ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

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列車は走るよ。何乗せて?編

第16話 列車は走るよ。何乗せて? 最終話

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「あっ、聖女様。妻が結婚式の写真をお見せしたいとー」
 帰りの列車の中、思い出したようにトルイストが言う。
「あぁ、今度のベル薔薇会で見せてもらうよ」
「べるばらかい?」
「おれとベルさんでやってる淑女の会に名前がついたんだー」
「詐欺ですね」

 うるさいファウラ。


「あたしも結婚したら入れるんです~」
 美花がうきうきと話すのを、ファウラは赤くなって見ている。
「おまえには無理だな」
 琉生斗は首を振った。
「なんでよー」

 不満そうに美花はぶうたれた。

「たまにとんでもねえ、下ネタが飛ぶぞ」
「ーー下ネタ……。ベル姉様がそんなん言う?」
「言う。鉄板のトルイストネタは最高だぞ」

 言いながら琉生斗は吹き出した。トルイストが嫌そうな顔をする。

「聖女様ーー、悪趣味ですよ」
「もっと上をいくのが、ラズベリー様とナビエラ夫人だ。特に陛下のネタは笑い死ぬ」
「母なんか、愚痴しかないでしょう」
 ファウラが溜め息をついた。
「上流階級は女も大変だなー」

「ーーお茶会は御婦人の情報収集の場だからな。馬鹿にはできないぞ」
 途中から乗ってきたアスラーンが話に入ってきた。
「はー、だべってるだけじゃないんですね」
 東堂が感心したように言うと、アスラーンは微笑んだ。

「私の母も王宮から出る事がない人なのに、どこの貴族が婚約したなど、いち早く知っているからな」
「あー、悪事千里を走るんだよなー」
「地獄耳でしょ」
 美花が訂正する。

「ふふっ。トードォは面白いな」
 アスラーンが上品に笑った。
「いやー、そんな誉められても」
「誉められてないわよ」
「そうだ。アジャハンにも鉄道を走らせてくれるようなのだが、第一号が今度できるモフモフ動物園で停まるらしい」
「へぇー!モフモフ!すぐにでも行きたいですよ!」
 東堂がモフモフと聞いて目を輝かせた。
「ぜひ来てくれ」
「行きます!すげぇーモフモフします!」

 楽しみだな、と東堂は笑っているが、アレクセイは内心穏やかではない。

 親友の意図がわかっているからである。










 
 魔導列車の試運転は成功した。
「よかったぁ」
 兵馬は駅で停まる魔導列車を見て、顔をほころばせた。
「時間通りにくるもんなんだねー」
 隣りのラルジュナが言った。

 普通にできた。何の問題もないーー。
 これからだって、大丈夫……。

「ヒョウマー」
「えっ?」
 ふいに名前を呼ばれて顔を向ける。

 ラルジュナの唇が兵馬の唇を塞いだ。

 呆然とする兵馬を見ながら、何事もなかったように彼は離れた。

「ヒョウマー」
「な、何?」
「ボクね、もうすぐお見合いするんだー」





「え?」
「すごく良い娘だよー」
 兵馬は視線を、どこに向ければいいのかわからなかった。
「……よかったね……」
「うんー」
 兵馬はラルジュナの目を見て驚く。

 いつも眩しすぎるラルジュナの瞳が、今はキラキラしていない。

「喜んでくれるんだー。ヒョウマって最低だねー」
 暗く冷たい目だった。ラルジュナはひとりで歩きだす。

 いつもなら、ついて行く。歩きながらいろんな事を話すーー。





「兵馬!」
 琉生斗に肩をつかまれた。
「ーールート……」
「アレク、転移してくれ」

 あの、クソタレ目!何のつもりでキスなんかしやがったーー!

「ーーああ」
 アレクセイは目を伏せながら離宮に転移した。










「何か言われたのか!」
 必死な琉生斗に兵馬は首を振った。

「ーーお見合いするんだって…」
「はあ?」
「良い娘だってーー」
「ちょ!兵馬ー」
 兵馬の目から涙があふれた。その姿に琉生斗は慌てる。

「あー、もうー、アレク!どうするんだよ!」

 何でキスなんかすんだよー!あの詐欺師!

「おまえ、絶対に向こうの手腕にのまれてんぞ!もう、高額商品買うしかねえよ!」

 琉生斗は頭を抱えた。

「やっといて普通になんかできるわけねえだろ!賢いのに、何でわかんなかったんだよ!」
「わかるわけないだろー!初恋なんだからー!ついでに初恋が実らない事も知ってるよ!」

 とまらない涙をぬぐいもせずに兵馬は叫んだ。

「はあ!おまえ、おれがアレクと別れるって言いたいのか!」

 こっちも初恋だー!全部はじめてだぞー!!

「一般論だよ!何にだって例外はあるよ!」
「そうかよ!そうかよ!じゃあ、兵馬!おまえはこれからどうしたいんだ!?」

 問われても、兵馬は首を振るしかない。

「わからないよ。どうしたらいいんだよーー」
 顔を伏せて泣く親友に、琉生斗も泣きたくなる。

「おまえ、大学行くんだろー。まさかあの人も講師なのか?」

 んなわけないよな?

「ーー個別の授業のときは……」

 琉生斗とアレクセイは顔を見合わせた。
 
「ーーアレク、おまえなら何かしらアドバイスがあるだろう」
 おれと違ってはじめてじゃないんだから。
「ーーアドバイス……」
 アレクセイは目を閉じた。
「ーールート、殿下に聞いても無駄だよ」
「ん?」
「ルートこそ、まだわかってないんだ」
 兵馬は涙を拭いて溜め息をついた。
「何を?」

「殿下、ルート以外にさわれないよ」
 アレクセイが目を丸くした。
「はあ?何だよそれ?さわってんじゃん」
「布越しならね。じかにはルートしか無理なんでしょ?」
 問われてアレクセイは息を吐いた。

「ーーああ。呪いにより人肌には触ることができない」

「ええええぇぇぇぇぇぇ!!」

 琉生斗は目が飛び出るぐらい仰天した。
「え?嘘だろ?おれ、最初、キ、キスしたよな!」

 クリステイルが超ビックリしてたやつーー。

「ああ。私も驚いた。だが、スズ様が頭を撫でてくださった事もあるから、聖女ならば呪いが効かない事は知っていた」

 初キスだ、嬉しそうにアレクセイは語る。

「何で言わなかったんだ?」
「ーールートなら、だから好かれている、と思うのではないかと考えた」
「あー、おれっぽい」

 よくわかってんなー。

「そういう理由で好きなのではない、そう言いたかった」
 アレクセイは下を向いた。
「え?でも、おまえはじめてじゃないだろう?」

「ーーアスラーンに妓館に連れて行かれてな。豪胆な性格の女主人がいるから、捨てるだけ捨てとけと……」
「はあ……」
「特殊ゴムの三枚重ねだ。それでも女主人は一ヶ月寝込んだそうだが」
 アレクセイが吐き捨てるように言った。

「ーーすみません。いままで散々ひどい事言いました……」
 土下座までさせて申し訳ありません。
 琉生斗は心から謝った。
「いや、私の変なプライドがよくなかったー」

 たしかに、何歳かは知らないがそんな状況でも勃ったって、そうとうやりたかったんだろうなーー。

 アレクセイに睨まれて、琉生斗はそっぽ向いた。

 あっ、まだ心の声が漏れてんのかー。てへっ。
 
 アレクセイは琉生斗を見つめた。

 ーーなんだいまの、てへっ、は。可愛いすぎないか。抱きたい、駄目だろうが、早く抱きたいーー。

 胸の内の葛藤を知られるわけにはいかない。アレクセイは呼吸を整えた。

 

 はあーー。

 悩みに疲れたような息を兵馬は吐いた。
「がんばろう……。僕が普通がいいって言ったんだから、結婚しようと仕方ないよ……」
「兵馬…」

 ごめん、おれ何を言えばおまえが元気になるのか、本当にわからないーー。

「どうしたらいいんだろうなーー」
 おれ達レベルでは、こんな問題どうにもできないーー。
「フェルマーの最終定理みたいだな」
「ーールートむかつく……」
「茶化してるわけじゃないー」


 兵馬の恋心を乗せて列車は出発したーー。
 
 終着駅があの人だとすれば、それはそれで嫌だなー、と聖女様は思うのだったーー。

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