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風の噂に聞きましたが。編

第58話 風の噂に聞きましたが。 6

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 風呂を済ませて衣服を整え、琉生斗は兵馬に会いに行った。彼は今、離宮の近くに住まいを建ててもらっていて、神殿とそこを行き来している。
「おす、兵馬、元気か?」
「あぁ、ルート。治ったの?」
「おうよ。しんどいなー。ガキの頃は軽いんだろー?ホント、おまえがなったときにうつしてもらえば良かったよな」
「ねえ、ルート。いま王宮がエライことになってるよ」
 兵馬の言葉に、琉生斗は目を丸くした。
「エライこと?」
「アレクセイ殿下が、陛下に絶縁状を出したって」
「へー、とうとう愛想がつきたか」
 琉生斗はやれやれ、と肩を竦めた。
「なんで、陛下ってああなんだろうなー。案外メンタルが弱いんだろな」
「先王がようやく出来た子で、甘やかしたんでしょ?」
 へぇー、そうなのかー。苦労してできた子は可愛がられて、簡単にできた子は捨てられるのかー、と琉生斗は皮肉めいた事を思った。
「ルート、どうする?」
「なんでそこまで拗れたんだ?」
「勝手に広場に入った候補生から、君がおたふく風邪をもらった事、これについて候補生に処分はなく、付き添いのディアルトのみが僻地に異動した」
 琉生斗は目を見開いた。
「ひでー話だな」
「そう、ひどいんだよ。陛下も子供のした事ですまそうとするしーー」
 それは、アレクセイも怒るだろう。琉生斗は同情するのをやめた。
「うん?陛下はそれとして、あいつは何してたんだよ」
「あいつ?」
「クリスだよ。ヒョードルはあいつの部下だろ。あいつが処分すりゃいいじゃん」
「そうだよねーー」
「そこまで考えられねえのか、ヒョロ太子め」
 琉生斗は呆れて溜め息をついた。
「前から思ってたけど、あの家族終わってんなー」
「王族だからね。家族以外に関わる人が多いと、あんな風に拗れるんじゃない?」
 ふむ、と琉生斗は鼻を掻いた。
「まあ、いいや。おれアレクについて、クリシュナ領地の視察に行くわ」
「はいはい」
 殿下が家出かー、兵馬は理解した。
「そうだ。アンデラ山の付近の山で、葛城にやれそうなとこやって」
「了解ーー」
 兵馬は複雑な表情を浮かべた。




「殿下の領地?」 
「そうそう、北に土地持ってんだ。そこの視察に連れてってくれるんだー」
 嬉しそうな琉生斗に、東堂は安堵した。
「良かったなー、息抜きも必要だからな」
 兵馬は苦笑いだが、たしかに琉生斗には息抜きが必要だ。
 そんな三人を意味あり気に見ているのが、将軍達だ。取り分けトルイストはげっそり痩せている。
「せ、聖女様、クリシュナ領地に、なぜ?」
 まさか、そこに住むんじゃーー、とアンダーソニーが遠慮しながら聞く。 
「え、だって、おれ隠居したらそこに住むよ」
 はっ?とアンダーソニーは顔を引き攣らせた。
「だから、四十九年経ったらすぐに次の聖女を喚ぶだろ?体力的にもいつまでもやってらんねえわ。後は隠居すんの。アレクとダラダラ旅行すんだー」
「ふうん」
 兵馬と東堂は相手にしなかった。
「でもって、そのときには時空転移ができてると思うから、あっちにいって、アレクにフェラーリ運転して貰うんだー。超長い一本道ぶっ飛ばしてさー、きゃっ」
 聖女様はうっとりしている。
「あー、似合うなー」
 すげぇー似合うわー、と東堂。何かに気付いた兵馬。

「ねぇ、ルート。鉄道作らない?」
 琉生斗は手を叩いた。
「いいな、それ!魔法で走るんだろ!」
「フェラーリも殿下なら作れるよ」
 ホームセンターから、指輪、自動車工場まで、オールマイティーすぎる旦那様である。
「計画書書いてこい!」
「オッケー。ジュナ王太子にも、南の大河に橋をかける打診をされてんだけどー」
「昇開橋?跳開橋?」
「鉄道がくるなら、はじめから練り直しだなー。陛下に許可とってよ」
「ほいほい」
 琉生斗はにやにやした。
「今ならなんでも聞くだろうなーー」
「おまえ本当に聖女じゃなくて悪女だな」
 東堂は、琉生斗を小突いた。
「いいじゃん、どうせなら則天武后や西太后になりたいね」
 琉生斗は笑った。



「陛下、ごきげんいかがにございますか?」
 謁見を申し込んだ琉生斗に、アダマスはすぐに飛び付いた。
「ルート、待っていたぞ!」
 おれは伝説の勇者か、と琉生斗は突っ込む。
「はいはい、アレクの事は任せときなさい。それより、これ、よろしく」
 琉生斗は兵馬の書いた計画書を、アダマスの前に置いた。
「鉄道計画書?」
「うん、とりあえず、南からバッカイア帝国に入れる線」
「な、なぜ?」
「うん。魔法が使えない人が、気兼ねなくあちこちに行くための異動手段が欲しかったんだよ。転移魔法が使えないと、不便な人が多いだろ?特にバッカイアの北にある巨大遊具施設なんか、行きたくても行けないって言ってる人が多いから、ラルジュナ王太子と相談して橋を架けようか、って相談してたんだけど」
 勝手に決まってんの、それ?
「鉄道作って、魔導列車を走らせたら、絶対いいと思うんだよ、なぁ?」
 琉生斗は兵馬の造った鉄道模型を、アダマスの前に並べた。線路を並べてゼンマイの列車が動く。パボンが面白そうにそれを見ている。
「わ、悪くはないなぁー」
「あっ、費用は全部アレクが出すから大丈夫ー。ティンさんも魔導具室長も協力してくれるからー」
 そこまで決まってんの?アダマスは呆然自失だ。
「まぁ、すべての責任をアレクセイがとるなら好きにせいー」
 と、言った後、アダマスはハッとして琉生斗を見た。
「だな、すべての責任が取れなきゃ、口なんか出すもんじゃないな」
 アダマスは息を吐いた。
「ルートはどうしたい?」
「いや、雑魚には興味ねえし」
 琉生斗はばっさりと切り捨てた。
「ただ、おれに任せてくれるんなら、悪いようにはしねえけど?」
 自信に満ちた言葉に、アダマスは頭を下げるしかなかった。その後ろで、パボンは安堵したように息を吐いた。
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