59 / 63
第1章
59-R 一件落着
しおりを挟む
「結局どういうことなんですか……」
洋介が歩きながら困惑した声を出す。
確かに、第三者として聞いていたとしたら、玲奈もきっと頭がこんがらがってしまっただろうと思う。
「佐々木先輩と松岡先輩の仲を引き裂こうとしたのは、一見あの森下さんのように見えるけど、実はさっきの安達さんの方が黒幕で、あの計画を企てた目的は森下さんが松岡先輩に嫌われるように計画を明るみに出すことだった、なんて……」
なんだ、完璧に理解しているじゃないか、と思う。
さっき祐輝が口にしたのはまさにそんな内容だった。
「それだと腑に落ちないのか?」
いつの間にか追いついてきていた祐輝が尋ねる。
「いや、そういうわけじゃないんだけど……」
そう言って洋介は思案顔になった。
「僕にはいろいろついていけないなと思って。回りくどいし変に手は込んでるのに肝心なところは運任せというか佐々木先輩や松岡先輩任せというか……」
それは確かに、玲奈も考えたことだった。
細部に気を配っているようでいて、肝心なところはいい加減。
実はすべて憂さ晴らしだったんじゃないか、と疑いたくなるほどだ。
「まあ、これで終わったならいいんですけどね……」
なんだか疲れが滲んだような口ぶりだった。
いや、実際に疲れていたって不思議はない。
玲奈がひとりで動いているのを察知し、こうやって見張りに──もとい、見守りに来てくれたのだから。
祐輝が玲奈に向かって目を細めたのは、ちょうどそんなことを思った瞬間だった。
「それより生徒会長はほんとに……。懲りる、ってことを知らないわけ? ひとりであれこれ突っ走って……また危ない目に遭ってたかもしれないのに」
玲奈はうなだれる──返す言葉もない。
確かに、あの場に美咲が現れ仲裁に入ってくれなかったらどうなっていたのだろう。
そう考えて初めて、玲奈は制服姿のまま校外で問題を起こすリスクに気づいた。
品行方正な(はずの)生徒会長が校外で、それも他校の生徒ともめ事を起こすなんて。
「どうして……私が今日ここに来るってわかったの?」
玲奈は祐輝に尋ねた。
今まで気にする暇がなかったけれど、今日ここに来る計画は誰にも知られていないはずだった。
「安達朔也のことを知らせてくれたのはこいつ」
祐輝は洋介を指す。
それは玲奈にも予想がついていた。
洋介の目の前でその名前を聞き出したのだから、覚えていても不思議はない。
「学校と学年と名前がわかればクラスも調べられるし、クラスがわかればコースがわかる。コースがわかれば時間割がわかる。ま、そういうこと」
時間割から下校時間が割り出せるというということらしい。
いや、でもそれだけでは今日を特定することはできないはずだった。
「なんで今日がわかったんだ、って顔してるけど、生徒会長が授業を犠牲にするはずがないから」
玲奈が口を開く前に祐輝がさらりと言った。
つまり、玲奈が動くなら授業に休まず出席してから向かっても間に合う今日に違いない、と踏んだということのようだ。
なんだか全て見通されているようでおもしろくない。
と、洋介がこちらをのぞき込んでくる。
「……先輩は、これからどうするんですか?」
「え?」
問われた内容が意外でつい聞き返してしまった。
けれど聞き取れなかったわけではないので、慌てて言い足す。
「ええと、特に考えてなかったけど……帰る、かな」
自分でも呆れてしまうほどに無計画なのだった。
朔也を問い質すのにしても、本気でしらを切られたらどうするつもりだったのだろう。
当然ながら、決してそんなことはあり得ないと確信していたわけではなかった。
「……あの二人、もう電車乗った頃ですかね?」
洋介のそんな言葉につられるように、玲奈も前方に目を凝らす。
もちろん、二人の背中は見えない。
「どうだろ。別に乗り合わせたって困ることはないんだけどね……」
半ば無意識にこぼれてきた言葉に自分で驚く。
どうしてだろう。どうして自分はこんなにも落ち着いているのだろう?
洋介が歩きながら困惑した声を出す。
確かに、第三者として聞いていたとしたら、玲奈もきっと頭がこんがらがってしまっただろうと思う。
「佐々木先輩と松岡先輩の仲を引き裂こうとしたのは、一見あの森下さんのように見えるけど、実はさっきの安達さんの方が黒幕で、あの計画を企てた目的は森下さんが松岡先輩に嫌われるように計画を明るみに出すことだった、なんて……」
なんだ、完璧に理解しているじゃないか、と思う。
さっき祐輝が口にしたのはまさにそんな内容だった。
「それだと腑に落ちないのか?」
いつの間にか追いついてきていた祐輝が尋ねる。
「いや、そういうわけじゃないんだけど……」
そう言って洋介は思案顔になった。
「僕にはいろいろついていけないなと思って。回りくどいし変に手は込んでるのに肝心なところは運任せというか佐々木先輩や松岡先輩任せというか……」
それは確かに、玲奈も考えたことだった。
細部に気を配っているようでいて、肝心なところはいい加減。
実はすべて憂さ晴らしだったんじゃないか、と疑いたくなるほどだ。
「まあ、これで終わったならいいんですけどね……」
なんだか疲れが滲んだような口ぶりだった。
いや、実際に疲れていたって不思議はない。
玲奈がひとりで動いているのを察知し、こうやって見張りに──もとい、見守りに来てくれたのだから。
祐輝が玲奈に向かって目を細めたのは、ちょうどそんなことを思った瞬間だった。
「それより生徒会長はほんとに……。懲りる、ってことを知らないわけ? ひとりであれこれ突っ走って……また危ない目に遭ってたかもしれないのに」
玲奈はうなだれる──返す言葉もない。
確かに、あの場に美咲が現れ仲裁に入ってくれなかったらどうなっていたのだろう。
そう考えて初めて、玲奈は制服姿のまま校外で問題を起こすリスクに気づいた。
品行方正な(はずの)生徒会長が校外で、それも他校の生徒ともめ事を起こすなんて。
「どうして……私が今日ここに来るってわかったの?」
玲奈は祐輝に尋ねた。
今まで気にする暇がなかったけれど、今日ここに来る計画は誰にも知られていないはずだった。
「安達朔也のことを知らせてくれたのはこいつ」
祐輝は洋介を指す。
それは玲奈にも予想がついていた。
洋介の目の前でその名前を聞き出したのだから、覚えていても不思議はない。
「学校と学年と名前がわかればクラスも調べられるし、クラスがわかればコースがわかる。コースがわかれば時間割がわかる。ま、そういうこと」
時間割から下校時間が割り出せるというということらしい。
いや、でもそれだけでは今日を特定することはできないはずだった。
「なんで今日がわかったんだ、って顔してるけど、生徒会長が授業を犠牲にするはずがないから」
玲奈が口を開く前に祐輝がさらりと言った。
つまり、玲奈が動くなら授業に休まず出席してから向かっても間に合う今日に違いない、と踏んだということのようだ。
なんだか全て見通されているようでおもしろくない。
と、洋介がこちらをのぞき込んでくる。
「……先輩は、これからどうするんですか?」
「え?」
問われた内容が意外でつい聞き返してしまった。
けれど聞き取れなかったわけではないので、慌てて言い足す。
「ええと、特に考えてなかったけど……帰る、かな」
自分でも呆れてしまうほどに無計画なのだった。
朔也を問い質すのにしても、本気でしらを切られたらどうするつもりだったのだろう。
当然ながら、決してそんなことはあり得ないと確信していたわけではなかった。
「……あの二人、もう電車乗った頃ですかね?」
洋介のそんな言葉につられるように、玲奈も前方に目を凝らす。
もちろん、二人の背中は見えない。
「どうだろ。別に乗り合わせたって困ることはないんだけどね……」
半ば無意識にこぼれてきた言葉に自分で驚く。
どうしてだろう。どうして自分はこんなにも落ち着いているのだろう?
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
ほのぼの学園百合小説 キタコミ!
水原渉
青春
ごくごく普通の女子高生の帰り道。帰宅部の仲良し3人+1人が織り成す、青春学園物語。
ほんのりと百合の香るお話です。
ごく稀に男子が出てくることもありますが、男女の恋愛に発展することは一切ありませんのでご安心ください。
イラストはtojo様。「リアルなDカップ」を始め、たくさんの要望にパーフェクトにお応えいただきました。
★Kindle情報★
1巻:第1話~第12話、番外編『帰宅部活動』、書き下ろしを収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B098XLYJG4
2巻:第13話~第19話に、書き下ろしを2本、4コマを1本収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B09L6RM9SP
3巻:第20話~第28話、番外編『チェアリング』、書き下ろしを4本収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B09VTHS1W3
4巻:第29話~第40話、番外編『芝居』、書き下ろし2本、挿絵と1P漫画を収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0BNQRN12P
5巻:第41話~第49話、番外編2本、書き下ろし2本、イラスト2枚収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0CHFX4THL
6巻:第50話~第55話、番外編2本、書き下ろし1本、イラスト1枚収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0D9KFRSLZ
Chit-Chat!1:1話25本のネタを30話750本と、4コマを1本収録。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0CTHQX88H
★第1話『アイス』朗読★
https://www.youtube.com/watch?v=8hEfRp8JWwE
★番外編『帰宅部活動 1.ホームドア』朗読★
https://www.youtube.com/watch?v=98vgjHO25XI
★Chit-Chat!1★
https://www.youtube.com/watch?v=cKZypuc0R34
私の日常
アルパカ
青春
私、玉置 優奈って言う名前です!
大阪の近くの県に住んでるから、時々方言交じるけど、そこは許してな!
さて、このお話は、私、優奈の日常生活のおはなしですっ!
ぜったい読んでな!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
学校に行きたくない私達の物語
能登原あめ
青春
※ 甘酸っぱい青春を目指しました。ピュアです。
「学校に行きたくない」
大きな理由じゃないけれど、休みたい日もある。
休みがちな女子高生達が悩んで、恋して、探りながら一歩前に進むお話です。
(それぞれ独立した話になります)
1 雨とピアノ 全6話(同級生)
2 日曜の駆ける約束 全4話(後輩)
3 それが儚いものだと知ったら 全6話(先輩)
* コメント欄はネタバレ配慮していないため、お気をつけください。
* 表紙はCanvaさまで作成した画像を使用しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる