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第13話「優しさ」
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- 第13話「優しさ」 -
「あら、海斗さんの、牧田さん。おかえりない。どうでしたか?」
僕らが店に入ると、萌花さんはいつもと変わらない笑顔で微笑んでくれた。
「その様子だと、落ちたんですかね?」
「……はい」
「まあ、座ってください。コーヒーが入ってます」
いつものように、彼女はコーヒーカップに暖かいコーヒーを僕らに淹れてくれた。一口飲む。
体の芯から、欠けたものが満たされる気分だった。
「うまいなぁ」
天井を見上げた。木造の天井が目に入った。
「なにはともあれ、お疲れ様です」
「負けちゃいましたよ」
隣で牧田がはぁと下を向きながらため息をつくのが聞こえた。ここまでいったのに、負けたのは悔しかった。
「とりあえず、今はコーヒーを飲んでゆっくり休んでください。人間は落ち着かないと次のことなんてできません」
萌花さんの言う通り、コーヒーを一口、また一口飲んでいった。コーヒーカップが一度空になった時、また僕は上を向いた。やはりそこに天井がある。そして僕も牧田と同じように、ため息をついた。
「ため息ばかりついてどうするんですか」
「悔しいんですよ、まさかここで負けるなんて……」
僕は、机の上に涙を垂らした。
「海斗さん、でもあなた、自分のためにネタをやりましたか?」
僕は漫才をやっている時、そしてネタ選びをしていふ時のことを思い出した。あのステージでの悪環境は、前々からわかっていた。あの場所で、もし自分の好きなネタをやっていたら、もっと結果は悪かった。でも、お客さんに笑ってほしくて、僕はあのネタにした。
「いいえ、僕は、お客さんのためにネタをやりました」
「それで、いいんです。海斗さんはまだまだ強くなれますから」
萌花さんは、もう一杯コーヒーを僕のカップに注いでくれた。ユラユラと高い湯気が立っていて、それが萌花さんの優しさのように僕の体にまとわりついた。萌花さんは続けた。
「来年、頑張ってください。人は、自分のことだけ考えていたら生きていけません。みんなで助け合って生きていくものなんです」
「はい」
僕は大きくうなづいた。そしてもう一杯注がれたコーヒーを僕は飲んだ。萌花さん、ありがとう。
彼女の優しさが、体に染みていった。
「あら、海斗さんの、牧田さん。おかえりない。どうでしたか?」
僕らが店に入ると、萌花さんはいつもと変わらない笑顔で微笑んでくれた。
「その様子だと、落ちたんですかね?」
「……はい」
「まあ、座ってください。コーヒーが入ってます」
いつものように、彼女はコーヒーカップに暖かいコーヒーを僕らに淹れてくれた。一口飲む。
体の芯から、欠けたものが満たされる気分だった。
「うまいなぁ」
天井を見上げた。木造の天井が目に入った。
「なにはともあれ、お疲れ様です」
「負けちゃいましたよ」
隣で牧田がはぁと下を向きながらため息をつくのが聞こえた。ここまでいったのに、負けたのは悔しかった。
「とりあえず、今はコーヒーを飲んでゆっくり休んでください。人間は落ち着かないと次のことなんてできません」
萌花さんの言う通り、コーヒーを一口、また一口飲んでいった。コーヒーカップが一度空になった時、また僕は上を向いた。やはりそこに天井がある。そして僕も牧田と同じように、ため息をついた。
「ため息ばかりついてどうするんですか」
「悔しいんですよ、まさかここで負けるなんて……」
僕は、机の上に涙を垂らした。
「海斗さん、でもあなた、自分のためにネタをやりましたか?」
僕は漫才をやっている時、そしてネタ選びをしていふ時のことを思い出した。あのステージでの悪環境は、前々からわかっていた。あの場所で、もし自分の好きなネタをやっていたら、もっと結果は悪かった。でも、お客さんに笑ってほしくて、僕はあのネタにした。
「いいえ、僕は、お客さんのためにネタをやりました」
「それで、いいんです。海斗さんはまだまだ強くなれますから」
萌花さんは、もう一杯コーヒーを僕のカップに注いでくれた。ユラユラと高い湯気が立っていて、それが萌花さんの優しさのように僕の体にまとわりついた。萌花さんは続けた。
「来年、頑張ってください。人は、自分のことだけ考えていたら生きていけません。みんなで助け合って生きていくものなんです」
「はい」
僕は大きくうなづいた。そしてもう一杯注がれたコーヒーを僕は飲んだ。萌花さん、ありがとう。
彼女の優しさが、体に染みていった。
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