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魔法騎士大演習編 (ファンタジー系)
第21話 魔法騎士演習準備 1
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「これは、面白そうだー」
艷やかな髭の紳士、魔法騎士団長アンダーソニー。
「いいですね。やはり演習はこうでないと」
年齢不詳の美貌の女軍将ルッタマイヤ。
「王太子殿下とは真逆ですが、わしらは大賛成ですな」
無骨な平民叩き上げ将軍、団将ヤヘル。
アレクセイの演習計画書を前に、将軍達は満足そうな笑顔を浮かべていた。
「今年の演習、アレクセイ殿下が指揮をとられるらしいぜ」
「へぇー。噂には聞くけど、実際はどうなんだろね」
魔法騎士達の言葉に、東堂は反応した。
「国一強いんじゃないんすか?」
「国境警備隊の奴らはそんな事言ってたけど。そもそもあいつらが弱いんだろ」
騎士も色々。性格も色々。
基本、アレクセイ殿下は人嫌いなため、単独で動く事が多く、将軍、大隊長クラスの騎士でないと、その実力に触れる機会がないという。
「先代の聖女スズ様が、次の聖女様付きの護衛として指名されたらしいが、強さじゃないらしい」
「なんすか?」
「アレクセイ殿下は早くから臣籍降下を願ってたからな。やめたい殿下と引き止める国王、やめさせたい元王妃様で、荒れに荒れたのを、スズ様が納めた形になった」
「なんで、王族やめたいんっすか」
「アレクセイ殿下の母親が平民だからだよ」
「親父一緒なら問題ないんじゃ」
「やんごとなき方々は、そうはいかないんじゃない」
人は自分に関係ない事はベラベラしゃべる、と東堂は思う。こちらとしても情報収集に利用しているのだから、どっこいどっこいか。
ーーダチの旦那がどんな奴かは気になるが、ダチの護衛として婚約者として、臣籍降下をやめたんなら、かなり愛されてないか、あいつ、と東堂は推測する。
神聖ロードリンゲン国は平和な国である。王城の豪華さも目を見張るものがあるが、東堂が感心したのはそこではなく、町の治安の良さだ。
いたるところ道は整備され、裏通りもきれいだ。ゴミも少ない。暗いところに溜まっている無気力な若者もおらず、公園で暮らしている者もいない。
繁華街の娼館でさえ、空気が悪くない。
先輩に誘われたが、行きたかったが、涙を呑んで断った。行きたかったのだがーー。未成年という身分が引っかかった。ここでは気にしなくていいのに。
そんな平和な国に、なぜ、軍隊があるのか。
魔物に襲われるからー。
それも理由の一つだろう。
だが、王を守り民を守るということは何からだ、とみんな言わないがわかっている。無いと他国から攻め込まれるからだ。
自国が、いくら戦はしないと宣言しようが、攻められれば、武器を取る。取った武器は使えなければ意味がない。
ーー来たのが、戦いばっかの国じゃなくてよかったよな。
ここでの暮らしは気に入っている。騎士仲間は気さくないい奴ばかりで、宿舎はまるで学校みたいだ。
訓練は大変だが、身体を動かすのは大好きなので、むしろやりがいしかない。座学だけは勘弁だが。
王都には建国時より、特別な結界が張ってあり、魔物は入れないらしい。王都以外、特に国境付近は魔物が多く出るようだが、まだ討伐に連れて行ってはもらえない。早く行きたいのにー。
「今日の午後からの訓練は中止だ。演習についての説明会になるから、大演習場に集まるように」
「「はい!」」
勇ましい声と共に、皆が立ち上がった。
東堂も、今の内に干した洗濯物をいれておかねばと、干し場に向かう。
こちらでは、魔導具の洗濯機が服を洗ってくれる。
ようは、電気じゃなくて、魔力なだけなんだよなーと東堂は思う。
環境にはとてもいいみたいで、いつも空が澄んでいる。温暖化とは縁がないんだろうなー、と夏の部活のえげつない暑さを思い出す。
「東堂」
声に振り返ると、同郷のクラスメイトが立っていた。あっちにいたときは、兵馬の姉だったが、今は同じ魔法騎士仲間として、兵馬より良好な関係を築いている。
「おぉ。美花じゃん、元気?」
「えぇ。最近愚弟がやりたい放題かましてくれてるらしくて、気が気でないわ」
兵馬が王宮に出入りしていることは、騎士仲間からも聞いた話だ。
「あの、詐欺師、何やってんだよ」
「国王に近づいてるらしいの」
はははははっ。東堂は馬鹿笑いをした。
「この国も、平和でなくなんじゃねえか」
「あの子の接近を許すなんて、ここの王様ろくでもないわよ」
はははははははっ。
「それは、そうと演習だってよ。なんか聞くと運動会みたいなものなんだろ」
呑気な事でいいよなー、と東堂は伸びをした。
「早く、実戦で戦いたいな」
「えー、戦いたいの?」
美花は目を丸くした。自分はなるべくなら行きたくない。
「おうよ!前線で戦ってみてえー」
東堂は意気込む。
元々剣道部で体力もあるし、剣術の腕はそこそこだと思っている。実戦で通用するか、やってみたいと思うのは当然であろう。
「ふーん。男ってそんなんなの?」
「そんなんだよ。あー、おまえの弟と聖女様はそんなんじゃないのかもなーー」
魔法騎士団長の説明に、その場にいた全員が驚愕した。いつものお祭り演習ではないーー。
その内容とはーー。
「エバンス山脈の麓の町までは、魔法で移動する。そこからは、演習終了まで魔法の使用を禁止する」
動揺が走る。魔法騎士が魔法を使わないとは、どういう事だ。
「三組に分けてそれぞれ大将を決め、三方向から四日間行軍し、五日目、中央附近にあるエデン平だいらで戦闘を行う。五日目の深夜0時に間に合わない組は、その場で失格。ちなみに、エバンス山脈は全長八百キロ程しかないので、一日百キロ~百二十キロ歩けば中央にあるエデン平には間に合う。地形は大いに利用可能。早く着けば地の利を取りやすい。戦闘は胸当てはするが、鎧は着用せず。頭は狙わないように。意識を失った者、怪我を負った者は、都度魔導師が回収する」
どよめきが大きくなってきている。特に若い騎士が不満を顕わにしている。
なぜ、兵士のトップたる魔法騎士が、魔法を禁止され、山を駆けずり回って戦闘を行うのだ。
「もちろん、参加は強制ではない。不参加という選択肢もある」
ーーそれは、不名誉ではある。
騎士達の心中は穏やかではない。
「だが、諸君らの基礎体力不足が近年問題になっておる。三日三晩寝ずの戦闘になった場合、体力魔力が持つ者が何人いるか……」
うっ、と下を向く者もいた。
「失礼致します。中隊長ガシュラです」
「なんだ?」
「演習の意味はわかりました。ですが、これを許可されるという事は、アレクセイ殿下も同行されるのですか?」
少々、意地の悪い言い方をガシュラはした。
大隊長クラスの騎士が、「余計な事を」という顔をした。
「我々に、これだけの事を強いれると言うことは、これ以上の実力をお持ちなのでしょうか、是非ともその実力をお見せいただきたい」
ーー誰かあいつを黙らせよ、とアンダーソニーは呟き、大隊長のトルイストとファウラは溜め息をついた。
アレクセイは、ガシュラを見ていたが、その表情からは、何の色も窺えなかった。
「アンダーソニー。この後は?」
「ーー今日は解散でございます」
「ちょうどよい。外へ出ろ」
アンダーソニーの背筋に、寒いものが走った。
「殿下!」
ヤヘルが慌てて止めるも、アレクセイは立ち上がり、扉へと歩き出す。
「おまえ達も、組を分ける参考にせよ」
黒衣の長身の言葉に、アンダーソニーは頭を深く垂れた。
「私と対峙し構えられたら、おまえの勝ちとしよう」
はあ?
頭おかしいのかこの王子、と若い魔法騎士達は思った。
「俺達もお願いできますか」
茶化すように言う者まで出てくる。
「かまわない。魔法も許可する」
闘技場にアレクセイは立った。その姿は美しい大輪の花のようだった。
艷やかな髭の紳士、魔法騎士団長アンダーソニー。
「いいですね。やはり演習はこうでないと」
年齢不詳の美貌の女軍将ルッタマイヤ。
「王太子殿下とは真逆ですが、わしらは大賛成ですな」
無骨な平民叩き上げ将軍、団将ヤヘル。
アレクセイの演習計画書を前に、将軍達は満足そうな笑顔を浮かべていた。
「今年の演習、アレクセイ殿下が指揮をとられるらしいぜ」
「へぇー。噂には聞くけど、実際はどうなんだろね」
魔法騎士達の言葉に、東堂は反応した。
「国一強いんじゃないんすか?」
「国境警備隊の奴らはそんな事言ってたけど。そもそもあいつらが弱いんだろ」
騎士も色々。性格も色々。
基本、アレクセイ殿下は人嫌いなため、単独で動く事が多く、将軍、大隊長クラスの騎士でないと、その実力に触れる機会がないという。
「先代の聖女スズ様が、次の聖女様付きの護衛として指名されたらしいが、強さじゃないらしい」
「なんすか?」
「アレクセイ殿下は早くから臣籍降下を願ってたからな。やめたい殿下と引き止める国王、やめさせたい元王妃様で、荒れに荒れたのを、スズ様が納めた形になった」
「なんで、王族やめたいんっすか」
「アレクセイ殿下の母親が平民だからだよ」
「親父一緒なら問題ないんじゃ」
「やんごとなき方々は、そうはいかないんじゃない」
人は自分に関係ない事はベラベラしゃべる、と東堂は思う。こちらとしても情報収集に利用しているのだから、どっこいどっこいか。
ーーダチの旦那がどんな奴かは気になるが、ダチの護衛として婚約者として、臣籍降下をやめたんなら、かなり愛されてないか、あいつ、と東堂は推測する。
神聖ロードリンゲン国は平和な国である。王城の豪華さも目を見張るものがあるが、東堂が感心したのはそこではなく、町の治安の良さだ。
いたるところ道は整備され、裏通りもきれいだ。ゴミも少ない。暗いところに溜まっている無気力な若者もおらず、公園で暮らしている者もいない。
繁華街の娼館でさえ、空気が悪くない。
先輩に誘われたが、行きたかったが、涙を呑んで断った。行きたかったのだがーー。未成年という身分が引っかかった。ここでは気にしなくていいのに。
そんな平和な国に、なぜ、軍隊があるのか。
魔物に襲われるからー。
それも理由の一つだろう。
だが、王を守り民を守るということは何からだ、とみんな言わないがわかっている。無いと他国から攻め込まれるからだ。
自国が、いくら戦はしないと宣言しようが、攻められれば、武器を取る。取った武器は使えなければ意味がない。
ーー来たのが、戦いばっかの国じゃなくてよかったよな。
ここでの暮らしは気に入っている。騎士仲間は気さくないい奴ばかりで、宿舎はまるで学校みたいだ。
訓練は大変だが、身体を動かすのは大好きなので、むしろやりがいしかない。座学だけは勘弁だが。
王都には建国時より、特別な結界が張ってあり、魔物は入れないらしい。王都以外、特に国境付近は魔物が多く出るようだが、まだ討伐に連れて行ってはもらえない。早く行きたいのにー。
「今日の午後からの訓練は中止だ。演習についての説明会になるから、大演習場に集まるように」
「「はい!」」
勇ましい声と共に、皆が立ち上がった。
東堂も、今の内に干した洗濯物をいれておかねばと、干し場に向かう。
こちらでは、魔導具の洗濯機が服を洗ってくれる。
ようは、電気じゃなくて、魔力なだけなんだよなーと東堂は思う。
環境にはとてもいいみたいで、いつも空が澄んでいる。温暖化とは縁がないんだろうなー、と夏の部活のえげつない暑さを思い出す。
「東堂」
声に振り返ると、同郷のクラスメイトが立っていた。あっちにいたときは、兵馬の姉だったが、今は同じ魔法騎士仲間として、兵馬より良好な関係を築いている。
「おぉ。美花じゃん、元気?」
「えぇ。最近愚弟がやりたい放題かましてくれてるらしくて、気が気でないわ」
兵馬が王宮に出入りしていることは、騎士仲間からも聞いた話だ。
「あの、詐欺師、何やってんだよ」
「国王に近づいてるらしいの」
はははははっ。東堂は馬鹿笑いをした。
「この国も、平和でなくなんじゃねえか」
「あの子の接近を許すなんて、ここの王様ろくでもないわよ」
はははははははっ。
「それは、そうと演習だってよ。なんか聞くと運動会みたいなものなんだろ」
呑気な事でいいよなー、と東堂は伸びをした。
「早く、実戦で戦いたいな」
「えー、戦いたいの?」
美花は目を丸くした。自分はなるべくなら行きたくない。
「おうよ!前線で戦ってみてえー」
東堂は意気込む。
元々剣道部で体力もあるし、剣術の腕はそこそこだと思っている。実戦で通用するか、やってみたいと思うのは当然であろう。
「ふーん。男ってそんなんなの?」
「そんなんだよ。あー、おまえの弟と聖女様はそんなんじゃないのかもなーー」
魔法騎士団長の説明に、その場にいた全員が驚愕した。いつものお祭り演習ではないーー。
その内容とはーー。
「エバンス山脈の麓の町までは、魔法で移動する。そこからは、演習終了まで魔法の使用を禁止する」
動揺が走る。魔法騎士が魔法を使わないとは、どういう事だ。
「三組に分けてそれぞれ大将を決め、三方向から四日間行軍し、五日目、中央附近にあるエデン平だいらで戦闘を行う。五日目の深夜0時に間に合わない組は、その場で失格。ちなみに、エバンス山脈は全長八百キロ程しかないので、一日百キロ~百二十キロ歩けば中央にあるエデン平には間に合う。地形は大いに利用可能。早く着けば地の利を取りやすい。戦闘は胸当てはするが、鎧は着用せず。頭は狙わないように。意識を失った者、怪我を負った者は、都度魔導師が回収する」
どよめきが大きくなってきている。特に若い騎士が不満を顕わにしている。
なぜ、兵士のトップたる魔法騎士が、魔法を禁止され、山を駆けずり回って戦闘を行うのだ。
「もちろん、参加は強制ではない。不参加という選択肢もある」
ーーそれは、不名誉ではある。
騎士達の心中は穏やかではない。
「だが、諸君らの基礎体力不足が近年問題になっておる。三日三晩寝ずの戦闘になった場合、体力魔力が持つ者が何人いるか……」
うっ、と下を向く者もいた。
「失礼致します。中隊長ガシュラです」
「なんだ?」
「演習の意味はわかりました。ですが、これを許可されるという事は、アレクセイ殿下も同行されるのですか?」
少々、意地の悪い言い方をガシュラはした。
大隊長クラスの騎士が、「余計な事を」という顔をした。
「我々に、これだけの事を強いれると言うことは、これ以上の実力をお持ちなのでしょうか、是非ともその実力をお見せいただきたい」
ーー誰かあいつを黙らせよ、とアンダーソニーは呟き、大隊長のトルイストとファウラは溜め息をついた。
アレクセイは、ガシュラを見ていたが、その表情からは、何の色も窺えなかった。
「アンダーソニー。この後は?」
「ーー今日は解散でございます」
「ちょうどよい。外へ出ろ」
アンダーソニーの背筋に、寒いものが走った。
「殿下!」
ヤヘルが慌てて止めるも、アレクセイは立ち上がり、扉へと歩き出す。
「おまえ達も、組を分ける参考にせよ」
黒衣の長身の言葉に、アンダーソニーは頭を深く垂れた。
「私と対峙し構えられたら、おまえの勝ちとしよう」
はあ?
頭おかしいのかこの王子、と若い魔法騎士達は思った。
「俺達もお願いできますか」
茶化すように言う者まで出てくる。
「かまわない。魔法も許可する」
闘技場にアレクセイは立った。その姿は美しい大輪の花のようだった。
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