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不穏なる鳴動編

第12話 琉生斗と兵馬と美花 ☆やや18禁

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 薄々は気付いていたが、アレクって性欲やばくないかー?



 その日の朝、琉生斗はサントの花に水をあげていた。後ろから抱きつかれたので、鍛錬から帰ってきたアレクセイだな、と振り向く。
 彼はそれよりも早く、琉生斗の首の後ろにキスをした。

「ひゃあ!」

 変な声が出た。

「ルート……」

 せつなげに名を呼ばれる。唇が首筋を這っていく。

 ちょっと待ってくれよーー、今日の予定が素早く脳裏にあらわれ、琉生斗は拒もうと身をよじった。

 だが、アレクセイの鍛錬後の身体の熱さに包まれていると、自分の身体が反応してしまう。

「ーーアレク」

「何だ…?」

 優しく問われ、はっきりと返す。

「十五分しかねえ。時間押したら夜はねえからな」

「わかった」

 

 ソファの上で服を脱がされ、夜の行為の名残に潤んでいる孔に、手早く挿れられる。

 意外に最低だなーー、と思わなくもないが、彼いわく、「ずっとルートと繋がっていたい」のだから、時間があればこうしたいのだろう。もっとも、アレクセイの場合、比喩ではなく事実なのだから困ったものなのだが。

「ルート、愛してる……」

「うんうん。おれも」

「ーーー……」

 返事が気に食わなかったのか、アレクセイは腰を激しく動かしてきた。
 だが、琉生斗としても脳を冷静に保っておかないと、すぐに快楽に負けてしまうのだ。

 その結果ーー。

「あん!いいっ!アレクぅー」

 やらしい声が自然に出る。何でだろうなー、と琉生斗は思うーー。 

 絶頂に達するときだった、アレクセイは孔から強引に抜いたものを、琉生斗の口に含ませた。

「!」

 液が口の中に出される。

 琉生斗はアレクセイを睨みつけた。

「ーー最低だな」

 下半身の疼きが止まらない。もうちょっとでイケたのにーー。琉生斗は口から垂れたものを拭った。その匂いにも感じてしまう自分がいる。

「どうする?」

 アレクセイの美しい双眸が、楽しげに揺れた。

「挿れろ」

 琉生斗の言葉にアレクセイは笑った。

「かわいく言ってほしい」

 くそが!

 とっときをかましてやんぜ!びびんなよ!





「ーーねえ、アレクぅー、アレクのちょうだぁいー……」

 上目遣いだ、どうだこの野郎ーー。



 と、身体を張った琉生斗だが、威力が抜群すぎてすぐに後悔することになった。

 





「まぁ、聖女様。ピアノを弾いてくださるんですの?」

 王妃ラズベリーは可憐な少女のように、うっとりとしている。申し込んだ時間よりかなり遅れるという失礼な嫁だが、気にする様子もない。

 アレクセイが、遅れると、連絡してくれたおかげなのだろうが。

「えぇ。その代わりお願い聞いてくれます?」

 琉生斗は手を合わせた。

「どんな事ですの?」

「お兄さんも音楽が好きですよね?」

 琉生斗の問いに、ラズベリーは頷いた。

「ええ。カレンさんの歌も、聞きに行ってますのよ」

「呼んだら、来ていただけませんか?」

「あら、よろしくてよ」

 ラズベリーは、すぐに手配をしてくれた。

「では、この日、コンサートホールでお待ちしております」

 琉生斗は招待状を渡すのに、優雅にお辞儀をした。





 王宮内にあるコンサートホールは、当たり前の事だが、王族や貴族が楽しめるような造りになっている。

 ゆったりとした座席は言わずもがな、美しい装飾、壁面には低音までも反射する天然木が使われ、ヴォールト天井と呼ばれる、アーチを平行に押し出した形状を特徴とする天井様式は、どこまでも音を美しく響かせる。



 ステージの真ん中にピアノは置かれていた。

 琉生斗は進んで行って、立ち止まり、お辞儀をする。

 拍手が起きた。



 真正面に国王夫妻、とハーベスター公爵であろう人物が座っている。左側には、クリステイルと花蓮。その後ろに、ミントとセージとアスター。

 右側には琉生斗の旦那様が、紺色のウエストコートを着て座っている。髪の毛もあがっていて、琉生斗はすでにノックアウトされている。

 琉生斗の衣装は、黒一色だ。とはいっても、黒地に牡丹の大きな柄が刺繍で入り、飾りボタンが中央に付いた、中華服のような見た目だ。

 タキシードはもう着れないらしい。

 かといってドレスなどご勘弁である。

 色々選択肢が絞られて、着られる服がどんどん無くなっていく。最終的にズボンもどうか、と言われたが、そこは最後の砦だ。マーサに泣きついて、許してもらった。



 琉生斗はピアノの前で構えた。

 ひと呼吸つく。



 自分のタイミングではじめる。



 はじまりは小さな前奏。そして鐘の音が響き渡る。指の走りに、驚く息が聞こえた。



 リストの『ラ・カンパネラ』

 

 さぁ、驚いて下さいよーー。これは見る方が楽しいですからねー。

 

 琉生斗は鐘を叩く。黒鍵を指が飛ぶ。

 飛んで、飛んで、自分も最高に楽しめる曲だ。

 こんなに、綺麗な音が出るピアノは、はじめてだ。神殿で使ったものよりも、素晴らしい音色を響かせてくれる。

 繰り返し登場する音、レ♯。これが鐘の音を表す音。鐘の音を強調するかのように、キラキラとした世界を紡いでくれる。
 あまり手は大きくないが、指は長い方なので、3音もピタリと弾く。鋭い鍵盤感覚で、鍵盤を見ることもなく、指を飛ばす。

 天井へ響く音。

 何より、観客が魅了されているーー。

 曲自体は短めだが、インパクトは強い。

 揺れる鐘を聴かせた後、終幕は駆け抜けるように、指が暴れる。琉生斗の指は鍵盤を飛び続けた。

 

 最後の1音を鳴らし、指をピアノから離し、呼吸を整える。



 あれ?拍手ないーー。

 まぁ、いいかー。



 少しさみしい気持ちもあるが、琉生斗は2曲目の準備に入ろうとしてーー。

「すごいわー、さすがルートくん!」

 花蓮が手を叩いてくれた。

 ありがとう、おれの花蓮ーー。

 そう思ったとき、ラズベリーが立ち上がって、

「素晴らしいですわ!聖女様!」

 と、頬を紅潮させて誉め称えた。

 琉生斗はにっこりと微笑んだ。ちらり、とアレクセイの方を見ると、彼の目が、自分を見る目が、ヤバいほど潤んでいた。

 なんだ、あいつーー、乙女かーー。

 

 2曲目

 ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第14番《月光》第3楽章。

 ベタな選曲だが、こちらにはない音楽だ。

 とにかく技巧を見せつける。楽章はまさに「激情」とも言える楽章、終始激しく指が動き回る曲だ。

 指の動きに、驚くような気配を、琉生斗は感じた。



 3曲目

 ショパン ノクターン 第8番 Op.27-2



 言わずと知れたショパン大先生のピアノ曲。

 身分の高い彼女に捧げたことから、「貴婦人の夜想曲」と呼ばれることもある。

 左手の伴奏形が難しく、大きな跳躍を含む分散和音の伴奏型が用いられている。
 右手の単旋律で見られる装飾的変化も印象的で、非和声音を盛り込んだ即興的なパッセージ、演奏が進むごとに、それらのパートの使用頻度が高くなっていくため、体力的にもきつい曲だーー。



 さすがに飛ばし過ぎたなーー。

 

 練習不足で申し訳ないーー。



 曲が終わると、琉生斗は立ち上がってお辞儀をした。

 ラズベリーが、残念そうな顔をしている。もっと聴かせて欲しい、と目が訴えてくる。





 そのとき、ステージに、ヴァイオリンをもって、兵馬と美花があがってきた。兵馬はタキシード、美花は薄い水色のドレスを着ている。

 三人で揃ってお辞儀をする。

 場が少しざわめいている。

 4曲目

 ビバルディ 協奏曲第1番ホ長調 RV 269「春」

 ヴァイオリン二人に、ピアノしかいないので、琉生斗の編曲により、奏でられる。

 ない楽器をピアノで補うが、ピアノにできないことはない、と言われるぐらい、うまく曲を弾いている。

 そして、驚くべきは、双子のシンクロ率である。

 音のユニゾンの気持ちの良い音色に、皆が酔いしれる。高音の伸びやかさ、明るい音色、春の暖かさや、突然の嵐など、表現力のいる曲だ。

 

 三人の息が合った演奏に、アレクセイは少し嫉妬する思いをした。



 5曲目

 ビバルディ 四季 4. 協奏曲第4番 「冬」 第2楽章。

 続けて、冬を演奏する。

 美花のもっとも得意な曲でもある。

 

 満ち足りた静かな日々を暖炉の前で過ごす

 外はと言えば雨が降りしきっている



 弦をはじく音、ピチカートが雨の音を表現する。美しく響くヴァイオリンの音色。



 優しい冬を、表現する二つのヴァイオリン。

 伸びやかに、澄んだ音が美しく奏でられる。

 最後まで弾き終わると、割れんばかりの拍手と賛辞が沸き起こった。



 三人は頭を下げた。

「もう一曲だけ、ねっ?」

 ラズベリーに可愛くせがまれては、やらないわけにはいかない。

 琉生斗は元気になった。

「どんな曲にしましょうか?」

「ラ・カンパネラがいいですわ~」

 琉生斗と兵馬は視線を合わせた。

「よし、ガチンコだな」

 琉生斗は指をほぐした。

「僕の速さにはついてこれないでしょー」

 兵馬は、ヴァイオリンを構えた。美花も、やれやれ、という顔で構える。



 曲がはじまると、全員が釘付けになった。

 兵馬と美花の正確無比の弓さばき、琉生斗の速弾き。三人が自分を見ろ、と言わんばかりに音を奏で、響かせる。


 ピアノの音色がコンサートホールを揺らさんばかりに響く。澄んだヴァイオリンの音色が重なり、一つの音のように聞こえる。

 この速さで、ピタリと合わす。この双子の面白いところはここだよな、と琉生斗は思う。

 弓の動きのシンクロに、観客は目を丸くしている。

 鐘が鳴る。鳴り響くーー。

 荒れ狂うエネルギーが、彼らから奏でられていく。

 琉生斗の指が面白いぐらいに速く飛ぶ。





 終わるのが勿体ないぐらいの、鐘が鳴りやんだ。



 ふぅー、誰かが息をついた。



 その後を拍手が追った。
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