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ルートとアレクセイ編

第74話 来世でも一緒になると誓おう☆

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『おれは、おまえと会えてよかった。大好きだった』




「殿下ぁ!」

 治療室にヤヘルが飛び込んできた。

「何事だ!」

 アダマスが怒りを見せた。

 ヤヘルは陛下の方には行かず、アレクセイの側に走り寄る。

「殿下!大変ですぞ!セージ殿下が、聖女様に告っておりましたぞ!」

「なんと、それは一大事!」

 アンダーソニーまであらわれる。

「殿下!よいのですか!まだまだしたい事、あるでしょう!!」

「そうですわ!わたくし達、アレク✕ルート派ですのよ!セージ✕ルートはありえません!」

 ルッタマイヤとマリアが、力を込めて叫ぶ。

「妻よ」

 パボンは嘆いた。

「おまえ達!ここから出て行け!」

 当然、アダマスは怒った。ここまでの激昂は、今までなかっただろう。

「出ていきません」

 アンダーソニーがきっぱりと言った。

「我らは、陛下に忠誠を誓う魔法騎士」

「なればこそ、主君の過ちは、全力で阻止致しますわ!」

 扉の外からも、兵士達の声があがった。

「殿下ぁーー!しっかりして下さい!」

 東堂が叫ぶ。

「がんばって、ルートの危機よ!殿下ぁー!」

 美花も声を枯らす。

「聖女様の為に!」

「殿下ぁぁ!」

「「「「殿下ぁぁぁぁぁ!」」」」

 兵士達の叫びは、いつまでも続いた。







『なぁ、アレクーー』





『ーー来世でも、一緒にならねえか?』





「ーーああ。もちろんだ」

 


 アレクセイは起き上がった。

 すぐに何かに気付き、彼にしては珍しく苛立った表情を見せた。

「クリス」

「はい!」

 クリステイルは大粒の涙を流し、鼻をすすりながら、兄に剣を渡す。

「行ってくる」

 魔法で服を替え、アレクセイは消えた。



 眼の前で、アレクセイが起き上がるのを見た兵馬は、突然すぎて固まっている。

「??ーーー?」

 兵馬はまともに話せない。

 アダマスも、呆然としたまま、口を開けている。

「どこにー?」



「決まってますぞ」

 ヤヘルは頷いた。

「愛の力ですわー」

 ルッタマイヤとマリアは乙女の眼になる。

「さすがは、ルート様ですな」

 アンダーソニーが頷いた。



 扉の外では、皆が笑い、抱き合い、殿下の回復を喜んでいた。





 



 ストームドラゴンが、牙を振り下ろすときには、すでに琉生斗の中に、恐怖はなかった。



 神風のように、彼は現れた。

 琉生斗を抱き寄せ、燃える剣を振る。

 

 ストームドラゴンの身体が、真っ二つに割れた。



「げっ」

 セージが苦虫を噛み潰したような顔になる。

 

 ティンは、笑顔を見せた。



「アレクゥーー」

 琉生斗はアレクセイに抱きついた。

 きつく、きつく抱きついた。

「ルート、怪我はないか」

「あるわけないだろ、おまえがいるんだからー」

 アレクセイは琉生斗をしかと抱きながら、思いきりセージを睨みつけた。

「ちっ。もうちょいだったのに。素直に死んでろよ」

 悪態をつくセージを、アレクセイは睨みながら、琉生斗にキスをする。

「ちょ、おい。人前だろーー」

「かまわない」

 勝ち誇った表情で、セージを見る。

 セージは、やさぐれた。

「陰気!陰険!マジで死ね」

「おまえが死ね」

 はじめて見るアレクセイに、琉生斗は、かわいい、と感じた。

 ーークリスとはやんねえのに、セージとはケンカすんだー。
 すげぇー、かわいいー。

 東堂が聞いたら、おかしんじゃね、と言うような事を琉生斗は考えている。

「身体は大丈夫なのか、アレクセイ」

 ティンが、姿隠しの魔法を解いていた。

 セージが、えっ?という顔をする。

「聞いていないのか、父上の従兄弟殿だ」

「はぁ?」

 魔導師室長がーー?

従叔父じゅうしゅくふ殿だ」

「また、オレだけ除け者?」

「安心しろ。ミントもだ」

「あのバカ女と一緒にすんな。おい、あいつルートの事バカにして、ヒョロ兄貴から平手くらってたぜ。あのヒョロ兄貴が、だぜ」

「やるな、クリス」

 何なんだろ。仲良しなのか。

「そもそもルート。知らない人にあれだけ近づくなと言っているだろ」

「アレクの弟だろ」

「前に、ルートのコップに金属片を入れたーー」

「わああぁー。あれ、なし。なしにしてよ、ルート」

 セージがかわいく微笑む。

 本当の弟に見えて、琉生斗は少し嬉しい。

「どうした」

 笑っているのがバレたらしい。

「いや、おれ、末っ子だから、弟っていいなぁ、って思ってさ」

「はぁー。弟じゃねえよ、旦那さんだろ」

「消えろ」

「うぜー」

「はいはい。遊んでないで、帰りますよ。アレクセイ、帰って落ち着いてからでいいので、説明をお願いしますよ」

 ティンが呆れたように話す。

 セージは、へっ?と不思議そうな顔をした。

「はい」

 アレクセイの、その美貌がさらに凄みを増したようにティンは感じた。







「アレク、ちょっと待って、なぁ」

 服をはがされる。

「ルート、こんなに痩せて」

 アレクセイが、琉生斗の身体を触って溜め息をついた。

「だから、体力がー」

「何もしなくていい」

 そういう訳にはいかないだろうーー。



「じゃあ、アレクにくっついとく」

 琉生斗は甘えた。



 そして、後悔したーー。



「頼むから、やーー!あん!あっ、あん!こらぁ!」

 琉生斗は逃げ遅れたーー。



「ドラゴンより、おまえの方が凶悪だぁ!」



 くそっー。



 くそっー。

 

 大好きだあぁぁぁぁぁぁ!






 ーー陛下が、呼ばれても来ないそうだ。

 ーーなんでも聖女様のお身体が、悪いらしい。


 アダマスは溜め息をついた。

「アレクセイは?」

 パボンに尋ねるが、首を振られる。

「殿下がお悪いんでしょ?」

 

 みんなひどくないーー?


 

 聖女が体調を崩したと聞いた国民からも、心配の声があがっている。
 何かお好きなものはないか、と兵士達からも、東堂達は詰め寄られた。



「あいつ、すげぇー人気だな」

「あたしも質問攻めで、しんどい」

 東堂と美花はぐったりしている。

「兵馬どうしたよ」

「あいつ、殿下の補佐官になったのよ。領地視察とか、殿下の代わりに行ってるみたい」

「ようわからんが、出世したなー」

 美花は水を飲んだ。

「そのうち税金の横領とかしないかしら」

 東堂は爆笑した。

「それにしても、腐れ聖女、町の人にも人気だな」

 人気職か?

「病気の人の支援とか、子供の保護とか、赤ちゃんに加護を授けるとか、あれだけ色々やればねえーー」

「ぷっ」

「何よ」

 東堂は吹き出した。

「あんだけ最初から聖女な奴も珍しいよな」

 美花も頷く。

「ねぇ、6分の1の確率なんて、最初からなかったわよね」

 ほんとーー。





 しばらくして、先帝スフェーンの崩御の知らせが、神聖ロードリンゲン国を駆け巡った。

「えっ?おじいちゃん?おじいちゃんが、亡くなったの!」

「あぁ」

 黒の礼装にアレクセイは着替えた。

「そりゃ、そうか。おまえの親父若いもんな」

 お祖父さんも、そこまで歳ではなさそうだ。

「危篤のときとか、行ったのか?」

「元々、私は祖父の宮には入れない。卑しい身分の者はお好きではない」

 はぁー。この家族も闇が、ふけーなーー。

「コランダムさんのお兄さんなんだろ?」

「顔しか似てない」

 コランダムさんは、立派な方だったんだろうなーー。

 琉生斗は返答に困った。

「おれ、行かなくていいのか?」

「国葬ともなると、三日かかる長丁場だ。今のルートの体力ではもたないだろう。埋葬した後にーー」

「あぁ、お参りだけ行くよ」

 自然にそう言ってくれる。会った事もない自分の祖父にーー。
 その天性の気遣いに、アレクセイは常に救われる思いを抱く。

 長い間、キスをして、アレクセイは出て行った。


 

 アレクセイの気配が完全になくなると、琉生斗は深い溜め息をついた。

 食事がとれない。

 食べるが、すぐに戻してしまう。

 無理して飲んでいた栄養剤の副作用なのか、琉生斗の身体は食べ物を受け付けなくなっている。



 思っていたよりも、心身共に、ダメージが大きい。



 いや、まあ、そうかーー。



 恋人を失いかけたんだ、これぐらいですんで、ラッキーだと思わないとーー。



 お皿の上にはりんごのすり潰したものが、途中で放置されている。


 子供の頃、やってもらえなかった事を、この歳になってはじめて経験するとはーー。

「病気になってもほられてたのになー」

 一匙にも満たない量を口に運ぶ。

 うっ、ときて琉生斗は食べるのを止めた。



 今じゃ国民の皆から心配される身だ。



 与えられただけ、返せる人間になりたいー。


 いや、
 

 与えられなくても、与えられる人間になりたいー。


 

 聖女の証が、ほんのりと光った。



「ん?何、女神様。超今更だなー」



 鱗外ソウカーー。


 ん?


 身体キツイーー。


「えっ、それでなの?」

 じゃあ、慣れるまでこのままなんだ。まじかよ。



 恋人を失いかけて、とかロマンチックな理由じゃなかったのか。ちょっと残念。

「おれ、食には卑しいから、変だとは思ったけど」


 小さい頃は、親父によく飯抜きにされたなーー。たまに、ゴミみてーな飯食わされたけど。

 ばあちゃんもそんときは助けてくれなかったー。


「どこの馬の骨ともわからぬ身の上でーー」

 とか、ドラマでよく聞くけど、両方親が揃ってる時点で、どこの馬の骨でもないだろうにーー。


 卑しい身分か、アレクもきついだろうな。自分は関係ないのにーー。


「で、どうしたらいいのよ。おれ」


 琉生斗の目の前に、小さな小瓶が現れた。

 ことっと音がなった。



 水ノムトイイーー。



「ありがとうー。女神様」

 琉生斗は小瓶に入った水を飲んだ。

 すっ、と身体に馴染んでいく。

「うまいーー。ありがとう、女神様」


 アンデラ山ノ山頂水ーー。


「あー、だいぶ元気出たー」

 琉生斗は伸びた。

「女神様、アレクに何したんだ?」

 嫌いだから、とかじゃないだろ、と琉生斗は続ける。



 本人ワカッテルーー。



「あ、そう」

 琉生斗は地図を見た。

 アンデラ山、アンデラ山ーー。

「クルセイド遺跡に近いんだーー」
 琉生斗は眉根を寄せた。


 楽シイ国ーー。

「へぇー」

 行こうかなーー。


 イイヨーー。



「へっ?」


 景色が、変わった。

 雪景色ではない。

 目の前を、薄い衣服の者が通り過ぎていく。

 肌はやや濃い茶色。行き交う人々の顔も、彫りが深い気がする。



 女神様に縋った。

 反応がないー。



 じゃあ、

 琉生斗はアレクセイの名前を必死で念じた。



 反応がないーー。

 何かに阻害されている。



 しかも、アレクセイは葬儀の為、三日離宮に帰って来ないーー。



「うそだぁーー!」

 琉生斗は叫んだ。
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