を伏線にして、いくらでもアラグの事を小馬鹿にして気持ち良い思いができる。他の人が見たら、性格の悪い奴だと思われるが、もう思われたって一向に構わないさ。
 そんな喧嘩をしていると、さっき止めてくれたフローレンも頭を抱えて困ってしまった。こんなにも騒いだら周りの注目も引いてしまうと思ってある考えを思いついた。


「あっ!! カールハイン。あの2人を肩に担いで運んでくれないかしら?」

「了解……」


 フローレンは高身長のカールハインに頼んで、俺たちを担いで無理矢理にでも喧嘩を止めさせた。俺たちは担ぐなとジタバタするがカールハインはビクともしなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

男女比崩壊世界で逆ハーレムを

クロウ
ファンタジー
いつからか女性が中々生まれなくなり、人口は徐々に減少する。 国は女児が生まれたら報告するようにと各地に知らせを出しているが、自身の配偶者にするためにと出生を報告しない事例も少なくない。 女性の誘拐、売買、監禁は厳しく取り締まられている。 地下に監禁されていた主人公を救ったのはフロムナード王国の最精鋭部隊と呼ばれる黒龍騎士団。 線の細い男、つまり細マッチョが好まれる世界で彼らのような日々身体を鍛えてムキムキな人はモテない。 しかし転生者たる主人公にはその好みには当てはまらないようで・・・・ 更新再開。頑張って更新します。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

クラス転移したひきこもり、僕だけシステムがゲームと同じなんですが・・・ログアウトしたら地球に帰れるみたいです

こたろう文庫
ファンタジー
学校をズル休みしてオンラインゲームをプレイするクオンこと斉藤悠人は、登校していなかったのにも関わらずクラス転移させられた。 異世界に来たはずなのに、ステータス画面はさっきやっていたゲームそのもので…。

神様に転生させてもらった元社畜はチート能力で異世界に革命をおこす。賢者の石の無限魔力と召喚術の組み合わせって最強では!?

不死じゃない不死鳥(ただのニワトリ)
ファンタジー
●あらすじ ブラック企業に勤め過労死してしまった、斉藤タクマ。36歳。彼は神様によってチート能力をもらい異世界に転生をさせてもらう。 賢者の石による魔力無限と、万能な召喚獣を呼べる召喚術。この二つのチートを使いつつ、危機に瀕した猫人族達の村を発展させていく物語。だんだんと村は発展していき他の町とも交易をはじめゆくゆくは大きな大国に!? フェンリルにスライム、猫耳少女、エルフにグータラ娘などいろいろ登場人物に振り回されながらも異世界を楽しんでいきたいと思います。 タイトル変えました。 旧題、賢者の石による無限魔力+最強召喚術による、異世界のんびりスローライフ。~猫人族の村はいずれ大国へと成り上がる~ ※R15は保険です。異世界転生、内政モノです。 あまりシリアスにするつもりもありません。 またタンタンと進みますのでよろしくお願いします。 感想、お気に入りをいただけると執筆の励みになります。 よろしくお願いします。 想像以上に多くの方に読んでいただけており、戸惑っております。本当にありがとうございます。 ※カクヨムさんでも連載はじめました。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...