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第20話 委員会のシステム

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「そういえば、この前佐伯先輩が当番の日に遅れて来たのって、何か用事だったんですか?」

 私は隣を歩く佐伯先輩に尋ねる。
 結局、佐伯先輩の過去に何があったのかは知らない。佐伯先輩は特に話したそうでもなかったし、私も追及しなかったのだ。少なくとも今はそれでいいと思っているし、少なくともしばらくの間は──もしかしたらずっと先までそうかもしれないけど──それで何かが変わることはないと思う。というか、それを私が選んだのだ。

「ああ、あれは……」

 佐伯先輩は何かを思い出すように宙を見つめる。

「委員長会議だよ。……ちょっと軽いもめ事があって」

「もめ事?」

 何があったのだろう。気になって聞き返すと、佐伯先輩は苦笑した。

「もめ事って言うと大袈裟かな。前からあった意見の相違なんだけど、委員の選出の仕方でひと悶着あって」

 佐伯先輩の口調から察するに、それほど深刻な問題ではないらしい。私は黙って続きを待つ。

「例年、委員は各学年各クラスから一人ずつ出してたんだけど、それだと時間割がバラバラで、委員会によっては当番が組みにくかったりするみたいで。たぶん、お互いにほとんど面識がないのもやりづらい要因なんだろうけど」

 なるほど、それはわからないでもない。思えば中学の時は、クラスから二人ずつが各委員会に入っていた気がする。

「でも、各クラスから二人ってなると委員会全体で六十人とかになるわけで、さすがに多すぎるんだよ」

「ですね……」

 六十人となると、委員会を開くにしても普通の教室には全員が入りきらない。

「それで、委員の選出の仕方を変えようって話になって。二、三年は各クラス一人でやってきてるから、今年の一年生からね」

 佐伯先輩のその言葉で、私の中である点と点がつながった。

「もしかして佐伯先輩があの時、私が図書委員のことを聞こうとしてるって思ったのは、だからですか?」

 佐伯先輩と初めて会話したあの日だ。勢いで一緒に帰ってもらってしまって、苦し紛れに引っ張り出した質問だったというのが実情だけど。

「ああ、うん。富永さんのことはあの日までにも時々見かけてたし、図書委員になりたかったのかなとは確かに思ったね」

 その言葉に、私は思わず足を止める。

「? どうかした?」

 佐伯先輩も立ち止まり、不思議そうにこちらを振り返った。

「いえ! なんでもないです」

 小走りで追いつき、また佐伯先輩の隣に並ぶ。

(びっくりした……まさか)

 まさか、あの時点で佐伯先輩が私のことを認識してくれていたなんて。驚きと嬉しさでつい緩みそうになる頬を必死に引き締める。

「そう、その辺のことも全部年度初めに決めとかなきゃいけないのに、伝達や集会が上手くいかないうちに行事なんかも重なってこんな時期になっちゃって」

 佐伯先輩は軽くため息をついた。
 考えてみれば、四月の時点で委員会決めがなかった以上、今までの活動は二、三年生だけでまかなってきたことになる。入学したてでそれほど戦力にはならないかもしれないが、数にして三分の一が抜けた状態での仕事は大変だったんじゃないだろうか。

「それで、解決したんですか?」

 全校生徒の数字から考えて、委員会に入るのは少数派なのかもしれない。それでも可能性は当然あるので尋ねてみる。

「一応は、だけどね。学年を奇数クラスと偶数クラスに分けて、どちらかから各クラス二人ずつの計十人ってことになったよ」

 なるほど。それなら学年ごとの人数は変わらずに、最低でも二人は同じ時間割の委員がいることになる。体育委員は奇数クラス、美化委員は偶数クラス、みたいにきっと委員会ごとに分かれるのだろう。

「あれ? じゃあ図書委員は……?」

 私が水を向けると、佐伯先輩は困ったように軽く息をついた。

「それが、図書委員は抽選の結果偶数クラスだと」

「えー……」

 がっくりと肩を落とす。私は一年三組なので、図書委員にはなれないことになる。

「富永さんは図書委員、興味あった?」

「ありますよ! これでも図書室常連ですし」

 期間にして一年くらいではあるものの、中学では図書委員を務めたこともあるのだ。貸出や返却の作業は特に好きでも嫌いでもなかったけれど、書架の整頓や蔵書整理なんかは大好きだった。
 それに、何より今は佐伯先輩がいる。

「そっか……。じゃあ、夏休みになれば今年も蔵書整理をやるだろうから、もしよかったらボランティアで参加してみる?」

「えっ、そんなことできるんですか?」

 私は思わず勢い込んで聞いた。クラスが図書委員の選抜から外れたショックが早くも薄らぐ。

「うん。毎年募集するんだけど、富永さんが来てくれるなら辻先生は泣いて喜ぶと思う」

 佐伯先輩はなぜか笑いをこらえながら言った。私が不思議そうな顔をしているのを見てとったのだろう、説明を加えてくれる。

「希望者があんまりいないんだよ。冷房の効いた屋内とはいえ、紛れもない肉体労働だしね」

 なるほど。言われてみれば確かに本は重い。それだけじゃなく、蔵書整理は根気のいる作業でもある。もちろん、私には苦にならないと思うけど。

「でも私は今から楽しみです!」

 心の底から言うと、佐伯先輩は優しく微笑んだ。
 正直に言えば、佐伯先輩と並んで貸出カウンターの中に座ってみたかったとは思う。でもそんな贅沢を言わなくても、今みたいにこうして一緒に帰れているだけで十分幸せなのだった。
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