手のひらのひだまり

蒼村 咲

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第1章

17-R 外見と中身と

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そんなに堅苦しくは考えなくてもいいのかもしれない。あらゆるカップルの付き合いはじめが両想いだとは限らないことを、玲奈は祐輝の助言から学んだ。
拓海は玲奈を好きだと言ってくれていて、玲奈も拓海のことを、少なくとも嫌だとは思わない。良い人だと思うし、告白された時だって驚きこそすれ、不快感を覚えることはなかったのだ。

(でも松岡くんは一体なんで、私と付き合いたいなんて思うようになったんだろう……)

自分で言うのもなんだけれど、校内トップクラスの成績を誇る「冴えない」女子生徒会長なんて、男子にモテる要素が何一つない。あるいは、敬遠される要素しかないと言った方がいいだろうか。
実際、これまで色恋沙汰とは何の縁もなかったのだから、それは正しい認識だと思う。

玲奈は生徒会長で、拓海はサッカー部の部長。もともとお互いの存在は認識していたし、接点が全くなかったわけではない。けれど、好意を抱かれるほどのかかわりはなかったと思う。
だから、何かきっかけがあったとすれば、それは祐輝のあの「計画」以外に考えられない。

(やっぱりそれだけ大きな変化だったんだ……)

もちろん自分では劇的に変わったと思う。けれど、それが人の心を動かすほどだとは思いもしなかった。
それも、相手はサッカー部のキャプテン──言ってみれば、わかりやすくスポットライトの中心に立っているような人間なのだ。生徒会長でありながら背景に紛れてばかりいた玲奈とは、根本的に違う世界の住人だったはずだ。

祐輝は、そんな相手に好きだと思わせるくらいに魅力的になったのだと思えばいいと言った。
けれど、玲奈自身は何も変わっていないのだ。変わったのは──祐輝が変えてくれたのは、外見だけだ。

(なんか、騙してるみたいな気分なのは気のせい?)

何も変わっていない中身を、見た目を磨くことで塗り固め隠しているような錯覚に陥る。そんな状態で付き合うのは、果たして誠実だと言えるのだろうか。ぱっと見た感じが魅力的でも、中身が同じように魅力的とは限らない。
それとも、拓海は純粋に玲奈の外見だけを見て好きになったのであり、その外見がある限り他のことは気にならないのだろうか。

(でももしそうだとしたら、それって本当に私のことを好きだってことになるの?)

祐輝のイケメンさとはまた違ったタイプだが、拓海は一般的には十分美形の部類に入る。でもだからといって、それだけが理由で好きになったりはしないと思う。
もちろん外見だってその人の一部だし、そのことは玲奈もよくわかっているつもりなのだけれど。

「……はあ」

思わずため息が漏れた。考えすぎなのはわかっている。けれどどうしても足踏みしてしまうのだ。自分も案外生真面目なのかもしれない。
恋愛に向いていないとまでは言いたくないけれど、少なくとも軽い気持ちで恋愛を楽しめるタイプではないようだ。
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