聖徒会

森山葵

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第1話「生徒会室にて」

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- 第1話「生徒会室にて」 -

  ダンス部新部長のエミが生徒会室に来たのは学園祭開け翌日の昼の出来事だった。
「生徒会長はいますか?」
「風邪ひいて休んでるよ」
「じゃあ、副会長、あなたですよね?これ、お願いしたいんですが」
僕が手渡されたのは、部室の申請届けだった。
「えっと……部室の請求ですか?」
「はい、ダンス部部員二十五人いて、部室があってもいいかなぁと」
彼女は簡単に言うが、それほど簡単な問題ではない。我が校は岐阜県内でも部活動が特に多く、合計で四十もの部活がある。なのに、部室数はやたら少なく、いつも不足している。いくら人数が多いからと言って、そうやすやすと部室はあげられるものでない。
自分は少し顔をしかめた。
「今すぐに必要ですか?」
「いえ、すぐでなくてもいいので部室ください」
「わかりました。とりあえず差し上げることができる部室がないか、調べてみます」
「よろしくお願いします」
そう言って彼女は生徒会室を出た。
「副会長、どうするんですか?」
一年生の会計。ケイジが僕に尋ねた。
「とりあえず部室の使用状況を調べるより他にないな。おい、リュウタ」
「はい」
生徒会広報担当のリュウタ。こいつは何も部活をしていないので大体暇を持て余している。
「頼みがある」
「なんでもどうぞ」
「各部活動の部室の使用状況のアンケートを作ってくれ。確か五年前のやつがロッカーにあったから、それを手本にしてほしい」
「いつまでに作りますか?」
「別に急がんが、なるべく早くしてくれたまえ。仕事は早く終わらせるべきだ」
「了解しました」
だるそうな返事をした後、広報のリュウタはパソコンと向き合って早速仕事に取り掛かった。
「副会長、コーヒーでも入れましょうか?」
こう言うのは生徒会補佐員のナギサ。僕の秘書みたいな役割をしてくれている。
「頼む、みんなの分入れてくれ」
「わかりました。あ、お砂糖とミルク入れますか?」
「よろしく頼む」
僕はどうもあのコーヒーというやつの苦さが我慢ならなかった。なのでいつも飲むときは砂糖とミルクを入れて飲む。
  ナギサは生徒会室に置いてあるマグカップにコーヒーを注いで僕のところに持ってきてくれた。
「ありがとう」
そう言って一口コーヒーを口にした途端、あまりのまずさに吐き出した
「な、なんだこれは」
「豆乳です」
「ミルクは?」
「そっちの方が健康にはいいですよ」
「あのなあ」
テヘッと可愛い笑顔を浮かべてナギサは誤魔化そうとした。僕は豆乳も大嫌いなんだ。やめてくれ。
「そして砂糖ちゃんと入っているのか?いやに酸っぱいな!」
「あ。すみません。間違えてクエン酸入れてました」
「もはや飲み物じゃねーよ!」
こいつは本当にどうしようもないところがある。優しいところはあるがこの天然さ加減はなんとかしてほしい。
「副会長」
補佐員のコウタロウが手になにかを持ったまま僕に話しかけた。
「これ、何ですか?」
「は?」
コウタロウは両の手でなにかを包み隠しながら、僕の方に手を差し出した。そしてコウタロウは手を開くと、そこには……
「ゴキブリだ!!」
ゴキブリも大の苦手なんだ!何でこんなものを手に持っている!驚きのあまり飛び跳ねてしまった。
「あっはっはっ。副会長、これオモチャですよ」
「驚かすなよ!」
「副会長」
「なんだ!」
ナギサ僕の背中を指差した。
「背中にゴキブリいますよ」
「あのなぁ……人をからかうのも……」
と思っていると、背中でカサカサカサカサ……
「ぎゃーー!取れ!早く!」
「副会長、落ち着いて下さい」 
相変わらず生徒会室はいつも騒がしい。僕は昨年の生徒会選挙で僕の所属するサッカー部の仲間から推されて副会長選挙に立候補した。結果は落選したが、当選した方がSNSで違法な呼びかけをしたとして生徒会規約に違反し、就任わずか三日で罷免され、繰り上げ当選という形で生徒会副会長に就任した。あれから早くも十ヶ月。そろそろ選挙が始まる。しかし、今年の生徒会はいまいち成果を示せずにいた。このままでは生徒会長選挙、立候補しても僕は負けるだろう。何か策を講じなければならない。なので、今回の部室問題に何か成果を上げることができれば、次の選挙で有利になる。なんとしても僕の手腕を示さねば。
「会長、これでいいですか?」
さすがリュウタ。仕事が早い。
「どれどれ?」
見ると、「●○地区、ゲートボール大会」とあった。
「な、なんだこれは!」
「えっ?古いロッカーのファイルにあったのをそのまま作りましたが……」
「馬鹿野郎。だれかゲートボールやるんだ!人の話をちゃんと聞け!やり直しだ!」
「ふぁい……」
先が、思いやられる。
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