上 下
95 / 253
恐怖を乗り越えろ!激流編

95 俺はエリートのセンリ

しおりを挟む
 アッハッハ!ファ~、何度も笑いがこみ上げてくる。誰があいつの言いなりになんかなるかよ。バカで、俺よりも弱いのに、士官学校のエリートクラスを出てるからって、簡単に騎士団長になんかなりやがった。俺だって、生まれた環境が良くなかっただけで、騎士団の中でもエリート中のエリートだ。

「おらどけ!」

「せ、センリ様!」

 兵卒ごときが俺の邪魔をすんな。俺に声を掛けてきたそいつは、何故か俺の腕を掴んできた。俺はそいつを睨む。

「センリ様、地下三階が爆発で浸水中、更に連合が、その穴から侵入しています!兵達に指示を!」

「お前さあ。」

 俺はそいつの首を片手でギュッと掴んだ。はは、恐怖に怯えた顔がとっても面白かった。

「兵卒のくせに俺に口出しするんだ、何で?そんなに偉いの?ねえ?」

「ち、違います、違います!センリ様おゆるしくださぐああああ……!」

 つまらないから、俺は手に力を入れた。いとも簡単に、そいつは動かなくなった。今のを見ていた周りの兵士達が、怯えた目をこっちに向けた。人間なんてもんは、大体同じリアクションしかしねえ、つまらない生き物だ。社交辞令だってヘドが出る。あんな飼い犬のような態度を取り合って、何が楽しいんだか。

 俺はそいつをゴミのように放り捨てて、ヴィノクールの石で出来た階段を上がり始めた。その辺の兵士が、慌てふためいて俺にしがみついてるが、大体こいつら、ここまできたのは俺を信じてたからだろ。水が怖いだの何だのって、死の恐怖に対処出来ないと、すぐに俺にすがりついてくる!気持ちの悪い、ヒルのような奴らだ。

「どけ!お前ら!」

「ひっ」

 俺は兵達をかき分けて、地上へと向かった。ここから脱出して、ヴァルガもろとも、こいつらが水の中に沈むのを見たいと思ったからだ。見るには、ここからでは見れない。だから外へ行く。

 階段を上がっていくが、地上に近づいたところで、何故か兵達が階段で詰まっていた。あと半分で地上階なのに、何をこんなところで突っ立ってんだよ、外に行けよ。

「おい!詰まってるぞ!早く外に出ろ!」

「やめろ、戻ってくれ!入れてくれ!」

 と、叫び声が聞こえた。鬱陶しいな。俺は自分の前に立っている奴の首根っこを掴んで、後ろに放り長げながら進んだ。こうすれば前に進める。外の夕日が微かに兵達の頭の上から見えている、もうすぐ地上だ。

 しかし皆、立ち止まっていて邪魔だ。バカなのか?地上階に着いている兵士達が、ぎゃあぎゃあ叫んでいる。

 だが突然、階段状に居た兵士が、俺の方に向かって倒れてきた。俺はそいつを受け止めた。なるほど、頭を撃たれ、血をダラダラと流していた。だが、息がまだあったので、俺は後ろに放り投げた。誰かがきっと手当でもするだろ。

 銃声が聞こえる。俺は入り口の柱に隠れながら、銃を撃つ騎士を見つめた。奴が銃弾から身を守るように、柱の影に隠れながら叫んだ。

「ダメだ、皆、ここから出るな!撃たれるぞ!湖畔にスナイパーがいるんだ!地上で待機していた者は、四方八方から撃たれてしまった。クッソ……こっちからじゃ当たらねえ!」

 連合にそんなのいるのか?ああ、ユークアイランドの特殊部隊か。あれがそこにいるんだ……。しかし、どんなもんなんだ?夢中になって外に向かって撃っている射撃兵の後ろに、俺は立った。そして、俺の後ろに立っていた奴が、俺に当たってきて、俺はその銃兵の背中を押してしまった。

「おい!押すなと言っただろ……あ。」

「お前、誰に向かって口聞いてんだ?あ?」

 そいつは怯えた顔で首を振った。おもしれえ、一つ実験をしようか。俺はそいつの首根っこを掴んで体を持ち上げて、地上への出入り口から、そいつの体を外に出してみた。

 パンパンパンと、一気に頭だけが同時に撃ち抜かれた。それも何方向から。入り口から見る限り、周りの地上階の建物にも、遠くの湖畔にも人影は見当たらない。しかし銃弾の威力が加減してあるのか、兵士はぐったりとしているものの、まだ息をしていた。

「ふん……射撃の腕はあるようだな。お前ら、地下に行け。」

 俺はそいつを別の兵士に預けつつ、下の段でアホ面をこちらに向けている奴らに言った。だが、急いで来たらしい、息の上がった兵士が一人やってきて、首を振って叫んだ。

「それが、それが下からも!最下層の水路から、大勢の連合軍が!奴らの本隊とみられます!」

 一気にその場がざわつき始めた。明らかに、俺たちは押されているが、俺は面白かった。一度ぐらい、ヴァルガの困った顔を見たかった。

 あーあ、だから俺は思っていたんだ、念の為援軍を手配してはいかがかと。だけどヴァルガは俺に意見を求めなかった、俺がバカだと思っているからだ。本当にバカなのは、どっちなんだろうね。

 さっきから、ヴァルガから着信が来ているが俺は無視している。

「お前ら、どけ。」

 俺は兵達をかき分けて階段を下り始めた。

「大軍だろうがなんだろうが、俺が蹴散らしてやる。そして俺が……。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】「幼馴染が皇子様になって迎えに来てくれた」

まほりろ
恋愛
腹違いの妹を長年に渡りいじめていた罪に問われた私は、第一王子に婚約破棄され、侯爵令嬢の身分を剥奪され、塔の最上階に閉じ込められていた。 私が腹違いの妹のマダリンをいじめたという事実はない。  私が断罪され兵士に取り押さえられたときマダリンは、第一王子のワルデマー殿下に抱きしめられにやにやと笑っていた。 私は妹にはめられたのだ。 牢屋の中で絶望していた私の前に現れたのは、幼い頃私に使えていた執事見習いのレイだった。 「迎えに来ましたよ、メリセントお嬢様」 そう言って、彼はニッコリとほほ笑んだ ※他のサイトにも投稿してます。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

【完結】「お迎えに上がりました、お嬢様」

まほりろ
恋愛
私の名前はアリッサ・エーベルト、由緒ある侯爵家の長女で、第一王子の婚約者だ。 ……と言えば聞こえがいいが、家では継母と腹違いの妹にいじめられ、父にはいないものとして扱われ、婚約者には腹違いの妹と浮気された。 挙げ句の果てに妹を虐めていた濡れ衣を着せられ、婚約を破棄され、身分を剥奪され、塔に幽閉され、現在軟禁(なんきん)生活の真っ最中。 私はきっと明日処刑される……。 死を覚悟した私の脳裏に浮かんだのは、幼い頃私に仕えていた執事見習いの男の子の顔だった。 ※「幼馴染が王子様になって迎えに来てくれた」を推敲していたら、全く別の話になってしまいました。 勿体ないので、キャラクターの名前を変えて別作品として投稿します。 本作だけでもお楽しみいただけます。 ※他サイトにも投稿してます。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

売られていた奴隷は裏切られた元婚約者でした。

狼狼3
恋愛
私は先日婚約者に裏切られた。昔の頃から婚約者だった彼とは、心が通じ合っていると思っていたのに、裏切られた私はもの凄いショックを受けた。 「婚約者様のことでショックをお受けしているのなら、裏切ったりしない奴隷を買ってみては如何ですか?」 執事の一言で、気分転換も兼ねて奴隷が売っている市場に行ってみることに。すると、そこに居たのはーー 「マルクス?」 昔の頃からよく一緒に居た、元婚約者でした。

彼女が望むなら

mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。 リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

砕けた愛は、戻らない。

豆狸
恋愛
「殿下からお前に伝言がある。もう殿下のことを見るな、とのことだ」 なろう様でも公開中です。

婚約者の心の声が聞こえるようになったけど、私より妹の方がいいらしい

今川幸乃
恋愛
父の再婚で新しい母や妹が出来た公爵令嬢のエレナは継母オードリーや義妹マリーに苛められていた。 父もオードリーに情が移っており、家の中は敵ばかり。 そんなエレナが唯一気を許せるのは婚約相手のオリバーだけだった。 しかしある日、優しい婚約者だと思っていたオリバーの心の声が聞こえてしまう。 ”またエレナと話すのか、面倒だな。早くマリーと会いたいけど隠すの面倒くさいな” 失意のうちに街を駆けまわったエレナは街で少し不思議な青年と出会い、親しくなる。 実は彼はお忍びで街をうろうろしていた王子ルインであった。 オリバーはマリーと結ばれるため、エレナに婚約破棄を宣言する。 その後ルインと正式に結ばれたエレナとは裏腹に、オリバーとマリーは浮気やエレナへのいじめが露見し、貴族社会で孤立していくのであった。

あなたなんて大嫌い

みおな
恋愛
 私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。  そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。  そうですか。 私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。  私はあなたのお財布ではありません。 あなたなんて大嫌い。

処理中です...