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第18話 放課後の図書室

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放課後、図書館へと向かう間もあの話が頭を離れない。
私は入り口のドアをできるだけ静かに開け、カウンターを覗き込んだ。
(……あれ?)

 今日も当番のはずなのに、佐伯先輩の姿がない。カウンターには彼の代わりに、辻先生と二年生らしい女子生徒がいた。
 急な用事でもあったのかもしれないし、たとえば体調不良なんかで帰宅した可能性もある。昼休みに会った時は元気そうだったけど、佐伯先輩はたぶん、そういうのも隠すのが上手に違いない。
 私は目が合った辻先生に軽く会釈して、いつも通り書架に近い窓際の席に腰かけた。

(会えないなら……先に知っておきたかったな……)

 読んでいる途中の本を開きながら思う。
 別に、前もって知っていたからといって何かが変わるわけではないけれど。と、そこまで考えて気づく。「知っておくこと」ではなく「教えてもらえること」に価値があるのだ。

(これって欲だよね……)

 最初なんて、ここから眺めているだけでよかったくらいなのに。
 放課後、何らかの理由で図書室にいない──たったそれだけのことなのに、本人から直接聞きたかったなんて願ってしまっている。

(……違う)

 思考が負のスパイラルに陥りかけたところで気づく──私が自分でそう選んだのだと。
 昼休み佐伯先輩は私に、自分が放課後図書室に行けないことを伝えようとしていたのでは? じゃなきゃ「Ⅰ棟」──つまり一年生の教室だけで構成される校舎で出会うはずがない。
 それなのに私は、どうして佐伯先輩があそこにいたのかすら考えもせず、逃げるように立ち去ってしまった。

「はあ……」

 机に突っ伏して思いっきりため息をつく。
 あの時佐伯先輩とちゃんと話ができなかったのは、我ながら言い訳がましいとは思うけど不穏な噂話を聞かされ、さらに別れた方がいいと警告までされて動揺していたたせいだ。結局、また思考がここに戻ってきてしまった。

(もし、佐伯先輩が本田先輩よりほんのちょっとでも早く教室に来てくれてたら……)

 と、そんな都合のいいことを考えそうになったのを慌てて振り払う。それはあまりにも勝手だ。それに、今日聞かなかったとしてもいずれ近いうちに聞かされることになったに違いない。


「──遅くなってすみません」

 入口の方からそんな囁き声が聞こえ、私ははじかれたように顔を上げた。

(──!)

 佐伯先輩だった。どうやら帰宅してしまったわけではなかったようだ。

「佐伯先輩、お疲れ様です」

 カウンターにいた女子生徒が立ち上がる。先輩と呼んでいるということはやはり二年生のようだ。

「宮内さんもありがとう。一人で任せちゃってごめんね」

「いえ、先生にも手伝っていただきましたし大丈夫です」

 カウンターでのそんな会話につい聞き耳を立ててしまう。と、佐伯先輩がふとこちらを振り返った。

(あっ……)

 どうしてなのかはわからない。でもとっさに目を落とし、佐伯先輩の視線を避けてしまった。
 今まではこの図書室の中でただ目が合うだけであんなに嬉しかったのに。私はまた逃げてしまった。

(もうこれ以上はだめ……考えなきゃ)

 何が本当なのか。私は何を信じるのか。そしてその結果、何を選ぶのか。
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