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アジャハン国の王太子とラッキースケベについて。編

第84話 純粋な琉生斗

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「おっ!あいかわらずの田植え水着じゃん!」
 ボールで遊びながら東堂が笑顔を見せた。

「おぅ!楽しんでるか?」

「めっちゃ楽しいなぁ!」
 満喫する東堂と、一緒にバレーをする子供達とアスラーン。
 
 琉生斗は兵馬に耳打ちをした。
「あの人、王太子の仕事は大丈夫なのか?」
「ああ見えて仕事はできるよ。事務処理能力はクリス王太子の倍以上早い」
「へぇ」

「見かけだけはまともなんだよ」
「何か変だよな?おまえ、気づいてるんだろ?」
 琉生斗に鋭く睨まれ、兵馬が視線を上に向ける。

「特に君が気にする事じゃないけど、アス王太子、東堂を狙ってるんだ」

「はあ?」
 琉生斗は引きつった。

「無理だろ」
「だね」
「意外な趣味だな」
「ドンピシャらしいよ」

「ほーん」

 そうは言ってもあいつは完全に男はだめだろう。それでも好きなのかなーー。


「わりとせつない人なんだな」
 琉生斗は胸がキュンとした。

「ーー君、もう少しひとを疑ったほうがいいよ」
 












「ん?」
 琉生斗が東堂達を遠くから見ていると、アスラーンの部下達が妙な動きをしている事に気づいた。

「あっ!アスラーン様!すみません!」
 タルティンがわざとぶつかりアスラーンは東堂の方に倒れ込んだ。

「大丈夫っすか!」
 東堂がアスラーンを抱えた。

「だ、大丈夫だよ……」

 次は東堂がアスラーンを押し倒すようになったり、人混みにまぎれて密着したり。

 兵馬がすっかり引いているが、琉生斗は面白くて仕方がない。

「何やってんだ、あの人達」

「ラッキースケベだよ」

「ははははっ!マジかよっ!」

「冗談で言ったんだけどねー」

「おまえかよ!いやいや、ボディータッチはバカにできないよな」

 琉生斗は兵馬とすべり台をひととおり楽しんだが、身体があまり言う事をきかず、屋台のスイーツを食べ尽くす事にした。

「このクレープ美味い。フルーツいっぱいだし、クリームチーズが合う」

「ロードリンゲンはチーズ作りが盛んだよね」
「ハーベスター公爵が権限をもってるから、参入は難しいぞ」
「ーーそうだね」


「お~い!俺達も混ぜてくれ!」
 東堂とアスラーンが琉生斗達の席の前にきた。

「アス太子、座っててください。適当にもってきます」
「ああ。すまない」

 フットワークの軽い東堂が、屋台をはしごする。その姿が気になるのかアスラーンが視線で追う。

「ーー策に溺れたね」
 皮肉げに兵馬が言う。アスラーンの目が上を向く。

「何がだ?」

「これ以上はやめたほうがいいよ、っていう忠告」

「ふむ。やはり友が心配になったのか?」

 琉生斗は吹きだした。

「ルート、汚い」 
 琉生斗の口まわりを拭きながら、意味ありげにアスラーンを見る。

「あっ、東堂がナンパされてる」
「何!」
 アスラーンが振り向くと、東堂が一般の女性客に囲まれていた。


「すぐナンパされるな」
「向こうでも東堂とでかけると、すぐに女子がきたよね」
「おれとおまえには来なかったな」
「僕はともかく、君は近寄るなオーラがでてたよ」

 そうだっけ?

「すんません!焼きたて待ってたら、声かけられて」
「いやいや、ありがとう。ーー連絡先でも交換したのか?」
 眉をしかめてアスラーンが尋ねる。

「してませんよ」

「そうか……」

 何を安心してるんだかーー、兵馬の目に苦笑が混じる。

「用があれば、ロードリンゲンの魔法騎士団まで来て、って言っときましたんで」

「あっそ」
 琉生斗はつまらなさそうに、たこ焼きを口に放りこんだ。

「…………」

「来たことあんの?」

「ないない。断るのに早いだろ?」
 そんな東堂をアスラーンがじっと凝視している。




「なあ、アスラーンさんがいるのに一般客とか規制しないんだな」
 ごった返すわけではないが、大勢客がいる。

「するわけがない。皆、楽しみに来ているのに、私がいるからと楽しみを奪う事はせんよ」

「へぇー、アス太子。カッコいいっすね!」

 東堂が素直に感心する。琉生斗も見直すようにアスラーンを見た。


「あっ!ダニル!深いプール行ってる!ちょっと俺見てくるわ!」
「うん。お願い」

 東堂が飛ぶように駆け抜けていく。

「わ、私も行ってくる」
 アスラーンが後を追いかける。

「ぷっ」

 琉生斗は吹きだした。


 

 竜騎士達の活躍は続き、東堂とアスラーンの関係が危ない事になりそうで、琉生斗は笑いがとまらなかった。


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