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Later Talks ─ 白いユリが咲く

後日談4 白いユリが咲く(1)

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「うーん……」

私はもう何度目かわからないうなり声を上げた。
それから、ため息と同時に思い切り脱力して机に突っ伏す。
甘いと言われてしまうかもしれないけど、まさかこんな問題にぶち当たることになるなんて想像もしなかったのだ。

「無理することはないよ。大事なのは君の気持ちだから」

隣に座る祐一郎さんが穏やかに言う。
こんなふうに私の意思を尊重してくれるのはうれしい。
でもこれは決して私だけの問題ではないのだ。

「まったく、新郎友人とその妻が新婦の元上司と同僚で、おまけに元彼と略奪愛の泥棒猫なんて……今時昼ドラにもならないわよ」

私は盛大にため息をついた。
そう、紆余曲折を経て出会った私たちは、来春ついに結婚式を挙げることになったのだ。
そして目下、招待客の問題に頭を悩ませているのである。

「だいたい浮気した挙げ句ポイッと捨てた元カノを浮気相手との結婚式に出席させたあいつが悪い。誰がなんと言おうと悪い。ほんと一体どんな神経してるのよ」

あのときの悔しさを思い出すと、今でも気分が悪くなりそうだった。
浮気され捨てられたことについてはもうなんとも思わないのに、その後の結婚式の方はいつまでたってもだめなのだ。

「……それには同意するよ。とはいえ、奴が君を結婚式に呼んでくれてなきゃ出会えなかったって意味では複雑なところではあるけどね」

祐一郎さんが妙に真面目な調子で言うので、私は思わず吹き出してしまった。

「それはそうなんだけど!」

私は気を取り直して、招待者名簿に視線を戻す。

おそらく、谷元一人なら招待しても大丈夫だと思うのだ。
問題はその妻──津山茉莉改め谷元茉莉さんの方だ。

子どもができたなんてハイリスクな嘘をついてまで私から谷元を略奪した張本人であり、式では私を完全に無視して見せた彼女のことが、どうしても気にかかる。

とはいえ、私にとっては谷元夫妻二人ともが以前の職場の関係者であり、かつ彼らの結婚式には私たちが二人とも出席しているのだ。
向こうが欠席を選ぶ分には問題ないが、最初から谷元だけを招待することはできないだろう。

「……決めたわ」

私はぱたん、と音を立てて名簿を閉じた。

「筋を通してやろうじゃないの」

二人を──正確には茉莉さんを招待するのに気が進まないのはたしかだった。
でも招待しなかったことで、彼女がへそを曲げおかしな行動に出るのは避けたい。
谷元を略奪したときそうであったように、目的のためには手段を選ばない傾向が彼女にはあると思えてならないのだ。

「友里ちゃんのそういうとこ、好きだよ」

クスリと笑って言った祐一郎さんに、私はわざとしかめっ面を向ける。

「出席したくないと思うなら欠席で返事してくれればいいだけだしね」

祐一郎さんはそう言ったが、私はなんとなく、彼女なら絶対に出席を選ぶだろうなと言う気がした。
それは果たしてその通りだったのだが。

招待状を出してわずか一週間足らずで、二人とも出席させていただきますとの返事が届いたのだった。

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