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魔法騎士大演習とそれぞれの思惑編(長編)

第99話 彼のぬくもり

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 暗闇の中、兵馬はひとりで歩いていく。
 言われた方向を進むが、道が見えないため正解なのかわからない。

 月明かりでもあればよかったのにーー。

 青白い月は今夜は雲が多く見えそうにない。

 不安で後退りそうになる。
 どこかもわからないのに、走って逃げたくなるーー。

「ふー、ふー、」
 すぐに息があがってくる。呼吸だけは、ちゃんとしないとーー。
 そういえば、夜に出歩く事ってない。向こうでも、塾ぐらいだったっけ。

 こんなに静かなんだ。木も眠っているみたいーー。

 ほぅ~、ほぅ~。

 鳥の鳴き声にびくりとする。
「そ、そりゃ夜行性はいるよね……」

 ガサガサ。

 うそでしょーー。かわいい動物、かわいい動物、どうかかわいい動物でてきてください!

 茂みからからウサギが顔をだした。

「あー、ウサギか……。ウサギも夜行性だったっけーー、ん?」
 顔をだしたのはウサギではない。

 ウサギは牙で挟まれていた。

「あ、、、!!!」

 噛み砕かれたウサギに気絶しそうになりながら、兵馬は走った。
 魔狼が追いかけてくる。


「ふ~!」
 すぐに追いつかれる。
 転移魔法を使うとまたバッカイアの方に行ってしまうのなら、他の魔法はどうだ。火球なら、なんとか唱えられるが、魔狼は待ってくれるだろうか。

「あっ!」
 魔狼が体当たりして噛みつこうとしてくる。避けようとして道ですべる。
 完全に鈍くさい、何かのゲームなら一番に死ぬやつだ。

 だが、すべったのが功をなしたのかはわからないが、兵馬は山道からはずれた崖を転がっていく。

 ガサガサ、ザザザザッーーー、ドサッ!

「ーーっ!」
 痛い。
 立ちあがろうとして、足の痛みに気づく。

 足を捻ったようだ。

 上を見る。
 暗闇の中、魔狼が追ってくる気配はない。
 少し安心するが、道をそれた場合、それも命取りだと悟る。山道というのは、少し道をずれただけで元の場所に帰れなかったりするのだ。

 ニュースで見た、行く道と帰り道で印象が変わるから迷いやすいと。

 ましてや、暗闇だ。
 
 この足では上にあがるのは無理だ。なら、右か左に行くしかないが、どちらに行けばいいのだ。右に行くほうがアジャハンの方角だとは思うのだが。間違ったら?ジュドー達の親切が無駄になってしまう。

「どっちにいこう……」
 どちらも道らしい道はない。こういう場合、谷に降りてはいけない。向こうの世界なら頂上を目指してヘリ救助をまつのだが、こっちはどうなのか。

「さむ………」
 ジュナとくっついて寝たい。

 ワオーーン。

 兵馬は目を見張った。まさか、さっきの魔狼が近くにいるのか。

 死ぬぐらいなら魔法を使おうーー。

 兵馬は魔力を使えるように戻そうとして、
「ーーあれ?切るときはすぐにできたのに……」
 魔法は使えなかった。

 ーーそんなバカな。

 冷静に魔力を練ろうとするが、やはり反応がない。

「嘘だよねーー」


 詰んだ。




 ワオーン。キャンキャンーー。
 
 遠吠えが妙にかわいく聞こえる。
 さっきより近くなった鳴き声に、兵馬は観念したように座りこんだ。

「ーーもっとデートしとけばよかった」
 仕事だなんだと理由をつけて、照れ臭いのをごまかした。

「ーールートのいうとおりだ」

 明日、どうなるかわからないから全力でいちゃつく、それは真理だ。


 キャンキャンキャンキャン!


「ん?」
 魔狼が悲鳴をあげてこちらに駆け下りてきた。なぜか兵馬の横を通り過ぎる。
 木にぶつかりながら走り去る姿は、まるで何かに怯えているようだった。

「もっと強い魔物がいるのかなーー」
 魔狼が逃げだすような怪物が。

 怖いな、と兵馬が思ったそのときだった。







「ーーヒョウマ!」
「え?ジュナ?」

 上から飛ぶように降りてきたのはラルジュナだ。

「大丈夫!?怪我は!!」
「ーーあ、あしがーー」
 兵馬は抱きしめられる。

「マルセイン砦に戻るまで、痛いの我慢できる?」
「うん、だいじょうぶ……」
 軽々と抱えられ、来た上の道まで飛ぶ。
「いたか」
「アスおうたいしーー?」
 彼がいるならアジャハンに戻れたのだろう。

「戻るぞ」
「ーーありがとうございます」
「何もしていないさ」
 
 ラルジュナの息が、顔にかかる。

 その熱さに、ドキリとした。
「ジュナ……」
「何ー?」 
「ーーさむい……」
「えっ?熱でたー?」
 彼の額が兵馬のおでこにくっつけられる。異世界でもこれはするんだな、と兵馬は思った。

「冷えてるから、これからあがるかもー」
「なんだ、ひ弱な奴だな。砦になら薬があるだろう」
 アスラーンが呆れて先へ行く中、兵馬はラルジュナの首にしっかりと腕をまわした。

「ヒョウマー?」


「ジュナのくび、あったかい……」
 ラルジュナが動きをとめる。

「ーーそうだ、ヒョウマ。眼鏡を落としただろう。これを踏んだのでな、おまえの居場所がわかったのだ……、うん?」

 アスラーンが振り返る。

「どうかしたのか?」


「ーー何もないよー」
 真っ赤になったラルジュナの顔は、アスラーンにはまわりが暗すぎて見えなかっただろう。



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