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聖女の国の王族達編
第79話 聖女の国の王族達 2 ールチア元王妃の死についてー
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その日、突然顔色の悪いヒョードルが魔法騎士団の将軍室に姿を見せた。
「どうしました?兄上」
「トルイストーー。アレクセイ殿下は?」
「奥で士長達と会議中ですがーー、あっ、わかりましたー」
どうぞ、とトルイストは兄を招き入れた。
「アレクセイ殿下、突然の来訪をお許し下さい」
「何か?」
「あのー、王太子殿下が、宮から出てこられません」
「体調が悪いのか?」
アレクセイの美しい眉が寄せられた。
「いえ……。落ち込んでいるご様子で……」
言いにくそうにヒョードルは話す。アレクセイはしばし考えている様子だった。
「なぜだ?」
返した言葉に将軍達は膝からくずれ落ちた。
「で、殿下!もう殿下ったらー」
アンダーソニーが困ったようにアレクセイに言った。
「殿下のことを聞いて、自己嫌悪してるんじゃございません?」
ルッタマイヤの言葉にアレクセイは首を傾げた。
「何をだ?」
「そりゃ色々甘い自分を反省してるんじゃないですか?」
ヤヘルが言うとヒョードルは項垂れた。
「殿下のことなら陛下や王太子より、わしらの方がよく知ってますからな」
がははっ、とヤヘルは豪快に笑った。
「自慢せんでいい」
アンダーソニーが嗜めた。だが、アンダーソニーもそう思っているだろう。
「それが何か問題なのか?」
アレクセイも尋ね返す。
「はあ」
いくらなんでも王太子殿下が可哀想だな、とヒョードルは思った。
だいたいこの人自分の奥方には異常に甘いのに、陛下や王太子殿下には血も涙もないっていう感じがだだ漏れてるーー。相談しても無駄かもーー。
「一度、話しゃいいじゃん」
扉が開いて聖女琉生斗が入ってきた。神殿用の衣装だ。将軍達が頭を下げるのを、急にごめんね、ととめる。
「あーー、もう匿ってくれ!じいちゃんの説教が長すぎて無理だ!何だよ、聖女降臨祭って。行事増えすぎじゃねえか!」
アレクセイが溜め息をついた。
「教皇か。ルートを王族と離すつもりかもしれないな」
「え?」
「神殿側は常に聖女は神殿にいるべきと主張してきたからな。それが他国との摩擦を防いできたことも事実」
「そうですな。聖女は時空竜の女神様を崇めるすべての民のもの、でありますからな」
「え?じいちゃんの方が正しいの?けど、今日は陛下も神殿に来てたよ。ミハエルじいちゃんとバッチバチに睨み合っちゃってさ」
琉生斗の言葉にその場を気まずい空気が流れた。
「便宜上は、教皇に一理あるが……」
「基本、聖女様は聖女様のしたいようになさればよろしいかと」
アレクセイとアンダーソニーの言葉にルッタマイヤは笑った。
「殿下、聖女様の言うように、王太子殿下と話されてみてはいかがです?」
「クリスとか?」
アレクセイは嫌そうな顔を見せた。
「何が嫌なんだよ。気にすんなよ、って言ってやればいいじゃん」
「ーーまったく気にしてない訳でもない」
「だって、やったのはあいつの母親だろ?」
「そうだ。だが、あいつの母親を殺したのは私だ」
「えっ?」
アレクセイの言葉に琉生斗とトルイスト、ヒョードルは目を見開いた。
「いやいや、殿下、それは正しくないですよ」
「……ーーどういうこと?」
「ーースズ様がー。スズ様が元王妃に呪いをかけた」
琉生斗は呆然と目を開いたまま言葉を失った。
「先代がー?そんなーー」
「ーー火山口の件の後、スズ様はルチア王妃を呪ってしまわれました。もちろんスズ様は呪うつもりはなかったのです。ただ、そのあまりにも激しい怒りを、女神様は受け取ってしまい、呪いとしてルチア王妃の身体を蝕みました。王妃は長い間病み、ひどく苦しみ、苦しんで苦しんで亡くなりました」
アンダーソニーが淡々と告げた。
「そして、スズ様も呪い返しを受け、コランダム殿下が肺を患い亡くなられました」
「ええ!!」
琉生斗は悲鳴のような声をあげた。
「私のために、スズ様に人を呪わせてしまい、大叔父上までーー」
悲しそうに、アレクセイは言った。
「いや、皆同じ気持ちでしたーー。あれは本当に人のすることではなかったーー」
アンダーソニーが当時を思い出したのか、すすり泣いた。ヤヘルも下を向いている。
「アレクーー」
琉生斗はアレクセイに抱きついて泣いた。
「おまえ、おれと会えてよかったなー、おれもよかったけどーー」
「そうだな。幸せだ」
その言葉にルッタマイヤは泣いた。ヤヘルも豪快に男泣きだ。アンダーソニーはハンカチが足りないのかトルイストに替えをもらっている。
あの後、アレクセイは琉生斗のすすめもあり、クリステイルの宮へと足を運んだ。
長く続く廊下、途中には手入れをされた植樹が広がる中庭がある。庭のまわりを目隠しがわりの白い薔薇が咲く。
そこには、小さな遊具が置かれていた。
六歳の自分がクリステイルと遊んだものだ。
はじめてブランコを見たときは、不思議なものがあるのだな、と長い間クリステイルが漕ぐのを見ていた。母親がいた妓館には、子供が遊ぶ物は何もなかった。だが、本だけは豊富にあったので、字は覚えるのが早かった。
「殿下は、陛下や王太子殿下を恨んでいますか?」
ヒョードルの問いに、アレクセイは首を振った。
「いや。クリスには悪いことをした、それだけだ」
豪奢な彫刻が美しい、クリステイルの寝室の扉をアレクセイはノックした。
返事はない。
気配はあるが、生気がない。
アレクセイは扉を開けた。
「あっ、鍵……」
ヒョードルは口を開いたが、それより早くアレクセイは扉を外した。
ーー魔法の鍵でしか開かないのにー。やはりこの方は人ではないなーー、とヒョードルは冷静に考えた。
「どうしました?兄上」
「トルイストーー。アレクセイ殿下は?」
「奥で士長達と会議中ですがーー、あっ、わかりましたー」
どうぞ、とトルイストは兄を招き入れた。
「アレクセイ殿下、突然の来訪をお許し下さい」
「何か?」
「あのー、王太子殿下が、宮から出てこられません」
「体調が悪いのか?」
アレクセイの美しい眉が寄せられた。
「いえ……。落ち込んでいるご様子で……」
言いにくそうにヒョードルは話す。アレクセイはしばし考えている様子だった。
「なぜだ?」
返した言葉に将軍達は膝からくずれ落ちた。
「で、殿下!もう殿下ったらー」
アンダーソニーが困ったようにアレクセイに言った。
「殿下のことを聞いて、自己嫌悪してるんじゃございません?」
ルッタマイヤの言葉にアレクセイは首を傾げた。
「何をだ?」
「そりゃ色々甘い自分を反省してるんじゃないですか?」
ヤヘルが言うとヒョードルは項垂れた。
「殿下のことなら陛下や王太子より、わしらの方がよく知ってますからな」
がははっ、とヤヘルは豪快に笑った。
「自慢せんでいい」
アンダーソニーが嗜めた。だが、アンダーソニーもそう思っているだろう。
「それが何か問題なのか?」
アレクセイも尋ね返す。
「はあ」
いくらなんでも王太子殿下が可哀想だな、とヒョードルは思った。
だいたいこの人自分の奥方には異常に甘いのに、陛下や王太子殿下には血も涙もないっていう感じがだだ漏れてるーー。相談しても無駄かもーー。
「一度、話しゃいいじゃん」
扉が開いて聖女琉生斗が入ってきた。神殿用の衣装だ。将軍達が頭を下げるのを、急にごめんね、ととめる。
「あーー、もう匿ってくれ!じいちゃんの説教が長すぎて無理だ!何だよ、聖女降臨祭って。行事増えすぎじゃねえか!」
アレクセイが溜め息をついた。
「教皇か。ルートを王族と離すつもりかもしれないな」
「え?」
「神殿側は常に聖女は神殿にいるべきと主張してきたからな。それが他国との摩擦を防いできたことも事実」
「そうですな。聖女は時空竜の女神様を崇めるすべての民のもの、でありますからな」
「え?じいちゃんの方が正しいの?けど、今日は陛下も神殿に来てたよ。ミハエルじいちゃんとバッチバチに睨み合っちゃってさ」
琉生斗の言葉にその場を気まずい空気が流れた。
「便宜上は、教皇に一理あるが……」
「基本、聖女様は聖女様のしたいようになさればよろしいかと」
アレクセイとアンダーソニーの言葉にルッタマイヤは笑った。
「殿下、聖女様の言うように、王太子殿下と話されてみてはいかがです?」
「クリスとか?」
アレクセイは嫌そうな顔を見せた。
「何が嫌なんだよ。気にすんなよ、って言ってやればいいじゃん」
「ーーまったく気にしてない訳でもない」
「だって、やったのはあいつの母親だろ?」
「そうだ。だが、あいつの母親を殺したのは私だ」
「えっ?」
アレクセイの言葉に琉生斗とトルイスト、ヒョードルは目を見開いた。
「いやいや、殿下、それは正しくないですよ」
「……ーーどういうこと?」
「ーースズ様がー。スズ様が元王妃に呪いをかけた」
琉生斗は呆然と目を開いたまま言葉を失った。
「先代がー?そんなーー」
「ーー火山口の件の後、スズ様はルチア王妃を呪ってしまわれました。もちろんスズ様は呪うつもりはなかったのです。ただ、そのあまりにも激しい怒りを、女神様は受け取ってしまい、呪いとしてルチア王妃の身体を蝕みました。王妃は長い間病み、ひどく苦しみ、苦しんで苦しんで亡くなりました」
アンダーソニーが淡々と告げた。
「そして、スズ様も呪い返しを受け、コランダム殿下が肺を患い亡くなられました」
「ええ!!」
琉生斗は悲鳴のような声をあげた。
「私のために、スズ様に人を呪わせてしまい、大叔父上までーー」
悲しそうに、アレクセイは言った。
「いや、皆同じ気持ちでしたーー。あれは本当に人のすることではなかったーー」
アンダーソニーが当時を思い出したのか、すすり泣いた。ヤヘルも下を向いている。
「アレクーー」
琉生斗はアレクセイに抱きついて泣いた。
「おまえ、おれと会えてよかったなー、おれもよかったけどーー」
「そうだな。幸せだ」
その言葉にルッタマイヤは泣いた。ヤヘルも豪快に男泣きだ。アンダーソニーはハンカチが足りないのかトルイストに替えをもらっている。
あの後、アレクセイは琉生斗のすすめもあり、クリステイルの宮へと足を運んだ。
長く続く廊下、途中には手入れをされた植樹が広がる中庭がある。庭のまわりを目隠しがわりの白い薔薇が咲く。
そこには、小さな遊具が置かれていた。
六歳の自分がクリステイルと遊んだものだ。
はじめてブランコを見たときは、不思議なものがあるのだな、と長い間クリステイルが漕ぐのを見ていた。母親がいた妓館には、子供が遊ぶ物は何もなかった。だが、本だけは豊富にあったので、字は覚えるのが早かった。
「殿下は、陛下や王太子殿下を恨んでいますか?」
ヒョードルの問いに、アレクセイは首を振った。
「いや。クリスには悪いことをした、それだけだ」
豪奢な彫刻が美しい、クリステイルの寝室の扉をアレクセイはノックした。
返事はない。
気配はあるが、生気がない。
アレクセイは扉を開けた。
「あっ、鍵……」
ヒョードルは口を開いたが、それより早くアレクセイは扉を外した。
ーー魔法の鍵でしか開かないのにー。やはりこの方は人ではないなーー、とヒョードルは冷静に考えた。
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