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第4話 恋のつぼみ

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「おもしろくないっていうか……むしろ気分悪い、かも」

「!?」

思わず言葉を失ってしまった。

たしかに、楽しいおしゃべりって感じではなかったけど。
そうなる努力もしなかったけど。
それでも、自分から話を振っておいて「気分悪い」はないでしょう。いったい何様なのよ? と、あたしは心の中でだけ思う。

でもそんな苛立ちは、栗田の次なる爆弾発言でぜんぶ吹っ飛んでしまった。

「……あのさ。俺と付き合う気、ない?」

「!?」

自分の耳を疑わずにはいられなかった。
今さっき、あたしの話を「気分悪い」とばっさり切り捨てたくせに何を言っているのだろう、と思う。

でも栗田の表情は真剣で、冗談を言っているとか、からかっているとか、そういう感じではなかった。

「……あれ、塩見と山内が持ってった傘、ほんとはお前のだろ」

栗田がすっとあたしから目を逸らして言った。

「え、なんで知って……」

あたしは栗田の顔をまじまじと見つめる。

あの二人が他人の傘を差して帰ってしまったのは、あの場面を見ていればわかると思う。
でも、それだけじゃあれがあたしの傘だったのはわからないはずだ。
あたしの様子を見ていて気付いたんだろうか。

「どうせ、二人が助かるなら、とか考えて何も言わなかったんだろ。自分だって傘ないと困るくせに」

うーん。やっぱり、ちょっと違う。
それはあたしが自分を納得させようと考え出した自分へのフォローみたいなものであって、あたしは決してそんな考えから傘を譲ったわけじゃない。

でもそんなふうに考えられるのは、栗田がいいヤツだからなんだろう。たぶん。

「別に、そんなんじゃないけど」

あたしも、栗田から目を逸らして言った。
目を逸らしたのは、栗田は意外と周りのことを見ているのかもしれない、と思ったからだ。

さっきだってそう──この東屋目がけてお互い一目散に走ったはずなのに、あたしは置いてけぼりにされなかった。
少しでもあたしが濡れないよう、傘を持ったまま同じペースで走ってくれたのだ。

「でもそういうの、俺にはないところだなって……惹かれたっていうか」

栗田が言いにくそうに言うので、あたしは思わず吹き出しそうになった。
自分だって、あたしを傘に入れてくれたくせに。
案外自分じゃわからないものなんだろうか。

「いや……ごめん、ちゃんと言うわ」

栗田はそう言ってあたしに向き直った。

「好きです。付き合ってください」

うん。さすがのあたしでも今度は、なんとなくそうなるんじゃないかなって予感がしたから驚かなかった。
でも、それでも急に心臓がどきどきし始める。

あたしは今、生まれて初めて男子に告白されてしまったのだ。
そのどきどきを隠して栗田の顔を見上げると、今度はばっちり目が合ってしまった。

「あ……えっと……」

あたしは言いながらつい視線を落としてしまう。
目が合ったからじゃない──栗田の頬が少し赤くなったのに気付いたからだ。

でも今はあたしの顔も、同じくらい赤くなっている気がする。
そう思うと急に、心臓のドキドキが余計大きくなってきた。

「私、で……いいの……?」

あたしの口から飛び出したのは、そんな言葉だった。
十四年近く生きてきたのだから、あたしは自分があまり男の子に「ウケる」タイプの女子じゃないことをもう知っている。
だからそれが一番素直な感想だったのだ。

「え、それって……OKってこと?」

栗田の声にはなんとなく戸惑いが感じられる。
あたしは顔を上げられないままに、こくん、とうなずいた。

あまりにドキドキしすぎて、恥ずかしすぎて、あたしはもうこの雨が止む頃になっても顔を上げられないんじゃないかとすら思ってしまった。

でも、さっきから栗田が何も言わないのが気になる。
あたしは耐えきれなくなって隣を見上げた。

「……どうしたの?」

見れば栗田は、軽く握った右手で口元を隠したまま固まっていたのだった。

「えっ? いや……まさかOKもらえるとは思わなくて……その先のこと考えてなくて……」

目を泳がせながら、栗田はそんなことを言った。
あたしは思わずぽかんと口を開けてしまいそうになるのを必死にこらえた。

初めてなのはあたしだけじゃないのだ。
なんだかさっきよりも、栗田のことが身近に感じられる気がする。

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