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列車は走るよ。何乗せて?編
第16話 列車は走るよ。何乗せて? 最終話
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「あっ、聖女様。妻が結婚式の写真をお見せしたいとー」
帰りの列車の中、思い出したようにトルイストが言う。
「あぁ、今度のベル薔薇会で見せてもらうよ」
「べるばらかい?」
「おれとベルさんでやってる淑女の会に名前がついたんだー」
「詐欺ですね」
うるさいファウラ。
「あたしも結婚したら入れるんです~」
美花がうきうきと話すのを、ファウラは赤くなって見ている。
「おまえには無理だな」
琉生斗は首を振った。
「なんでよー」
不満そうに美花はぶうたれた。
「たまにとんでもねえ、下ネタが飛ぶぞ」
「ーー下ネタ……。ベル姉様がそんなん言う?」
「言う。鉄板のトルイストネタは最高だぞ」
言いながら琉生斗は吹き出した。トルイストが嫌そうな顔をする。
「聖女様ーー、悪趣味ですよ」
「もっと上をいくのが、ラズベリー様とナビエラ夫人だ。特に陛下のネタは笑い死ぬ」
「母なんか、愚痴しかないでしょう」
ファウラが溜め息をついた。
「上流階級は女も大変だなー」
「ーーお茶会は御婦人の情報収集の場だからな。馬鹿にはできないぞ」
途中から乗ってきたアスラーンが話に入ってきた。
「はー、だべってるだけじゃないんですね」
東堂が感心したように言うと、アスラーンは微笑んだ。
「私の母も王宮から出る事がない人なのに、どこの貴族が婚約したなど、いち早く知っているからな」
「あー、悪事千里を走るんだよなー」
「地獄耳でしょ」
美花が訂正する。
「ふふっ。トードォは面白いな」
アスラーンが上品に笑った。
「いやー、そんな誉められても」
「誉められてないわよ」
「そうだ。アジャハンにも鉄道を走らせてくれるようなのだが、第一号が今度できるモフモフ動物園で停まるらしい」
「へぇー!モフモフ!すぐにでも行きたいですよ!」
東堂がモフモフと聞いて目を輝かせた。
「ぜひ来てくれ」
「行きます!すげぇーモフモフします!」
楽しみだな、と東堂は笑っているが、アレクセイは内心穏やかではない。
親友の意図がわかっているからである。
魔導列車の試運転は成功した。
「よかったぁ」
兵馬は駅で停まる魔導列車を見て、顔をほころばせた。
「時間通りにくるもんなんだねー」
隣りのラルジュナが言った。
普通にできた。何の問題もないーー。
これからだって、大丈夫……。
「ヒョウマー」
「えっ?」
ふいに名前を呼ばれて顔を向ける。
ラルジュナの唇が兵馬の唇を塞いだ。
呆然とする兵馬を見ながら、何事もなかったように彼は離れた。
「ヒョウマー」
「な、何?」
「ボクね、もうすぐお見合いするんだー」
「え?」
「すごく良い娘だよー」
兵馬は視線を、どこに向ければいいのかわからなかった。
「……よかったね……」
「うんー」
兵馬はラルジュナの目を見て驚く。
いつも眩しすぎるラルジュナの瞳が、今はキラキラしていない。
「喜んでくれるんだー。ヒョウマって最低だねー」
暗く冷たい目だった。ラルジュナはひとりで歩きだす。
いつもなら、ついて行く。歩きながらいろんな事を話すーー。
「兵馬!」
琉生斗に肩をつかまれた。
「ーールート……」
「アレク、転移してくれ」
あの、クソタレ目!何のつもりでキスなんかしやがったーー!
「ーーああ」
アレクセイは目を伏せながら離宮に転移した。
「何か言われたのか!」
必死な琉生斗に兵馬は首を振った。
「ーーお見合いするんだって…」
「はあ?」
「良い娘だってーー」
「ちょ!兵馬ー」
兵馬の目から涙があふれた。その姿に琉生斗は慌てる。
「あー、もうー、アレク!どうするんだよ!」
何でキスなんかすんだよー!あの詐欺師!
「おまえ、絶対に向こうの手腕にのまれてんぞ!もう、高額商品買うしかねえよ!」
琉生斗は頭を抱えた。
「やっといて普通になんかできるわけねえだろ!賢いのに、何でわかんなかったんだよ!」
「わかるわけないだろー!初恋なんだからー!ついでに初恋が実らない事も知ってるよ!」
とまらない涙をぬぐいもせずに兵馬は叫んだ。
「はあ!おまえ、おれがアレクと別れるって言いたいのか!」
こっちも初恋だー!全部はじめてだぞー!!
「一般論だよ!何にだって例外はあるよ!」
「そうかよ!そうかよ!じゃあ、兵馬!おまえはこれからどうしたいんだ!?」
問われても、兵馬は首を振るしかない。
「わからないよ。どうしたらいいんだよーー」
顔を伏せて泣く親友に、琉生斗も泣きたくなる。
「おまえ、大学行くんだろー。まさかあの人も講師なのか?」
んなわけないよな?
「ーー個別の授業のときは……」
琉生斗とアレクセイは顔を見合わせた。
「ーーアレク、おまえなら何かしらアドバイスがあるだろう」
おれと違ってはじめてじゃないんだから。
「ーーアドバイス……」
アレクセイは目を閉じた。
「ーールート、殿下に聞いても無駄だよ」
「ん?」
「ルートこそ、まだわかってないんだ」
兵馬は涙を拭いて溜め息をついた。
「何を?」
「殿下、ルート以外にさわれないよ」
アレクセイが目を丸くした。
「はあ?何だよそれ?さわってんじゃん」
「布越しならね。直にはルートしか無理なんでしょ?」
問われてアレクセイは息を吐いた。
「ーーああ。呪いにより人肌には触ることができない」
「ええええぇぇぇぇぇぇ!!」
琉生斗は目が飛び出るぐらい仰天した。
「え?嘘だろ?おれ、最初、キ、キスしたよな!」
クリステイルが超ビックリしてたやつーー。
「ああ。私も驚いた。だが、スズ様が頭を撫でてくださった事もあるから、聖女ならば呪いが効かない事は知っていた」
初キスだ、嬉しそうにアレクセイは語る。
「何で言わなかったんだ?」
「ーールートなら、だから好かれている、と思うのではないかと考えた」
「あー、おれっぽい」
よくわかってんなー。
「そういう理由で好きなのではない、そう言いたかった」
アレクセイは下を向いた。
「え?でも、おまえはじめてじゃないだろう?」
「ーーアスラーンに妓館に連れて行かれてな。豪胆な性格の女主人がいるから、捨てるだけ捨てとけと……」
「はあ……」
「特殊ゴムの三枚重ねだ。それでも女主人は一ヶ月寝込んだそうだが」
アレクセイが吐き捨てるように言った。
「ーーすみません。いままで散々ひどい事言いました……」
土下座までさせて申し訳ありません。
琉生斗は心から謝った。
「いや、私の変なプライドがよくなかったー」
たしかに、何歳かは知らないがそんな状況でも勃ったって、そうとうやりたかったんだろうなーー。
アレクセイに睨まれて、琉生斗はそっぽ向いた。
あっ、まだ心の声が漏れてんのかー。てへっ。
アレクセイは琉生斗を見つめた。
ーーなんだいまの、てへっ、は。可愛いすぎないか。抱きたい、駄目だろうが、早く抱きたいーー。
胸の内の葛藤を知られるわけにはいかない。アレクセイは呼吸を整えた。
はあーー。
悩みに疲れたような息を兵馬は吐いた。
「がんばろう……。僕が普通がいいって言ったんだから、結婚しようと仕方ないよ……」
「兵馬…」
ごめん、おれ何を言えばおまえが元気になるのか、本当にわからないーー。
「どうしたらいいんだろうなーー」
おれ達レベルでは、こんな問題どうにもできないーー。
「フェルマーの最終定理みたいだな」
「ーールートむかつく……」
「茶化してるわけじゃないー」
兵馬の恋心を乗せて列車は出発したーー。
終着駅があの人だとすれば、それはそれで嫌だなー、と聖女様は思うのだったーー。
帰りの列車の中、思い出したようにトルイストが言う。
「あぁ、今度のベル薔薇会で見せてもらうよ」
「べるばらかい?」
「おれとベルさんでやってる淑女の会に名前がついたんだー」
「詐欺ですね」
うるさいファウラ。
「あたしも結婚したら入れるんです~」
美花がうきうきと話すのを、ファウラは赤くなって見ている。
「おまえには無理だな」
琉生斗は首を振った。
「なんでよー」
不満そうに美花はぶうたれた。
「たまにとんでもねえ、下ネタが飛ぶぞ」
「ーー下ネタ……。ベル姉様がそんなん言う?」
「言う。鉄板のトルイストネタは最高だぞ」
言いながら琉生斗は吹き出した。トルイストが嫌そうな顔をする。
「聖女様ーー、悪趣味ですよ」
「もっと上をいくのが、ラズベリー様とナビエラ夫人だ。特に陛下のネタは笑い死ぬ」
「母なんか、愚痴しかないでしょう」
ファウラが溜め息をついた。
「上流階級は女も大変だなー」
「ーーお茶会は御婦人の情報収集の場だからな。馬鹿にはできないぞ」
途中から乗ってきたアスラーンが話に入ってきた。
「はー、だべってるだけじゃないんですね」
東堂が感心したように言うと、アスラーンは微笑んだ。
「私の母も王宮から出る事がない人なのに、どこの貴族が婚約したなど、いち早く知っているからな」
「あー、悪事千里を走るんだよなー」
「地獄耳でしょ」
美花が訂正する。
「ふふっ。トードォは面白いな」
アスラーンが上品に笑った。
「いやー、そんな誉められても」
「誉められてないわよ」
「そうだ。アジャハンにも鉄道を走らせてくれるようなのだが、第一号が今度できるモフモフ動物園で停まるらしい」
「へぇー!モフモフ!すぐにでも行きたいですよ!」
東堂がモフモフと聞いて目を輝かせた。
「ぜひ来てくれ」
「行きます!すげぇーモフモフします!」
楽しみだな、と東堂は笑っているが、アレクセイは内心穏やかではない。
親友の意図がわかっているからである。
魔導列車の試運転は成功した。
「よかったぁ」
兵馬は駅で停まる魔導列車を見て、顔をほころばせた。
「時間通りにくるもんなんだねー」
隣りのラルジュナが言った。
普通にできた。何の問題もないーー。
これからだって、大丈夫……。
「ヒョウマー」
「えっ?」
ふいに名前を呼ばれて顔を向ける。
ラルジュナの唇が兵馬の唇を塞いだ。
呆然とする兵馬を見ながら、何事もなかったように彼は離れた。
「ヒョウマー」
「な、何?」
「ボクね、もうすぐお見合いするんだー」
「え?」
「すごく良い娘だよー」
兵馬は視線を、どこに向ければいいのかわからなかった。
「……よかったね……」
「うんー」
兵馬はラルジュナの目を見て驚く。
いつも眩しすぎるラルジュナの瞳が、今はキラキラしていない。
「喜んでくれるんだー。ヒョウマって最低だねー」
暗く冷たい目だった。ラルジュナはひとりで歩きだす。
いつもなら、ついて行く。歩きながらいろんな事を話すーー。
「兵馬!」
琉生斗に肩をつかまれた。
「ーールート……」
「アレク、転移してくれ」
あの、クソタレ目!何のつもりでキスなんかしやがったーー!
「ーーああ」
アレクセイは目を伏せながら離宮に転移した。
「何か言われたのか!」
必死な琉生斗に兵馬は首を振った。
「ーーお見合いするんだって…」
「はあ?」
「良い娘だってーー」
「ちょ!兵馬ー」
兵馬の目から涙があふれた。その姿に琉生斗は慌てる。
「あー、もうー、アレク!どうするんだよ!」
何でキスなんかすんだよー!あの詐欺師!
「おまえ、絶対に向こうの手腕にのまれてんぞ!もう、高額商品買うしかねえよ!」
琉生斗は頭を抱えた。
「やっといて普通になんかできるわけねえだろ!賢いのに、何でわかんなかったんだよ!」
「わかるわけないだろー!初恋なんだからー!ついでに初恋が実らない事も知ってるよ!」
とまらない涙をぬぐいもせずに兵馬は叫んだ。
「はあ!おまえ、おれがアレクと別れるって言いたいのか!」
こっちも初恋だー!全部はじめてだぞー!!
「一般論だよ!何にだって例外はあるよ!」
「そうかよ!そうかよ!じゃあ、兵馬!おまえはこれからどうしたいんだ!?」
問われても、兵馬は首を振るしかない。
「わからないよ。どうしたらいいんだよーー」
顔を伏せて泣く親友に、琉生斗も泣きたくなる。
「おまえ、大学行くんだろー。まさかあの人も講師なのか?」
んなわけないよな?
「ーー個別の授業のときは……」
琉生斗とアレクセイは顔を見合わせた。
「ーーアレク、おまえなら何かしらアドバイスがあるだろう」
おれと違ってはじめてじゃないんだから。
「ーーアドバイス……」
アレクセイは目を閉じた。
「ーールート、殿下に聞いても無駄だよ」
「ん?」
「ルートこそ、まだわかってないんだ」
兵馬は涙を拭いて溜め息をついた。
「何を?」
「殿下、ルート以外にさわれないよ」
アレクセイが目を丸くした。
「はあ?何だよそれ?さわってんじゃん」
「布越しならね。直にはルートしか無理なんでしょ?」
問われてアレクセイは息を吐いた。
「ーーああ。呪いにより人肌には触ることができない」
「ええええぇぇぇぇぇぇ!!」
琉生斗は目が飛び出るぐらい仰天した。
「え?嘘だろ?おれ、最初、キ、キスしたよな!」
クリステイルが超ビックリしてたやつーー。
「ああ。私も驚いた。だが、スズ様が頭を撫でてくださった事もあるから、聖女ならば呪いが効かない事は知っていた」
初キスだ、嬉しそうにアレクセイは語る。
「何で言わなかったんだ?」
「ーールートなら、だから好かれている、と思うのではないかと考えた」
「あー、おれっぽい」
よくわかってんなー。
「そういう理由で好きなのではない、そう言いたかった」
アレクセイは下を向いた。
「え?でも、おまえはじめてじゃないだろう?」
「ーーアスラーンに妓館に連れて行かれてな。豪胆な性格の女主人がいるから、捨てるだけ捨てとけと……」
「はあ……」
「特殊ゴムの三枚重ねだ。それでも女主人は一ヶ月寝込んだそうだが」
アレクセイが吐き捨てるように言った。
「ーーすみません。いままで散々ひどい事言いました……」
土下座までさせて申し訳ありません。
琉生斗は心から謝った。
「いや、私の変なプライドがよくなかったー」
たしかに、何歳かは知らないがそんな状況でも勃ったって、そうとうやりたかったんだろうなーー。
アレクセイに睨まれて、琉生斗はそっぽ向いた。
あっ、まだ心の声が漏れてんのかー。てへっ。
アレクセイは琉生斗を見つめた。
ーーなんだいまの、てへっ、は。可愛いすぎないか。抱きたい、駄目だろうが、早く抱きたいーー。
胸の内の葛藤を知られるわけにはいかない。アレクセイは呼吸を整えた。
はあーー。
悩みに疲れたような息を兵馬は吐いた。
「がんばろう……。僕が普通がいいって言ったんだから、結婚しようと仕方ないよ……」
「兵馬…」
ごめん、おれ何を言えばおまえが元気になるのか、本当にわからないーー。
「どうしたらいいんだろうなーー」
おれ達レベルでは、こんな問題どうにもできないーー。
「フェルマーの最終定理みたいだな」
「ーールートむかつく……」
「茶化してるわけじゃないー」
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終着駅があの人だとすれば、それはそれで嫌だなー、と聖女様は思うのだったーー。
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