上 下
189 / 208
聖女の国の王族達編

第86話 聖女の国の王族達 9 ーその頃東堂はー

しおりを挟む
「お父様!パンパンダのぬいぐるみが欲しいですわ」
「あっ、おれも欲しい」
「わたしも欲しいです」
「好きなだけ買いなさい」
 パンをかじるパンパンダのぬいぐるみを大量に買う。
「ナスターシャとユピナとシフォンと……」
 ご学友にあげるのか、カゴからぬいぐるみが溢れていく。真剣にお土産を選ぶミントの姿を、アダマスは笑って見ていた。ナスターシャ達との仲は、変わらず良好なのだろう。

 パボンにぬいぐるみを預けると、琉生斗達は屋台で食べ物を買いはじめた。
「花蓮、イカ焼き売ってるぜ。晩御飯ここでいいな」
「わたあめ食べたいわ。リンゴ飴、あら、シャインマスカット飴ですって」
「買ってー。お義父様ー」
 琉生斗のおねだりにアダマスは溜め息をついた。アレクセイはこれにやられているのかー。そう思うと複雑だ。

「聖女様もカレン様も元気ですわね」
 疲れた顔のミントは、買ってもらったフルーツジュースを飲みながら欠伸をした。
「おっ、そろそろ帰るか」
 琉生斗は気づき、パボンを呼びに行く。
「ーー今日が終わるのが寂しいな」
 アダマスのつぶやきに、ミントは目を伏せた。











「殿下!無理です!無理ですってば!」
「集中が足らない」

 あかんーー!!、無理やって!

 東堂は3,000メートルを越える山の上で綱渡り中だった。当たり前だが生命綱はない。風が少し吹くだけで身体が仰け反る。それを、隣の山まで切れそうな細い綱の上を歩いていくなど。
「もう、無理です!」
 叫べど叫べど伝わらない。叫ぶという少しの動きでもバランスが狂う。東堂はべそをかいている。
「落ちても大丈夫だぞ!」
 ヤヘルが励ます。ただ、その手にはこれから焼こうとしている肉がある。

 なんでこんな目にあってんの、俺ーー。

 それでも東堂はゆっくり進んでいった。

「何だかんだ言ってもできるのが、トードォですな」
「ああ」
 アレクセイも深く頷いた。
「ところでヤヘル、ルートが……」
「おお!トードォ!がんばれーー!」 
 網で肉を焼くヤヘルにはぐらかされ、アレクセイは目を細めた。
「全員で何をやっているのか……」
「まあまあ殿下」
 ヤヘルが頭を掻いた。
「……もうちょっと聖女様を自由にさせてあげないと、先が続きませんよ」
 ヤヘルが実感がこもる声で言う。
「………」
「わしも束縛する方でしたからな。ある日きれいにいなくなりましたよ。後悔しかありません。望みは聞いてきたと思っていますが、自分に都合よく聞いていたんでしょうな」
 がははっ、とヤヘルは上を向いて笑った。アレクセイは視線を遠くへ向ける。
「私の愛し方では駄目だと?」
「そこまでは言いません。聖女様が納得しているのなら、何も言うことはありませんが」


「ちょ、師匠!ギブ!ギブっすー!」
「ん?なにかくれるのかぁ?」
「ちゃいまーす!」
 東堂は泣きながら綱を渡った。
「すごいぞ!魔法を使わずにできるとは!おまえはできる子だ!」
「師匠ーー!」
 ヤヘルと東堂が抱きあって喜ぶ中、アレクセイは言った。
「トードゥ、次はもう少し細い綱を使おう」
 東堂は泣き崩れた。
「無理でございますーー」
「大丈夫、おまえならいける!」
 ヤヘルは笑顔で弟子を送り出した。

 さすがはトードォ、殿下にとても気に入られているーー。

 
 これだけ時間が稼げたら十分でしょうなーー。ヤヘルは安心したように、肉を食べはじめた。












「なー、ミント。おまえの風呂に花蓮もいれてやってくれよ」
「はい。それはかまいませんが、お風呂に入って帰りますの?」
「まあ、そんな感じーー。じゃあ、花蓮待ち合わせな」 
「はあい」
「クリスに見つかるなよ」
「わかったわ」
「?」
 ミントが首を傾げながら花蓮を自分の居住区へと連れて行った。
「さてと。お義父様、お風呂貸して」

「!」

 アダマスはときを止めた。
「ば、ば、ば、バレたらこ、こ、殺される、」
 ふるふると首を振るアダマスに琉生斗は呆れた。
「自分の息子どんだけ怖いんだよ。パボンさん案内してー、後、陛下見張っといてね」
「なんだ、一緒に入らんのか?」
「やだよ。なんか視線がキモいもん」
 アダマスは落ち込んだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

キャンピングカーで往く異世界徒然紀行

タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》 【書籍化!】 コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。 早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。 そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。 道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが… ※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜 ※カクヨム様でも投稿をしております

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

異世界転移したら豊穣の神でした ~イケメン王子たちが僕の夫の座を奪い合っています~

奈織
BL
勉強も運動もまるでダメなポンコツの僕が階段で足を滑らせると、そこは異世界でした。 どうやら僕は数十年に一度降臨する豊穣の神様らしくて、僕が幸せだと恵みの雨が降るらしい。 しかも豊穣神は男でも妊娠できて、生まれた子が次代の王になるってマジですか…? 才色兼備な3人の王子様が僕の夫候補らしい。 あの手この手でアプローチされても、ポンコツの僕が誰かを選ぶなんて出来ないです…。 そんな呑気で天然な豊穣神(受け)と、色々な事情を抱えながら豊穣神の夫になりたい3人の王子様(攻め)の物語。 ハーレムものです。

処理中です...