上 下
80 / 102
第2章 王都編 ②新たな出会い

自由になったデルモンド

しおりを挟む
 デルモンドは王都の門を出た。

 時刻午後7時。

 リールから受け取ったマジックバックに服や食べ物など大量に入っている。銀貨もあり不自由ない生活が出来るだろう。

「奴隷とは思えない対応だな。俺が特別ではなく、リールが特別なんだろうな。」
 デルモンドは犯罪奴隷とは思えない待遇をリールに与えられている。奴隷なんて一般市民以下が当たり前なのだが、今のデルモンドは、辺鄙な街なら裕福とさえ思える待遇なのだ。

 ツクネトの街に向かってデルモンドは走る。身体強化してガンガン進んでいく。

「何が最高かってもう怯える必要が無いことだな!」
 デルモンドに罪を擦り付けた商人から刺客として高ランクの冒険や、賞金稼ぎの実力者が狙ってきたのだ。
 全員返り討ちにしてきたが、懸賞金が0になったら狙われる心配が減ってくるのだ。
 もともと世間一般的な犯罪行為は全くしていないため、デルモンドの価値観はまともなのだ。

 そんなデルモンドを慕って部下達は、ツクネトの街を拠点に集まっている。

 デルモンドは意味もなく飛び跳ね、大きな笑い声を上げながらツクネトへと向かっていた。
「俺達を嵌めやがった商人どもを潰すための準備は出来た!リールは、野心がないが力と理解がある奴だ。最悪リールと揉めれば一発で潰すだろうな。」
 デルモンドは心の中で思っている。実際リールは、安全の為なら余裕で潰すことも出来るだろう。
 リールの力はもちろん、ミランダレ商会の力が合わさればそこらの貴族以上の影響力があるのだ。資金力では上位の貴族ですら敵わないだろう。

 デルモンドは走り続ける。
 草原を走り、森をぬけ、山を飛び、崖を下る。
 道とは言えない道を進んでいく。

 夕日も落ちかけ、薄暗い森をぬけていく。

 走っていると一台の馬車が見えた。
 外装は、商人にしては細かい細工がされた模様が施され、周りを警備している男達6人は、立派な統一された装備でかためられている。
 馬車は進みが遅く、舗装とは言えない道を進んでいた。


 デルモンドは無視して走り過ぎ様かと思ったが、気分が良かったため、走る速さを抑えた。

「何者だ!」
 警備の男達が声を上げた。
 デルモンドがすぐそばに近づかないと気付けない程の強さだ。

「ただの旅人だ。悪い奴らには見えないからな。ちょっと聞きたい事があってな。」
 デルモンドは左手の奴隷紋を見せないように近づく。刀や防具も着けない旅人何て普通はいないが。

「何だ!要件を言え!」
 男は警戒しながら叫ぶ。護衛達に緊張がはしる。

「中の人が誰かは知らないが、大丈夫か?おそらく10人以上に囲まれているぞ?」
 デルモンドは当たり前の様に話す。

「嘘をつくな!俺達のサーチは完璧だ!近く100メートルには魔物もいない!」
 男達は探索魔法を使って周囲を警戒している。もっともデルモンドが目の前に来るまで気付けないほどだが。

「なら良いさ。邪魔したな。」
 デルモンドは走ろうと足に力を入れる。

「お待ちください。デルモンドさん。」
 馬車の中から身なりの良い青年が声をかける。中の護衛対象を守る為に、中で待機しているのだろう。

「俺の事を知っているのか?余計な事を言わないでもらおうか。」
 デルモンドは男を睨む。

「もちろん知ってますよ。噂と簡単な情報程度ですが、強い事はわかってます。なぜあなたが忠告してくれたのか不思議ですが、善意は受け取りました。」
「12人に囲まれてますね?」
 青年は話す。

「いや。14人だろうな。後ろの2人は離れて様子を見ているのだろう。」
 デルモンドは探索魔法を使えない。たまたま見かけただけなのだ。相手が気配に気付かないだけで確認済みだ。

「そうですか。困りましたね。正直外の護衛は強くありませんので最悪殺されてしまいます。私も逃げる訳にもいきませんし。」
 青年は考える。

「簡単だろ?」
「お前ら!居るのはわかってる!出てこないならすぐに潰すぞ!」
 デルモンドが大声で叫ぶ。

「ちょっと!」
 青年が慌てて声をあげる。


「お!来たぞ!」
 デルモンドが嬉しそうに辺りを見る。

 馬車に向かって火のついた矢が飛んで来ている。

 デルモンドは矢を素手でつかみ火を消す。護衛の男達は剣で矢を叩き落とす。

「中の奴らは殺すなよ!他の奴らは皆殺しだ!」
 盗賊のリーダーの男は、声を張り上げる。どこからか盗んだであろう防具と短剣を身につけている。

「あれは俺が貰う!」
 デルモンドは全速力でリーダーの男に突撃する。

「ぐふぉ!」
 リーダーの男は、デルモンドの肘鉄を腹にくらう。
 防具はぼろぼろに砕け、男は動かなくなった。

「準備運動にもならねぇのか!」
 デルモンドは激昂した。せっかく戦えるチャンスなのに相手が弱すぎた。いやデルモンドが強すぎるのだ。
 犯罪奴隷なのに100%の力を使わせるリールがおかしいのだ。縛りが無いって恐ろしい。

 護衛達は盗賊相手に善戦している。相手の盗賊は冒険者ならCランクほどだから弱くはない。

「せっかくの戦闘が。こんな張り合いもない奴らが。」などと、ぶつぶつ言いながらデルモンドは盗賊達を気絶させていく。

 全ての盗賊達を気絶させ、縄でまとめていく。

「ありがとうございます。」
 青年はデルモンドにお礼を言う。

「怪我が無くて良かったな。」
 デルモンドは答える。

「主がお礼を言いたいそうだ」

「いやいい。これは貰っていくぞ。」
 デルモンドは盗賊達を抱える。

「そうか。イメージよりも良い人なんだな。捕まるのが惜しい人だな。」

「大丈夫だ。心配いらない。気にするな。」
 デルモンドは左手の奴隷紋を見せて、走り出す。

「そうか。犯罪奴隷になったのか。悪い契約者じゃなさそうだな。」
 青年は馬車に戻り護衛任務を続ける。


しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

なぜか乙ゲーの攻略キャラに転生してしまった俺は、悪役令嬢の可愛さに惚れました

奏音 美都
恋愛
 横断歩道を歩いてる最中に暴走トラックに突っ込まれた俺は、なぜか乙女ゲームの攻略キャラのひとりに転生したらしい。ヒロインは、漫画みたいなピンクの髪色に緑の瞳をした背のちっこい女子、アツコだった。  だけど……俺が気になるのは、悪役令嬢キャラであるエトワールだった。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜

西園寺わかば
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

処理中です...