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強国バルド編 (ファンタジー系)
第14話 世界聖女連盟 1
しおりを挟むきてしまった。
とうとうきてしまった。
痛いネーミングの、寒いネーミングのこの会合がーー。
その名も、世界聖女連盟ーー。
「ダッセー!」
東堂は笑い死ぬのではないかと言うぐらい、笑っている。
兵馬は、そんなもんじゃない?とあっさりしたものだが、美花も少し吹き出しそうになっている。
「うるせーわ!」
こんちきしょう!
「聖女様、動いてはいけません」
聖女の縫製室長マーサが、琉生斗を嗜めた。
黒縁メガネが似合う、三十代後半のキャリアウーマンである。
当日の衣装の最終確認だ。
いつもより、光沢のある白銀の法衣に、今回は腰紐ではなく、銀の飾りベルトだ。
下の飾り布は、前はいつも通りだが、後ろ布はタックをとって、中央に向かって長めに垂らされている。ズボンは履いているものの、後ろから見たらスカートだよな、と思わなくもない。
「なんだかなー」
「こちらの髪飾りは、少々合いませんわね」
アレクセイがくれたアレクサンドライトの髪飾り。
「いやいやつけといてよ。頭なんかすんの?」
「頭巾を被りますでしょ?」
白の頭巾を持ち上げて、マーサの娘で、助手のオリビエが答えた。
「あー、かったりー。半パン、ランニングシャツが懐かしいぜ」
「それは言えるー」
「なんでぇ、兵舎じゃ俺らは裸みたいなもんだぜ」
琉生斗と美花は顔を見合わせた。二人は同時に疲れた笑みを浮かべる。
「葛城もかー」
「そういうあんたもなのー」
二人は、心が通じた。
「初日に、風呂あがりパンイチでいたら、アレクに注意された」
「あたしらも、お風呂あがりにバスタオル巻いてうろうろしてたら、メイドさんに怒られたわ」
二人は声を合わせる。
「淑女ってなんやねん~~」
見事にハモる。
「以来、いつでも上下着てます。風呂あがりもNGです」
「女兵舎もそんな感じよ」
「僕、パンイチ、バスタオルのみなんてホント無理」
兵馬が冷静に言う。
「っていうか、東堂。あのとき、女子とは別だったのか」
まぁそりゃあそうだろうが、と琉生斗が尋ねると、東堂は悲しそうに俯いた。
「部屋の壁の向こうに、バスタオルのみの花蓮がぁ」
「東堂ーー!」
「なんでだよ、花蓮!おまえは俺の花蓮だろ!」
東堂は泣き叫んだ。
「おれの花蓮だよ」
琉生斗は冷静に言う。
そんな、馬鹿二人に兵馬は突っ込んだ。
「王太子の花蓮だよ」
「「くそぉぉぉーーーー!」」
悔しさをにじませて、琉生斗と東堂は叫んだ。
「おまえは、不倫になるから駄目だろ!」
「離婚したら、再婚する予定だったんだよ!」
「何十年後だよ。しかも、兄嫁ってどろ沼じゃん」
東堂は呆れた。
「はぁぁー。花蓮いないんじゃ、俺もこっちで嫁さん探そう」
「葛城はいいのか?」
「ファウラ様女はなー」
「何の話よ!」
美花が真っ赤になって怒る。
「まぁ、おまいさん。おまいさんは女子だから、ちゃんとコンドーー」
「うっさいわー!このエロ聖女!」
ハンガーが琉生斗の頭に飛んだ。オリビエが受け止める。
「お、オリビエさんすげぇー」
「元魔法騎士ですので」
結婚と同時に引退し、母の手伝いを始めた。
「まぁ、お綺麗ですわ」
オリビエが溜め息をつく。
「聖女様は目力がありすぎですから、明日はアイラインを入れて、少々柔らかくしましょうね」
「きっつい目なんでねーー」
綺麗と言われてもねぇー。いや、今更カッコいいと言われても微妙ですがーー。
ドアをノックする音が聞こえる。
「どうぞ」
と、マーサが答えると、ドアが開き、美の化身のような青年が姿を見せる。
「あら、アレクセイ殿下。終わりましたの?」
黒の騎士服には着替えているものの、前髪があがっている。
「もう、お写真を撮ろうと思ってましたのに」
「すまない」
「明日にしますわ」
琉生斗は照れた。アレクセイは、汗をかくと前髪をあげたりするからだ。
その色っぽい事、カッコいい事、こっちはご臨終である。
「あっ、ちょっとルート!」
美花が琉生斗の鼻をハンカチで押さえた。
「おい、おい、旦那様見て鼻血って、欲求不満なのかーー?」
殿下に限ってそれはなさそうだが。意外と籍入れたら落ち着いちまったとかなーー。
「大丈夫か?」
旦那様が心配そうに近付いていく。
「平気ーー。すまん、葛城」
「ーーそれ返されてもー」
「はい、ルート鼻栓」
琉生斗は兵馬に鼻栓を詰められた。旦那様の前で鼻栓とは、まぁ、恥ずかしいわんー。
「服、白なんだからーー。気をつけないと」
美花は服の心配をした。
「大丈夫ですわ。シミ抜きしますからー」
マーサが優しく言う。彼女の事を、お母さんてこういう感じなんかな、と琉生斗は思ったりしていた。
「明日は、殿下と陛下と王太子が行くんですよね?」
こいつはもちろん、と東堂が琉生斗を指差した。
「教皇も一緒だ」
東堂と美花も護衛として加わる事になっている。
「ホント、憂鬱だ」
琉生斗は溜め息をついた。
「聖女様、絶対に約束して下さい」
教皇ミハエルは法衣を翻して、琉生斗に念を押した。今日は、時空竜の女神様をモチーフにした、教皇の銀色の錫杖を携えている。
「なんだよ」
琉生斗は剥れている。
「はい、まずそれ!そういう口調はなしです。っていうか、口を開いてはいけません。私がご紹介するときでも、お辞儀だけ。目線は斜め下。特定の方向も、見てはいけません。会合中は誰かと視線を合わせても駄目です」
「なんじゃそりゃ」
「行けばわかりますよ。絶対に興味を持たれないように、空気になって下さい。無事に帰りたければね」
「はぁ」
大袈裟だなー、と琉生斗は思っていたのだがーー。
「廊下などで呼び止められても、私が相手をしますから、アレクセイ殿下の後ろに隠れているように」
「わかった、わかった」
そんな事よりーー。
濃藍のジャケット姿のアレクセイにノックアウトされている聖女様は、隣に立っている旦那様に抱きつきたくて、抱きしめられたくて、たまらなくて困り中である。
ーーカッケーな。あんまり並びたくはねぇけどーー。
自分の容姿など気にしたことはないが、アレクセイと比べると、ホントたいした事がない。
「ちゃんと聞いておられますか!各国の紹介のとき、何を言われれても聞かれても黙っていて下さい」
反射的に答えそうだ、と琉生斗は思った。
「ルート、今日だけはおとなしくするんだぞ」
アダマスにまで念を押され、琉生斗はげんなりした。始まる前からどんだけ疲れさすねんーー。
「はい!」
ヤケクソの返事である。
「けどさ、ミハエルじいちゃんは、先代の初っ端知ってんの?」
「当時の教皇トロウェル様に聞いたことしかありませんがーー。まず、視線が一点集中」
「あぁ。そうなんだ」
ピアノのコンクールよりえげつないのかな、と琉生斗は思った。
「そのときはスズ様は婚約はされてましたが、まぁ大国ラズヴァンダとミッドガル帝国が大喧嘩になったそうですよ」
「ーー婚約じゃ弱かったのか」
「ええ」
「どうなったんだ?」
「コランダム殿下と決闘して、負けたそうです」
カッコいいわーー。さすがだわーー。
「じゃあ、まぁ大丈夫か」
「そうですね。よっぽどのあほじゃなければ、アレクセイ殿下には喧嘩はうらないでしょう」
「もちろん」
アレクセイは琉生斗の手を取り、キスをした。
美花がうっとりしている。後ろに控えているルッタマイヤとマリアもうっとり、きらきらしている。
「では、後は任せだぞ、アスター」
「はい、兄上、聖女様、いってらっしゃいませー」
転移魔法で、今回の開催国であるアジャハン国に到着する。
目の前を、長い大階段の上に、途方もないほど巨大な神殿がそびえ立つ。
「まさか、魔法がーー」
琉生斗が呟くと、アレクセイが頷いた。
「ここからは魔法が禁止される」
「なんで階段の上じゃないんだよ」
「大丈夫」
「大丈夫なわけあるかい」
こちとら万年ケツ痛病だーー。
アレクセイと共に階段を乗り越え(引っ張ってもらい)、琉生斗は長い大階段を登り終えた。
「アレクセイー」
バッカイア帝国、王太子ラルジュナが入口付近で待っていた。
一言で言い表すならば、容姿も服装も派手な男である。星かと思うぐらいキラキラした垂れ目の瞳、整った顔。ジャケットは生成り色なのだが、装飾品の数が異常だ。
何本もかけられたネックレスに、すべての指にはまる指輪。頭の飾りも宝石をタッセルのようにして垂らしている。
「眩しいな」
「いやだ、誉めないでよ」
アレクセイは嫌味で言うのだが、彼には伝わらない。ラルジュナも、ここでのルールがわかっているのか、陛下やクリステイルとは挨拶を交わすが、琉生斗と目を合わせようとはしなかった。
アジャハン国の国宝とも言われるマグナス大神殿。神話の時代から残る大きな柱と、女神様達の彫刻をそのままに、中は迎賓館として使えるように、改修されているそうだ。
天井の高さもそうだが、壁の彫刻や窓の造りまですべてが芸術品の建物だった。
琉生斗は好奇心を抑え、無心で歩いた。
とにかく、無事に終わりますようにーー。
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