ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

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海水浴に行きましょう。編

第5話 海水浴に行きましょう。5

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 かき氷を食べた直後、琉生斗は小さな欠伸を漏らした。

「ヒョウマのところで、寝るか?」

 アレクセイに尋ねられ、琉生斗は頷いた。

「うん。昼寝する」
 赤ん坊か、と美花達は苦笑した。アレクセイは当たり前のように琉生斗を抱き抱える。

「おいー」
「クリス、美味かった」
「はいはい」

 あまりの溺愛ぶりに、ミントのご学友達も赤面がとまらない。

「すごいですわね」
 ヒッタルナは食い入るように見ている。
「ええ」
 目に焼き付けなくては、とイリア。

「愛のある変態よね」
 美花と町子は頷きあった。

「あんな、ハンサムなのに、彼女とかどうしてたんだろ?」
 美花が聞くと、クリステイルは吹き出した。

「嫌な事聞きますねー」
「王太子、知らないの?」

 クリステイルは肩を竦めた。

「残念ながら、私に話す兄じゃありません」

 そうよねーー、と納得されるのも腹立たしいが、ラルジュナやアスラーンぐらいじゃないと知らないだろう。

「あぁ、レノラさんなら、聞いてるんじゃないですか?」
 アンダーソニーの娘なら、耳に入る事もあるかもしれない。しかし、レノラは首を振った。

「父は殿下方の話は家でしません」

 それもそうだ。

「おまえ相手するか、と父に冗談で言われた事はありますが、あのときの殿下の目は、心底父を軽蔑してましたねーー」

 わたしも嫌だって、とレノラは言った。

「レノラさん、殿下は嫌なんですか?」
 美花の問いに、レノラは力強く頷いた。

「細いのは無理だわ。わたし、ヤヘル団将ファンだもの」

 赤くなったレノラに、ベルガモットは賛同する。

「あの筋肉は素晴らしいですわよね」
「そうなんです!筋肉が、もう筋肉が浮いててー」

 キャピキャピのレノラを見て、美花は引いた。

「じゃあ、ファウラ様はーー」
「糸目の優男は、ちょっとーー」
「あれを好きな女性は特殊ですわよね」

 ベルガモットは自分と似ていない弟を、ばっさりと斬り捨てた。

「トルイスト師団長こそ、変人じゃないですかー」

 美花はぶうたれた。

「そんな事はありませんわ。主人はとても誠実な人なんですのよ」
「ファウラ様だって、すっごく優しくて、男らしくて、素敵な方なんです!」

「主人の方が優しいし、男らしいし、ハンサムだし、とっても純粋な人なんですわ!」

 美花とベルガモットが睨み合う中、海からあがってきた東堂達は、会話の内容に目を丸くした。

「ーー師団長も大隊長も愛されてんすねー」

 トルイストとファウラは照れている。

「あー、東堂おかえりー」
 兵馬が別荘から出てきた。

「おまえ、本当に泳がねえなー」

 海まで来てデスクワークの兵馬の姿に、東堂は呆れている。

「王太子、僕リンゴがいい」
「わかりました」
 兵馬は美花達から離れた席に、乱暴に座った。

「どうした。疲れたのか?」
 不機嫌な様子に、東堂は心配する。

「疲れるよー。目の前でいちゃいちゃすんだからー」

 はあー、と兵馬は溜め息をついた。

「あぁ。ルート達か。やりにいったのか?」

 元気だな。

 クリステイルは吹き出した。

「ルートは眠いから抵抗中。殿下はちょっかいだしてる」
「プレイだな」
「僕の事なんか、ハエとでも思ってんじゃないー。王太子、僕食べたら代わるから、花蓮と遊んで来なよ」

「いいんですか!」

 クリステイルの顔が輝くのを、東堂は冷めた目で見る。

「普段、護衛付きのデートで大変だもんね。邪魔しないから、奥の方でも行ってきたら?」

「おいおい」
 兵馬の後押しに、東堂は呆れた。


 まあ、護衛付きのデートは嫌だよなーー。



「ヒョウマ、オレ達にもかき氷くれよ」
 遊び疲れた顔をしたセージが、シャーランとレイラーンとかき氷を食べに来た。

「セージ殿下。最後、片付けは手伝うんだよ」
 兵馬はかき氷を手早く作る。

「なんでオレがー?」
「言い出しっぺなんでしょ?じゃあ、必要な物の手配は、本来は殿下がやるもんなんだよ。できないなら、人なんか誘わずに、家族と行きなよ」

 きつい一言にセージは黙った。

「おまえら結局、兄ちゃんが好きだもんなー」
 怒った目でセージは噛み付いた。

「当たり前だよ。僕達こっちに来てから、アレクセイ殿下にはどれだけ世話になってるかーー。住居に書類手続き、後見人、最初の生活費だってかなりもらってたよ。それを、王太子からだ、って言うスマートさ、すごいよね?」

 うっ、とセージは言葉に詰まる。それは大人じゃないとどうにもできない事だ。自分にはどうしようもないじゃないかーー。

「片付けぐらい手伝わないと、ホント勝負にならないよ」
「えっ?」
「ルートは裏方ができないヤツは、歯牙にもかけないから」

 セージは黙った。納得がいかない目で兵馬を睨む。

「兄ちゃんがいなけりゃ、オレと一緒になるさ」

「誰がだ?」
 セージの背後から凍るような気配がした。振り返って、長兄を睨む。

「おい!ちょっとはオレもルートと遊ばせろ!」

 あの気を受けて動けるとはーー、やるなぁ、と東堂は感心した。

「断る」

 にべも無いアレクセイの様子に、セージは切れた。

「兄ちゃん、オレは知ってんだぜ!兄ちゃんの弱点をな!」

 聖女様だな。と、その場の全員が思った。

「弱点ーー」

 ルートか、とアレクセイも思っていた。

「親父が言ってたけど、兄ちゃんお酒に弱いらしいじゃねえかー」

 セージの言葉に、アレクセイは首を傾げた。

「飲んだ覚えがないがー」
「親父が言ってたの!オレと飲みで勝負だ!」

 いや、あかんがなーー。

 東堂は吹き出した。

「うちの国、何歳から飲めるんすか?」
 トルイストが答える。
「十八歳からだ」

 だめじゃん。

「学院の宿舎じゃ、みんな飲んでるぜ」
 勝ち誇ったようにセージが言う。
「学院にちくらないと」
 ミントが呟いた。

「うるせー!親父のとっときで潰してやんぜ!」
 セージは、魔法でお酒の入った瓶を取り出した。

「陛下ご愛飲のカルヴァドス!それは怒られますよ!」
 トルイストが忠告した。
「カルヴァドス?」

「アップルブランデーだよ、アルコール度数40ぐらいだけど、甘酸っぱくて飲みやすいらしい」
 兵馬が答えた。


「先に潰れた方が負けだ!」
「いや、だからセージ殿下。警備隊に引き渡しますよ」

 生真面目にトルイストが宥めた。

「ーーいいだろう」
 と、アレクセイは快諾した。


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