ロクイチ聖女 6分の1の確率で聖女になりました。第三部 第四部

濃子

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海水浴に行きましょう。編

第4話 海水浴に行きましょう。4

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 青く澄んだ海ーー。


 意中の人は、顔を赤らめながら自分を見つめている。

「セージ、だめだーー」
「いいだろ。せっかく二人になれたんだ。あいつには秘密にしよう」

 琉生斗が首を振った。

「アレクは裏切れないーー」

 セージは琉生斗の顎に手をかけたー。

「でも、オレの事も振り切れないんだろ?」

 唇を奪うと、琉生斗の身体がぴくんと跳ねた。

「好きだせ、ルートーー」


 耳にキスをしながら首へおりていく。琉生斗の澄んだ瞳は閉じていきーー。





 何をするんだろうーー。実際のところー。
 
 セージは想像力を働かせて考えるが、エッチな事とは最終的にどうなるかいまいちわからない。アダマスからは、そろそろ閨の作法はどうか、と聞かれたりもするが、親が用意した人となんか冗談じゃない。


 バーベキューに氷菓子、最高だなー、と海水浴を満喫する琉生斗に対し、面白くないのがセージだ。

 長兄のせいで、ちっとも琉生斗に近付けない。次兄は花蓮と幸せそうに、サンドアートなんか作ってるし。

「けっ」
「セージ、遊ぼう」

 友達のシャーランが言う。レイラーンも待っている。二人ともアスラーンの妹で双子だ。留学先の学院で仲良くなった。

「ああ」
 セージは溜め息をついた。

「あの人が、セージの片思いの相手なの?」
 かなり遠くで泳いでいる琉生斗を見て、シャーランが尋ねる。深い緑色の目は兄と同じだ。

「そうだよ。マジいいだろ」
「ーーよくわからないわ」

 レイラーンがそっぽを向いた。シャーランよりさらに深い緑色の目を細める。 

「お兄様の奥さんでしょ?」
「絶対ないよね」
「別れりゃ問題ねえよ」

 姉妹は顔を見合わせた。

「セージがよくても向こうは嫌でしょ?」 
「そうなったら、オレは親父達と縁を切るつもりだ」

 力強く言うと、双子は笑った。

「セージから切ってどうすんの?」
「露頭に迷うわねー。お金がなくて、それこそすぐに別れそう」

 二人はセージを置いて、ミント達のボール遊びの方に行ってしまった。

「ーー何だそりゃ」
 みんな、オレを何だと思ってんだかーー。










 遠泳中のメンバーは、かなり沖まで泳いでいる。

「ひゃあ!最高!」
 東堂が水しぶきをあげて飛び上がる。モロフやトルイスト、ファウラまでもが、長距離をガンガン泳いでいる。

「いまなら34キロも余裕だな!」
 東堂が叫んだ。

「ドーバーとグリ・ネ岬の最短距離かー」

 琉生斗はアレクセイと伸び伸び泳いでいる。

「なあなあ、潜ったら魚いるかな?」
 琉生斗がにこにこと聞くと、アレクセイは薄く笑った。

「水中で息ができるように、しろと?」
 その顔に、琉生斗はげんなりする。
 ※琉生斗には、水中で神ポセイドンにときめいた浮気未遂前科がある(その遺跡は神経が衰弱する)。

「そんな事言ってませんよ」
「そうかー」

 琉生斗は頬を膨らませた。

「いじわる!」
 ひとりで泳いで行こうとしたが、アレクセイにピタリと張りつかれる。

「怒ったルートはかわいいな」
 慈しむような目で見られ、琉生斗は疲れた顔をする。

「うるせー!」
「あそこの島まで行くと、いい岩がある。何の原石だったかー」
「え!何色だ!」

 琉生斗はスピードをあげる。

「薄緑ーー、翡翠だったかー」
「おっ!いいじゃん、行こうぜ!」

 ふふ、とアレクセイは微笑んだ。 









「ファウラ様、全然遊んでくれないー!」

 テントの下、美花はかき氷を自棄食いしている。

「やばーい!美味しい!うさんくさーー、ヒョローー、ええとー」

「ーークリスで結構ですが」

 クリステイルは果物のジュースを凍らせて、それを風の魔法でかき氷にする。練乳をかけると、女性陣は大喜びだ。花蓮が横で練乳をかけているので、たまにとんでもない量の練乳がかかる。

「あら、またやっちゃったー」
「もう、カレンたらー」

 うきうき、デレデレなクリステイルは、女性陣から痛い目で見られている。

「仲がよろしいんですのね」
 ミントが意外そうな顔をした。次兄といえば、そういう事にはあっさりしてそうなイメージだったのだがー。

 ーーいや、一番色恋に関心が無さそうな人が、どっぷり沼にハマっているのだから、ようは相手なのだろう。



「かき氷!美味しそう!」

 そう、この人達だ。

「聖女様。何の味にします?」
「ありがとー。ん、とね。オレンジとモモと、パイナップル!」

「ーーお腹壊しません?兄上は?」
「アレクと半分こすんの」

 なるほどー、とクリステイルは苦笑い。
 兄もこういうのには弱そうだーー。

「ルート、ファウラ様達は?」

「さあ?外洋に出てんじゃねえ?あいつらなら百キロぐらい余裕かもなー。トルイストもファウラも、すげぇー速いんよ。東堂、モロフに合わせてたから置いていかれてるかもな」

「ファウラ様ー」

 美花は涙を呑んだ。

「まあまあ、ミハナさん。女子会でもいたしましょうよ」
 ベルガモットが艶やかに笑うと、美花もへらへら笑う。

 ーー何て美しいお義姉様ー。男だとは信じられないーー。

「ベル姉様が下さった化粧水、すごいいいです~」
 町子が言うと、女子がざわめく。

「えっ?どんなんなんですか?」
 シフォンとユピナが食い付いた。

「貴女達の肌には、少々早いかもしれないけど、星薔薇堂の商品を長年愛用していますのー」
「まあ」

 ベルガモットの美容講座が盛り上がる中、花蓮は琉生斗のかき氷に練乳をかける。

「花蓮、気前いいなあー」
「ルートくんにはサービスよ」
「ーー仲がよろしいんですのね」

 ナスターシャが言うと、美花は言った。

「ルートと花蓮、親戚よ」
「それは、そうですけどーー」

 これからはそうなるのだがーー。それにしても距離が近いように思う。

「ルートのおばあちゃんと、花蓮のお父さんが兄弟なのよ」
「えっ!」

 驚いたのはクリステイルだ。花蓮はにこにことしている。

「そうなんですかー。祖母と、父親ってー」

「うちの親父がわけーのに子供作っただけ。姉貴十四、兄貴十六、おれ十九のときの子供なのよ。おれのときばあちゃんまだ四十一歳。叔父さん三十八歳ぐらいじゃなかったか?」

「覚えてないわ」

 花蓮はころころと笑う。

「まっ、あのおっさん、おれ嫌いだけどな」
「わたしも嫌いー」

 琉生斗と花蓮は笑った。その様子を、ミントは不思議そうに見ている。

「たしかに、そう言われると、何かが似ている」

 クリステイルは頷いた。

「兄上は知ってたんですか?」
「あぁ」
「教えてくれてもいいじゃないですか」
 アレクセイは首を傾げた。

「自分で聞けばいい」

 それはそうだがー。

 そもそも、カレンはあの中の誰かと親戚ですか?なんていつ聞くんだ?


 琉生斗にかき氷を食べさせてもらって、ご満悦の兄に溜め息が出るクリステイルである。
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