手のひらのひだまり

蒼村 咲

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第1章

59-R 一件落着

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「結局どういうことなんですか……」

洋介が歩きながら困惑した声を出す。
確かに、第三者として聞いていたとしたら、玲奈もきっと頭がこんがらがってしまっただろうと思う。

「佐々木先輩と松岡先輩の仲を引き裂こうとしたのは、一見あの森下さんのように見えるけど、実はさっきの安達さんの方が黒幕で、あの計画を企てた目的は森下さんが松岡先輩に嫌われるように計画を明るみに出すことだった、なんて……」

なんだ、完璧に理解しているじゃないか、と思う。
さっき祐輝が口にしたのはまさにそんな内容だった。

「それだと腑に落ちないのか?」

いつの間にか追いついてきていた祐輝が尋ねる。

「いや、そういうわけじゃないんだけど……」

そう言って洋介は思案顔になった。

「僕にはいろいろついていけないなと思って。回りくどいし変に手は込んでるのに肝心なところは運任せというか佐々木先輩や松岡先輩任せというか……」

それは確かに、玲奈も考えたことだった。
細部に気を配っているようでいて、肝心なところはいい加減。
実はすべて憂さ晴らしだったんじゃないか、と疑いたくなるほどだ。

「まあ、これで終わったならいいんですけどね……」

なんだか疲れが滲んだような口ぶりだった。
いや、実際に疲れていたって不思議はない。
玲奈がひとりで動いているのを察知し、こうやって見張りに──もとい、見守りに来てくれたのだから。

祐輝が玲奈に向かって目を細めたのは、ちょうどそんなことを思った瞬間だった。

「それより生徒会長はほんとに……。懲りる、ってことを知らないわけ? ひとりであれこれ突っ走って……また危ない目に遭ってたかもしれないのに」

玲奈はうなだれる──返す言葉もない。
確かに、あの場に美咲が現れ仲裁に入ってくれなかったらどうなっていたのだろう。
そう考えて初めて、玲奈は制服姿のまま校外で問題を起こすリスクに気づいた。
品行方正な(はずの)生徒会長が校外で、それも他校の生徒ともめ事を起こすなんて。

「どうして……私が今日ここに来るってわかったの?」

玲奈は祐輝に尋ねた。
今まで気にする暇がなかったけれど、今日ここに来る計画は誰にも知られていないはずだった。

「安達朔也のことを知らせてくれたのはこいつ」

祐輝は洋介を指す。
それは玲奈にも予想がついていた。
洋介の目の前でその名前を聞き出したのだから、覚えていても不思議はない。

「学校と学年と名前がわかればクラスも調べられるし、クラスがわかればコースがわかる。コースがわかれば時間割がわかる。ま、そういうこと」

時間割から下校時間が割り出せるというということらしい。
いや、でもそれだけでは今日を特定することはできないはずだった。

「なんで今日がわかったんだ、って顔してるけど、生徒会長が授業を犠牲にするはずがないから」

玲奈が口を開く前に祐輝がさらりと言った。
つまり、玲奈が動くなら授業に休まず出席してから向かっても間に合う今日に違いない、と踏んだということのようだ。
なんだか全て見通されているようでおもしろくない。

と、洋介がこちらをのぞき込んでくる。

「……先輩は、これからどうするんですか?」
「え?」

問われた内容が意外でつい聞き返してしまった。
けれど聞き取れなかったわけではないので、慌てて言い足す。

「ええと、特に考えてなかったけど……帰る、かな」

自分でも呆れてしまうほどに無計画なのだった。
朔也を問い質すのにしても、本気でしらを切られたらどうするつもりだったのだろう。
当然ながら、決してそんなことはあり得ないと確信していたわけではなかった。

「……あの二人、もう電車乗った頃ですかね?」

洋介のそんな言葉につられるように、玲奈も前方に目を凝らす。
もちろん、二人の背中は見えない。

「どうだろ。別に乗り合わせたって困ることはないんだけどね……」

半ば無意識にこぼれてきた言葉に自分で驚く。
どうしてだろう。どうして自分はこんなにも落ち着いているのだろう? 
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