23 / 63
第1章
23-R アパレルレディ
しおりを挟む
「えーっ! かわいい!!」
彼女の第一声はそれだった。アイラインでくっきりと囲まれた目にきれいに巻かれた髪。なんとなく、以前Salon d’Ellaで会った祐輝の姉・葵と同じ空気を感じる。
(と、いうことは……?)
反応に困って隣を振り向くと、祐輝がうなずいて紹介してくれた。
「三番目の姉……の茜」
やっぱり、彼女──茜も祐輝の姉なのだった。三番目ということは葵にとっては妹らしい。
それよりも、祐輝に三人も姉がいたというのが少し意外だった。なんとなく、マイペースさが一人っ子っぽいような気がしていたからだ。人が人に抱く印象なんていい加減なものなんだなと実感する。
「こんなに可愛い女の子が着てくれるなら服たちも本望だわ」
そう言って茜はにっこりと笑った。どうやら、これからこの人の「着せ替え人形」をすることになるらしい。
「あの……その話なんですけど……」
放課後、玲奈は何も聞かされずにつれてこられ、茜と引き会わされたのだった。これから何が起こるのか、具体的には何もわからない。
「実際に見てもらった方が早いと思うから。裏で待っててね。車とってくる!」
そう言って茜は、祐輝と玲奈を二人残しバックヤードへと消えた。
「ねえ、どうなってるの?」
何から尋ねればいいのかわからず曖昧な聞き方になってしまう。けれど祐輝の回答は明快だった。
「あか姉はアパレル店員。で、生徒会長のデートのトータルコーデを依頼する相手。今から生徒会長はあか姉の車で移動して、『リアル・着せ替え人形』になる」
なるほど、と納得しかけたところで、実際にはほとんど疑問が解決されていないことに気づく。
「リアル・着せ替え人形」遊びに付き合うのが交換条件だというのはなんとなく察せられるけれど、買い物はどうなるのだろう?
それに、学校から直接来てしまったし、財布には到底全身のアイテムをそろえられるような額は入っていない。むしろその辺りのことを確認しなければ。
「何してんの。行くよ」
祐輝に引っ張られるようにしてエスカレーターへと向かう。
どこ行くの、と聞こうとして茜の言葉を思い出した。たぶん、このショッピングモールの裏側に向かうのだろう。茜が待っているようにと言った「裏」だ。
往来の少ない裏通り側で待っていると、ほどなくして若草色の軽自動車が目の前に停まった。茜は運転席から助手席の窓を開け、玲奈に笑いかける。
「うしろ、乗っちゃって!」
茜の言葉に玲奈はうなずき、「失礼します」と後部座席に乗り込んだ。そのまま運転席の後ろへと移動したが、祐輝はついてこない。
「祐輝、あんたも乗るのよ」
祐輝が乗ってこないのに気付いた茜が声を上げる。茜に見えたかはわからないが、祐輝が思いっきり嫌な顔をしたのが玲奈には見えてしまった。
「俺なんか行ってもどうせ役に立たないでしょ」
ため息をついてドアを閉めようとする。けれど茜の方が早かった。
「何言ってるのよ! 現役男子高生の声を聞かなくてどうするの。はい、拒否権はなし」
茜が一息にまくしたてると、祐輝は諦めた表情で玲奈の隣に乗り込んできた。
意外と、お姉さんには頭が上がらなかったりするのかもしれない。
彼女の第一声はそれだった。アイラインでくっきりと囲まれた目にきれいに巻かれた髪。なんとなく、以前Salon d’Ellaで会った祐輝の姉・葵と同じ空気を感じる。
(と、いうことは……?)
反応に困って隣を振り向くと、祐輝がうなずいて紹介してくれた。
「三番目の姉……の茜」
やっぱり、彼女──茜も祐輝の姉なのだった。三番目ということは葵にとっては妹らしい。
それよりも、祐輝に三人も姉がいたというのが少し意外だった。なんとなく、マイペースさが一人っ子っぽいような気がしていたからだ。人が人に抱く印象なんていい加減なものなんだなと実感する。
「こんなに可愛い女の子が着てくれるなら服たちも本望だわ」
そう言って茜はにっこりと笑った。どうやら、これからこの人の「着せ替え人形」をすることになるらしい。
「あの……その話なんですけど……」
放課後、玲奈は何も聞かされずにつれてこられ、茜と引き会わされたのだった。これから何が起こるのか、具体的には何もわからない。
「実際に見てもらった方が早いと思うから。裏で待っててね。車とってくる!」
そう言って茜は、祐輝と玲奈を二人残しバックヤードへと消えた。
「ねえ、どうなってるの?」
何から尋ねればいいのかわからず曖昧な聞き方になってしまう。けれど祐輝の回答は明快だった。
「あか姉はアパレル店員。で、生徒会長のデートのトータルコーデを依頼する相手。今から生徒会長はあか姉の車で移動して、『リアル・着せ替え人形』になる」
なるほど、と納得しかけたところで、実際にはほとんど疑問が解決されていないことに気づく。
「リアル・着せ替え人形」遊びに付き合うのが交換条件だというのはなんとなく察せられるけれど、買い物はどうなるのだろう?
それに、学校から直接来てしまったし、財布には到底全身のアイテムをそろえられるような額は入っていない。むしろその辺りのことを確認しなければ。
「何してんの。行くよ」
祐輝に引っ張られるようにしてエスカレーターへと向かう。
どこ行くの、と聞こうとして茜の言葉を思い出した。たぶん、このショッピングモールの裏側に向かうのだろう。茜が待っているようにと言った「裏」だ。
往来の少ない裏通り側で待っていると、ほどなくして若草色の軽自動車が目の前に停まった。茜は運転席から助手席の窓を開け、玲奈に笑いかける。
「うしろ、乗っちゃって!」
茜の言葉に玲奈はうなずき、「失礼します」と後部座席に乗り込んだ。そのまま運転席の後ろへと移動したが、祐輝はついてこない。
「祐輝、あんたも乗るのよ」
祐輝が乗ってこないのに気付いた茜が声を上げる。茜に見えたかはわからないが、祐輝が思いっきり嫌な顔をしたのが玲奈には見えてしまった。
「俺なんか行ってもどうせ役に立たないでしょ」
ため息をついてドアを閉めようとする。けれど茜の方が早かった。
「何言ってるのよ! 現役男子高生の声を聞かなくてどうするの。はい、拒否権はなし」
茜が一息にまくしたてると、祐輝は諦めた表情で玲奈の隣に乗り込んできた。
意外と、お姉さんには頭が上がらなかったりするのかもしれない。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
機械娘の機ぐるみを着せないで!
ジャン・幸田
青春
二十世紀末のOVA(オリジナルビデオアニメ)作品の「ガーディアンガールズ」に憧れていたアラフィフ親父はとんでもない事をしでかした! その作品に登場するパワードスーツを本当に開発してしまった!
そのスーツを娘ばかりでなく友人にも着せ始めた! そのとき、トラブルの幕が上がるのであった。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる