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第3話 しつこいし最悪な元カレ

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 郁海は住み慣れたマンションをでて、実家に帰ることにした。

 決めたのは、たくみがうざかったからだ。

「頼む!許してくれ!おまえしかダメなんだ!」
「そうでしょうね」
「わかるだろ?」

 たくみが顔を輝かせた。

「ええ、ただでこき使える家政婦が欲しいんですよね?あたしも何にも言わなくても、あたしの望みを進んで叶えてくれるスパダリが欲しいわ~」

「身のほどをしれよ」
 たくみの表情がひどい。

「あっ、ここ従兄弟のつとむ君が住むから。ちょうど彼女と同棲するとこさがしてたんだって」
「はあ!オレはどうするんだ!」
 強く詰め寄られたが、たくみにどうこう言われる筋合いはない。
「自分のご実家にでも帰れば?お金がなくてもなんとかなるわよ」
「おまえ!」

 パンッ!

 たくみが頬を叩いた。
「ーーっ!」
「男に生意気な口聞いたらな、ぶたれたってしょうがないんだよ!」

 思いのほか頬が痛かった。
 睨みつけたいのに、また叩かれると思うと何も言えなくなる。

「言う事聞けや……」
 たくみが顔を近づけてきた。ドアを閉めたいのに、身体が動かない。
 郁海はギュッと手を握り、口を開いた。

「ーー帰って……」
「はあ?従兄弟に断りいれろ!」
 怒鳴られて身体が震えた。

 ーーどうしよう。お兄ちゃん……。





「ーー失礼……」
 急に郁海の側にひとが立った。
 スーツを着た若い男性だ。

「どんな事情かは知りませんが、近所迷惑になります。警察に連絡してもよろしいですか?」
「はっ!ただの痴話喧嘩だよ!ほっといてくれ!」
「助けてください!」
 郁海は男性の腕にしがみついた。スマホをもつ反対側の腕だ。

 男性が頷いた。
「警察ですか。やはり来てください」
 たくみが逃げだした。
 弱い男のくせに、自分より弱いものにはああいう態度になるのだ。

(そういえば、お店でもえらそうにしてたわーー)


 郁海は男性を見あげた。背が高い。落ち着いた雰囲気のハンサムな男性だ。 

「ありがとうございました。助かりました」
 ドアにもたれたまま、礼を言う。足がいまさら震えてきた。

「いえーー。痴話喧嘩か、迷ったのですが……」
「そうですよねーー。別れ話がこじれました」
「ーーそうですか」

 なんとも言い難い表情を男性が浮かべる。それはそうだ、何を言っているんだ自分は。

「ご近所の方ですか?ご迷惑をおかけしました」
「いえ、近所ではないのですが……」
「はあ」
「あやしいものでもないです」
 普通自分では言わない。

「ーーその、下のコンビニで、彼と若い女性が、ここに来ると相談していたのですが、ほめられた内容ではなかったのでーー」
「あー、ひどい事言ってたんですね!自分が浮気したくせに!」
「浮気……」

「お~い!いくみ~!」
「あっ、つとむ君とかりんちゃん!」
 階段の方から従兄弟が声をかけてきた。

「ーーそれではこれで」

「あー!すみません!ほんとうにありがとうございました!」
 
 助かった。

 本当にたくみのばか。
 あんなのと付き合ってた自分はもっとばかだ!


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