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誰も止められない愛情狂編
217 おかしい二人
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調査部のオフィスで私はPCを操作している。午前中はずっと、ここで作業して、午後からは会議だ。今朝このオフィスに来た時に、クラースさんからニヤニヤした顔で見られた。
もうやだ、帰りたい。でも帰ってもジェーンからは逃げられない。そしてまた明日の朝もクラースさんに、ニヤニヤとした顔で見られるのだ。何この負のループ、私は泣きたくなった。
PCには、この研究所の全体の収支が表示されている。色々なところに経費がかかっているが、特に高いのは電気代だ。魔工学には電気が不可欠だから、ある程度は仕方ないが、特に電力を放出しまくってるのは、ジェーンの研究室だ。他の研究室とは次元の違う値段が、表示されているが……仕方あるまい。あれ作らないと、帰れないんだから。
私が苦笑いしていると、それを見たクラースさんが私に聞いた。
「何だ、ジェーンからメールでも来たのか?熱いやつ。」
それを聞いたロケインが、「ウゥ~」と言った。ちょいちょい、からかってくるのだ、この二人。何か、遠方の調査出ないかな。そしたら二人を遠方に飛ばせるのに。はーあ、とため息をついて、私は答えた。
「違いますよ……経費見てたの。」
と、ここでオフィスのドアがノックされて、入ってきたのはリンだった。これまたニヤニヤ顔で、私のそばまでやってきた。
「な、何?」
「いやあ~?別に~?ふふっ、これさ!」リンが背中に隠し持っていた書類を私に渡した。何か、デスクチェアの写真がコピーされていた。
「何これ。」
「私がいつも使ってる椅子が、壊れちゃった。だってあれ、前の人から引継いで……もう七年ぐらい使ってるみたいなんだもん。キハシ君だって、この前買い換えたでしょ?」
「でもまだ使えるんじゃないの?キハシ君のはだって、完全に椅子が破れてて綿出てたでしょ。あれは、凄かった。はっはっは……!」
思い出しちゃった。だって後で判明した話、彼はあの羊みたいな綿の上に座りながら半年ぐらい仕事していたのだ。もっと早く言ってくれればいいのに、壊したのが悪くて言えなかったらしい。物は古くなるから、仕方ないよ。でもリンのやつは、まだ使えそうだけどなぁ。彼女はムッとした顔で言った。
「だって椅子が回転しなくなっちゃったんだよ?電話応対、来客対応、給料の計算に、サイトやポータルや基礎データ管理、毎日毎日ぐるぐる目まぐるしいの!総務の椅子は回転してなんぼなんだから、あんなの椅子じゃないよ!この椅子だったら安いの、一万カペラだから、どうかな?」
「まあ、回転しないのは辛いね。じゃあ仕方ないか。」
「本当!?やったぁ!じゃあ早速頼んどくね!……それでさ、」
「ん?」
私はリンの方を見た。リンは今までで一番、にやけていた。ちょっと怖い。
「今日のお昼ご飯、私と一緒に食べない?」
「え?お昼?」
うんうん!と、リンが笑顔で頷いた。今日の昼は別に、誰かと一緒に食べる予定は無かったけど、ジェーンが良いって言うかな。まあ、そんな、恋人同士でもあるまいし、関係ないよね。私は頷いた。
「良いよ、ジェーンが駄々こねたらアレだけど。」
「わーい!」リンがパチパチ拍手しながら、ぴょんぴょん跳ねた。「じゃあさ、久しぶりに何処かでランチしよう!そして昨日のことをじっくり聞かせて!」
「おい!」エンターキーをターン!と叩きながら参戦したのはクラースさんだった。彼の白い歯が、眩しくて辛かった。「俺も連れて行け。絶対に俺も行くぞ!」
「何でよ、何その気合い。」
私は苦笑しながら、良いですよ、と頷いた。するとリンとクラースさんが手を叩き合った。私はリンに聞いた。
「でも、ラブ博士は良いの?」
「んー、まあ別に、私がいなかったら研究室で、何かお弁当でも注文して食べるんじゃないかな。私がアリスと食べる時もそんな感じだし、いちいち気にしないよ?私の彼氏は。んふっ!まあでも!キリーの彼氏は大変そうだね!ふっふふっははは!」
私はリンの足を踏もうとしたが、避けられた。やりよる。
「はあ、ジェーンは彼氏じゃないよ。私達は異次元の関係。そう言うことにしておいて。」
「はいはい、分かりましたよ、ボス!」
じゃあどこに食べに行こうか、リンとクラースさんが話しているのを聞いていると、ドアがノックされた。そして顔を覗かせたのは、ジェーンだった。彼と目が合った。
「どうしたの、ジェーン?」
皆がジェーンを見ている。しかし彼は、そこから動かずに、私に意味ありげな視線を送って来た。そして、言った。
「ねえ、キルディア。」
おかしい。その甘えた具合は、二人の時、限定だったはずだ。案の定、他の三人は無言で、笑いを堪えた顔をしている……ぐぬぬ、私はわざと、作業を続けるという冷たい態度をとった。
「なあに?」
「ちょっと宜しいですか?こちらに来ていただいても。」
「え?今ちょっと、来月の予算決めてるから、手が離せないよ。」
「予算の見積もりぐらい、途中で切り上げても答えは変わりませんのに。」
「いやいやいや、前月や去年のを見て、それで判断するから、今はちょっと、私は手が離せない。またね。」
んんん!と、ジェーンが唸った。それでリンがとうとう吹き出してしまい、彼女は誤魔化す為に、天井に顔を向けた。ジェーンはドアのところで、半分顔を覗かせている。気が散るなあ、何だろうあれ。
「キルディア、意地悪なさらないで。あなたはどうしても、私にこの場所で話せと仰るのでしょうか?」
「じゃあさ、こっち来ればいいのに。どうしたの?」
「……いえ、結構我慢を重ねていたので、もう歩けません。お手洗いに行きませんと。」
「あ?ああ、じゃあ先に、済ませてくれば?」
私がPCに視線を戻した、その時だった。彼が小声で叫んだのだ。
「……キルディア!」
「え?何さ!」
「早く行きませんと、早く!」
彼が私のことを必死に手招いている。え、まさか。え?まさか!
「ううううう嘘でしょ?何?いや、ちょっと……!そりゃまあ、考えれば昨日のことだし、そりゃまあ、トラウマにはなってるだろうけど、怖いのは分かるよ?」
「何が?どうしたの?」
リン、その問いには今はまだ、答えられないのだよ。慌てた私は、首をボリボリ掻きながらジェーンに言った。
「でもこの研究所は大丈夫だって!万が一、不審者が侵入しても、ラブ博士の迎撃システムがあるんだから。ね?安心していってらっしゃい。」
「皆の前で話させるおつもりですか?私の心は、もっと深く傷ついているのです!」ジェーンがムッとしている。「昨日のことが脳裏によぎる。とても不安で、こんなにも我慢してしまいました。膀胱炎になるまで、あと数分と言ったところです。あなたと一緒がいいのです!早くおトイレに行きましょう!」
「ぶっ!」と、私のそばにいる三人が吹いた。もう駄目だ、色々ともう駄目だ。リンが心の中の、面白えええと言う叫びを、彼女のその顔に漏らしてしまっている。私は立ち上がった。
「大丈夫だって!何かあったら、さっき作ってくれた、マイナイトキーホルダーのボタンを押してくれれば、私が助けに行くから。ね?」
「何それ!何そのネーミング!ププッ!」
もううるさいよ……だって、ジェーンが微笑みながら、この名前にするんだって、幸せそうに言うんだから、私が反論できるわけないでしょうが!微笑んだ彼は可愛んだから!そんな気持ちを隠していると、ジェーンが私を睨んできた。
「……あなたと一緒がいいのです。我慢して、辛いのです。タージュが来たらどうしますか?」
「タージュ博士は別に、平気だよ。女性に興味あるんだから。」
「ロケインだって、健康的な若者です。何がきっかけで私に色目を使うか、分かりませんよ。」
ロケインはぽかんとした困り顔でジェーンを見ている。それもそうだ。
「ちょっと!ロケインに失礼でしょ!謝りなさい!」
「……申し訳ございません、ロケイン。はい、謝りましたので、早く来てください!早く!ああ、もう限界です!」
ジェーンが股を押さえてぴょんぴょん跳ね出した。もう何これ。私はとぼとぼと扉のほうに向かって行った。ジェーンのところまで来ると、彼は私の手を引いて、急いでお手洗いに向かうことになった。
お手洗いは調査部の通路の奥にあるので、このオフィスからは近いけど……私は男性用トイレの前で立ち止まった。するとジェーンが首を傾げた。
「何をしています?どうぞ、お入りください。」
「いやいや、ここで待ってるって。中には入れないもん。」
「いけません。私が怖いのは、個室内なのです。個室内に居てくれませんと。」
「家だと平気じゃん。」
「家では扉を開けたまま行いますからね。その瞬間、あなたと一緒の個室です。」
……聞きたく無かった。でも聞いちゃった。何これ。仕方ないので、私は男子トイレの個室に、ジェーンと一緒に入った。ちょっと、もしかして皆に内緒でハグとか、キスとか、したかっただけだったりして。やだなあ全く、ジェーンったら、策が好きなんだから。
そう思っていると、ジェーンが私の目の前でベルトにカチャカチャと手をかけ始めたので、私は扉の方を向いた。さっきのときめきを返してほしい。
「ねえジェーン、これは、ずっと続くの?」
「職場なのに、ごめんなさいキルディア。私が怖いなど、子ども染みた感情を抱いているが故に。」
何だか、そう言われると……。ジェーンがどれだけ辛かったとか、彼の過去とか、考えると、そりゃあ守ってあげたいけど。そうだね、守るべきだ。
「いや、いいよ、私こそごめん。ジェーンが怖がってるのに、冷たいこと言った。私が居て、安心出来るなら、一緒に居るよ。皆には話さない。変だと思われるだろうけど、気にしない。そこはどうにかする。ジェーンは安心して、私をトイレに誘ってね。いつでも呼んでいいから。」
「ふふ、ありがとうキルディア……はい、それでは出します。んっ」
だからその声をやめろ。そしてジェーンは、スッキリとすることが出来たのだった。
もうやだ、帰りたい。でも帰ってもジェーンからは逃げられない。そしてまた明日の朝もクラースさんに、ニヤニヤとした顔で見られるのだ。何この負のループ、私は泣きたくなった。
PCには、この研究所の全体の収支が表示されている。色々なところに経費がかかっているが、特に高いのは電気代だ。魔工学には電気が不可欠だから、ある程度は仕方ないが、特に電力を放出しまくってるのは、ジェーンの研究室だ。他の研究室とは次元の違う値段が、表示されているが……仕方あるまい。あれ作らないと、帰れないんだから。
私が苦笑いしていると、それを見たクラースさんが私に聞いた。
「何だ、ジェーンからメールでも来たのか?熱いやつ。」
それを聞いたロケインが、「ウゥ~」と言った。ちょいちょい、からかってくるのだ、この二人。何か、遠方の調査出ないかな。そしたら二人を遠方に飛ばせるのに。はーあ、とため息をついて、私は答えた。
「違いますよ……経費見てたの。」
と、ここでオフィスのドアがノックされて、入ってきたのはリンだった。これまたニヤニヤ顔で、私のそばまでやってきた。
「な、何?」
「いやあ~?別に~?ふふっ、これさ!」リンが背中に隠し持っていた書類を私に渡した。何か、デスクチェアの写真がコピーされていた。
「何これ。」
「私がいつも使ってる椅子が、壊れちゃった。だってあれ、前の人から引継いで……もう七年ぐらい使ってるみたいなんだもん。キハシ君だって、この前買い換えたでしょ?」
「でもまだ使えるんじゃないの?キハシ君のはだって、完全に椅子が破れてて綿出てたでしょ。あれは、凄かった。はっはっは……!」
思い出しちゃった。だって後で判明した話、彼はあの羊みたいな綿の上に座りながら半年ぐらい仕事していたのだ。もっと早く言ってくれればいいのに、壊したのが悪くて言えなかったらしい。物は古くなるから、仕方ないよ。でもリンのやつは、まだ使えそうだけどなぁ。彼女はムッとした顔で言った。
「だって椅子が回転しなくなっちゃったんだよ?電話応対、来客対応、給料の計算に、サイトやポータルや基礎データ管理、毎日毎日ぐるぐる目まぐるしいの!総務の椅子は回転してなんぼなんだから、あんなの椅子じゃないよ!この椅子だったら安いの、一万カペラだから、どうかな?」
「まあ、回転しないのは辛いね。じゃあ仕方ないか。」
「本当!?やったぁ!じゃあ早速頼んどくね!……それでさ、」
「ん?」
私はリンの方を見た。リンは今までで一番、にやけていた。ちょっと怖い。
「今日のお昼ご飯、私と一緒に食べない?」
「え?お昼?」
うんうん!と、リンが笑顔で頷いた。今日の昼は別に、誰かと一緒に食べる予定は無かったけど、ジェーンが良いって言うかな。まあ、そんな、恋人同士でもあるまいし、関係ないよね。私は頷いた。
「良いよ、ジェーンが駄々こねたらアレだけど。」
「わーい!」リンがパチパチ拍手しながら、ぴょんぴょん跳ねた。「じゃあさ、久しぶりに何処かでランチしよう!そして昨日のことをじっくり聞かせて!」
「おい!」エンターキーをターン!と叩きながら参戦したのはクラースさんだった。彼の白い歯が、眩しくて辛かった。「俺も連れて行け。絶対に俺も行くぞ!」
「何でよ、何その気合い。」
私は苦笑しながら、良いですよ、と頷いた。するとリンとクラースさんが手を叩き合った。私はリンに聞いた。
「でも、ラブ博士は良いの?」
「んー、まあ別に、私がいなかったら研究室で、何かお弁当でも注文して食べるんじゃないかな。私がアリスと食べる時もそんな感じだし、いちいち気にしないよ?私の彼氏は。んふっ!まあでも!キリーの彼氏は大変そうだね!ふっふふっははは!」
私はリンの足を踏もうとしたが、避けられた。やりよる。
「はあ、ジェーンは彼氏じゃないよ。私達は異次元の関係。そう言うことにしておいて。」
「はいはい、分かりましたよ、ボス!」
じゃあどこに食べに行こうか、リンとクラースさんが話しているのを聞いていると、ドアがノックされた。そして顔を覗かせたのは、ジェーンだった。彼と目が合った。
「どうしたの、ジェーン?」
皆がジェーンを見ている。しかし彼は、そこから動かずに、私に意味ありげな視線を送って来た。そして、言った。
「ねえ、キルディア。」
おかしい。その甘えた具合は、二人の時、限定だったはずだ。案の定、他の三人は無言で、笑いを堪えた顔をしている……ぐぬぬ、私はわざと、作業を続けるという冷たい態度をとった。
「なあに?」
「ちょっと宜しいですか?こちらに来ていただいても。」
「え?今ちょっと、来月の予算決めてるから、手が離せないよ。」
「予算の見積もりぐらい、途中で切り上げても答えは変わりませんのに。」
「いやいやいや、前月や去年のを見て、それで判断するから、今はちょっと、私は手が離せない。またね。」
んんん!と、ジェーンが唸った。それでリンがとうとう吹き出してしまい、彼女は誤魔化す為に、天井に顔を向けた。ジェーンはドアのところで、半分顔を覗かせている。気が散るなあ、何だろうあれ。
「キルディア、意地悪なさらないで。あなたはどうしても、私にこの場所で話せと仰るのでしょうか?」
「じゃあさ、こっち来ればいいのに。どうしたの?」
「……いえ、結構我慢を重ねていたので、もう歩けません。お手洗いに行きませんと。」
「あ?ああ、じゃあ先に、済ませてくれば?」
私がPCに視線を戻した、その時だった。彼が小声で叫んだのだ。
「……キルディア!」
「え?何さ!」
「早く行きませんと、早く!」
彼が私のことを必死に手招いている。え、まさか。え?まさか!
「ううううう嘘でしょ?何?いや、ちょっと……!そりゃまあ、考えれば昨日のことだし、そりゃまあ、トラウマにはなってるだろうけど、怖いのは分かるよ?」
「何が?どうしたの?」
リン、その問いには今はまだ、答えられないのだよ。慌てた私は、首をボリボリ掻きながらジェーンに言った。
「でもこの研究所は大丈夫だって!万が一、不審者が侵入しても、ラブ博士の迎撃システムがあるんだから。ね?安心していってらっしゃい。」
「皆の前で話させるおつもりですか?私の心は、もっと深く傷ついているのです!」ジェーンがムッとしている。「昨日のことが脳裏によぎる。とても不安で、こんなにも我慢してしまいました。膀胱炎になるまで、あと数分と言ったところです。あなたと一緒がいいのです!早くおトイレに行きましょう!」
「ぶっ!」と、私のそばにいる三人が吹いた。もう駄目だ、色々ともう駄目だ。リンが心の中の、面白えええと言う叫びを、彼女のその顔に漏らしてしまっている。私は立ち上がった。
「大丈夫だって!何かあったら、さっき作ってくれた、マイナイトキーホルダーのボタンを押してくれれば、私が助けに行くから。ね?」
「何それ!何そのネーミング!ププッ!」
もううるさいよ……だって、ジェーンが微笑みながら、この名前にするんだって、幸せそうに言うんだから、私が反論できるわけないでしょうが!微笑んだ彼は可愛んだから!そんな気持ちを隠していると、ジェーンが私を睨んできた。
「……あなたと一緒がいいのです。我慢して、辛いのです。タージュが来たらどうしますか?」
「タージュ博士は別に、平気だよ。女性に興味あるんだから。」
「ロケインだって、健康的な若者です。何がきっかけで私に色目を使うか、分かりませんよ。」
ロケインはぽかんとした困り顔でジェーンを見ている。それもそうだ。
「ちょっと!ロケインに失礼でしょ!謝りなさい!」
「……申し訳ございません、ロケイン。はい、謝りましたので、早く来てください!早く!ああ、もう限界です!」
ジェーンが股を押さえてぴょんぴょん跳ね出した。もう何これ。私はとぼとぼと扉のほうに向かって行った。ジェーンのところまで来ると、彼は私の手を引いて、急いでお手洗いに向かうことになった。
お手洗いは調査部の通路の奥にあるので、このオフィスからは近いけど……私は男性用トイレの前で立ち止まった。するとジェーンが首を傾げた。
「何をしています?どうぞ、お入りください。」
「いやいや、ここで待ってるって。中には入れないもん。」
「いけません。私が怖いのは、個室内なのです。個室内に居てくれませんと。」
「家だと平気じゃん。」
「家では扉を開けたまま行いますからね。その瞬間、あなたと一緒の個室です。」
……聞きたく無かった。でも聞いちゃった。何これ。仕方ないので、私は男子トイレの個室に、ジェーンと一緒に入った。ちょっと、もしかして皆に内緒でハグとか、キスとか、したかっただけだったりして。やだなあ全く、ジェーンったら、策が好きなんだから。
そう思っていると、ジェーンが私の目の前でベルトにカチャカチャと手をかけ始めたので、私は扉の方を向いた。さっきのときめきを返してほしい。
「ねえジェーン、これは、ずっと続くの?」
「職場なのに、ごめんなさいキルディア。私が怖いなど、子ども染みた感情を抱いているが故に。」
何だか、そう言われると……。ジェーンがどれだけ辛かったとか、彼の過去とか、考えると、そりゃあ守ってあげたいけど。そうだね、守るべきだ。
「いや、いいよ、私こそごめん。ジェーンが怖がってるのに、冷たいこと言った。私が居て、安心出来るなら、一緒に居るよ。皆には話さない。変だと思われるだろうけど、気にしない。そこはどうにかする。ジェーンは安心して、私をトイレに誘ってね。いつでも呼んでいいから。」
「ふふ、ありがとうキルディア……はい、それでは出します。んっ」
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