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時を超えていけ!フィナーレ編
253 いつもの場所で
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「ちょっとちょっと!くっつきすぎなんじゃないの!」
「陛下、護衛をお待ちください!陛下!」
何だか背後が騒がしい。折角、綺麗な夜空をジェーンと堪能していたのに。そう思いながら振り返ると、人混みをかき分けてやって来たのは、ゴージャスジャケットが港のライトでピカピカに反射しているチェイスだった。彼に必死に追いつくように、騎士姿の人物が二人ほど、更に後方を走って来ている。
私はジェーンを見た。ジェーンは、やれやれと言った表情で、鼻でため息をついた。ついに、私の目の前にチェイスがやって来た時、リンとラブ博士が遠ざかって行った。ちょっと置いていかないで欲しかったが、彼らは、この場を見守る野次馬の最前列へと溶け込んでしまった。
「ちょっと!」と、チェイスが私とジェーンの手を引き剥がした。するとジェーンが、すぐにまた私と手を繋いだ。するとチェイスが、また引き剥がした。ジェーンがまた私と手を繋ぐと、チェイスはヤキモキした様子で、ジェーンに訴えた。
「どうしてすぐに手を繋ぐんだい?君が帰って来たのは分かる。キルディアと、共にいる為だろう?だからって、キルディアが君を選んだとは限らない。彼女にも意思があるんだ。嫌がることをしてはいけないよ?」
「はっはっはっは!」見たことないくらいに、ジェーンが愉快げに笑った。「ああ~、陛下、何でしょう、陛下なりのお祝いの言葉だと受け取って宜しいのでしょうか?事実を敢えて申すと、キルディアは、私に夢中なのです。だからこそ、私を追いかけて、過去までやって来たこと、お忘れですか?」
チェイスがジェーンを睨んだ。
「あのね、彼女が君を追いかけて行ったのは覚えてるよ………………僕が二号機を操作したんだからねっ!」
話の途中で急に早口で叫びだすからビビった。チェイスは今度、私を諭すように言った。
「キルディア、あれから僕はずっと考えていた。やはりだけど、君は、この男に騙されている。友人として、親友として、仲がいいのは分かる。それも双子のイヌのようなんだろう?アイリーンから聞いたよ。それは相当、仲が良いようだ。だけどね、恋人となると話は違う。この男は、残酷な男だ。君のことを、支配しようとしている。君はそれに、気付いていないんだ。それを僕が、助けたいの。」
やばい……どこから説得すれば良いんだ。どうしてこうなった。私は取り敢えず答えた。
「支配されていないよ。我々は独立した上で、互いを求めています。えっと……だから、心配しないでください。ジェーンと、一緒に居たいよ。」
「でもね」と、言ったのはチェイスだった。「彼は一度、君のことを置いて行ったんだよ。計画の為なら、君に寂しい想いをさせることを厭わない、そう言う人間なんだよ?」
「そ、それは「ああ陛下、」と、ジェーンが私の発言を遮った。「何も本当のことを話さずに、この世界から去り、彼女を悲しませたのは、私の落ち度です。彼女に、一生を掛けて、償うべきだ。私は、もう二度と、彼女を悲しませるようなことはしない。もうずっと、傍にいて、私は彼女を幸せにしたい。それで良いでしょうか?キルディア。」
まあ確かに、私を悲しませたのはアレだが、それも私が他の人に目移りしないためって言っていたし、彼らしくて微笑ましい。……ああ、やはり私は、末期らしい。もう、普通の人の普通の愛では、満足出来なさそうだ。私は頷いた。
「うん、それで良いです。私は、もう気にしていないよ。」
しかし陛下は私の回答をお気に召さなかったようで、ぐぬぬと歯を食いしばりながら、言った。
「じゃあ僕にも、チャンスが欲しい。一度、一度でいいから、デートして欲しい。」
いや、今の聞いてた?ねえ! 私はつい、笑いそうになったが、咳払いで誤魔化した。するとジェーンが眼鏡を中指で上げて、チェイスに言った。
「はあ、往生際の悪い皇帝ですね。ここまで話して、尚も引き下がらないとは……もう彼女が私の恋人だという事実を、まだ受け止めきれないのでしょうが。大体あなた、人のことを責められた立場なのでしょうか?時空間歪曲機を組み立てないと言う、私との約束を、平気で破っておいて。」
「えっ!」チェイスの声が裏返った。「そ、それはだって……すぐに廃棄する予定だったんだ!でも結果的に、それをキルディアが使えたんだから、それだって、正規の歴史だったんだよ?きっとだけど。……でも、僕にも少しのチャンスぐらい、欲しいよ。ジェーン、僕と勝負しよう。勝ったら、彼女とデート出来るっていうのは、どうだい?そうだね、場所は、もう直ぐオープン予定のスパリゾートで。」
「……その条件で勝負ですか。どうですキルディア、私にそのデートの行方を任せて頂けますか?勝ったら……あの水着で、一緒にプールに行きましょう。」
それでチェイスが引き下がるなら、良いか。ジェーンが絶対に勝つに決まっているだろうし、一緒にスパに行ける口実にもなる。私は頷いた。
「まあ、良いけど……。」
「よし!」チェイスが笑顔になった。「じゃあ将棋で勝負だ!」
と、ジェーンとチェイスが街へ向かって歩き始めた。私も彼らについて行く。見ていた野次馬はポツポツと解散し始めて、リン達もそろそろ帰ると言うので、私は手を振った。護衛の騎士も一緒になって、ジェーン達の後ろを付いて歩いていると、彼らの会話が聞こえた。チェイスがジェーンに言った。
「ところでジェーン、忖度って言葉は理解しているよね?」
「ああ、意味は理解しておりますが、それが何か?」
「え?知っているなら、実行してくれないと。」
「あっはっは……おかしいことを仰る。私が目上に対して、忖度をするような人間に見えますか?」
時々、ジェーンは他の人に対して、結構ドSになる。私の前では、あんなにデレデレしているのに……。ああ、早くお家に帰りたくなって来た。
「……もう良いよ、君に忖度を求めたのは間違いだった。はぁーあ、それに僕のこと、陛下って言わないでくれるかい?今まで通り、チェイスって呼んでよ。陛下って言われると、仕事のことを思い出して、ちょっと体が怠くなるんだよね。」
「ああ、そうですか、それは良いことを聞きました。陛下、将棋の腕は確かですか?」
「だから呼ばないでよ。」
「ああ、申し訳ございません、陛下。」
すごい調子良いな、ジェーン……。ちょっと笑ってしまった。港から通りに出て、歩道に入ると、護衛が今度はチェイスを前後で囲むようにフォーメーションチェンジした。何だかその動き方、懐かしい。
そして、ジェーンが隣を歩くチェイスに聞いた。
「勝負の前に、一つ、質問があります。」
「え?何だい?」
「二号機の、移動防衛システムと、時代の設定プログラムの構築です。あれは暗号化していましたが、あなたは如何様に、再現されましたか?」
「ふふっ、まあキルディアがジェーンに会えているし、うまく作動したから、そう質問しているんだよね。実は僕さ、独房の時のリンちゃんの言葉を思い出して、君が新聞紙持ってトイレに行った隙に、長くなることが分かっていたから、君のPCを盗み見たんだ。パスコードがジェーディアって、何なんだい?ふふ。解析をするまでもなく開けたよ。それでプログラムを拝見した。暗号化されていたけど、理解は出来た。僕の発明したカターク効果を、あの様に変換させるなんて、本当に脱帽。だから真似っこしたんだ。でも再現したからって、成功するかどうかは不安だったけどね。ああそっか、痕跡を完全に消してたから、僕が覗いたことに、気付かなかったんだろう?ふふっ。」
「……あなたは実に面白い人間だ。本当に、殺したくなる。」
ええっ!?そんなに!?私は驚いてジェーンを見たし、護衛の騎士達も警戒した様子でジェーンを見ていた。ジェーンが「冗談です」と、我々に伝えると、チェイスはほっと胸を撫で下ろした。
「冗談でも、もうそんなこと言わないでくれ……もう、約束を破るようなことはしないよ。その内容だって、絶対に内緒にする。ちゃんとジェーンのことを尊敬しているし、だからさ、これからも二人で、互いの鎬を削ろうよ!でもキルディアは僕のものだから、これから勝負して証明イッタァ!」
「陛下!」
騎士がジェーンに銃口を向けた。私も条件反射で、ジェーンを守る為に、光の大剣を構える仕草をとってしまった。ジェーンが、その革靴でチェイスの爪先を踏んだようで、チェイスは足の先を押さえて、悶絶していた。
「ああ、申し訳ない。わざとではありませんが、私の踵が触れてしまいましたね。以後、気をつけます。」
絶対にワザとだった。
それから我々は、近くのバーに入って、大体そういうところにはチェスや将棋があるので、それを借りて、勝負を行ったのだった。
二時間の勝負の末に、ジェーンは普通に勝った。何度か再戦を申し込まれたが、彼は断った。今度は魔工学で、と勝負の舞台を変えることにして、それからジェーンが戻って来てくれたことを純粋に祝福してから、チェイスはホテルへと向かって行った。
ジェーンと一緒にバーから歩いてサンセット通りに着くと、月明かりが海を照らしている、いつもの光景があった。つい立ち止まってしまった。いつもと同じ光景なのに、何故だか、今までで一番美しく見えたのだ。
「どうしました、キルディア。」
「……海と、月が、綺麗だなと思った。なんか、今夜は一段と、綺麗。」
ジェーンが微笑んで、その場で私のことを抱き締めた。ここに永遠があると思った。私も抱きしめ返して、彼に言った。
「頭がいいから、こうなることも、全て分かっていただろうに。」
「そう望んでおりました……しかし、あなたとこれ程、深い仲になれたのは、予想外でした。」
「嘘つけ。」
「いえ、本当です。」
ジェーンが私を引き剥がそうとした。きっと、キスがしたくなったのだろう。いたずら心が芽生えた私は、更に強く彼を抱きしめて、キスを回避した。
「ん、キルディア、ここはキスするべきです。」
「まだ、だめです。」
「んん。」
その後も何度かジェーンが私を引き剥がそうとしたが、私が離れないことに諦めたのか、彼は私を抱き締めて、頭にキスをしてくれた。それが気持ちよかった私は、顔を上げて、目を閉じた。海の音が、遠く、遠くまで、ずっと響いていた。
「陛下、護衛をお待ちください!陛下!」
何だか背後が騒がしい。折角、綺麗な夜空をジェーンと堪能していたのに。そう思いながら振り返ると、人混みをかき分けてやって来たのは、ゴージャスジャケットが港のライトでピカピカに反射しているチェイスだった。彼に必死に追いつくように、騎士姿の人物が二人ほど、更に後方を走って来ている。
私はジェーンを見た。ジェーンは、やれやれと言った表情で、鼻でため息をついた。ついに、私の目の前にチェイスがやって来た時、リンとラブ博士が遠ざかって行った。ちょっと置いていかないで欲しかったが、彼らは、この場を見守る野次馬の最前列へと溶け込んでしまった。
「ちょっと!」と、チェイスが私とジェーンの手を引き剥がした。するとジェーンが、すぐにまた私と手を繋いだ。するとチェイスが、また引き剥がした。ジェーンがまた私と手を繋ぐと、チェイスはヤキモキした様子で、ジェーンに訴えた。
「どうしてすぐに手を繋ぐんだい?君が帰って来たのは分かる。キルディアと、共にいる為だろう?だからって、キルディアが君を選んだとは限らない。彼女にも意思があるんだ。嫌がることをしてはいけないよ?」
「はっはっはっは!」見たことないくらいに、ジェーンが愉快げに笑った。「ああ~、陛下、何でしょう、陛下なりのお祝いの言葉だと受け取って宜しいのでしょうか?事実を敢えて申すと、キルディアは、私に夢中なのです。だからこそ、私を追いかけて、過去までやって来たこと、お忘れですか?」
チェイスがジェーンを睨んだ。
「あのね、彼女が君を追いかけて行ったのは覚えてるよ………………僕が二号機を操作したんだからねっ!」
話の途中で急に早口で叫びだすからビビった。チェイスは今度、私を諭すように言った。
「キルディア、あれから僕はずっと考えていた。やはりだけど、君は、この男に騙されている。友人として、親友として、仲がいいのは分かる。それも双子のイヌのようなんだろう?アイリーンから聞いたよ。それは相当、仲が良いようだ。だけどね、恋人となると話は違う。この男は、残酷な男だ。君のことを、支配しようとしている。君はそれに、気付いていないんだ。それを僕が、助けたいの。」
やばい……どこから説得すれば良いんだ。どうしてこうなった。私は取り敢えず答えた。
「支配されていないよ。我々は独立した上で、互いを求めています。えっと……だから、心配しないでください。ジェーンと、一緒に居たいよ。」
「でもね」と、言ったのはチェイスだった。「彼は一度、君のことを置いて行ったんだよ。計画の為なら、君に寂しい想いをさせることを厭わない、そう言う人間なんだよ?」
「そ、それは「ああ陛下、」と、ジェーンが私の発言を遮った。「何も本当のことを話さずに、この世界から去り、彼女を悲しませたのは、私の落ち度です。彼女に、一生を掛けて、償うべきだ。私は、もう二度と、彼女を悲しませるようなことはしない。もうずっと、傍にいて、私は彼女を幸せにしたい。それで良いでしょうか?キルディア。」
まあ確かに、私を悲しませたのはアレだが、それも私が他の人に目移りしないためって言っていたし、彼らしくて微笑ましい。……ああ、やはり私は、末期らしい。もう、普通の人の普通の愛では、満足出来なさそうだ。私は頷いた。
「うん、それで良いです。私は、もう気にしていないよ。」
しかし陛下は私の回答をお気に召さなかったようで、ぐぬぬと歯を食いしばりながら、言った。
「じゃあ僕にも、チャンスが欲しい。一度、一度でいいから、デートして欲しい。」
いや、今の聞いてた?ねえ! 私はつい、笑いそうになったが、咳払いで誤魔化した。するとジェーンが眼鏡を中指で上げて、チェイスに言った。
「はあ、往生際の悪い皇帝ですね。ここまで話して、尚も引き下がらないとは……もう彼女が私の恋人だという事実を、まだ受け止めきれないのでしょうが。大体あなた、人のことを責められた立場なのでしょうか?時空間歪曲機を組み立てないと言う、私との約束を、平気で破っておいて。」
「えっ!」チェイスの声が裏返った。「そ、それはだって……すぐに廃棄する予定だったんだ!でも結果的に、それをキルディアが使えたんだから、それだって、正規の歴史だったんだよ?きっとだけど。……でも、僕にも少しのチャンスぐらい、欲しいよ。ジェーン、僕と勝負しよう。勝ったら、彼女とデート出来るっていうのは、どうだい?そうだね、場所は、もう直ぐオープン予定のスパリゾートで。」
「……その条件で勝負ですか。どうですキルディア、私にそのデートの行方を任せて頂けますか?勝ったら……あの水着で、一緒にプールに行きましょう。」
それでチェイスが引き下がるなら、良いか。ジェーンが絶対に勝つに決まっているだろうし、一緒にスパに行ける口実にもなる。私は頷いた。
「まあ、良いけど……。」
「よし!」チェイスが笑顔になった。「じゃあ将棋で勝負だ!」
と、ジェーンとチェイスが街へ向かって歩き始めた。私も彼らについて行く。見ていた野次馬はポツポツと解散し始めて、リン達もそろそろ帰ると言うので、私は手を振った。護衛の騎士も一緒になって、ジェーン達の後ろを付いて歩いていると、彼らの会話が聞こえた。チェイスがジェーンに言った。
「ところでジェーン、忖度って言葉は理解しているよね?」
「ああ、意味は理解しておりますが、それが何か?」
「え?知っているなら、実行してくれないと。」
「あっはっは……おかしいことを仰る。私が目上に対して、忖度をするような人間に見えますか?」
時々、ジェーンは他の人に対して、結構ドSになる。私の前では、あんなにデレデレしているのに……。ああ、早くお家に帰りたくなって来た。
「……もう良いよ、君に忖度を求めたのは間違いだった。はぁーあ、それに僕のこと、陛下って言わないでくれるかい?今まで通り、チェイスって呼んでよ。陛下って言われると、仕事のことを思い出して、ちょっと体が怠くなるんだよね。」
「ああ、そうですか、それは良いことを聞きました。陛下、将棋の腕は確かですか?」
「だから呼ばないでよ。」
「ああ、申し訳ございません、陛下。」
すごい調子良いな、ジェーン……。ちょっと笑ってしまった。港から通りに出て、歩道に入ると、護衛が今度はチェイスを前後で囲むようにフォーメーションチェンジした。何だかその動き方、懐かしい。
そして、ジェーンが隣を歩くチェイスに聞いた。
「勝負の前に、一つ、質問があります。」
「え?何だい?」
「二号機の、移動防衛システムと、時代の設定プログラムの構築です。あれは暗号化していましたが、あなたは如何様に、再現されましたか?」
「ふふっ、まあキルディアがジェーンに会えているし、うまく作動したから、そう質問しているんだよね。実は僕さ、独房の時のリンちゃんの言葉を思い出して、君が新聞紙持ってトイレに行った隙に、長くなることが分かっていたから、君のPCを盗み見たんだ。パスコードがジェーディアって、何なんだい?ふふ。解析をするまでもなく開けたよ。それでプログラムを拝見した。暗号化されていたけど、理解は出来た。僕の発明したカターク効果を、あの様に変換させるなんて、本当に脱帽。だから真似っこしたんだ。でも再現したからって、成功するかどうかは不安だったけどね。ああそっか、痕跡を完全に消してたから、僕が覗いたことに、気付かなかったんだろう?ふふっ。」
「……あなたは実に面白い人間だ。本当に、殺したくなる。」
ええっ!?そんなに!?私は驚いてジェーンを見たし、護衛の騎士達も警戒した様子でジェーンを見ていた。ジェーンが「冗談です」と、我々に伝えると、チェイスはほっと胸を撫で下ろした。
「冗談でも、もうそんなこと言わないでくれ……もう、約束を破るようなことはしないよ。その内容だって、絶対に内緒にする。ちゃんとジェーンのことを尊敬しているし、だからさ、これからも二人で、互いの鎬を削ろうよ!でもキルディアは僕のものだから、これから勝負して証明イッタァ!」
「陛下!」
騎士がジェーンに銃口を向けた。私も条件反射で、ジェーンを守る為に、光の大剣を構える仕草をとってしまった。ジェーンが、その革靴でチェイスの爪先を踏んだようで、チェイスは足の先を押さえて、悶絶していた。
「ああ、申し訳ない。わざとではありませんが、私の踵が触れてしまいましたね。以後、気をつけます。」
絶対にワザとだった。
それから我々は、近くのバーに入って、大体そういうところにはチェスや将棋があるので、それを借りて、勝負を行ったのだった。
二時間の勝負の末に、ジェーンは普通に勝った。何度か再戦を申し込まれたが、彼は断った。今度は魔工学で、と勝負の舞台を変えることにして、それからジェーンが戻って来てくれたことを純粋に祝福してから、チェイスはホテルへと向かって行った。
ジェーンと一緒にバーから歩いてサンセット通りに着くと、月明かりが海を照らしている、いつもの光景があった。つい立ち止まってしまった。いつもと同じ光景なのに、何故だか、今までで一番美しく見えたのだ。
「どうしました、キルディア。」
「……海と、月が、綺麗だなと思った。なんか、今夜は一段と、綺麗。」
ジェーンが微笑んで、その場で私のことを抱き締めた。ここに永遠があると思った。私も抱きしめ返して、彼に言った。
「頭がいいから、こうなることも、全て分かっていただろうに。」
「そう望んでおりました……しかし、あなたとこれ程、深い仲になれたのは、予想外でした。」
「嘘つけ。」
「いえ、本当です。」
ジェーンが私を引き剥がそうとした。きっと、キスがしたくなったのだろう。いたずら心が芽生えた私は、更に強く彼を抱きしめて、キスを回避した。
「ん、キルディア、ここはキスするべきです。」
「まだ、だめです。」
「んん。」
その後も何度かジェーンが私を引き剥がそうとしたが、私が離れないことに諦めたのか、彼は私を抱き締めて、頭にキスをしてくれた。それが気持ちよかった私は、顔を上げて、目を閉じた。海の音が、遠く、遠くまで、ずっと響いていた。
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