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Ⅲ章 黒い棺のオートマタ

page9 ギルドマスターと会った件

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気を取り直して俺達は外へ出ると冒険者ギルドへ向かう。
3日も休んだしそろそろ仕事をしないとな。
いくらペントハウスを無償で借りれたとしても生活費は稼ぐ必要がある。

冒険者ギルドは今日も賑わっているがその殆どは酒場におり、クエストボードの方は今日も人は少ない。
皆ギルドを酒場としてでしか利用していない気がする。

「どの依頼を受けようか。」

アリスがクエストボードを見て言った。
Aランクと言うこともあり殆どのクエストを受注可能だ。

「やはり、討伐系の方が報酬は良さそうですね。」

ロロナがそう言って見ていたのはAランクの討伐クエストだ。

この前のレッドワイバーンと同程度のモンスターの名前が並んでいる。
どれも強力なモンスターだからか、クエストを受注しようとしている人は居ない。
と言うより出来ないの方が正しいだろう。
現在、このギルドに所属しているAランク冒険者はアインさんとアリスだけなのだ。
元々Aランク冒険者自体が希な存在であり、この国にも数人しか居ないのだとか。
その内の1人がアインさんであり、この街とその周辺のAランクモンスターの討伐依頼は全てアインさんが受けていたのだとか。
後から聞いた話だがアリスに指名依頼が来たのも最初はアインさん宛だったらしい。
ただ、アインさんが別のクエストで不在だった為アリス宛のクエストとして出されたと言う訳だ。
それくらいにAランク冒険者とは数少なく、重宝される存在なのだ。
まさか、そんな大層な物に勘違いで試験を受けて受かっちゃうとはギルドも思わなかったらしく、ギルドではアリスのAランク冒険者としての登録がちょっとした騒ぎになったらしい。
試験官であるアインさんは手を抜いていないにも関わらず少女に負けた。
Aランク冒険者であるアインさんがだ。
それ故に冒険者ギルドはプチパニック。
それをたったの一言で静めたのがギルドマスターのレオハルトさん。
元冒険者らしく、がっしりとした体つきの白い体毛を持つ獅子の獣人だ。
顔は完全にライオンであり、手足もライオンなのだが体つきはライオンの毛の生えたムキムキの男性で普通に二足歩行している。
体躯2mで英雄と呼ばれる程の力量を持つ冒険者だったらしい。
何でも冒険者時代は最高ランクであるSランクの冒険者であったらしく、その強さはまさに獅子奮迅の如しだったのだとか。
そんなレオハルトさんも今ではギルドマスターとして事務仕事がメインとなっているらしい。
会ったことは無いのだがチラッと見た事はある。
責任感が強く、リーダーシップもある良いギルドマスターだと思う。

「ふむ、中々良い依頼は無いのであるな。
これでは少々退屈なのである。
そうは思わぬか、新入りよ。」

後ろから声がした。
声の主を見てみるとそこには白いたてがみを生やした獅子の獣人。
ギルドマスターのレオハルトさんだ。
丁度レオハルトさんの事を考えていたから少し驚いている。

「うーん、どれも戦った事の無いモンスターなので何とも・・・
どのモンスターもそんなに強く無いんですか?」

「うむ。そうであるな。
アインであれば単独で簡単に狩るであろうよ。
アインに勝ったのであろう?
であればそなたでも倒せるであろうな。」


レオハルトさんがアリスを見て言った。
周りの職員たちはビクビクした様子でアリスとレオハルトさんを交互に見ていた。

「そうなんですね。
なーんだ、少しビビって損しちゃった。
私とケイさんなら簡単に倒せちゃうんだね。
教えてくれてありがとうございます。
ライオンのおじさん。」

アリス、その人ギルマスだ。
アリスは気付いていない様だが。
現にアリスがおじさんと言ったとたんに後ろの職員達が凄い驚いた顔でアリスを見ていた。

「はっはっはっ、構わぬ。
我輩も暇で暇で仕方なくてな。
クエストでも受けようかと見ていたのだ。」

「そうなんですね。
でも、ここら辺のはAランクの依頼ですよ?
確かAランクって私とアインさんだけだって。
の割にクエスト多いけど。」

「はっはっはっ、そうであるな。
自己紹介が遅れたな。
我輩はレオハルト。
冒険者ギルドグランシェード支部のギルドマスターである。」

「これはこれはどうも。私はアリスと言います。
こっちはケイさん。」

「ヘカトンケイルと言います。
お会いできて光栄です。レオハルトさん。」

アリスがそう言って俺をレオハルトさんに見せる。
あれ?もしかしてアリス、ギルドマスターの意味分かってない?
なんか、態度が親戚の叔父さんと話しているみたいだ。
ちなみに、自己紹介を受けてロロナも驚いた表情でひきつった笑みを浮かべていた。
ロロナは元々冒険者じゃないから知らなくて当然だよな。
なんなら、このギルドに来るのも始めてだしな。

「ドライアドのロロナと申します。
どうぞ、よしなに。」

ロロナがそう言ってスカートの裾を摘まんで挨拶する。

「戦闘用オートマタ個体認証名リリィ。以後、お見知り置きを。」

リリィもそう挨拶をした。

「はつ はっはっ、愉快であるな。
そなたは人を集める力があるやも知れんな。
短期間でこれ程の人を集めるとはな。
それも、高水準の、そなたに匹敵する実力の仲間を集めるとはこれでグランシェードも安泰なのである。」

レオハルトさんはそう豪快に笑った。

「私と言うよりケイさんな気がしますけどね。」

「いや、それはそなたの力だ。
確かにそなたの持つ本の力もあるだろうが、それだけでは集まらんかろうて。
話していて伝わってくるそなたの人となりが成せる技であろうな。
そなたの隣に居たい。
そう思わせる力があるのだ。」

レオハルトはそう言って1枚の依頼書をクエストボードから剥がすとアリスに手渡した。

「ベヒモスの討伐?」

「今のそなたが強くなるならその相手が良かろう。
堅牢なるその獣は別名巨岩獣と呼ばれている。
剣では歯も立たぬだろうな。
そんな相手にどう挑むか。
それがこのクエストの肝であるな。」

レオハルトさんが言った。
ベヒモスか。
中々面白そうな相手だな。

「ありがとうございます。頑張ってみます。」

アリスはそう言ってレオハルトさんから依頼書を受けとると俺を小脇に抱えて受付へ向かうのだった。

────────────

「リラよ、アリスと言ったか。あの者はSランクになるぞ。
そなたが面倒を見てやれ。」

アリスがギルドを去った後、レオハルトはアリスのクエストの受付をした黒髪ポニーテールの女性に言った。

「ぎ、ギルマス、正気ですか?」

リラと呼ばれた女性職員は驚き眼鏡の位置を直しながら受付に勢い良く手をダン!と付いて立ち上がる。

「我輩が冗談を言うか?」

「いえ、そうですね。分かりました。
今後は出来る限り私が面倒見ます。」

その一言で納得した様子でリラは受付に座り静かに言った。

「うむ、頼んだぞ。
それでは、我輩はこのクエストを受けて来る。」

「・・・ギルマスはクエストの受注禁止です。
アリスさんにベヒモス当てて、アインさんにクトゥグアを当てて。
自分はアラハバキを相手にすると?
確かに3体ともこの街に危険を及ぼす可能性があるモンスターであり、討伐が急がれておりますがギルドマスターがギルドを不在にしないで下さい。
ギルマスが不在の間に何かあったらどうするのですか?」

リラが睨む様に言った。
周りの職員はアリスがレオハルトと話していた時と同じようにビクビクしながら2人の会話を聞いていた。

「はっはっはっ、問題なかろう。
その時はリラ、そなたがいる。」

「ギルマス・・・いえ、
私は既に冒険者を引退しています。
もうを手に取るつもりはありません。」

リラはそうきっぱりと良い放つ。

「で、あるか。
例えこの街が危険に犯されてもその意思は変わらぬのだな。」

「はい。今はこのギルドの受付兼ギルドマスター補佐。
それだけです。
私は冒険者を引退した。
その瞬間から私にあの武器を握る資格も、意思もありません。」

リラはそう静かに言った。

「で、あるか・・・」

レオハルトは少し悲しそうな顔でリラを見つめて言った。

「そう言うわけですのでギルマスのクエスト受注は認められません。」

「だが、暇なのである。それにたまには体を動かさねば鈍ってしまう。
我輩も引退こそすれどギルドマスター。
ギルドの長たる我輩が弱くては示しがつかぬのである。
それに、ギルマスの実力を示すのも仕事の1つなのである。」

「どんな理由でもダメです。
2年前攻めてきたグレーターデーモン相手に本気だして街を半壊させたのお忘れですか?
表向きはグレーターデーモンのせいになってますがあれ、全部ギルマスですよね?
常に全力なのは良い事です。
ですが、だからってグレーターデーモン相手にカオスグランドエッジを使う必要無いですよね?
あれ、効果範囲分かってます?
街の修繕に何ヵ月かかったと?
修繕の為にギルドの予算半年分吹き飛んだんですよ?
きあの時ギルマスがお強いのは冒険者も、街の人々も皆分かっています。
ですから、これ以上力を見せる必要は御座いません。
それよりも、グレンデリア卿から頼まれていた依頼、誰に頼むか決めたのですか?
それに、明後日までのギルド運営報告書、提出されておりませんよね?
また本部からの遣いを待たせるなんてやめて下さいね?」

リラが静かに、淡々と怒る。
ギルマスであるレオハルトに怒れるのは彼女くらいだろう。

「わ、わかったのである。
しかし、やはりもったいないのであるな。
あの黒夜叉が受付嬢と言うのも。」

「その名前はやめて下さい。
嫌いなんです。」

リラはそう言って作業に戻る。
それを見たレオハルトは渋々と執務室へ戻るのだった。
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