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誰も止められない愛情狂編

209 腰にかかる細い紐

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 それからお会計を終えて、寿司屋を出た私は、お手洗いに言っているジェーンを、店の前で待っていた。するとウォッフォンにメールが来ていたので、それを読んだ。

『こんばんわ。私はリンです。デートはどうですか? Rin.L.L』

 何でメールなんだろう、しかも名乗らなくても署名があるのに、忘れてるのかな。ちょっと笑いながら返事をした。

『こんばんは。お寿司は美味しかったよ。それに色々と話せて、楽しかった。今ジェーンはお手洗いに行ってる。それだけ。 K.G.K』

 すぐに返事が来た。

『この後はどこか行くの?おうちデートするなら、ちょっと紹介したいサイトがある。後でURL添付するね! Rin.L.L』

「この後かぁ……。」

 別に何も言われていないので、家に帰るのだろう。帰ってからメールを返せばいいかと思っていると、店の中が何やらワイワイ騒がしくなっている気がした。何だろう、気になってお店の中を見ると、ブースから顔を覗かせているお客さんが、奥の方をじっと見ている。私はレジの店員さんに聞いた。

「どうしたのですか?」

「あ、ああ……実は、お手洗いの方で、トラブルがあったようで、店長が対応中です。あまりに酷いようならLOZの方を呼ばないといけないと思っていましたが、どうやら騒ぎの中にLOZの方がいるようで。」

「え!?ええ!?」

 私は急いで店の奥の方まで走って行った。野次馬で群がっていて、掻き分けるようにして進んでいくと、男性トイレの前で、店長さんと思わしき人が、ワタワタしていた。私は彼を無視して、男性トイレの中に入った。すると大工さんみたいなガタイのいい男が、ジェーンの首根っこを掴んで壁に押し付けていたのだ!

 私は二人の間に割って入るように飛び込んで、その男をジェーンから引き剥がした。男はかなり興奮した様子で、今度は私の両腕を掴んできた。

「何をする姉ちゃん!俺はこの男に話があるんだ!退かねえとぶっ飛ばすぞ!」

「ええい!鎮まれよ!このギルバートに仇なすつもりか!」

 私が思いっきり叫ぶと、男は私の顔と右の義手を見て、私が誰だか分かったようで、「お、おお……。」と、勢いを萎ませた。

 ジェーンの方を見た。ジェーンは傾いた眼鏡のまま、ずれたズボンを手で押さえていた。彼の黒い下着……Tバック?なのか?後ろが見えないからなんとも言えないが、そんな感じの、とても露出の高い下着だった。それが見えていたので、皆の視線から彼のことを隠すように両手を広げて、彼の前に立った。そして、男に聞いた。

「何をした、お前、何をした!?」

「わ、わ、お、俺は、ただ……話がしたかっただけで!」

 すると私の背後にいたジェーンが、言った。

「いきなり私と同じ個室に入って来て、いきなりスラックスを脱がせるのが会話なら、この世界は終わっている筈だ。」

「ええ!?何それ!……おい貴様、正気か!」

「いやいや!」と、男は必死に弁明を開始した。頬は赤く、酒臭かった。「俺はこのお兄ちゃんが、女だと思ったんだ!だってこんなに綺麗なんだから!だ、だから、ここは男のトイレだよって、教えてやろうと思ったんだ!だって男だったら、小便ぐらい、こっちの便器でやるだろう!?なのにこいつはこの個室に入ったから、」

「だから大だったんでしょ!」

「違いますキルディア……兎に角、彼を遠ざけてください。」

 私は頷いて、男を連れ出して、エストリーに連絡した。すぐに駆けつけてくれたのは、たまたま近くを歩いていたゲイルだった。私は今にも泣きそうなジェーンの、ズレっぱなしのズボンを履かせようとした。

「ま、まだ、用を足していないのです。いきなり彼が入って来たから。」

「一緒に入って来たのか。それで何をされたの?」

 ジェーンが私に抱きついた。それで彼のズボンがすとんと落ちてしまった。

「……私は、誰にも、身体を少しだって見せたくない。好きで、この容姿をしている訳ではない。公衆トイレでは絶対に個室を選びます。過去の大学院の時に、同性のクラスメート、それも年上の彼らから、頻繁に色のある目で見られました。合宿など、行ったことはありません。同性なのに、私を裸にするような、いやらしい目つきで見られる、それが怖かった。」

「ああ、ジェーン……」美しいって、いい事ばかりじゃないんだ。美しすぎると、その分、苦労することもあるんだ。私は知らなかった。ジェーンの背中を摩った。「だから、着替えだって、皆と同じ部屋ではしないの?クラースさんが言っていたけど。」

「え、ええ。まあクラースでしたら、彼はケイト狂ですから、安心出来ますが、それでも警戒はします。私は、一人で着替えます。今回は、やはり個室を選びました。そしたらあの男が。私を女性だと思って注意をしたというのは真っ赤な嘘です。彼は言いました。抵抗するな、これからいいことを教えてやると。そして彼は私を壁に押し付けて、局部を私に擦り付けてきました。私は怖くて怯みました。ウォッフォンの緊急信号を出す間もなく、片腕を掴まれました。私のベルトを無理矢理外し、私のスラックスを下ろしたのは、彼です。残った片手で、どうにかドアのロックを外して、勢いをつけて外に出ました。幸い、クラース流の体術があった。腕を回して拘束を逃れ、外に逃げようとしましたが、追いつかれ、捕まりました。抵抗して、揉み合っているところに、別の客が我々を発見して、店長を呼びに行き、そしてあなたが駆けつけてくれた。」

「もっと早く、来ていれば良かった。罪を確定させる為に、今のことは全て、ゲイルに言うけど平気?まあ、皆には内密に、出来るだけするけれど。」

「ええ、お願いします。それと……」ギュッと、彼が力を入れた。「私から目を離さないでください。あなたがいるから、私は外に出られる。あなたが強いから、私はあなたが好きだ。ギルドで見た時に、一目惚れをした。この、守ってほしい、と言う思いが過ぎて、あなた腕を失くしたのは、私のせいですが。」

「違うって!それは仕方なかったの!私の戦いの技術が甘かったからだよ……大丈夫、ジェーン。もう一緒だよ。」

「ずっと一緒ですか?片時も離れない?」

「ずっと一緒だよ。片時も離れない。」

 ジェーンが少し離れた。至近距離で、じっと見つめて来た。

「では、約束のキスをしてください。」

「……まず、ズボンを履いてからね。それから店長さんがこっち見てるから、別の場所でね。と、兎に角、ズボン履いて!」

 トイレの入り口にいる店長さんは、急いで我々から視線を逸らした。その向こうから、ゲイルとさっきの男が言い合っている怒声が聞こえた。私はジェーンに言った。

「ゲイルの方を見てくる。ジェーン、ここは大丈夫だから、個室で用を足していいよ。」

「嫌です。」ジェーンが私の腕を掴んだ。「あなたも個室に来てください。早くしないと、ナディア川の勢いの如く、その……。」

「えっ……!?何で私も一緒に入るのさ!」

「だって、怖い……。」

 あああああ、もう……!もう仕方ない!

 私はジェーンのズボンを持ち上げて一回履かせて、それから一緒に個室に入った。ジェーンの願いで、さっきとは別の個室にした。そして私はドアの方を向いた。

「……見ても構いませんよ?」

「見ませんよ。早くしてください……。」

「急かさないでください……んっ。」

 変な声を出すな。私は雑念を晴らすために、タージュ博士の予算報告書を思い出した。今月のそれは、私への恨みを晴らすかのような、無茶ぶりな報告書だったなぁ。考え事をしていると、流す音が聞こえて、カチャカチャとベルトの音がした。

「終わった?」

「はい、終わりました。ふふ、一緒にトイレしました。」

 何だろう、彼、楽しんでないか?我々は個室を出て、ジェーンが手を洗っている時に、私はトイレから出ると、ゲイル達の姿が無かった。店長に聞くと店の外に出たと言うので、私も外に出ると、ゲイルが男に手錠をかける瞬間だった。

「やめろ!俺はほんっとうに何もしていない!」

「ジェーンの証言では、それは事実ではない。」私は言った。ゲイルが頷いた。「店にも迷惑かけてるし、暫くはエストリーに世話になるかもしれない。」

 ゲイルが言った。

「運の悪い男だ、俺らの軍師さんに手を出して、俺らのボスに見つかるなんて。まあ、俺が連れて行きますよ。後で報告お願いします。それとジェーンさんに、大変でしたね、って。」

「分かった、ありがとうございます。」

 ゲイルは男を連れて行った。二人は怒鳴り合いながら、ポレポレ通りに出て行った。すると店からジェーンが出て来て、私の腕を掴んできた。

「どうして私を店内に置いて行きますか!あの男は?」

「ゲイルが連れて行った。大丈夫だよ。ごめんね、置いて行って。も、もうずっと一緒だよ。ね?」

 私から手を繋いだ。彼は何度も頷いた。よく見ると彼の眼鏡が、指紋なのか、結構曇って汚れていた。私は彼の眼鏡を取って、彼のベストのポケットからハンカチを取って、レンズを拭いてあげた。

「……ハンカチも持っていないのですか?」

「すみませんね、持っていなくて……ほら、綺麗になった。」

 私は眼鏡を彼に掛けさせた。私がやりやすいように、彼が少し身を屈めてくれたのは、彼の優しさだと思った。ハンカチを彼のポケットに返した。

「じゃあ、もう帰ろうか。」

「いえ、これから遊園地に行きます。」

「え?」

 あんなことがあった後だし、もう一九時だし……今から?と、驚いていると、彼が腕を引っ張って歩き始めた。

「ちょ、ちょっと本当に行くの!?」

「ええ。二十一時までやっています。ユークパイナップルランドに行きましょう。」

 まじで?そこは帝都一のテーマパークである。そこに……今から行くのね。まあ、彼が行きたいのならいいか。私は笑いを漏らして、急いでそこに向かっている彼に付いて行った。
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