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ギルバート騎士団長を探せ編
112 ヘドロの正体
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重たい足取り、真っ暗な帰り道。私は何となく、途中のミリアム食堂でパインソテーを買った。きっとジェーンは、私のことを、もう嫌いになっただろう。今日の業務中、彼は本当に、あれからオフィスに戻ってくることは無かった。
サンセット通りの真っ直ぐな道を、波の音を聞きながら歩く。もうとっくに陽が暮れて暗くなったその道を、点々と街灯が照らしている。
少し遠くに存在している自宅の一階の灯りが、カーテンから漏れている。お腹が痛くなった。案の定、自宅の玄関のドアを開けると、ジェーンがソファで本を読んでいた。
「ただいま。」
「ああ、お帰りなさい。お休みなさい。」
ジェーンは私を見るなり本を閉じて、それを抱えて寝室の方に消えて行った。こんなに素っ気なくなるんだ。以前、タージュ博士が「部長はボス以外には素っ気ないですよ」と言っていたことを思い出した。他の人には、これほどの態度だったのか。
私はコーヒーテーブルにパインソテーの入った袋を置いて、ジェーンの寝室をノックした。しかし返事は無い。まさかもう寝ているわけは無いだろうと、声をかけることにした。
「ジェーン、まだ起きてる?」
すると扉の中から声が聞こえた。
「ええ、何か用ですか?」
私はゆっくりとドアを開けた。こんな気持ち、教官の執務室を訪ねた時以来の気の重さだった。仕方ない、私がいけないことをした。
寝室の中に入ると、彼は紺色のパジャマ姿で、ベッドの上に座って、本を読んでいた。
「ジェーン、怒ってる?私が黙ってたから。」
ジェーンは本のページをめくりながら言った。
「……知っていることを黙っていたことに関しては、そうですね、理解出来ません。あなたが部下なら、問答無用で首を切っています。まあ、内密にしておくことを彼に頼まれたのでしょう?それだけです、もう宜しいか?」
こちらを一度も見てくれなかった。明らかに怒ってる。もうあの仲良しな関係は元に戻らないだろうか、少しでも。
「ジェーン、本当にごめんなさい。ジェーンの言う通りだと思う。償いたい、時間をかけてでも償いたいから……ごめんなさい。」
つい、涙が出てしまった。女の武器だと思われたく無いから、それを隠そうと必死に堪えた。ジェーンは本を読んだまま言った。
「こればかりは、どうにも出来ない。して、ギルバートとは、実際どれ程の仲ですか?共に、食事をしたこと、共に……まさか私と同様、共に就眠することはございましたか?」
「正直に?」
「はい。」
「両方ある。」
「そうですか、」ジェーンの声が変に震えた。「もう結構です。私にはカタリーナがいるように、あなたにはギルバートが居る。それが事実です。レジスタンスを発見すれば、リーダーである彼も、その場所に居ることでしょう。すぐに会えます。それまでどうか、私とは、不必要な関わりを持たないで頂きたい……。非常に残念です、キルディア。もう、この部屋から出て行ってください。」
「分かった、ごめんなさい。」
寝室のドアを閉めた。そう言うしか、無かった。
翌朝、起きると、もう部屋の中のどこにも、ジェーンの姿が無かった。カーテンを開けると、朝日がリビングに差し込んだ。物音のない室内は、何だか時が止まったようだった。
いつもなら同じぐらいの時間に起きて、私の準備を待っててくれるが、かなり怒っているのだろう。それもそうだ、私は大事なことを黙っていた。ジェーンにも皆にも悪いことをした。私は準備を終えると、研究所に向かった。
いつもの通り道なのに、波の音は静かに感じた。朝日が眩しすぎる、生きているって何なんだろう。とぼとぼと歩き続け、研究所に入るとロビーのカウンターにはリンがいた。こちらをチラッと見て、視線を落とした。
「おはよう、リン。」
「あ、おはよーございます、ボス。」
そう言って、リンは研究開発部の方へ消えて行った。いつもならニュースのことをぐだぐだと話してくれるのに、やはりもう嫌われたんだな。ポータルでも、私とボスを二人きりにしないでください、と書いていたし、仕方ない。肩を落として、私はオフィスのドアを開けた。ジェーンがお茶を淹れていた。
「おはよう。」
「おはようございます。本日は特に目立った業務も無いので、研究室に居ます。何かあればウォッフォンに連絡ください。それでは。」
ジェーンは私を目も合わせないで出て行ってしまった。仕方ない、私は悪い奴だ。それほどの事を黙っていたのだ。またため息をついて、ソファにバッグを投げ置いた。
オフィスの壁には、ジェーンのお手製のポスターが貼ってある。グレン研究所から帰った辺りで、彼が作成したものだった。白い用紙に黒いペンで、足りないパーツの特徴と、時空間歪曲機に使うレアな鉱石の特徴と、名前が書かれている。皆が何処かで見たか、教えてくれるようにここに貼ったのだ。
あと必要なのは、青い大きなパーツ一つと、レアな鉱石がたくさんだ。私が何か力になれないか、それを見ながら考えては見たが、何も思いつかなかった。オフィスで一人立ち尽くしていると、ウォッフォンに連絡が来た。
『おはよう、今ちょっといいかな?アリスたちの研究室に来て欲しいです。』
タージュ博士の頼みを了承し、私は現場に向かった。よりによってアリスたちの研究室……。足首にお守りでも付けられているようだった。
研究室に着いてドアを開けると、研究所の白衣姿のタージュ博士と、アリスと、ジェーンが居た。タージュ博士はドロドロした物が中に入っている瓶を持っていて、それをアリスがじっと観察している。
研究室の机で何かの設計図を書いていたジェーンは、私をチラッと見て、すぐに視線を逸らした。とことん嫌われてる、仕方ないけれど。
そんな中、タージュ博士は私に笑顔を向けてくれた。
「あれ?ボス少し痩せた?いけないよ、朝ごはんはちゃんと食べなきゃ。食欲がない時はヨーグルトを食べるといい、整腸作用もあるからね。」
「そうですね、どうもありがとうございます。」
涙が出そうになった。こんな私にも、優しくしてくれる人が居るんだって、申し訳ない気持ちになった。タージュ博士は腕を組んだ。
「はあ、事情は知っていますよ。でも、起きたことは仕方がない。誰にだって大切な人はいるものです。私にだって、大切な人はいます……、一生片想いでしょうけれど。さて!これですが、前にアクロスブルー大橋の海底付近に付着していた泥です。覚えてるかな?」
タージュ博士が瓶を指差した。クラースさんが持ち帰ったけど、絶対に開けるなと言っていた、あの泥か。
「ああ、覚えています。何か分かったのですか?」
「うん、面白いことが分かったよ。どうやらこの泥は、此処よりもさらに地下の世界、インジアビスとの境目から来た泥のようなんだ。そしてこの泥に含まれているキラキラした緑色の物体……。これを検査した結果、部長が探しているレアな鉱石と、成分が一致した。」
ジェーンの目が見開き、タージュ博士を見た。
「それは誠ですか!?スプスタンツィオナリズィルユシミシャー鉱石ですか!?」
よくさらっと言えるな……。ジェーンがオフィスに張っているポスターに名前を書いてくれたが、誰もちゃんと覚える人が居なくて、皆の間ではスプ鉱石と呼ばれていたものだ。タージュ博士が少し困惑気味に答えた。
「はは、部長はそういう発音がお得意のようで。そう、そのスプ鉱石だ。そしてこの泥には、主にインジアビスに存在している土や、泥の成分も含まれている。それが何らかの影響で、海底に出現したのだろう。そうだ、前に聞いたが、確かボスはインジアビスの出身だとか。この鉱石を見たことはあるかな?」
「出来れば事実をお話し頂きたいですね。」
嫌味を言うジェーンに私は項垂れながらも、博士の質問に答えた。
「私は小さい頃に帝都に引っ越したから、よく覚えていない。でもあの地には何万種類と言われる鉱石が存在していると聞いた。そうだよ、だから実際に行って確かめればいい。」
「はぁあ、同じ意見ですか」ジェーンがため息をついた。とことん私を嫌うな、この人。「あの地に鉱石の塊がある可能性は高いです。」
アリスが唇に人差し指を当てて、首を傾げた。
「でも~、インジアビスって瘴気があるんでしょ?住んでて平気なのって魔族とか、その血を受け継いだ人だけだって聞いたよ?まあ魔族からしたら、こっちは瘴気まみれなんだろうけれど。」
アリスの言葉に、ジェーンが答えた。
「そうですね、あの地に発生しているガスは我々にとって有毒、しかし魔族にとっては太陽の光が有毒です。しかし短期間でしたら、瘴気の影響は受けないはずです。インジアビスの入り口は確か……。」
タージュ博士がウォッフォンで地図を確認してくれた。
「うん、ボルダーハン火山の近くか。また遠出になるね。でもあの地は、他者を受け入れないとも聞いた。行ったところで、中に通してくれるかな?」
私は言った。
「私、行ってくるよ。父親が生まれも育ちもインジアビスだし、誰かしら、私の父を知っている人が居るだろうと思う。それにハーフだから瘴気には慣れてる。行ってくるよ。」
するとアリスが私の腕を掴んで、ブンブンと振りながら言った。
「え~!私も今度こそは一緒に行く!ジェーンは?だってジェーンが探してた鉱石でしょ~?」
いいよアリス、私がとってくるから!苦い顔をしたが、アリスには届かなかった。ジェーンが少し考えた後に言った。
「……そうですね、ボス一人にこの件を任せて、借りを作りたくありません。私も同行します。」
はは、ボスか。もうとことん嫌われてしまった。ジェーンと私の様子を見たタージュ博士が、困った様子で首を傾げた。
「おいおい、ボスも部長も事情は理解しますが、ジェーディアって呼ばれていた時のように仲良くして欲しい。それがあって、職場は活気付いていたんだから。」
「でもね、」アリスが答えた。「ジェーンはキリーがギルバート騎士団長と関係があったのを黙ってたから、許せないんだよ。色んな意味で、そう色んな意味で。まあ私は別に、どうでもいいけどね~。」
それ我々の前でする会話じゃないでしょ……。私は苦笑いした。
サンセット通りの真っ直ぐな道を、波の音を聞きながら歩く。もうとっくに陽が暮れて暗くなったその道を、点々と街灯が照らしている。
少し遠くに存在している自宅の一階の灯りが、カーテンから漏れている。お腹が痛くなった。案の定、自宅の玄関のドアを開けると、ジェーンがソファで本を読んでいた。
「ただいま。」
「ああ、お帰りなさい。お休みなさい。」
ジェーンは私を見るなり本を閉じて、それを抱えて寝室の方に消えて行った。こんなに素っ気なくなるんだ。以前、タージュ博士が「部長はボス以外には素っ気ないですよ」と言っていたことを思い出した。他の人には、これほどの態度だったのか。
私はコーヒーテーブルにパインソテーの入った袋を置いて、ジェーンの寝室をノックした。しかし返事は無い。まさかもう寝ているわけは無いだろうと、声をかけることにした。
「ジェーン、まだ起きてる?」
すると扉の中から声が聞こえた。
「ええ、何か用ですか?」
私はゆっくりとドアを開けた。こんな気持ち、教官の執務室を訪ねた時以来の気の重さだった。仕方ない、私がいけないことをした。
寝室の中に入ると、彼は紺色のパジャマ姿で、ベッドの上に座って、本を読んでいた。
「ジェーン、怒ってる?私が黙ってたから。」
ジェーンは本のページをめくりながら言った。
「……知っていることを黙っていたことに関しては、そうですね、理解出来ません。あなたが部下なら、問答無用で首を切っています。まあ、内密にしておくことを彼に頼まれたのでしょう?それだけです、もう宜しいか?」
こちらを一度も見てくれなかった。明らかに怒ってる。もうあの仲良しな関係は元に戻らないだろうか、少しでも。
「ジェーン、本当にごめんなさい。ジェーンの言う通りだと思う。償いたい、時間をかけてでも償いたいから……ごめんなさい。」
つい、涙が出てしまった。女の武器だと思われたく無いから、それを隠そうと必死に堪えた。ジェーンは本を読んだまま言った。
「こればかりは、どうにも出来ない。して、ギルバートとは、実際どれ程の仲ですか?共に、食事をしたこと、共に……まさか私と同様、共に就眠することはございましたか?」
「正直に?」
「はい。」
「両方ある。」
「そうですか、」ジェーンの声が変に震えた。「もう結構です。私にはカタリーナがいるように、あなたにはギルバートが居る。それが事実です。レジスタンスを発見すれば、リーダーである彼も、その場所に居ることでしょう。すぐに会えます。それまでどうか、私とは、不必要な関わりを持たないで頂きたい……。非常に残念です、キルディア。もう、この部屋から出て行ってください。」
「分かった、ごめんなさい。」
寝室のドアを閉めた。そう言うしか、無かった。
翌朝、起きると、もう部屋の中のどこにも、ジェーンの姿が無かった。カーテンを開けると、朝日がリビングに差し込んだ。物音のない室内は、何だか時が止まったようだった。
いつもなら同じぐらいの時間に起きて、私の準備を待っててくれるが、かなり怒っているのだろう。それもそうだ、私は大事なことを黙っていた。ジェーンにも皆にも悪いことをした。私は準備を終えると、研究所に向かった。
いつもの通り道なのに、波の音は静かに感じた。朝日が眩しすぎる、生きているって何なんだろう。とぼとぼと歩き続け、研究所に入るとロビーのカウンターにはリンがいた。こちらをチラッと見て、視線を落とした。
「おはよう、リン。」
「あ、おはよーございます、ボス。」
そう言って、リンは研究開発部の方へ消えて行った。いつもならニュースのことをぐだぐだと話してくれるのに、やはりもう嫌われたんだな。ポータルでも、私とボスを二人きりにしないでください、と書いていたし、仕方ない。肩を落として、私はオフィスのドアを開けた。ジェーンがお茶を淹れていた。
「おはよう。」
「おはようございます。本日は特に目立った業務も無いので、研究室に居ます。何かあればウォッフォンに連絡ください。それでは。」
ジェーンは私を目も合わせないで出て行ってしまった。仕方ない、私は悪い奴だ。それほどの事を黙っていたのだ。またため息をついて、ソファにバッグを投げ置いた。
オフィスの壁には、ジェーンのお手製のポスターが貼ってある。グレン研究所から帰った辺りで、彼が作成したものだった。白い用紙に黒いペンで、足りないパーツの特徴と、時空間歪曲機に使うレアな鉱石の特徴と、名前が書かれている。皆が何処かで見たか、教えてくれるようにここに貼ったのだ。
あと必要なのは、青い大きなパーツ一つと、レアな鉱石がたくさんだ。私が何か力になれないか、それを見ながら考えては見たが、何も思いつかなかった。オフィスで一人立ち尽くしていると、ウォッフォンに連絡が来た。
『おはよう、今ちょっといいかな?アリスたちの研究室に来て欲しいです。』
タージュ博士の頼みを了承し、私は現場に向かった。よりによってアリスたちの研究室……。足首にお守りでも付けられているようだった。
研究室に着いてドアを開けると、研究所の白衣姿のタージュ博士と、アリスと、ジェーンが居た。タージュ博士はドロドロした物が中に入っている瓶を持っていて、それをアリスがじっと観察している。
研究室の机で何かの設計図を書いていたジェーンは、私をチラッと見て、すぐに視線を逸らした。とことん嫌われてる、仕方ないけれど。
そんな中、タージュ博士は私に笑顔を向けてくれた。
「あれ?ボス少し痩せた?いけないよ、朝ごはんはちゃんと食べなきゃ。食欲がない時はヨーグルトを食べるといい、整腸作用もあるからね。」
「そうですね、どうもありがとうございます。」
涙が出そうになった。こんな私にも、優しくしてくれる人が居るんだって、申し訳ない気持ちになった。タージュ博士は腕を組んだ。
「はあ、事情は知っていますよ。でも、起きたことは仕方がない。誰にだって大切な人はいるものです。私にだって、大切な人はいます……、一生片想いでしょうけれど。さて!これですが、前にアクロスブルー大橋の海底付近に付着していた泥です。覚えてるかな?」
タージュ博士が瓶を指差した。クラースさんが持ち帰ったけど、絶対に開けるなと言っていた、あの泥か。
「ああ、覚えています。何か分かったのですか?」
「うん、面白いことが分かったよ。どうやらこの泥は、此処よりもさらに地下の世界、インジアビスとの境目から来た泥のようなんだ。そしてこの泥に含まれているキラキラした緑色の物体……。これを検査した結果、部長が探しているレアな鉱石と、成分が一致した。」
ジェーンの目が見開き、タージュ博士を見た。
「それは誠ですか!?スプスタンツィオナリズィルユシミシャー鉱石ですか!?」
よくさらっと言えるな……。ジェーンがオフィスに張っているポスターに名前を書いてくれたが、誰もちゃんと覚える人が居なくて、皆の間ではスプ鉱石と呼ばれていたものだ。タージュ博士が少し困惑気味に答えた。
「はは、部長はそういう発音がお得意のようで。そう、そのスプ鉱石だ。そしてこの泥には、主にインジアビスに存在している土や、泥の成分も含まれている。それが何らかの影響で、海底に出現したのだろう。そうだ、前に聞いたが、確かボスはインジアビスの出身だとか。この鉱石を見たことはあるかな?」
「出来れば事実をお話し頂きたいですね。」
嫌味を言うジェーンに私は項垂れながらも、博士の質問に答えた。
「私は小さい頃に帝都に引っ越したから、よく覚えていない。でもあの地には何万種類と言われる鉱石が存在していると聞いた。そうだよ、だから実際に行って確かめればいい。」
「はぁあ、同じ意見ですか」ジェーンがため息をついた。とことん私を嫌うな、この人。「あの地に鉱石の塊がある可能性は高いです。」
アリスが唇に人差し指を当てて、首を傾げた。
「でも~、インジアビスって瘴気があるんでしょ?住んでて平気なのって魔族とか、その血を受け継いだ人だけだって聞いたよ?まあ魔族からしたら、こっちは瘴気まみれなんだろうけれど。」
アリスの言葉に、ジェーンが答えた。
「そうですね、あの地に発生しているガスは我々にとって有毒、しかし魔族にとっては太陽の光が有毒です。しかし短期間でしたら、瘴気の影響は受けないはずです。インジアビスの入り口は確か……。」
タージュ博士がウォッフォンで地図を確認してくれた。
「うん、ボルダーハン火山の近くか。また遠出になるね。でもあの地は、他者を受け入れないとも聞いた。行ったところで、中に通してくれるかな?」
私は言った。
「私、行ってくるよ。父親が生まれも育ちもインジアビスだし、誰かしら、私の父を知っている人が居るだろうと思う。それにハーフだから瘴気には慣れてる。行ってくるよ。」
するとアリスが私の腕を掴んで、ブンブンと振りながら言った。
「え~!私も今度こそは一緒に行く!ジェーンは?だってジェーンが探してた鉱石でしょ~?」
いいよアリス、私がとってくるから!苦い顔をしたが、アリスには届かなかった。ジェーンが少し考えた後に言った。
「……そうですね、ボス一人にこの件を任せて、借りを作りたくありません。私も同行します。」
はは、ボスか。もうとことん嫌われてしまった。ジェーンと私の様子を見たタージュ博士が、困った様子で首を傾げた。
「おいおい、ボスも部長も事情は理解しますが、ジェーディアって呼ばれていた時のように仲良くして欲しい。それがあって、職場は活気付いていたんだから。」
「でもね、」アリスが答えた。「ジェーンはキリーがギルバート騎士団長と関係があったのを黙ってたから、許せないんだよ。色んな意味で、そう色んな意味で。まあ私は別に、どうでもいいけどね~。」
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