55 / 251
日常編
第52話 それは、もはや風景。
しおりを挟む
「最近おまえ、アジャハンばっかりだな」
東堂はつまらなそうな声を出した。
「そうだね。鉄道関係で僕がいないと進まない事も多いから」
兵馬がよろよろしながらボールを蹴るーー、蹴れなくてスカる。
「ーー嘘だよな」
「ほんとだよ!」
何でとまってるボールが蹴れないんだ?
ある意味才能だ、と首を捻るしかない。
「ーー運動神経ってどうしたらあがるのかな?」
「おまえの場合、頭脳に振り分け過ぎたんだろ」
初期設定バグったんだな、と東堂は話をまとめた。
「けど、向こうにいるときより体力はついたよ」
「基本歩く距離長いしな。休みのときでも二万歩は余裕で歩いてね?」
「そうだね」
「訓練や、演習は考えたくねえな」
東堂は笑った。
「今日はルートは?」
「朝から殿下と揉めてるよ」
「ん?やってんじゃないのか?」
「痴話喧嘩は痴話喧嘩だよ。ルートがカカオ豆加工するから別部屋作って、って言ったのが殿下は気に入らないの」
「ふーん。殿下は何でも目の前でやって欲しいんだな」
オナニーもできないなー、という東堂に兵馬は吹いた。
「ーールートにそんな余裕はないと思うよ……」
言ってて恥ずかしいが。
兵馬が頬をかいた。
「おーす!遅れてごめん!」
琉生斗が走ってくる。その後ろから箒に乗って町子も飛んできた。
「よお!町子!」
「お疲れ様~」
「あっ!マチコ先生だぁ!」
「マチコ先生ー!」
子供達が町子を囲む。
「チビッコたち~。おはよ~」
「「「おはようございます」」」
町子は初歩の魔法の講師で都合があえば来てくれる。基本魔力がある子供が多いが、中にはまったく使えない子供もいる。
そういうとき、その子供は東堂と走り込みに行ったり、琉生斗と違う遊びをしたりする。
「ぼくも魔法使いたいな」
「そうだな。まっ、無いもんはしょうがねえ」
聖女様ってひどいーー、ザルク少年は思う。
「無いなら無いで違う武器があるかもしれないからなー。そこ座れ」
ザルクは聖女ルートの前に座る。
「はい、さわる?」
琉生斗が聖女の証を、差し出した。
「ーー無理ですーー」
「そうか?じゃあ、直接みるか」
本当に聖女様って、無神経だなーー。
六歳の少年が気を使う中、琉生斗が小さな心臓の横にある魔力器官を見た。
「あるじゃん、ちゃんと……?ん?なんか違う?」
じっとザルクの心臓を見る。
「んー、魔法でも聖魔法でもない。何だろ?」
手を伸ばして少年の心臓に触れようとしてーー。
「あっ」
手をアレクセイに掴まれる。
「何だよ」
琉生斗は背後にあらわれた旦那様に背を預ける。アレクセイが腰に手をまわして、妻を抱きしめた。
神聖ロードリンゲン国の民にはおなじみの光景なので、チビッコといえど誰も驚かないし茶化さない。
「浮気現場だな」
どこがだ。
「なあ、ザルクの魔力器官がちょっと違うんだけど、何これ?」
琉生斗の言葉を聞いてアレクセイがザルクを見た。ザルクはその厳しい視線に、身体の芯が冷えていくのを感じる。
「ーーこれは、魔物使いだな」
「へぇ?」
「うそぉ~!ちょうレアよ~!」
町子が走ってきた。
「え~~~~!なるほど~~~、こうなってるのね~~~!」
はじめて見たのか町子の目が興奮で血走っている。
「ザルクはどうなるんだ?」
「魔物使いなら、アジャハンの竜騎士になれる可能性がある。軍隊の中では魔法騎士の上にあり、アジャハンのみが持つ最強の部隊だ」
「竜騎士?神崩れのドラゴンを飼いならすのか?」
「いや、小さい竜を探して自分で育てるんだ」
「はーん。自分を親と思わすのか」
「この子の親がいいのなら、アスラーンに伝えるが」
「ザルク、帰ったら親と相談しよう。おれも行くからーー」
「私も行く」
過保護ーー。
幼児達でさえ直感で感じたという。
ソラリス大神殿近くにザルクの家はあった。琉生斗が話をすると、両親は二つ返事で息子をアジャハンに行かせる事を決めた。
「魔法がないと、うちの国では兵士になれないから、どうしようと思ってたんですよ」
子供の進路を憂うのは、どこの世界も同じらしい。
「今まで聞いた事のない職業だ」
「自国から魔物使いが出ることは、稀だ」
「アジャハンにしかないのか?」
「ああ。数は少ないが、強い」
アレクセイが言うのなら、本当に強いのだろう。
「次回の魔法騎士の演習は、アジャハンと合同でやるんだろう?」
「そうだ。バッカイアと三国での話だったが、二国になった」
「ラルジュナさんが抜けたからか。あの人、うちの国ではどういう記憶になってるの?」
「ミントとシャラジュナ王太子が婚約するにあたり、事後の争いを避けるために国をでたことになっている」
「ふうん。アレクにしてはミントに甘いな」
「ラルジュナの希望だ」
「意外にまともだよな。アスラーンさんなんか一番まともそうに見えて、なんか違うし」
「ーーそうだな」
「東堂がしょっちゅうモフモフ動物園に行ってるらしいぜ。今度行ってみるか?」
「毛は、少しーー」
「あ、そうか。マスクでもだめなのか?」
アレクセイはぬいぐるみや、動物の毛に鼻が反応して痒くなるらしい。
「そうだなー。ヒョウマに作ったものを改良してみよう」
「色は黒でよろしく」
琉生斗は真顔で告げた。
「ああ……」
答えながらアレクセイは首を傾げた。琉生斗はそんなアレクセイを、うっとりと見ている。
「ーーうん。マスク男子超イイ。おまえマスク取ってもハンサムだから、殺人的にやばいよ」
想像で楽しみながら、琉生斗はアレクセイに抱きつく。
「アレクー」
琉生斗がキスをねだった。アレクセイがためらいもなく応じる。幸せそうに琉生斗はアレクセイとキスを続けーー。
「ーールートォォォォォ!」
仁王立ちの兵馬が二人をとめる。
通行人が笑って通り過ぎていく。
「いい加減にしなよ!道の真ん中で、何やってんだよ!!!」
書類手続きでついてきた兵馬に、二人はしこたま怒られた。
東堂はつまらなそうな声を出した。
「そうだね。鉄道関係で僕がいないと進まない事も多いから」
兵馬がよろよろしながらボールを蹴るーー、蹴れなくてスカる。
「ーー嘘だよな」
「ほんとだよ!」
何でとまってるボールが蹴れないんだ?
ある意味才能だ、と首を捻るしかない。
「ーー運動神経ってどうしたらあがるのかな?」
「おまえの場合、頭脳に振り分け過ぎたんだろ」
初期設定バグったんだな、と東堂は話をまとめた。
「けど、向こうにいるときより体力はついたよ」
「基本歩く距離長いしな。休みのときでも二万歩は余裕で歩いてね?」
「そうだね」
「訓練や、演習は考えたくねえな」
東堂は笑った。
「今日はルートは?」
「朝から殿下と揉めてるよ」
「ん?やってんじゃないのか?」
「痴話喧嘩は痴話喧嘩だよ。ルートがカカオ豆加工するから別部屋作って、って言ったのが殿下は気に入らないの」
「ふーん。殿下は何でも目の前でやって欲しいんだな」
オナニーもできないなー、という東堂に兵馬は吹いた。
「ーールートにそんな余裕はないと思うよ……」
言ってて恥ずかしいが。
兵馬が頬をかいた。
「おーす!遅れてごめん!」
琉生斗が走ってくる。その後ろから箒に乗って町子も飛んできた。
「よお!町子!」
「お疲れ様~」
「あっ!マチコ先生だぁ!」
「マチコ先生ー!」
子供達が町子を囲む。
「チビッコたち~。おはよ~」
「「「おはようございます」」」
町子は初歩の魔法の講師で都合があえば来てくれる。基本魔力がある子供が多いが、中にはまったく使えない子供もいる。
そういうとき、その子供は東堂と走り込みに行ったり、琉生斗と違う遊びをしたりする。
「ぼくも魔法使いたいな」
「そうだな。まっ、無いもんはしょうがねえ」
聖女様ってひどいーー、ザルク少年は思う。
「無いなら無いで違う武器があるかもしれないからなー。そこ座れ」
ザルクは聖女ルートの前に座る。
「はい、さわる?」
琉生斗が聖女の証を、差し出した。
「ーー無理ですーー」
「そうか?じゃあ、直接みるか」
本当に聖女様って、無神経だなーー。
六歳の少年が気を使う中、琉生斗が小さな心臓の横にある魔力器官を見た。
「あるじゃん、ちゃんと……?ん?なんか違う?」
じっとザルクの心臓を見る。
「んー、魔法でも聖魔法でもない。何だろ?」
手を伸ばして少年の心臓に触れようとしてーー。
「あっ」
手をアレクセイに掴まれる。
「何だよ」
琉生斗は背後にあらわれた旦那様に背を預ける。アレクセイが腰に手をまわして、妻を抱きしめた。
神聖ロードリンゲン国の民にはおなじみの光景なので、チビッコといえど誰も驚かないし茶化さない。
「浮気現場だな」
どこがだ。
「なあ、ザルクの魔力器官がちょっと違うんだけど、何これ?」
琉生斗の言葉を聞いてアレクセイがザルクを見た。ザルクはその厳しい視線に、身体の芯が冷えていくのを感じる。
「ーーこれは、魔物使いだな」
「へぇ?」
「うそぉ~!ちょうレアよ~!」
町子が走ってきた。
「え~~~~!なるほど~~~、こうなってるのね~~~!」
はじめて見たのか町子の目が興奮で血走っている。
「ザルクはどうなるんだ?」
「魔物使いなら、アジャハンの竜騎士になれる可能性がある。軍隊の中では魔法騎士の上にあり、アジャハンのみが持つ最強の部隊だ」
「竜騎士?神崩れのドラゴンを飼いならすのか?」
「いや、小さい竜を探して自分で育てるんだ」
「はーん。自分を親と思わすのか」
「この子の親がいいのなら、アスラーンに伝えるが」
「ザルク、帰ったら親と相談しよう。おれも行くからーー」
「私も行く」
過保護ーー。
幼児達でさえ直感で感じたという。
ソラリス大神殿近くにザルクの家はあった。琉生斗が話をすると、両親は二つ返事で息子をアジャハンに行かせる事を決めた。
「魔法がないと、うちの国では兵士になれないから、どうしようと思ってたんですよ」
子供の進路を憂うのは、どこの世界も同じらしい。
「今まで聞いた事のない職業だ」
「自国から魔物使いが出ることは、稀だ」
「アジャハンにしかないのか?」
「ああ。数は少ないが、強い」
アレクセイが言うのなら、本当に強いのだろう。
「次回の魔法騎士の演習は、アジャハンと合同でやるんだろう?」
「そうだ。バッカイアと三国での話だったが、二国になった」
「ラルジュナさんが抜けたからか。あの人、うちの国ではどういう記憶になってるの?」
「ミントとシャラジュナ王太子が婚約するにあたり、事後の争いを避けるために国をでたことになっている」
「ふうん。アレクにしてはミントに甘いな」
「ラルジュナの希望だ」
「意外にまともだよな。アスラーンさんなんか一番まともそうに見えて、なんか違うし」
「ーーそうだな」
「東堂がしょっちゅうモフモフ動物園に行ってるらしいぜ。今度行ってみるか?」
「毛は、少しーー」
「あ、そうか。マスクでもだめなのか?」
アレクセイはぬいぐるみや、動物の毛に鼻が反応して痒くなるらしい。
「そうだなー。ヒョウマに作ったものを改良してみよう」
「色は黒でよろしく」
琉生斗は真顔で告げた。
「ああ……」
答えながらアレクセイは首を傾げた。琉生斗はそんなアレクセイを、うっとりと見ている。
「ーーうん。マスク男子超イイ。おまえマスク取ってもハンサムだから、殺人的にやばいよ」
想像で楽しみながら、琉生斗はアレクセイに抱きつく。
「アレクー」
琉生斗がキスをねだった。アレクセイがためらいもなく応じる。幸せそうに琉生斗はアレクセイとキスを続けーー。
「ーールートォォォォォ!」
仁王立ちの兵馬が二人をとめる。
通行人が笑って通り過ぎていく。
「いい加減にしなよ!道の真ん中で、何やってんだよ!!!」
書類手続きでついてきた兵馬に、二人はしこたま怒られた。
69
お気に入りに追加
79
あなたにおすすめの小説


義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。
※(3/14)ストック更新終わりました!幕間を挟みます。また本筋練り終わりましたら再開します。待っててくださいね♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。
【完結】悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー!
他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。

囚われた元王は逃げ出せない
スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた
そうあの日までは
忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに
なんで俺にこんな事を
「国王でないならもう俺のものだ」
「僕をあなたの側にずっといさせて」
「君のいない人生は生きられない」
「私の国の王妃にならないか」
いやいや、みんな何いってんの?
スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜
櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。
パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。
車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。
ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!!
相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム!
けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!!
パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる