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バッカイア・ラプソディー編 (長編)
第33話 ミントのひとめぼれ
しおりを挟む晴天の中、ミントはアウローラ大神殿前に転移した。傍らには父アダマスと母ラズベリーが付き添っている。
「ミント、本当にいいのね?」
「ラズベリー、しつこいぞ」
案じる母を父が制する。このやり取りも何百回したことか。
「ですがー」
「黙っていなさい」
ミントは大神殿の大階段をあがりながら、大歓声を聞いた。振り返ると、バッカイア国の民が旗を振ったり、口笛を鳴らしたり、大声をあげたり、騒がしかった。
ーーこういう国なのね。
馴染むだろうか。元々仲の良い友達だけで、ずっといたい性格だ。
大神殿前でラルジュナ王太子が待っていた。
「ようこそいらっしゃいました」
兄達とは雰囲気が違うがハンサムな人だ。性格も悪くはなさそう。
なら、何が問題なのかーー。
「はい。お参りをさせていただきます」
「どうぞこちらにー」
手を差し出された。
ミントは固まる。
「ミント」
父が後ろできつい声で自分の名を呼んだ。
「いいですよー」
ラルジュナはすぐに手をおろした。
祭壇前には枢機卿ルシフェが立つ。
国王アルジュナと王妃ジュリアム、近衛兵達が並びーー。
そしてーー。
「今日は私の弟もいるのですよー」
ミントは目を見張った。
ジュリアムの隣りにいる、近衛兵に囲まれた目つきの鋭い少年。髪や目はラルジュナと同じなのに、その目の強さが、ある人を思わせた。
似ていないのにーー、なぜ?
息をのみ、呼吸を忘れる。
ラズベリーが娘の異変に気付いた。
「どうしたの?ミント、大丈夫?」
「あらあら、体調がお悪かったの?」
ジュリアムが医師を呼ぶ。
ミントは喘ぐように言った。
「聖女様……」
アダマスとラズベリーが驚愕に目を見開いた。
ミントはその場にがくりと座り込んだ。
その様子に、ジュリアムは頷く。
「あー、なるほど。そう言われてみるとシャラジュナは、少しですが聖女様に似ていますわね。ラルジュナはやや目が垂れていますから……。ミント王女は目つきが鋭い方がお好きなのかしら?」
「ジュリアム、黙りなさい!!!」
「ミント王女がシャラジュナを気に入って下さるのならその方がよいでしょう?歳も近いですしーー」
ジュリアムはできたばかりの真珠のネックレスを触りながら尋ねた。
「ラルジュナ、どうする?」
「ーーミント王女の思うままにー」
表情も変えずにラルジュナは言った。
「王太子の座は譲るのね?」
「ジュリアムゥ!!!」
「ーーお母様のなさりたいように」
静かな声で、ラルジュナは答えた。
「お待ち下さい!娘の浅はかさで、そのような事は!」
ラズベリーが泣きそうになりながら間に入った。
「そうだ!ジュリアム!絶対に認めないぞ!」
「まあ、陛下。わたくしは案を申し上げただけですわよ」
「お母様、僕もいいよ」
シャラジュナが言った。
「悪くないね」
その目を細めた笑い方ーー。ミントはその人から目が離せなくなった。
「ミント……」
アダマスが悲しそうに頭を押さえた。
「あー、もう。ノートどこに置いたんだろ……」
兵馬は無人の大学内の教室で、自分のノートを探していた。たいした事は書いていないが、屋台の品目など案を書いていた為、失うのは痛いのだがーー。
「ん?」
二階の窓の外から下を見ると、ヒューリとフォンカベルがいた。
「ミント王女を見に行くんじゃなかったんだーー」
二人は何やら楽しそうに話をしている。
ーー仲がいいんだな。
ヒューリとフォンカベルーー、、、。
たしか、貴族名鑑に、ヒューベルとフォリカンがあったなー。どの家だったかー。
兵馬は頭の中のページをめくりながら、再びノートを探す。
ガンッ!
大きな音が響いた。
「何してんのかなー」
兵馬は下を見た。
「え?」
目を疑った。
ーー何で、何であれがあるの?
「申し訳ない、アルジュナ。今回はこちらが悪い。この話はなかったことにしよう」
青ざめたアダマスが項垂れながら言う。
「……そうだな。すまない……」
国王二人は頷きあった。
「ラルジュナには、他の姫に来てもらう。間違っても廃太子にはしない!」
「あら、せっかく聖女の国の姫が手に入るのにね」
「ジュリアム!」
アルジュナがどれほど激高しようとも、ジュリアムの態度は変わらなかった。
シャラジュナが口を開いた。
「ミント王女、またね」
「………」
ミントは顔をあげてシャラジュナを見た。小さく頷くのを見て、ラルジュナは苦笑した。
神殿は、転移魔法が使用できない。大階段の下までは歩かなければならない。
何という失態だーー。
アダマスの顔は暗い。
どうしてこんな事になるのだ。ミントは納得したはずなのにーー。
聖女が見切った王族に、もう光明はないのか。
アダマスは重い足取りで階段を降りていく。バッカイア国の国民の歓声が、嘲笑に聞こえる。
大階段の下には石畳の広場を取り囲むように、笑顔の人々がいる。アダマスとラズベリーは彼らに深々と頭を下げた。
警備の衛兵達が、目を見張った。
「ではー」
アダマスがやっとの事でそれだけ告げた。
「はいー」
見送りにきたラルジュナが、頭を下げた。
そのときだったーー、
「ジュナ王太子!ふせるか防御ぉ!!」
その声に、ラルジュナの目が大きく開かれる。
ガンッ!
「!」
ラルジュナの肩から血が飛んだ。
「きゃあああ!」
「何!」
「いやあーー!」
「きゃあぁぁぁぁ!助けてぇ!」
観衆が蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。衛兵達が互いの顔を見合わせる。
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