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聖女の国の王族達編
第86話 聖女の国の王族達 9 ーその頃東堂はー
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「お父様!パンパンダのぬいぐるみが欲しいですわ」
「あっ、おれも欲しい」
「わたしも欲しいです」
「好きなだけ買いなさい」
パンをかじるパンパンダのぬいぐるみを大量に買う。
「ナスターシャとユピナとシフォンと……」
ご学友にあげるのか、カゴからぬいぐるみが溢れていく。真剣にお土産を選ぶミントの姿を、アダマスは笑って見ていた。ナスターシャ達との仲は、変わらず良好なのだろう。
パボンにぬいぐるみを預けると、琉生斗達は屋台で食べ物を買いはじめた。
「花蓮、イカ焼き売ってるぜ。晩御飯ここでいいな」
「わたあめ食べたいわ。リンゴ飴、あら、シャインマスカット飴ですって」
「買ってー。お義父様ー」
琉生斗のおねだりにアダマスは溜め息をついた。アレクセイはこれにやられているのかー。そう思うと複雑だ。
「聖女様もカレン様も元気ですわね」
疲れた顔のミントは、買ってもらったフルーツジュースを飲みながら欠伸をした。
「おっ、そろそろ帰るか」
琉生斗は気づき、パボンを呼びに行く。
「ーー今日が終わるのが寂しいな」
アダマスのつぶやきに、ミントは目を伏せた。
「殿下!無理です!無理ですってば!」
「集中が足らない」
あかんーー!!、無理やって!
東堂は3,000メートルを越える山の上で綱渡り中だった。当たり前だが生命綱はない。風が少し吹くだけで身体が仰け反る。それを、隣の山まで切れそうな細い綱の上を歩いていくなど。
「もう、無理です!」
叫べど叫べど伝わらない。叫ぶという少しの動きでもバランスが狂う。東堂はべそをかいている。
「落ちても大丈夫だぞ!」
ヤヘルが励ます。ただ、その手にはこれから焼こうとしている肉がある。
なんでこんな目にあってんの、俺ーー。
それでも東堂はゆっくり進んでいった。
「何だかんだ言ってもできるのが、トードォですな」
「ああ」
アレクセイも深く頷いた。
「ところでヤヘル、ルートが……」
「おお!トードォ!がんばれーー!」
網で肉を焼くヤヘルにはぐらかされ、アレクセイは目を細めた。
「全員で何をやっているのか……」
「まあまあ殿下」
ヤヘルが頭を掻いた。
「……もうちょっと聖女様を自由にさせてあげないと、先が続きませんよ」
ヤヘルが実感がこもる声で言う。
「………」
「わしも束縛する方でしたからな。ある日きれいにいなくなりましたよ。後悔しかありません。望みは聞いてきたと思っていますが、自分に都合よく聞いていたんでしょうな」
がははっ、とヤヘルは上を向いて笑った。アレクセイは視線を遠くへ向ける。
「私の愛し方では駄目だと?」
「そこまでは言いません。聖女様が納得しているのなら、何も言うことはありませんが」
「ちょ、師匠!ギブ!ギブっすー!」
「ん?なにかくれるのかぁ?」
「ちゃいまーす!」
東堂は泣きながら綱を渡った。
「すごいぞ!魔法を使わずにできるとは!おまえはできる子だ!」
「師匠ーー!」
ヤヘルと東堂が抱きあって喜ぶ中、アレクセイは言った。
「トードゥ、次はもう少し細い綱を使おう」
東堂は泣き崩れた。
「無理でございますーー」
「大丈夫、おまえならいける!」
ヤヘルは笑顔で弟子を送り出した。
さすがはトードォ、殿下にとても気に入られているーー。
これだけ時間が稼げたら十分でしょうなーー。ヤヘルは安心したように、肉を食べはじめた。
「なー、ミント。おまえの風呂に花蓮もいれてやってくれよ」
「はい。それはかまいませんが、お風呂に入って帰りますの?」
「まあ、そんな感じーー。じゃあ、花蓮待ち合わせな」
「はあい」
「クリスに見つかるなよ」
「わかったわ」
「?」
ミントが首を傾げながら花蓮を自分の居住区へと連れて行った。
「さてと。お義父様、お風呂貸して」
「!」
アダマスはときを止めた。
「ば、ば、ば、バレたらこ、こ、殺される、」
ふるふると首を振るアダマスに琉生斗は呆れた。
「自分の息子どんだけ怖いんだよ。パボンさん案内してー、後、陛下見張っといてね」
「なんだ、一緒に入らんのか?」
「やだよ。なんか視線がキモいもん」
アダマスは落ち込んだ。
「あっ、おれも欲しい」
「わたしも欲しいです」
「好きなだけ買いなさい」
パンをかじるパンパンダのぬいぐるみを大量に買う。
「ナスターシャとユピナとシフォンと……」
ご学友にあげるのか、カゴからぬいぐるみが溢れていく。真剣にお土産を選ぶミントの姿を、アダマスは笑って見ていた。ナスターシャ達との仲は、変わらず良好なのだろう。
パボンにぬいぐるみを預けると、琉生斗達は屋台で食べ物を買いはじめた。
「花蓮、イカ焼き売ってるぜ。晩御飯ここでいいな」
「わたあめ食べたいわ。リンゴ飴、あら、シャインマスカット飴ですって」
「買ってー。お義父様ー」
琉生斗のおねだりにアダマスは溜め息をついた。アレクセイはこれにやられているのかー。そう思うと複雑だ。
「聖女様もカレン様も元気ですわね」
疲れた顔のミントは、買ってもらったフルーツジュースを飲みながら欠伸をした。
「おっ、そろそろ帰るか」
琉生斗は気づき、パボンを呼びに行く。
「ーー今日が終わるのが寂しいな」
アダマスのつぶやきに、ミントは目を伏せた。
「殿下!無理です!無理ですってば!」
「集中が足らない」
あかんーー!!、無理やって!
東堂は3,000メートルを越える山の上で綱渡り中だった。当たり前だが生命綱はない。風が少し吹くだけで身体が仰け反る。それを、隣の山まで切れそうな細い綱の上を歩いていくなど。
「もう、無理です!」
叫べど叫べど伝わらない。叫ぶという少しの動きでもバランスが狂う。東堂はべそをかいている。
「落ちても大丈夫だぞ!」
ヤヘルが励ます。ただ、その手にはこれから焼こうとしている肉がある。
なんでこんな目にあってんの、俺ーー。
それでも東堂はゆっくり進んでいった。
「何だかんだ言ってもできるのが、トードォですな」
「ああ」
アレクセイも深く頷いた。
「ところでヤヘル、ルートが……」
「おお!トードォ!がんばれーー!」
網で肉を焼くヤヘルにはぐらかされ、アレクセイは目を細めた。
「全員で何をやっているのか……」
「まあまあ殿下」
ヤヘルが頭を掻いた。
「……もうちょっと聖女様を自由にさせてあげないと、先が続きませんよ」
ヤヘルが実感がこもる声で言う。
「………」
「わしも束縛する方でしたからな。ある日きれいにいなくなりましたよ。後悔しかありません。望みは聞いてきたと思っていますが、自分に都合よく聞いていたんでしょうな」
がははっ、とヤヘルは上を向いて笑った。アレクセイは視線を遠くへ向ける。
「私の愛し方では駄目だと?」
「そこまでは言いません。聖女様が納得しているのなら、何も言うことはありませんが」
「ちょ、師匠!ギブ!ギブっすー!」
「ん?なにかくれるのかぁ?」
「ちゃいまーす!」
東堂は泣きながら綱を渡った。
「すごいぞ!魔法を使わずにできるとは!おまえはできる子だ!」
「師匠ーー!」
ヤヘルと東堂が抱きあって喜ぶ中、アレクセイは言った。
「トードゥ、次はもう少し細い綱を使おう」
東堂は泣き崩れた。
「無理でございますーー」
「大丈夫、おまえならいける!」
ヤヘルは笑顔で弟子を送り出した。
さすがはトードォ、殿下にとても気に入られているーー。
これだけ時間が稼げたら十分でしょうなーー。ヤヘルは安心したように、肉を食べはじめた。
「なー、ミント。おまえの風呂に花蓮もいれてやってくれよ」
「はい。それはかまいませんが、お風呂に入って帰りますの?」
「まあ、そんな感じーー。じゃあ、花蓮待ち合わせな」
「はあい」
「クリスに見つかるなよ」
「わかったわ」
「?」
ミントが首を傾げながら花蓮を自分の居住区へと連れて行った。
「さてと。お義父様、お風呂貸して」
「!」
アダマスはときを止めた。
「ば、ば、ば、バレたらこ、こ、殺される、」
ふるふると首を振るアダマスに琉生斗は呆れた。
「自分の息子どんだけ怖いんだよ。パボンさん案内してー、後、陛下見張っといてね」
「なんだ、一緒に入らんのか?」
「やだよ。なんか視線がキモいもん」
アダマスは落ち込んだ。
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