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Main Story ─ 次の色をさがして
第4話 祝いの場で
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進藤さんに「大丈夫」だと宣言はしたものの、私はあれから幾度となく迷った。
自分の気持ちに素直になることが許されるなら、やっぱり行きたくはない。でもあの朝礼を思い出すと、結論はいつだって「行くしかない」で上書きされた。
みんなの前で行くと言ってしまった以上、行ってしまった方がいろんな意味で楽だ。
そんなわけで結局、私は谷元課長と津山さんの結婚式にやってきていた。
行くからには全力を尽くす──そんな決意のもと、おろしたてのフォーマルドレスに身を包み、髪には行きつけの美容室でパールをちりばめてもらった。
三カ月近く経てば傷も癒えるのだ。
もちろん私としては、傷だったことすら認めたくないくらいだけれど。
私を大事にしてくれない男なんて要らない。
自分本位な冷血女だと、思いたければ思えばいいと思う。
私はそんなことを考えながら、他のゲストたちに紛れて小さなチャペルに入った。
淡いグレーのタキシードに身を包んだ谷元は、なんだか普段よりもカッコよく見える──なんてことは微塵もなく、ただタキシードを着た谷元というだけだった。
それ以上の感想が何も出てこない。
けれど純白のウェディングドレス姿の津山さんはやっぱりキレイだった。
私はそれほどウェディングドレスに憧れがあるわけではないはずなのに、間近で見ると少しうらやましくなってしまう。
本気でおしゃれしてきてよかった──最高の装備のおかげで、気持ちで圧倒されたり打ちのめされたりせずに済んだから。
目が合ったら如才なく微笑もうと思っていたのに、津山さんは一切こちらを見なかった。
チャペルでも、披露宴会場でも。
きっと私以外の誰にも気づかせない自然さで、私を完璧に避けて見せた。
勝ち誇ったような笑みを向けられても、申し訳ないと詫びるような表情を見せられても、それはそれで嫌だったと思う。
けれど向こうから呼びつけておきながら完全にこちらの存在を無視するというのは、それよりもはるかにタチが悪い。
本当に、ただ谷元の世間体のために利用されただけなんだ、と改めて暗い気分になる。
「──それでは皆さま、しばしご歓談タイムをお楽しみください」
司会の女性がにこやかに言ってマイクを切った。
ゲストたちがわらわらと新郎新婦席に集まりだす。お祝いを述べたり記念写真を撮ったりするのだ。
「黒田さん、どうする?」
隣に座る進藤さんが訊いてきた。
彼女は谷元の先輩社員で、すべての事情を知る人物だ。ちなみにここにいる男性社員は、部長も含めて誰も彼女に頭が上がらない。
私は無表情に首を振る。
「だよね。じゃ、私たちだけで行ってくる」
そう言って彼女は席を立ち、職場関係の参列者たちを引き連れて前方へと向かった。
私はその後姿をぼんやりと見送る。
美しい生花で華やかに飾りつけられた新郎新婦席。
そこでは二人が楽しそうに談笑していた。
幸せの絶頂にいる瞬間をたくさんの人たちに祝福される、まさに絵に描いたような結婚式──…。
目を向けるつもりなんてなかったのに、つい見てしまった。
そして、思ってしまった──「あそこにいるのは、本当なら私だったのかもしれない」と。
「──…っ!」
まるでその言葉で堰が切れたかのように猛烈な吐き気が押し寄せてくる。
私はお喋りでざわつく会場を足早に横切り、分厚い扉の外へと逃げ出した。
自分の気持ちに素直になることが許されるなら、やっぱり行きたくはない。でもあの朝礼を思い出すと、結論はいつだって「行くしかない」で上書きされた。
みんなの前で行くと言ってしまった以上、行ってしまった方がいろんな意味で楽だ。
そんなわけで結局、私は谷元課長と津山さんの結婚式にやってきていた。
行くからには全力を尽くす──そんな決意のもと、おろしたてのフォーマルドレスに身を包み、髪には行きつけの美容室でパールをちりばめてもらった。
三カ月近く経てば傷も癒えるのだ。
もちろん私としては、傷だったことすら認めたくないくらいだけれど。
私を大事にしてくれない男なんて要らない。
自分本位な冷血女だと、思いたければ思えばいいと思う。
私はそんなことを考えながら、他のゲストたちに紛れて小さなチャペルに入った。
淡いグレーのタキシードに身を包んだ谷元は、なんだか普段よりもカッコよく見える──なんてことは微塵もなく、ただタキシードを着た谷元というだけだった。
それ以上の感想が何も出てこない。
けれど純白のウェディングドレス姿の津山さんはやっぱりキレイだった。
私はそれほどウェディングドレスに憧れがあるわけではないはずなのに、間近で見ると少しうらやましくなってしまう。
本気でおしゃれしてきてよかった──最高の装備のおかげで、気持ちで圧倒されたり打ちのめされたりせずに済んだから。
目が合ったら如才なく微笑もうと思っていたのに、津山さんは一切こちらを見なかった。
チャペルでも、披露宴会場でも。
きっと私以外の誰にも気づかせない自然さで、私を完璧に避けて見せた。
勝ち誇ったような笑みを向けられても、申し訳ないと詫びるような表情を見せられても、それはそれで嫌だったと思う。
けれど向こうから呼びつけておきながら完全にこちらの存在を無視するというのは、それよりもはるかにタチが悪い。
本当に、ただ谷元の世間体のために利用されただけなんだ、と改めて暗い気分になる。
「──それでは皆さま、しばしご歓談タイムをお楽しみください」
司会の女性がにこやかに言ってマイクを切った。
ゲストたちがわらわらと新郎新婦席に集まりだす。お祝いを述べたり記念写真を撮ったりするのだ。
「黒田さん、どうする?」
隣に座る進藤さんが訊いてきた。
彼女は谷元の先輩社員で、すべての事情を知る人物だ。ちなみにここにいる男性社員は、部長も含めて誰も彼女に頭が上がらない。
私は無表情に首を振る。
「だよね。じゃ、私たちだけで行ってくる」
そう言って彼女は席を立ち、職場関係の参列者たちを引き連れて前方へと向かった。
私はその後姿をぼんやりと見送る。
美しい生花で華やかに飾りつけられた新郎新婦席。
そこでは二人が楽しそうに談笑していた。
幸せの絶頂にいる瞬間をたくさんの人たちに祝福される、まさに絵に描いたような結婚式──…。
目を向けるつもりなんてなかったのに、つい見てしまった。
そして、思ってしまった──「あそこにいるのは、本当なら私だったのかもしれない」と。
「──…っ!」
まるでその言葉で堰が切れたかのように猛烈な吐き気が押し寄せてくる。
私はお喋りでざわつく会場を足早に横切り、分厚い扉の外へと逃げ出した。
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