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第1章
50-R 次なる手
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けれど今日の一番の目的は他にあるのだ。気を取り直して、もう一度一組から順に見ていく。
(いない……このクラスにもいない……)
分厚いページをめくるごとに不安になってくる。
同一人物だと認識できないくらいに雰囲気が変わってしまっているかもしれない。
いや、もしかしたらそれ以前に、本当は無関係という可能性だってある。
(いない……)
次のクラスにも、その次のクラスにも、目当ての人物は見つからなかった。
卒業アルバムで見つかるなんていうのがそもそも希望的観測だったのだと思い知る。
諦めと期待が入り交じるなか、玲奈は最後のクラスのページを開いた。
「……!」
最後のクラス──八組の1人目を見た瞬間だった。
(いた!)
間違いない、と玲奈は確信する。
拓海と初めてデートした日──といってもあれ以来一度もデートらしいデートはできていないのだけれど──にフードコートで声をかけてきた人物だ。安達朔也という名前らしい。
「あ、松岡なら七組だよ」
玲奈の手が止まっているのに気付いたのか、麻衣子が教えてくれる。
「そうなんだ……うん、ありがとう」
せっかくなので七組のページも見てみる。
すると確かに今よりもどこかあどけない印象の拓海の写真が見つかった。
「松岡くんって、中学の時からあんな感じだったのかな」
聞くともなしにつぶやくと、ばっちり聞こえていたらしい麻衣子が「あんな感じって?」と聞き返してきた。
「落ち着いてるっていうか、大人びてるっていうか……」
何と形容すればいいのだろう。
同世代の男子より紳士な感じとでも言えばいいのだろうか。
「うーん、どうだろ。別に普通っていうか、他の男子と大差ない感じだったと思うけどね。あ、他の男子よりはモテてたか」
そんな麻衣子の言葉に、玲奈ははっと顔を上げる。
「他の男子って言えば、この人──知ってる?」
急いでページをめくり、安達朔也の顔を指さした。
「え? ──ああ。安達ね。知ってるけど、そいつがどうかしたの?」
麻衣子は少し不思議そうに首を傾げている。
「ええと、ちょっと前にね。定期入れ落とした時に気づいて拾ってくれた人がいて。この人だと思うんだよね」
とっさに考えだした嘘だった。
さすがに正直に話すわけにはいかない──デート中の女子をナンパしていたなんて。
「あ、でもうちの高校じゃないよねたしか」
アルバムに見入るふりをしながら、あえて独り言のようにつぶやく。
すると期待通り麻衣子はちゃんと聞いていて「ああ」と答えてくれた。
「安達はたしか……南高に行ったんだったと思うよ」
南高はうちとだいたい同じくらいの偏差値帯の公立高校だ。
これはラッキーかもしれない。接触を図ってもそれほど怪しまれずに済みそうだ。
「そうなんだ……。あの、ところであの件って、E組ではどんな感じ?」
さりげなく話題を変える。
別に聞きたいわけでもないのだけれど、それ以外に自然な話題が思いつかなかったのだ。
「……うん、そうだね……」
麻衣子は言いよどむ。
ということは、相当面倒なことになっているということなのだろうか。
「……気を悪くしないでほしいんだけど、一言で言うと『誰?』って感じだった」
言いにくそうだったわりに内容が内容だったため、玲奈は思わず吹き出してしまった。
「『誰?』って……まあそうだよね」
笑いながらそう答える。うちの学校の一般生徒は生徒会に興味なんて持たない。
生徒会長が誰なのかも知らなければ、どんな人間なのかを気にしたこともないだろう。
生徒会選挙なんて形だけの信任投票だし、立候補演説だってきっと誰も聞いていない。
「私も朝練があったから聞いた話でしかないんだけど、みんな次の日には忘れてた気がする」
玲奈の反応に安心したのか、麻衣子は淡々と言う。
玲奈をフォローしようと気を遣っているわけではないようだ。
「ああ、意外とそんなもんだよね。よかった。ありがとう」
とりあえず目的は達成された。
彼の正体──というか身元がこんなにスムーズに判明したということは、きっと行動を起こすべきだということなのだろう。
「……にしても、何がしたいんだろうね。今ひとつわかんないなと思って」
麻衣子の声に玲奈は顔を上げる。
「嫉妬なのかと思えば自分が付き合おうとするわけでもないみたいだし。ただ仲を引き裂きたいだけなのか……」
言われてみれば確かに、何が目的なのかよくわからない──けれど。
「でも、ほんと気をつけた方がいいと思う。気をつけてって言うだけで何も具体的にアドバイスできないのが申し訳ないけど」
麻衣子の言葉に玲奈は慌てて首を振る。
申し訳ないなんてとんでもない。麻衣子は十分力になってくれている。
おかげで手がかりも得られたのだ──もちろんこれは口にはできないけれど。
そういえば、と玲奈は洋介の方を振り返った。
この間黙っていた洋介は、アルバムを見つめ何やら考え込んでいる。
責任感の強い洋介のことだ、南高に乗り込むなんて言ったらきっと心配するだろう。自分も行くと言い出すかもしれない。
やっぱり一人で行こうと決意を新たにする玲奈だった。
(いない……このクラスにもいない……)
分厚いページをめくるごとに不安になってくる。
同一人物だと認識できないくらいに雰囲気が変わってしまっているかもしれない。
いや、もしかしたらそれ以前に、本当は無関係という可能性だってある。
(いない……)
次のクラスにも、その次のクラスにも、目当ての人物は見つからなかった。
卒業アルバムで見つかるなんていうのがそもそも希望的観測だったのだと思い知る。
諦めと期待が入り交じるなか、玲奈は最後のクラスのページを開いた。
「……!」
最後のクラス──八組の1人目を見た瞬間だった。
(いた!)
間違いない、と玲奈は確信する。
拓海と初めてデートした日──といってもあれ以来一度もデートらしいデートはできていないのだけれど──にフードコートで声をかけてきた人物だ。安達朔也という名前らしい。
「あ、松岡なら七組だよ」
玲奈の手が止まっているのに気付いたのか、麻衣子が教えてくれる。
「そうなんだ……うん、ありがとう」
せっかくなので七組のページも見てみる。
すると確かに今よりもどこかあどけない印象の拓海の写真が見つかった。
「松岡くんって、中学の時からあんな感じだったのかな」
聞くともなしにつぶやくと、ばっちり聞こえていたらしい麻衣子が「あんな感じって?」と聞き返してきた。
「落ち着いてるっていうか、大人びてるっていうか……」
何と形容すればいいのだろう。
同世代の男子より紳士な感じとでも言えばいいのだろうか。
「うーん、どうだろ。別に普通っていうか、他の男子と大差ない感じだったと思うけどね。あ、他の男子よりはモテてたか」
そんな麻衣子の言葉に、玲奈ははっと顔を上げる。
「他の男子って言えば、この人──知ってる?」
急いでページをめくり、安達朔也の顔を指さした。
「え? ──ああ。安達ね。知ってるけど、そいつがどうかしたの?」
麻衣子は少し不思議そうに首を傾げている。
「ええと、ちょっと前にね。定期入れ落とした時に気づいて拾ってくれた人がいて。この人だと思うんだよね」
とっさに考えだした嘘だった。
さすがに正直に話すわけにはいかない──デート中の女子をナンパしていたなんて。
「あ、でもうちの高校じゃないよねたしか」
アルバムに見入るふりをしながら、あえて独り言のようにつぶやく。
すると期待通り麻衣子はちゃんと聞いていて「ああ」と答えてくれた。
「安達はたしか……南高に行ったんだったと思うよ」
南高はうちとだいたい同じくらいの偏差値帯の公立高校だ。
これはラッキーかもしれない。接触を図ってもそれほど怪しまれずに済みそうだ。
「そうなんだ……。あの、ところであの件って、E組ではどんな感じ?」
さりげなく話題を変える。
別に聞きたいわけでもないのだけれど、それ以外に自然な話題が思いつかなかったのだ。
「……うん、そうだね……」
麻衣子は言いよどむ。
ということは、相当面倒なことになっているということなのだろうか。
「……気を悪くしないでほしいんだけど、一言で言うと『誰?』って感じだった」
言いにくそうだったわりに内容が内容だったため、玲奈は思わず吹き出してしまった。
「『誰?』って……まあそうだよね」
笑いながらそう答える。うちの学校の一般生徒は生徒会に興味なんて持たない。
生徒会長が誰なのかも知らなければ、どんな人間なのかを気にしたこともないだろう。
生徒会選挙なんて形だけの信任投票だし、立候補演説だってきっと誰も聞いていない。
「私も朝練があったから聞いた話でしかないんだけど、みんな次の日には忘れてた気がする」
玲奈の反応に安心したのか、麻衣子は淡々と言う。
玲奈をフォローしようと気を遣っているわけではないようだ。
「ああ、意外とそんなもんだよね。よかった。ありがとう」
とりあえず目的は達成された。
彼の正体──というか身元がこんなにスムーズに判明したということは、きっと行動を起こすべきだということなのだろう。
「……にしても、何がしたいんだろうね。今ひとつわかんないなと思って」
麻衣子の声に玲奈は顔を上げる。
「嫉妬なのかと思えば自分が付き合おうとするわけでもないみたいだし。ただ仲を引き裂きたいだけなのか……」
言われてみれば確かに、何が目的なのかよくわからない──けれど。
「でも、ほんと気をつけた方がいいと思う。気をつけてって言うだけで何も具体的にアドバイスできないのが申し訳ないけど」
麻衣子の言葉に玲奈は慌てて首を振る。
申し訳ないなんてとんでもない。麻衣子は十分力になってくれている。
おかげで手がかりも得られたのだ──もちろんこれは口にはできないけれど。
そういえば、と玲奈は洋介の方を振り返った。
この間黙っていた洋介は、アルバムを見つめ何やら考え込んでいる。
責任感の強い洋介のことだ、南高に乗り込むなんて言ったらきっと心配するだろう。自分も行くと言い出すかもしれない。
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