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バッカイア・ラプソディー編 (長編)

第22話 嫉妬された兵馬。

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「兵馬!晩メシ行くぞ!」
「もうちょっと待って!」

 列車の中の魔石を点検し、兵馬は息をついた。

「あー、何とかなったかなー」

 課題は山積みだが、思っていたより苦情は少なく兵馬は安堵した。魔石が入った動力機に鍵をして、列車から降りる。

 黒が美しい列車を見ながら帰ろうとして、兵馬は足をとめた。


『調子にのるな、クソチビ!』


 黒い車体に白い文字が浮かんでいた。

「いつの間にーー?」

 確認前はなかったはずだーー。

 突然、背後に気配がした。

「ーーヒョウマ!しゃがめ!」
 琉生斗の焦った声が響いた。

「えっ……」
 振り返る間もなく兵馬は後頭部に痛みを感じた。

 ーー殴られた?と思いながら、兵馬の意識が薄れていく。


「兵馬ぁ!!待てぇ!おまえぇ!!」
「聖女様!わたくしが参ります!」

 地面に倒れた兵馬に駆け寄り、暗闇に逃げる人影に琉生斗は叫んだ。

 犯人を捕まえる為に、ルッタマイヤは走りだす。

「お願い!ーーおい、兵馬!無事かぁ!あー、どっちにしろおれは役立たずだぁ!ごめんよ!兵馬ぁー!じいちゃんー!ヘルプー!」

 兵馬の後頭部からは血が流れていく。琉生斗は焦りながら教皇ミハエルを呼んだ。

「兵馬ぁ!!」












「大学の同級生でしたわ。個人的な恨みだそうです」
 ルッタマイヤの言葉に、琉生斗は顔を歪めた。兵馬はミハエルに治癒聖魔法をかけてもらい、命に別状はない。

「クソッ、またいじめられてんのか。ーーバッカイアのヤツが犯人の場合は?」
「向こうの警備隊に引き渡します」

「ーー刑が甘そうだな」
「おっしゃるとおりでーー」

 神殿の私室で眠る兵馬を見ながら、琉生斗は悲しそうに言った。

「どうせ嫉妬だろうな。みんなこいつに敵わないから、すぐに嫌がらせするんだよ」

「そうですかーー。ヒョウマも苦労が多いですね。聖女様、席を外しますが、着替えはよろしいでしょうか?」

 琉生斗の白銀色の胡服は、兵馬の血で胸から下が血で染まっていた。

「ああ。後始末とかあるのに、ごめんな」
「とんでもございませんわ」

 ルッタマイヤは微笑んで出て行く。
 琉生斗は本で埋め尽くされている部屋を見て溜め息をついた。

「がんばってるのになーー」
 












 
「殿下……」

 魔法騎士団軍将ルッタマイヤが、会食中のアレクセイに声をかけた。
 とはいえ、アレクセイはほぼ食事に手を付けていないのだがーー。

「どうした?」
「お耳を……」

 ルッタマイヤの言葉にアレクセイは眉を顰めた。

「ーーヒョウマが?」

 軍将は目を丸くした。アレクセイが敢えて兵馬の名を口にしたように感じたからだ。

「クリス、後は頼む」
「兄上。どうかしましたか?」
「失礼致します」

 アレクセイは素早く場から退出した。


「何だ?アレクセイは?魔蝕か?」
 アダマスが尋ねる。

「いえーー、ヒョウマ殿の名前がでてましたけど……」
 クリステイルが首を傾げた。

 カチャンー。

「あら、珍しいこと」
 ジュリアムが目を見開いた。

「ーーすみませんー」
 ラルジュナはフォークを落とした。
 
 












「アレクーー」
 琉生斗は黒地に銀の刺繍が映えるウエストコートを着た旦那様の正装を見て、よだれを垂らした。

「カッコいいー。おまえはなんでそんなにカッコいいんだ。ああ、アレク、あなたはどうしてアレクなの?」
「…………」

 アレクセイは何と返していいかわからず沈黙した。

「おっ、正解。ここはロミオは口を挟まない。隠れて見ていて、ひたすらジュリエットの独白が続くんだ」

「そうかーー。ヒョウマは?」

 アレクセイは琉生斗の身体を確認し、服を魔法で交換した。

「じいちゃんに治癒してもらったから大丈夫」
「酷かったのか?」
「あっ、後頭部をトンカチみたいな物で殴られたんで、ちょっと出血が多くて、おれパニックになっちゃったんだよ」

 そうか、とアレクセイは安堵したように言い、琉生斗にキスをした。抱きしめると、琉生斗が嬉しそうにキスを返した。


「んっ」
 アレクセイの舌が口の中に入り、琉生斗は吸いながら甘噛みをする。舌を絡め合いながら夢中になってキスをして、琉生斗はふと視線に気付いた。

「ーっ!、兵馬!大丈夫か!」
「もう……。僕の部屋で何やってんのさ……」
「キスだけど」
「堂々としすぎで怖いよ……」
「ヒョウマ、痛みは?」
「全然ないよー。殴られたんだよね?」

 教皇ミハエルの治癒聖魔法だ、痛みも残らないのだろう。

「ああ、トンカチみたいな物だってーー」
「ーー誰に?」

「ニコルナ、って女性知ってるか?」
 琉生斗の答えに兵馬は俯いた。

「そう……」
「おまえ、またいじめられてんのか?おれが行ってぶん殴ってーー」

「ルート!いい加減にしなよ!十九歳にもなって、まだ僕が君がいないと何にもできないとでも思ってるの!」

「違う!そんなんじゃねえ!おまえは勉強したくて大学に通ってるんだ、よけいな問題は考えなくてもいいように取り除きたいだけだ!」

「そのぐらい、自分でできるよ!」
「けど、ーーまた襲われたらどうすんだよ!」
「油断しないよ、これからは」

 兵馬ーー、と琉生斗は悲しそうに下を向いた。

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