ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

文字の大きさ
上 下
58 / 251
日常編

第55話 ムキになる琉生斗

しおりを挟む

「あっ、じいちゃん。魔蝕だ」

「おやおや。やはり多いですね」

 精神修行で水鏡みずかがみの間にいた琉生斗は、魔蝕の発生を感知した。

 よっこらしょっと、と立ち上がり、琉生斗は部屋から出る。

 アレク魔蝕ダヨーー。

 魔法が阻害される神殿エリアでは、時空竜の女神様が扱う言語が使える時空魔法を使用する。

 ワカッターー。

 すぐに返事が来る。

「アレクの事だ。時空転移で来るんだろうな」

 そう思っていると目の前で光がたゆたう。空間を切ったように、アレクセイはあらわれた。

 琉生斗は口元を歪ませる。

「聖女よりモノにするのが早いってどうなんだろ」
「魔法には違いないからな」

 余裕のアレクセイに、そうですかー、と琉生斗はへそを曲げた。



「ここ、わかるかな?」
 琉生斗の額に手をあて、アレクセイは記憶を読み取る。

「アジャハン国の南ダッカマ領だな。バルドに近い」

 不満気に琉生斗は頬を膨らませる。誰も見てないのだからキスぐらいいいではないか。

「ーーそういえば、バルドは魔蝕が起こらないけど、建物とか工夫してるからかな?」
 
 神聖ロードリンゲン国の上に位置する強国バルドは、対外諸国からの心証が悪いため、魔蝕が起こりにくいように建物は平屋のみなど大きな陰を作らない努力をしている。


「スズ様のときも、バルドではなかったように思う」
 アレクセイが小首をかしげる。

「ふーん。なんで世界聖女連盟に入ってるんだろ?」

「強大国が加盟しているから、かもしれないな」

「はーん。政治的な意味があるのね」

 琉生斗はアレクセイに掴まり、彼が作る光の中に消えた。














 アジャハン国ダッカマ領では赤茶色のレンガの家が横一列に並び、それがまるで段々畑のように広がっていた。

「すっごーい!かわいい!」
 琉生斗がはしゃいだ。

 ちょうど夕暮れどきだ。
 夕日があたって、レンガがきらめいて見える。

「ルートは景色が好きだな」
「ーーうん。こういうの好き!」

 愛くるしいーー、アレクセイは琉生斗を抱きしめようとして、我慢した。

 触れるだけ、触れるだけだーー。


「さあ、どこだ?」
 琉生斗が目を凝らすと、山がある西の方角に嫌な空気を感じた。

「行こう」
 アレクセイは頷いた。


 転移するとその山の裾から、闇が噴き出していた。

「きゃあ!」
「助けてぇ!」
 登山客がほうほうの体で逃げていく。

「アレク。強だ」

 久々に強い魔蝕がでたな。

 琉生斗はアレクセイが結界で闇を覆っていくのを見て、魔蝕の強さを感じた。結界に閉じ込められても、闇の抵抗が大きい。

 琉生斗はひざまずいた。

 聖女の証が光を放つ。


 浄化の力が魔蝕を抑える。一回で駄目なら、二回。重ねるように浄化の光を放出する。


 波のように揺れていた魔蝕が、潮が引くように抵抗感を無くし、やがて結界の中でおとなしくなる。
 
 ここだ!

 琉生斗は光を強め、魔蝕の闇を浄化した。










「お腹すいた~」
 琉生斗が肩を落とした。

「大丈夫か?何か食べて行くか?」

「うん!どこいく?アレク食べたい物ある?」
 琉生斗がはりきるのを見てアレクセイは目を細めた。


「ーー拷問だな」
「ん?」
「限界が近いーー」

「体調が悪いのか?どっかで休む?」
 アレクセイの様子がおかしいので、琉生斗は心配になり尋ねる。

 アレクセイが真顔になった。
「休もう」
「そうか。どっかないかなー」










「ーーアレクセイー、ルートー」
 陽気にのんきを足したような声が聞こえる。


「ラルジュナさん……」
 琉生斗は近くを見たが兵馬の姿はなかった。

「魔蝕が出たって聞いたんだけどー、もう浄化したんだー」

 早いねー、とラルジュナが言う。
 夕日を背にオレンジ色に近い金髪が、キラキラと光ってやかましい。



「ラルジュナさん、兵馬は?」

「うんー?常に一緒にはいないよー、こっちも頼まれてる事が多くてねー。この山には調査に来たんだー」

「へー、何?鉱石?」

「秘密ー♡」 

「あっそう」
 琉生斗は、わかってたよ、とつぶやいた。

「アレク、早く休めるとこ行こう」
 腕を引っ張りながら琉生斗が言うと、ラルジュナは目を見張った。

「アレクセイー、しんどいのー?」

「ーー平気だ」

 やや機嫌の悪い友の様子に、何で怒ってるのー?、とラルジュナは首を傾げた。
 



「じゃあねー。何か面白い事があれば誘うねー」
「ありがとう。なあ、兵馬はどこにいるんだ?」
「アスラーンのところだよー」

「ふーん。気が合うのかな……。あいつ、社交的だけど、警戒心は強いんだけどな」

 小動物は危険に聡い。

「ーーそういうところはあるよねー」

 うんうん、と頷くラルジュナを見て、琉生斗の親友魂に火がついた。



「えっ?そういうところ、ってラルジュナさんは兵馬の何を知ってるわけ?」

 琉生斗の言葉の攻撃を、やや引きつった笑顔でラルジュナがかわした。

「そうだねー、ルートよりは知らない事だらけだねー。でも、ボクはルートが知らない事も知ってたりするけどねー」

 にこにこと笑顔で攻撃される。

「おれに知らない事なんかない!」
 琉生斗はきっぱりと言い切った。

「生まれたときからご近所さんで、何でも一緒にやってきたんだ!おれの親友はあいつだけ、あいつの親友はおれだけだ!」
 
 おれの方が、仲良しなんだー!

 琉生斗は主張した。











「ーーーールート、じゃあ教えてくれるー?ヒョウマはボクと身体の関係をもつのが嫌なのー?できない理由は何か、ルートならわかるのー?」

 琉生斗は目を丸くした。


 なんつう質問ぶっこんでくるんだよーー。

 必死なのか、この人ーー。
 


 琉生斗は表情を無にしてラルジュナを見た。

 笑顔を顔にはりつけた元王太子は、仮面も維持できない状態なのか、心底つらそうな眼の色をしていた。


 ありゃーー。

 ふざけてる場合じゃなかったなーー。





 ーー親友ができない理由は、琉生斗には何となくわかっている。それは、恋愛初心者の自分達でしかわかり合えない事だ。


 それをさすがに言うのはなーー。



しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。 ※(3/14)ストック更新終わりました!幕間を挟みます。また本筋練り終わりましたら再開します。待っててくださいね♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー! 他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。

囚われた元王は逃げ出せない

スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた そうあの日までは 忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに なんで俺にこんな事を 「国王でないならもう俺のものだ」 「僕をあなたの側にずっといさせて」 「君のいない人生は生きられない」 「私の国の王妃にならないか」 いやいや、みんな何いってんの?

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

処理中です...