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第1章・大阪百鬼会の若い衆 編

009:知らぬ存ぜぬ

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009:知らぬ存ぜぬ
 俺と兄貴は小野の運転する車に乗って、奈良県にある8代目大和組に向けて出発する。
 百鬼会的にも関西を統一する為には、潰しておかなければいけない組織で、俺としても初仕事なので絶対に成功させたいと思っている。


「大和組の田中組長って、どんな人なんすかね?」

「聞く話じゃあ、若い時は花菱みたいに喧嘩ばっかりしとったって話やで? もしかしたら、花菱と話が合うんやんけ?」

「そんなはず無いっすよ。俺とカタギに手を出すような連中と話が合うなんて思いたく無いっすよ」

「まぁそらそうやな。せやけど、これから問いただしに行っても若い衆がやっただの言うて認めへん思うねん」


 カタギに手を出しておいて子分に擦りつけるような人間が、極道を名乗っている事に反吐が出る。
 まぁそれでも奈良県では絶大な力を持っている事は、嫌でも理解しておく必要がある。


「オヤジさん、オジキ。そろそろ大和組の事務所に到着しますよ」

「おぉ思ったよりも早く着くんだな。どれくらいかかった? 1時間と、ちょっとくらいか」

「隣り合わせの県やさかいな。それにしても県境なんて、ウチと大和組で睨み合いだぞ?」

「この緊張感がたまらないじゃ無いすか。なんか気合いが入って来ましたわ!!」


 意外にも早く到着して、兄貴と喋っていたのであっという間に到着したのである。
 すると小野は直ぐに車を降りて、俺たちを下ろす為に車の扉を開く。そして頭をぶつけないように乗り口の上のところに手をやって、俺たちが降りるのを待つ。


「さてとそれじゃあ兄貴、バシッと決めますか!!」

「俺は冷静に諭すから、花菱はガンガンに脅していかんかい。これが飴と鞭ってわけや」

「オッケーっす!! ガンガンにやってやります!!」


 俺と兄貴は互いに、やる気を込めあって大和組の事務所内に入っていくのである。
 当たり前だが知らない人間が事務所内に入って来たので、大和組の若い衆が集まってくる。


「おいっ!! 誰や、お前ら? ここが天下の大和組やと分かってんのか!!」

「分かってんだよ!! ウチの兄貴を馬鹿だと思ってんのか? テメェら雑魚には用はねぇんだよ!!」

「自分らの方こそ、俺たちが誰だか知れへんのか? 自分らが大和組だっちゅうなら、俺たちは百鬼会や」

「なっ!? 百鬼会やと!? なんで大和組の事務所に来てんねん!!」

「お前じゃあ話にならないんだよ!! さっさと田中組長のところに連れてってもらおうか? テメェらみたいな小物が組と組の抗争の引き金になって良いのか?」


 兄貴に向かって馬鹿みたいな事を言って来たので、俺はチンピラの胸ぐらを掴んで顔に顔を近づける。
 そして兄貴が百鬼会の人間だと名乗った瞬間、チンピラは驚いて顔が青ざめる。
 すると入り口で、そんな風に騒いでるものだから奥にいた幹部が出てくるのである。


「何騒いでんねん。おい、ソイツらは誰や?」

「頭……コイツらは百鬼会の人間や言うて、親父に合わせろっていいまんねん」

「なんやと!? 百鬼会の人間? そんな奴らが、なんで事務所に来てるわ。それにオヤジに合わせろって、礼儀のなってへん連中やな!!」

「頭か!! 少しは上の人間が出て来たみたいだが、兄貴の話があるのは田中組長だ!!」


 幹部中の幹部である若頭が出て来て、俺たちを警戒しているのである。そりゃあ敵対組織の人間が、こんな風に来たら警戒するだろう。
 しかし若頭だろうが兄貴の用があるのは田中組長の方で、俺は若頭にも掴みかかって眼をつける。
 さらに俺たちと若頭が揉めているのを聞いて、本来の目的だった田中組長が顔を出した。


「話は聞こえとったぞ。百鬼会の人間や言うとったが、どこの誰や? まさか百鬼会の名前を出してるだけのあほやないやろうな?」

「おいっ!! また兄貴の事を馬鹿にしやがったな? テメェらは、ここで死にたいのか?」

「まぁ落ち着けって花菱。名乗るくらいはせんとな………俺は百鬼会菅原組内広瀬組で若頭をやらしてもろてる〈青山 誠司〉だ。こっちは広瀬組で幹部をやってる〈花菱 龍憲〉だ、よろしゅう頼む」

「三次団体の若頭やと? わしらは、そんなに貫目足れへん思てんのか? なんか話があるってんなら、もっと上の人間………そう! 広瀬組長か、菅原組の幹部を連れてこい。話はそれからにしてもらおか」


 どうやら兄貴では話にならないと言って、話がしたいならオヤジ又は菅原組の幹部を連れてこいという。
 あまりにも兄貴を軽んじるものだから、俺の血管が我慢の限界を迎えてプチッとキレた。そしてそのキレたままの勢いで、若頭の顔面に拳を叩き込む。
 兄貴は少し驚いた表情をしていたが、直ぐにフッと笑ってポケットに手を突っ込むのである。


「い いきなり何してんねん!! ウチの若頭に手ぇ出すって事は、ウチと戦争になるって事やで!!」

「望むところじゃねぇか!! ウチの兄貴を座布団が足りないとか、ふざけた事を吐かしやがって。それにオヤジや菅原親分も、テメェらと違って暇じゃねぇんだよ」

「まぁまぁ落ち着かんかい。花菱がブチギレるのも分かるわ………ワレらはカタギに手ぇ出すようなカスやろ? そんな奴らに、広瀬組の頭が来ただけでも感謝して欲しいわ」

「なんやと? わしらがカタギに手ぇ出すようなカスやと?」


 俺が殴った事で田中組長は、抗争になっても良いのかと焦りながら言って来た。
 それでも俺たちは引き下がる事なく、迎え打つ意思を見せたところで、兄貴が俺の肩をポンッと叩くと俺の前に出て、田中組長にカタギに手を出した事を聞いた。
 すると兄貴が言っていた通りに、田中組長は自分たちがカタギに手を出すわけが無いと主張して来た。


「その感じやと知らぬ存ぜぬって感じやな? 別にそんな感じでもええけど、こっちは自分らがやったっちゅう裏はとってんねんで」

「ほんまに知れへん!! わしが認知してへんって事は、若い衆が勝手にやったって事や!!」

「認知してへんから悪ないなんて筋が通れへんねん!! それにトップに立つ人間が、下のもんに擦りつけるなんて、それだけでもあり得へんねん」

「兄貴の言う通りだ!! 上の人間が下の人間を庇う事があっても、擦りつけるなんて論外なんだよ!!」


 若い衆が勝手にやった事だと言って、言い訳をし始めたら兄貴が冷静な口調で怒りを露わにした。
 こんな風に詰められるのは、怖そうだなと思いながら俺も田中組長のしている事は論外だと言ってやった。


「まぁアンタらが、なんて言おうが百鬼会は潰すって決めてんねんけどな。アンタらに残された選択肢は2つあるねん」

「2つだって? いちびるんじゃあれへんで!!」

「ほんまなら百鬼会の傘下に入ったら、それなりの待遇を考えたっても良かってんけどなぁ………ほな百鬼会はアンタら大和組を全力で潰さしてもらう事にするで」

「やれるもんならやってみぃ!! こっちだって百鬼会を大阪から追い出して、また返り咲いたるわ!!」


 やはり交渉は決裂した。
 正直なところ俺も予想していた事だが、これは兄貴が描いていた結果だったのだろうか。
 俺がもっと脅しておけば、結果は変わっていたのでは無いだろうかと思っている。


「アンタらの意向は分かった。ほな正々堂々と、潰し合いをしようやんけ」

「望むとこや!! 後になって、かんにんななんて通れへん思いや!!」

「それはこっちのセリフだ。せっかく天下の百鬼会に入れるチャンスだったのになぁ………まぁくれぐれも、またカタギに手を出すような行為はするじゃねぇぞ」


 交渉は完全に破断した。
 兄貴は思っているよりも明るい顔で、俺を連れて大和組を後にするのである。
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