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第3章・残念なドラゴンニュートの女の子

064:月を見る夜

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 時間は少し遡り、場所も俺たちがいる街から離れた、ツァリーヌ王国の首都《アリコット》にある王城に変わる。
 この日はツァリーヌ王国の各地で守護をしている、大名の様な人たちを呼んでの会議が開かれた。


「………以上が、我々からの報告になります」

「ご苦労だった。それじゃあ、今のが最後の報告だな………今期の報告も御苦労だった」


 この会議の進行を行っているのは、国のNo.2である右大臣の《フランターヤ=レクサー》である。
 女王は出席しているが大名たちに、顔が見えない様に薄い布の様なモノで隠されている。
 今回の会議も筒がなく進んで、最後に女王陛下からの御言葉が送られる。


「まずは今日、この国の為に集まってくれて感謝します………このまま引き続き、この国の為にも働いて下さい」


 女王陛下の声は透き通る小鳥の様な綺麗な声で、そこから発せられる言葉は労いの言葉だった。
 その言葉を聞いて大名たちは、自分たちがやってきている事は正しいのだと女王陛下への忠誠心が高まる。
 そして会議が終了して大名たちは、各地の自分の持ち場へと帰っていくのである。


「ふぅ~、今回も御苦労様って感じだな。なぁ女王陛下………」

「………」


 フランターヤは大名が居なくなると態度や目が明らかに変わって、女王陛下にもタメ口を聞いる。



* * *



 場所も時間も元に戻って、俺たちは女王陛下の行進を見てから街を一周して宿屋に戻った。
 何もない日を過ごしたのは久しぶりで、満喫できたと宿屋に着いた瞬間にベットにダイブする。


「ふぅ~。久しぶりに休みを満喫できて良かったなぁ」

「そうですね。こんなに穏やかな日は久しぶりです」

「欲しかったモノも手に入れたから満足でござる」


 俺は満足しているが他の2人は、どうだろうかと心配だったが2人とも満足そうな顔をしているので安心した。
 俺たちが帰ってきてから少しすると、カエデちゃんたちも宿屋に満足げな顔をしながら帰ってきた。


「久しぶりの休みは、どうだったかな?」

「とても楽しかったわん!!」

「満喫できたにゃ……」

「この2人のお守りで、1日があっという間だった………」

「うんうん。個人的に、1人気になる人が居たけども、それなりに楽しめたのなら良かった」


 完全にイローナちゃんがお守り役として、シュナちゃんとカエデちゃんを見守ってくれて安全に1日を終えられた。
 良い休日になったと思っていると、カエデちゃんが何かに気がついた様な顔をして話し始める。


「そういえば、街の人が話してた事なんだけどわん」

「何か良い情報でも聞いたのかい?」

「そうなんだわん!! この街と次の街の中間地点に、ハイウルフの住処があるらしいわん!!」

「ハイウルフって単体危険度は、Bランクだけど数やボス個体によってはAランクか、Sランクに上がるモンスターだよね?」

「そうだわん!! しかも、その住処の奥に秘宝が眠っているって噂なんだわん!!」


 カエデちゃんが教えてくれたのは、街の人たちが噂話として話していた事らしく。
 この街と次の街の中間地点にある洞窟に、危険度が高いハイウルフというモンスターの住処があるみたいで、その奥地に秘宝が眠っているという噂らしい。


「信憑性が何とも言えない噂だねぇ。でも、まぁやる事も決まっていないし、探検してみるのも冒険者らしくて良いか」

「決まりだわん!!」

「拙者の刀の錆にしてやるでござる!!」

「浮かれすぎて、ミナト様に迷惑をかけない様に!!」


 秘宝に関しては信憑性が低いと思ったが、それでも冒険者らしく久しぶりに探検してみるのも良いだろうと向かう事にした。
 それが決まった瞬間にカエデちゃんはジャンプして喜ぶ、しかしカエデちゃんを監視するのも大変になるので、カエデちゃんがテンションが上がっている時は要注意だ。


「それじゃあ、明日に向けて今日は早めに寝るぞぉ」

『はーーい!!!!』


 俺は明日に疲れを残してしまったら、ハイウルフ戦で大怪我をする可能性がある為に、早く休もうと全員をベットに入れた。
 そして俺も全員が寝るのを見てから眠りにつくと、夜中の2時くらいに目を覚ますと、ルイちゃんが寝ているはずのベッドの上に誰もいない事に気がついた。
 トイレかと思ったが目が冴えてしまったので、散歩ついでに少し宿屋の外に出てみると、宿屋の屋根に翼を大きく開いて尻尾を左右に大きく振るルイちゃんがいた。


「あれ? こんな夜中に、どうかしたのかい? もしかして、ルイちゃんも途中で目が覚めちゃった?」

「まぁそんな感じでござる……夢の中に父上が出てきて、そうしたら寝れなくなってしまったんでござる」


 俺も屋根に登ってルイちゃんの隣に座り、どうして深夜に屋根の上にいるのかを尋ねた。


「そういう事ね……お父さんって、今もどこに居るのか、分からないんだもんね?」

「1人前の侍になって帰ってくると言って、拙者が小さい時に家を出て行ったでござる」

「ルイちゃんの お父さんは中々にワイルドな人だ………でも、家に お母さんを残してきて良かったの?」


 ルイちゃんの父親が中々にワイルドである事を認識すると、ある疑問が俺の頭の中に出てきた。
 ルイちゃんが、ここにいるという事は家に母親を残してきたのかと聞くと、ルイちゃんは明らかに暗い顔になった。
 この瞬間に俺は、ルイちゃんに母親の事について聞いたのは失敗だと理解したのである。


「拙者の母上は、3年前に病気で死んだでござる………」

「そうだったのか………」

「でも、もう吹っ切れてるでござる!! 生きているものは、いずれは死ぬでござる………悲しくなんてないでござる!!」

「さすがは武士道を重んじる、るいちゃんだね………でもね。無理に感情を捨てる必要なんてないからね」


 ルイちゃんは母親の死から立ち直っている様に見えるが、これは吹っ切れてるのではなく、武士道というモノが悲しむのを我慢させているだけだろう。
 しかし本人の意思の方が重要で、ルイちゃん自身が大丈夫というのならば俺が心に入る権利は到底持っていない。
 それでも俺には黙って隣にいる権利は、きっとあるだろうから黙ってルイちゃんと共に月を見る。



* * *



 中陸から南西に少し行ったところにある島に、クロスロード連盟軍の本部少尉の位を持つ若き軍人が来ていた。
 名前は《ナミカゼ=フウライ》と言い、歳は19歳の新兵でありながら連盟軍で地位を上げている。


「ガライ少将っ!! 本当に、こんな島に奴らが居るのでしょうか!!」

「ナミカゼ少尉……オーラを感じるじゃないか。そういうのを感じ取ってこそ、1人前の軍人というものだぞ!!」

「はっ!! そうでした!!」


 ナミカゼは髪の毛の色がオレンジと奇抜であるが、その色に合うくらいの暑苦しい性格で上司の人の後ろを歩いている。
 そして今回、この島にやってきた理由とは、ある犯罪者の拿捕だと話ぶりから理解できる。


「居たぞっ!! 弓矢部隊で囲むんだっ!!」


 ガライ少将は部下に命令を出して、目的の人間を発見して捕まえる為に弓矢部隊で囲わせるのである。
 しかし囲った瞬間に、弓矢部隊の軍人たちが血を流して地面にバタッと倒れる。
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