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15話 精霊女王の願い

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 女王が真剣な目で私を見る。どうやら大切な話らしい。
「私たちを助けてほしいのです。」
しっかりと私の目を見ながら、女王は続けた。
「私たち精霊国は今、女神の脅威にさらされています。」
女神の……脅威?精霊は神と関わりがあると聞いたことがあるけれど、本当だったんだ。
「昔はいい方でした……ですが最近、何故か暴れだすようになってしまって……。」
そういう女王の表情は、とても悲しそうだった。
「ちょうど私が即位した5年前のことでした。」
5年前!?女王、5歳で即位したの!?……いけない、いけない落ち着かなちゃ。
大きく深呼吸をすると、すこしは冷静さを取り戻せた気がした。
「あら?私が5歳で即位したことが気になりますか?」
ふふふ、とまるで大人のように女王は笑った。
「精霊は知能の発達が早いですから。精神年齢は当時でも20はありましたよ。……昨日はお恥ずかしながら、泣いてしまいましたが。」
女王は、泣いていたのが国民に知られないよう、小声で私に教えてくれた。
いったい今の女王の精神年齢はいくつなのだろうか……?
「私たち精霊を守り、力を授けてくださっている方ですから……傷つけたくはありません。こんな我儘な私の願い、叶えてくださいますか?」
いったいどうすればいいのだろうか?女王の願いを叶える、それは、ここにいる精霊たちだけでなく、女神様まで守らなくてはいけないということだ。
「すみません……急に言われても困りますよね?」
「い、いえ……。」
私には守れないかもしれない。もしかしたら、私自身も怪我だけでは済まないかもしれない。
本当にやるの?私が?できるの?
なんど自分に問いかけても、答えはいいえ、だ。できない。私は勇者といえど、聖女といえど、ただの女の子にすぎないんだ。けれど、許されるのか?勇者のくせに、逃げるなんて……。
「ローズ様。」
女王は幸せそうに、精霊たちが食事をする姿を見つめながら言った。
「私はどうしても守りたいのです。無理なお願いをしていることはわかっています。ですが、どうかお許しくださいね。」
その言葉には、女王の覚悟が現れていた。その願いは1人の聖霊の女の子としての頼みではなく、女王としての願いだった。……私も、勇者として、聖女としての覚悟を決めなければならないのかもしれない。
改めて精霊たちを見渡す。泣いている取り残された精霊たち。それを慰める家族、友人。それは国を追い出された私を受け入れてくれた精霊たちに間違いなかった。
恩返しを、しなければならないな。
「……やるだけやってみましょう。」
「ローズ様!」
女王は立ち上がり、私の手を握った。
「ありがとう……ありがとうございます!ありがとうございます!」
やるだけやってみるしかない。私を受け入れてくれた精霊たちを守るために。この女王のために。
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