雪降る街に

第9話「大切なこと」

- 第9話「大切なこと」 -

  準決勝。終わってから思い返せば驕りがあった。絶対、決勝に進めると信じてやまなかった。ネタも、ライブでやって一番ウケたやつをやった。でも所々ミスをするし、噛んだ上に敗退した。
「なぜだ……」
楽屋に戻り、準決勝での敗退を知って涙を流した。
ネタは……完璧だった。ミスもあったけど、十分進めるはずだった。なんでだろうか。
「海斗さん」
萌花さんのところに戻ってしばらく落ち込んでいると、萌花さんは１つのことを僕に聞いた。
「海斗さんは、どういう気持ちで準決勝に臨みましたか？」
「えっ、そりゃ決勝に進みたいって気持ちで……」
「お客さんを、喜ばせようって考えましたか？」
あっ……そうだ、一番大事なことを、僕は忘れてしまった。
「前に海斗さんがお客さんの幸せと笑顔のことを考えていると言った時、海斗さんはお客さんが喜ぶために必死だったはずです。でも売れるとお金とか名誉のことばかり人は考えます。それじゃダメなんです。私のコーヒーも、いつもお客さんのことを考えて淹れてます、海斗さん」
「はい」
「まだ敗者復活戦ありますよね。そこで、どの芸人よりもお客さんのことを考えてネタをやってください。そうすれば、大丈夫です。漫才も、私のコーヒーも、誰かに見てもらって、飲んでもらって初めて成り立つんです。お客さんあっての芸ですからね」
萌花さんは僕に大切なことを教えてくれたような気がした。僕は萌花さんの言葉を胸に刻みつけた。
「頑張ります。絶対、負けません」
「その意気です」
「さあ、牧田、ネタ合わせしよう」
「ああ」
敗者復活戦まで1週間。絶対、下克上を成し遂げる。