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作戦が大事!アクロスブルー編
164 意外な投てき
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「急いで!クラースさん!」
「急いでる!最高速度だ!」
我々の輸送車は、他に障害物のない真っ直ぐなサーキットである、アクロスブルーを爆走している。バックミラーで背後を確認すると、他の輸送車も私達の車に付いて来ていた。それもそうだ、チェイス、何を裏切っているのだ!お蔭でジェーンが……!
私は歯を食いしばり、胸に拳を当てた。どうか先鋒隊の皆に、我々が到着するまで踏ん張っていて欲しい。ふと、ハンドルの側に、カバー付きの不自然な赤いボタンがあるのを発見した私は、力任せにプラスチック製のカバーをもぎ取り、白い文字でミラーよりとメッセージの入ったボタンをぽんと押した。するとクラースさんが動揺した声を上げた。
「お前!何をしている!?」
「え?何だろう、このボタン。」
「押してから言うな!何だそれは!?」
それはユーク市長によって、お戯れに付けられたブーストエンジンのスタートボタンだった、と気付いたのは、それが起動してからだった。
最高速度から更にジェットエンジンが加わり、座席に身体が食い込む程に速度を上げた。隣を見ると、クラースさんの頬がヨレていた。それ程にGを生み出しながら進んでいる。バックミラーを見ると、後方の輸送車が米粒ほどに小さかった。
皆と離れてしまった。しかし、私は遂に、前方を行くヴァルガ隊を確認したことに興奮し、ナイトアームをフル出力で動かして、頑張ってスピーカーを取ると、我々が迫っていることをアピールした。
『ほらほらほら!ヴァルガぁぁぁ!』
クラースさんもアクセルを踏んだまま、Gに震える片腕を窓から出し、前方に向かってハンドガン式の魔銃をバンバン放った。明らかにマフィアの戦い方だと、後部座席からゲイルの声が聞こえた気がした。
魔銃の弾が当たったのか、ジェーン達の方に向かっていたヴァルガ隊の後方部隊が次々と停車し、我々が迫っていることを確認したようだ。
次々にヴァルガ隊の輸送車がどんどん止まっていくが、我々の方は、どうやったら止まれるのか分からない。前方の輸送車から新光騎士団の兵士がぞろぞろ降りており、我々に向かってスピーカーで何かを言っているが聞こえない。
「クラースさん!止まって!」
「止まれたらとっくに止まっている!まずいな、ブレーキが効かないぞ!?」
「あああああ!総員脱出~!後ろのドアを開けて!」
「うおおおお!」
後ろにいた誰かがドアを開けてくれて、Gのかかった兵達は、そこからポロポロと飛び降りて脱出をした。私とクラースさんも横のドアから飛び降りて、アスファルトに何とか着地出来たが、頭がぐらぐらと揺れた。
ジェット噴射している私達の輸送車は、そのままの勢いでヴァルガ隊に突っ込んで行き、逃げ惑う新光騎士団の真ん中を通って、そのまま前方の敵輸送車に激突し、けたたましい爆音と粉塵を撒き散らして爆発し、それがまた隣の車に引火して爆発を繰り返し、辺りは一気に火の海になった。派手になってしまった。これは私の責任なのか、それともミラー夫人の責任でいいのか、切実に問いたい。
新光騎士団の悲鳴が聞こえる。だが、我々の目的はここでは無い。LOZの兵が私の元に駆け寄ってきたので、私は彼らに言った。
「ジェーン達の救出に向かう!皆、付いてきてください!」
「はっ!行くぞおおお!」
と、雄叫びを上げたのはゲイルだった。さっきまで後部座席で大人しくしていたのに、人が変わった様に両手に銃を持って、走り始めた。私もクラースさんも皆、彼に付いて行く。向かってくるヴァルガ隊の兵士達と交戦を開始した。
「ジェーン……!」
走りながら我が右手首にあるボタンを押すと、光の大剣が出現し、それはやはりあの時の様に、目視出来ない程の素早さで振ることが出来ている。全く重さの無い、大剣。なんと、素晴らしきものよ。残像さえ見えるその大剣を初めて見た騎士達は、呆気にとられた顔をこちらに向けた。
数名が「そんな子どもだまし!」と、これがただのおもちゃだと思っているのか、無謀にも突っ込んできたが、私が見せしめにアスファルトを一切りすると、アスファルトの層が見えるほど、思ったよりも深くえぐれてしまった。これ程の切れ味か、将来ミニチュアにして包丁にしたら売れるだろうなと、その高すぎる攻撃力に、私自身も混乱してしまった。
それを見ていたヴァルガ隊の兵士達は怖気付き、尻餅を付くものまで居た。
「う、うわっ!なんだあの大剣……あんな速度で……ならば!」
と、怯んだ兵士が私ではなく、私の後ろで戟を構えているクラースさんに向かって槍を向け、突撃した。しかし気付いたクラースさんは、槍をぶった斬り、戟を彼に寸止めした。
「何も、LOZにいるのは、あいつだけでは無い。大人しく、どけ。それとも血祭りにしてやろうか?」
彼が一番、マフィア感を出してしまっている元凶に違いない。私はそこまで怖くない。彼がいけないんだ。だからたまに、LOZはマフィアだと誤解されるんだ。
私は彼のことは彼に任せることにして、先を進んだ。私の大剣を見るだけで逃げて行く兵士が殆どで、たまに私に向かって銃撃する者がいたが、それも面白い程に、大剣をシールド代わりにすれば防げるので、ジェーンは何てものを発明してくれたんだと、にやけてしまった。
新光騎士団の兵士が道路脇に避けていき、先へ先へと進んでいると、兵達がウヨウヨ集まっている中から、漸くお目当のヴァルガ騎士団長が出迎えてくれた。今日もまた、大きな鎧を着ている。
「……久しぶりだな、女。貴様がまさか、あのギルバートだったとはな。城にいた頃は、何度か手合わせしたものだが、それでも分からなかった。いいか?俺の邪魔をするな、今日はあのヘッポコ科学者の命日だ!」
私はヴァルガに向かって走った。何がヘッポコだ!貴様の言うヘッポコが作ったこの刃の切れ味を、身をもって味わえ!私は腹の底から叫んだ。
「ヴァルガ!お前を知らない訳ではないが、今日は私とて容赦はせん!皆を死なせるものか、そこをどけ!」
ヴァルガは腰の鞘から剣を抜いた。兜から覗く、口から笑みが溢れた。
「笑止、俺は一人ではない。」
気配を感じた私は、すぐに真横に飛んで避けた。私が居たところには、大きなモーニングスターの鉄球が地面にめり込んで、道路にたくさんのヒビを生んでいた。その持ち主は輸送車の上に立っており、見覚えがあった。
「……ルーカス・エリオット?」
ギルドの鎧を着た、筋肉隆々のアフロヘアの大男は、私を見て微笑み、ガラガラの酒焼けの大声で叫んだ。
「俺の名前を勝手に使っていたらしいな、キルディアよお!ここを通りたければ、ヴァルガと俺を倒すしかないぞ!まあその頃には、あの眼鏡のロン毛野郎は、ミンチのペッチャンコになっているだろうがな。いいドラゴンの餌になりそうだ……アッハッハ!」
私は眉間にしわを寄せた。
「ぺしゃんこ?」
するとヴァルガがルーカスに怒鳴った。
「あまり言うな馬鹿野郎!全く、お前達ギルドの連中は蓋を開けてみれば、統率も何もない、ただ本能のままに戦う獣ではないか!せめて作戦の意味を理解してから参加しろボケ!」
まさか、アクロスブルーごと潰す作戦なのだろうか?いや、そうすれば今ジェーン達と交戦しているチェイス隊も巻き添えを食らうだろう。
とにかく、その場所に行かなくてはならない。私は大剣を握り直し、二人のうちどちらを狙うか考えたところだった。私の隣にクラースさんが走って来て、私に言った。
「ルーカスは俺がやる!お前はヴァルガをスパッと切って、さっさと前に進め!早く!」
「うん、分かった!」
私はヴァルガに狙いを定めて突撃した。何処かで発砲音がして、私の近くに鉄球が飛んできたが、それは私には全然当たらない位置の地面に落ちた。横を見れば、ルーカスが肩を撃たれたらしく、クラースさんを睨んで、怒鳴っていた。
「おい、邪魔するな!雑魚!」
「今の話を聞いていなかったか?お前の相手はこの俺だ!」
クラースさんの意志を遂行する。私はヴァルガを倒し、出来るだけ早く、ジェーン達の元へ向かわなくてはならない。焦りの汗が、私の額から垂れた。
*********
僕の元に補佐官がやって来た。さっきから槍兵を全員向かわせているおかげもあり、LOZの先鋒隊も疲れが出て来たのか、少しづつ守りの陣が崩れ始めたようだ。
「チェイス様、ヴァルガ隊がLOZの本隊に捕まったようで……。」
「そうか、だから彼らは近くまで来ているのに、中々しっかりと合流出来ないのか。連絡ぐらいしてくれてもいいのにさ、ヴァルガ騎士団長もそれどころじゃないのかな。しかし、予想よりも早くキルディア達はヴァルガ隊に追いついてしまったなぁ……まあいいや。少しでも時間を稼いでもらっている間に、そうだな、時間が無いから、あそこにいる彼らを生け捕りにしてくれるかい?その方が早く収集つくだろうし、こうなっては次のことを考えるしか無い。」
「は。承知致しました!」
補佐官は僕の元を離れると、槍兵にLOZの先鋒隊の兵士を捕らえるよう命じた。敵兵は最初は抵抗したが、スタンガンで気絶させたり、怪我を負わせると、少しづつ僕らの輸送車の荷台に詰められていった。
思ったよりも時間が無いのは事実だ。このままヴァルガ隊が破られ、LOZの本隊がここまで来たらこの戦、ただ僕らは負けたことになる。それは避けたかった。本当はジェーン達を殲滅してからキルディアを捕らえて、ユークを頂こうと思っていたが、仕方あるまい。
とうとう、LOZの中でも一際活躍していると思われたオーウェンという元騎士の男を、スタンガンで麻痺させて捕らえることが出来た。あとはアリと同じ作業を繰り返すだけだ。弱った兵士らを、輸送車にぶち込む。
「オーウェン様ぁぁ……」
誰も見向きしていないが、敵輸送車のタイヤの陰に、一人のげっそりとした女性が倒れて呻いている。僕は近くの兵士に声掛けた。
「あの干からびた女性も捕らえてくれるかな?」
僕に言われた兵士は、まっすぐにその女性を迎えに行き、手錠をはめて彼女を連行しようとしたが、もう歩ける体力も無いのか倒れてしまい、兵は仕方ない様子で彼女を抱えて連れて来た。彼らが僕の隣を通った時に、その女性は僕に向かって言った。
「ああ~……私をどうするおつもり……チェイス、そこのチェイス!お前にはこれがお似合いだ!」
「うわっ!」
急に活気を帯びた彼女が、僕の顔に向かって何かを投げて来た。驚いた兵士は彼女を押さえつけて、さっさと運んで行った。その何かは僕の足元に落ちていたので、よく見ると、着せ替え人形のようなものだった。
「何これ。」
僕はそれを拾った。すると補佐官が慌てた様子で、僕に助言した。
「チェイス様、それはもしや爆弾かもしれません!遠くに投げ捨ててください!」
「そんな気配はしないよ、機械音はしないし……。」
だってこれ、ただの着せ替え人形でしょ?それにしてはちょっとボーイッシュな服装だけど。こんなのを戦場に持って来ていたなんて、彼女はちょっと可愛らしいな、と人形の顔を見た僕は、言葉を失ってしまった。
それはキルディアだった。紛れもないキルディア……が何故か僕の手の中にある。よく見ると僕の親指が彼女の胸を触ってしまっていた。僕は「あっ」と小さく叫び、指をずらした。その人形を観察した。なんでキルディアが人形に?LOZはそうやって彼女を信仰することで統率をしているのか?まあいいや、僕はそれを、コートのポケットに入れた。
先程の女性は「もう動けない~ジェーン!早く逃げて!ここは私に任せて早く~!」と叫んでいる。いや、君はもう捕らえられているんだけどね。僕は心の中で思いつつ、LOZの方を見た。殲滅は出来なかったが、殆ど戦力は残っておらず、敵兵は我が身を守る為だけに戦っているだけだった。
敵輸送車も銃撃で大破したし、あとは、メインディッシュだ。彼は必死な様子で銃剣を振り回し、時たまに発砲して、僕の兵と対等に渡り合っている。銃剣を突いた後に、軽く飛んで更に突き上げる独特な戦い方は、シロープの漁師が海洋モンスター相手にとる仕草に似ていた。彼は近接でも、そこそこ戦えるんだ……僕とは違うねぇ。
捕らえた兵士はどうしよう。新光騎士団に入ってくれたら嬉しいけど、いうこと聞かなそうだから、それだったら収容所行きかな。人質として、使い道はたくさんある。
僕はチョコを食べながら、ジェーンが叫びながら銃剣で戦い続ける姿を見ていた。乱れる髪に荒い息、疲れているだろうに、蹴られて痛いだろうに、決して地面に倒れようとはしない。脚は疲労なのか、ガタガタ震えている。何が彼をそこまでさせているのだろうと思うと、彼女の存在なのでは無いかと思った。
ふと、そんなことを考えた瞬間に、チョコの味がしなくなった。何か泥を食べているような、奇妙な感覚しか残らなかった。僕は自分の中に、途轍もない怪物が現れたような気がした。その怪物は、どんどんと大きくなって、僕の思考など、むしゃむしゃと食べてしまった。もういいか、あれをしよう。
「みんな!」僕は叫んだ。兵達が僕を見た。「ちょっと、ジェーンから離れてくれる?」
僕の突然の号令に、今までジェーンを捕らえようと必死に頑張ってくれていた騎士達が、彼から離れてくれた。ジェーンは急に誰も襲ってこないのが不思議な様子だったが、近づいて来た僕に気付いたのは、すぐのことだった。
彼は、掠れた、汗まみれの声で、僕の名を呼んだ。
「チェイス……。」
捕らえて、いじめることも考えていたが、それは辞めた。それは彼には相応しくない、僕にも相応しくない。
「うん、ジェーン。君だけは捕虜にしない。このまま終わらせないよ。」
「急いでる!最高速度だ!」
我々の輸送車は、他に障害物のない真っ直ぐなサーキットである、アクロスブルーを爆走している。バックミラーで背後を確認すると、他の輸送車も私達の車に付いて来ていた。それもそうだ、チェイス、何を裏切っているのだ!お蔭でジェーンが……!
私は歯を食いしばり、胸に拳を当てた。どうか先鋒隊の皆に、我々が到着するまで踏ん張っていて欲しい。ふと、ハンドルの側に、カバー付きの不自然な赤いボタンがあるのを発見した私は、力任せにプラスチック製のカバーをもぎ取り、白い文字でミラーよりとメッセージの入ったボタンをぽんと押した。するとクラースさんが動揺した声を上げた。
「お前!何をしている!?」
「え?何だろう、このボタン。」
「押してから言うな!何だそれは!?」
それはユーク市長によって、お戯れに付けられたブーストエンジンのスタートボタンだった、と気付いたのは、それが起動してからだった。
最高速度から更にジェットエンジンが加わり、座席に身体が食い込む程に速度を上げた。隣を見ると、クラースさんの頬がヨレていた。それ程にGを生み出しながら進んでいる。バックミラーを見ると、後方の輸送車が米粒ほどに小さかった。
皆と離れてしまった。しかし、私は遂に、前方を行くヴァルガ隊を確認したことに興奮し、ナイトアームをフル出力で動かして、頑張ってスピーカーを取ると、我々が迫っていることをアピールした。
『ほらほらほら!ヴァルガぁぁぁ!』
クラースさんもアクセルを踏んだまま、Gに震える片腕を窓から出し、前方に向かってハンドガン式の魔銃をバンバン放った。明らかにマフィアの戦い方だと、後部座席からゲイルの声が聞こえた気がした。
魔銃の弾が当たったのか、ジェーン達の方に向かっていたヴァルガ隊の後方部隊が次々と停車し、我々が迫っていることを確認したようだ。
次々にヴァルガ隊の輸送車がどんどん止まっていくが、我々の方は、どうやったら止まれるのか分からない。前方の輸送車から新光騎士団の兵士がぞろぞろ降りており、我々に向かってスピーカーで何かを言っているが聞こえない。
「クラースさん!止まって!」
「止まれたらとっくに止まっている!まずいな、ブレーキが効かないぞ!?」
「あああああ!総員脱出~!後ろのドアを開けて!」
「うおおおお!」
後ろにいた誰かがドアを開けてくれて、Gのかかった兵達は、そこからポロポロと飛び降りて脱出をした。私とクラースさんも横のドアから飛び降りて、アスファルトに何とか着地出来たが、頭がぐらぐらと揺れた。
ジェット噴射している私達の輸送車は、そのままの勢いでヴァルガ隊に突っ込んで行き、逃げ惑う新光騎士団の真ん中を通って、そのまま前方の敵輸送車に激突し、けたたましい爆音と粉塵を撒き散らして爆発し、それがまた隣の車に引火して爆発を繰り返し、辺りは一気に火の海になった。派手になってしまった。これは私の責任なのか、それともミラー夫人の責任でいいのか、切実に問いたい。
新光騎士団の悲鳴が聞こえる。だが、我々の目的はここでは無い。LOZの兵が私の元に駆け寄ってきたので、私は彼らに言った。
「ジェーン達の救出に向かう!皆、付いてきてください!」
「はっ!行くぞおおお!」
と、雄叫びを上げたのはゲイルだった。さっきまで後部座席で大人しくしていたのに、人が変わった様に両手に銃を持って、走り始めた。私もクラースさんも皆、彼に付いて行く。向かってくるヴァルガ隊の兵士達と交戦を開始した。
「ジェーン……!」
走りながら我が右手首にあるボタンを押すと、光の大剣が出現し、それはやはりあの時の様に、目視出来ない程の素早さで振ることが出来ている。全く重さの無い、大剣。なんと、素晴らしきものよ。残像さえ見えるその大剣を初めて見た騎士達は、呆気にとられた顔をこちらに向けた。
数名が「そんな子どもだまし!」と、これがただのおもちゃだと思っているのか、無謀にも突っ込んできたが、私が見せしめにアスファルトを一切りすると、アスファルトの層が見えるほど、思ったよりも深くえぐれてしまった。これ程の切れ味か、将来ミニチュアにして包丁にしたら売れるだろうなと、その高すぎる攻撃力に、私自身も混乱してしまった。
それを見ていたヴァルガ隊の兵士達は怖気付き、尻餅を付くものまで居た。
「う、うわっ!なんだあの大剣……あんな速度で……ならば!」
と、怯んだ兵士が私ではなく、私の後ろで戟を構えているクラースさんに向かって槍を向け、突撃した。しかし気付いたクラースさんは、槍をぶった斬り、戟を彼に寸止めした。
「何も、LOZにいるのは、あいつだけでは無い。大人しく、どけ。それとも血祭りにしてやろうか?」
彼が一番、マフィア感を出してしまっている元凶に違いない。私はそこまで怖くない。彼がいけないんだ。だからたまに、LOZはマフィアだと誤解されるんだ。
私は彼のことは彼に任せることにして、先を進んだ。私の大剣を見るだけで逃げて行く兵士が殆どで、たまに私に向かって銃撃する者がいたが、それも面白い程に、大剣をシールド代わりにすれば防げるので、ジェーンは何てものを発明してくれたんだと、にやけてしまった。
新光騎士団の兵士が道路脇に避けていき、先へ先へと進んでいると、兵達がウヨウヨ集まっている中から、漸くお目当のヴァルガ騎士団長が出迎えてくれた。今日もまた、大きな鎧を着ている。
「……久しぶりだな、女。貴様がまさか、あのギルバートだったとはな。城にいた頃は、何度か手合わせしたものだが、それでも分からなかった。いいか?俺の邪魔をするな、今日はあのヘッポコ科学者の命日だ!」
私はヴァルガに向かって走った。何がヘッポコだ!貴様の言うヘッポコが作ったこの刃の切れ味を、身をもって味わえ!私は腹の底から叫んだ。
「ヴァルガ!お前を知らない訳ではないが、今日は私とて容赦はせん!皆を死なせるものか、そこをどけ!」
ヴァルガは腰の鞘から剣を抜いた。兜から覗く、口から笑みが溢れた。
「笑止、俺は一人ではない。」
気配を感じた私は、すぐに真横に飛んで避けた。私が居たところには、大きなモーニングスターの鉄球が地面にめり込んで、道路にたくさんのヒビを生んでいた。その持ち主は輸送車の上に立っており、見覚えがあった。
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「俺の名前を勝手に使っていたらしいな、キルディアよお!ここを通りたければ、ヴァルガと俺を倒すしかないぞ!まあその頃には、あの眼鏡のロン毛野郎は、ミンチのペッチャンコになっているだろうがな。いいドラゴンの餌になりそうだ……アッハッハ!」
私は眉間にしわを寄せた。
「ぺしゃんこ?」
するとヴァルガがルーカスに怒鳴った。
「あまり言うな馬鹿野郎!全く、お前達ギルドの連中は蓋を開けてみれば、統率も何もない、ただ本能のままに戦う獣ではないか!せめて作戦の意味を理解してから参加しろボケ!」
まさか、アクロスブルーごと潰す作戦なのだろうか?いや、そうすれば今ジェーン達と交戦しているチェイス隊も巻き添えを食らうだろう。
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「ルーカスは俺がやる!お前はヴァルガをスパッと切って、さっさと前に進め!早く!」
「うん、分かった!」
私はヴァルガに狙いを定めて突撃した。何処かで発砲音がして、私の近くに鉄球が飛んできたが、それは私には全然当たらない位置の地面に落ちた。横を見れば、ルーカスが肩を撃たれたらしく、クラースさんを睨んで、怒鳴っていた。
「おい、邪魔するな!雑魚!」
「今の話を聞いていなかったか?お前の相手はこの俺だ!」
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僕の元に補佐官がやって来た。さっきから槍兵を全員向かわせているおかげもあり、LOZの先鋒隊も疲れが出て来たのか、少しづつ守りの陣が崩れ始めたようだ。
「チェイス様、ヴァルガ隊がLOZの本隊に捕まったようで……。」
「そうか、だから彼らは近くまで来ているのに、中々しっかりと合流出来ないのか。連絡ぐらいしてくれてもいいのにさ、ヴァルガ騎士団長もそれどころじゃないのかな。しかし、予想よりも早くキルディア達はヴァルガ隊に追いついてしまったなぁ……まあいいや。少しでも時間を稼いでもらっている間に、そうだな、時間が無いから、あそこにいる彼らを生け捕りにしてくれるかい?その方が早く収集つくだろうし、こうなっては次のことを考えるしか無い。」
「は。承知致しました!」
補佐官は僕の元を離れると、槍兵にLOZの先鋒隊の兵士を捕らえるよう命じた。敵兵は最初は抵抗したが、スタンガンで気絶させたり、怪我を負わせると、少しづつ僕らの輸送車の荷台に詰められていった。
思ったよりも時間が無いのは事実だ。このままヴァルガ隊が破られ、LOZの本隊がここまで来たらこの戦、ただ僕らは負けたことになる。それは避けたかった。本当はジェーン達を殲滅してからキルディアを捕らえて、ユークを頂こうと思っていたが、仕方あるまい。
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「オーウェン様ぁぁ……」
誰も見向きしていないが、敵輸送車のタイヤの陰に、一人のげっそりとした女性が倒れて呻いている。僕は近くの兵士に声掛けた。
「あの干からびた女性も捕らえてくれるかな?」
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「ああ~……私をどうするおつもり……チェイス、そこのチェイス!お前にはこれがお似合いだ!」
「うわっ!」
急に活気を帯びた彼女が、僕の顔に向かって何かを投げて来た。驚いた兵士は彼女を押さえつけて、さっさと運んで行った。その何かは僕の足元に落ちていたので、よく見ると、着せ替え人形のようなものだった。
「何これ。」
僕はそれを拾った。すると補佐官が慌てた様子で、僕に助言した。
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だってこれ、ただの着せ替え人形でしょ?それにしてはちょっとボーイッシュな服装だけど。こんなのを戦場に持って来ていたなんて、彼女はちょっと可愛らしいな、と人形の顔を見た僕は、言葉を失ってしまった。
それはキルディアだった。紛れもないキルディア……が何故か僕の手の中にある。よく見ると僕の親指が彼女の胸を触ってしまっていた。僕は「あっ」と小さく叫び、指をずらした。その人形を観察した。なんでキルディアが人形に?LOZはそうやって彼女を信仰することで統率をしているのか?まあいいや、僕はそれを、コートのポケットに入れた。
先程の女性は「もう動けない~ジェーン!早く逃げて!ここは私に任せて早く~!」と叫んでいる。いや、君はもう捕らえられているんだけどね。僕は心の中で思いつつ、LOZの方を見た。殲滅は出来なかったが、殆ど戦力は残っておらず、敵兵は我が身を守る為だけに戦っているだけだった。
敵輸送車も銃撃で大破したし、あとは、メインディッシュだ。彼は必死な様子で銃剣を振り回し、時たまに発砲して、僕の兵と対等に渡り合っている。銃剣を突いた後に、軽く飛んで更に突き上げる独特な戦い方は、シロープの漁師が海洋モンスター相手にとる仕草に似ていた。彼は近接でも、そこそこ戦えるんだ……僕とは違うねぇ。
捕らえた兵士はどうしよう。新光騎士団に入ってくれたら嬉しいけど、いうこと聞かなそうだから、それだったら収容所行きかな。人質として、使い道はたくさんある。
僕はチョコを食べながら、ジェーンが叫びながら銃剣で戦い続ける姿を見ていた。乱れる髪に荒い息、疲れているだろうに、蹴られて痛いだろうに、決して地面に倒れようとはしない。脚は疲労なのか、ガタガタ震えている。何が彼をそこまでさせているのだろうと思うと、彼女の存在なのでは無いかと思った。
ふと、そんなことを考えた瞬間に、チョコの味がしなくなった。何か泥を食べているような、奇妙な感覚しか残らなかった。僕は自分の中に、途轍もない怪物が現れたような気がした。その怪物は、どんどんと大きくなって、僕の思考など、むしゃむしゃと食べてしまった。もういいか、あれをしよう。
「みんな!」僕は叫んだ。兵達が僕を見た。「ちょっと、ジェーンから離れてくれる?」
僕の突然の号令に、今までジェーンを捕らえようと必死に頑張ってくれていた騎士達が、彼から離れてくれた。ジェーンは急に誰も襲ってこないのが不思議な様子だったが、近づいて来た僕に気付いたのは、すぐのことだった。
彼は、掠れた、汗まみれの声で、僕の名を呼んだ。
「チェイス……。」
捕らえて、いじめることも考えていたが、それは辞めた。それは彼には相応しくない、僕にも相応しくない。
「うん、ジェーン。君だけは捕虜にしない。このまま終わらせないよ。」
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