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恐怖を乗り越えろ!激流編

88 グレンの前で集合

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 その日の朝、グレン研究所とタマラ採掘隊の事務所の前には、大勢の人々が集まった。人々は皆、どこから来たのか地域によって、色合いや模様の違う防具を身につけている。

 ソーライ研究所は黒と青の全身ライダースーツで、グレン研究所の皆は全身赤色、タマラ採掘隊や農業組合の皆さんは若草色のスーツだ。

 ケイト先生の航路の途中で、タマラ義民兵の話を聞いた、シロープ島の海の男たちも付いて来てくれたようで、彼らはオレンジに白のスーツだ。ヴィノクールの民は青いローブの下に、薄めの素材の防具を入れている。

 今、皆は立ちながら、それぞれ話し合っている。私はツールアームでツルハシを素振りする練習をしていると、リンが話しかけて来た。

「みんな面白いことにライダースーツだよね。しかもその地域の特徴が出てる。ここまで装備が揃うとは思っていなかったから、逆にそれが戦いの現実味を出してる。ちょっと怖いんだけど。」

 それに答えたのは、私の近くで地図を確認していたジェーンだった。

「怖い?あなたにも何かを怖いと思う気持ちがおありだったとは、寝耳に水です。それに、結局ライダースーツが民間の服の中で一番安全です。思いも寄らない事故から体を守ってくれますし、この時代のライダースーツには防弾性もあります。持って帰りたいぐらいです。」

 ジェーンの言葉に、リンがちょっと頬を膨らましている。私はそれを流しつつ、言った。

「それにユークアイランドの市長のミラー夫人に、今回の事を話したらすごく張り切っちゃって、支援するって意気込んで、それで急遽ライダースーツメーカーに、それぞれの地域の特徴が出るようなデザインを発注してくれてさ、すべての装備を無償で提供してくれたんだ……いや、無償じゃないんだけど。」

「え?どういう事?何か見返りがあるの?」

 リンの質問に、私は引きつった顔で答えた。

「うん。その引き換えに、戦いのリアルタイム視聴を要求された。」

「まあ」ジェーンが微笑みながら言った。「それで費用を全額ユークアイランドが負担してくれるのなら、安いものですよ。ユークアイランドと帝都の関係は悪くなりますが。」

「いいんじゃない?ユークアイランドの方が財産あるから、別にそんなのどうでもいいっしょ。市長さんが視聴を望むのも仕方ないんじゃない?市長だけにね!アハハっ!」

「……。」

 私とジェーンは、一斉にリンから顔を逸らした。度々出る彼女のくだらないシャレは何なんだろうか。お父さん譲りなのだろうか。

 あまりもう考えたくないので、置いておこう。ここで反応すると、リンは確実に調子に乗る。それをジェーンも分かっていたのか、我々は敢えて流したのだ。

 でもまあ、リンの言っていることは理解出来る。確かにユークはもう経済的に帝都から独立してもおかしくない。そのユークが我々の味方であることは、最大の強みだ……変な要求されるけど。ユークと帝都の溝は確かに深くなるだろうが、ヴィノクールの民が水中都市の中に監禁されっぱなしなのは、放って置けない。

 やるしかない、私だって色々と怖い。でも、皆がいる。私はウォッフォンでアリスに連絡をした。

「アリス、おはよう。どうかな、こっちの状況は見れる?」

『見れるよ~ばっちり!地図の上に、みんなの位置がちゃんと表示されてるから、ここからでもサポートしやすい!位置測定装置を正確に作り上げたジェーンもやるねぇ~!それもセキリュティも完璧だし。』

 研究所にいるアリスやキハシ君は、戦況に変化があれば伝えてくれる、オペレーターの役割だ。ポータルの地図上には、ここに居る全ての味方の位置が表示されている。この戦いの間、集まってくれた皆に事情を説明したら位置情報の取得を許可してくれたのだ。

 ウォッフォンのホログラムの画面で地図を見ていると、その端のウィンドウにミラー夫人を始めとする、サンセット通りの連中が、公民館でこちらをじっと見ている光景が目に入った。やはり、断ればよかった。だがそうすると、防具の恩恵は受けられなかった……それに。

「ミラー夫人、公共の場で観覧して、この作戦が相手に漏れないよね?」

『大丈夫、大丈夫!ユークアイランドは自警システムがちゃんとしてるし、セキリュティ面は問題無いわ!誰にも私の邪魔をさせないわよ!』

『あはははは!』

 あははじゃないよ、みんな……本当に、本当に拒否したかったが、まあ外部に漏れないと、そこまでハッキリ言うんだからいいか。苦笑いしていると私の肩がポンと叩かれた。振り返るとジェーンだった。

「戦況を確認したいと思います。我が方はヴィノクールの民、タマラの義民兵、シロープの漁業組合にグレンとソーライの研究員です。」

「よく集まったなぁ……。」

 私は改めて、研究所の前に集まっている大勢の人々を眺めた。ジェーンは続けた。

「しかし、先ほどニュースで確認したのは、ヴィノに駐在している騎士団の兵数は二師団、つまり我々の兵数の二倍です。中々の兵力差ですが。」

 赤ライダー姿のスコピオ博士が走って、こちらに近づいて来た。ジェームスさんやタールも彼について来た。スコピオ博士は、ふうと鼻でため息をついて言った。

「なるほど、向こうの方が圧倒的に数が多いのか……しかも戦いのスペシャリストだろ?何だかなぁ。ヴァルガ騎士団長の師団でないことを願いたいが。」

 ジェーンはウォッフォンのホログラムを指でスライドさせて、ニュースを読みつつ、答えた。

「火山に居たのは、シヴァ大臣の師団だったようですね。まあ女性の師団長は彼女しか居ませんか。現在ヴィノクールに駐在しているのは、残念ながらヴァルガ騎士団長の師団と、もう一人……センリ・アッシュフィールドという名の師団長のようです。」

 その話を聞いたのか、クラースさんがバッとこちらを勢いよく振り向いた。

「ジェーン、それは確かか?」

「え、ええ。この情報では。記事の出元を調べたところ、帝国の情報機関の物で、まがい物ではありませんでした。真実かと思われます。」

 私は聞いた。

「もしかして?」

「ああ、俺の兄貴に間違いない。これはより一層、気を引き締める必要があるな。」

 と、そう言ったクラースさんが、少し離れたところで戟を取り出して、ブンブンと空を切り始めた。実の兄に対してやる気満々だ……。た、頼もしいと言うべきか。しかし、その時だった。一人のタマラの男性がこちらに走ってきて、教えてくれた。

「すみません!何やら、ブレイブホースの集団が、こちらにやってきます!彼らは敵かもしれません……!」

 私はよく見るために、皆の間を通り抜けて、男性が指差している方向に、じっと目を凝らした。確かに地平線の彼方から、ブレイブホースらしき集団の影が現れていた。それは何千という数だ。
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