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まるでエンジェル火山測定装置編

75 逃げ道はどこ

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 「今度は何?何の音!?」

 リンが振り向いて叫んだ。音がしたのは、この広場から唯一抜けられるメイン通路の方からだった。すぐに現場に駆け寄り、私は息を飲んだ。爆発によって、岩で完全に塞がれてしまったのだ。

「しまった……閉じ込められた。」

 何度も槍でその岩を叩いたが、やはりビクともしない。この広場にはまだ皆がいる。リン達も、グレン研究員も、タマラとヴィノクールの民も。

「なるほど……。」私の隣にやってきて、岩を観察しながらジェーンが言った。「その通路を封じれば、我々は完全に、ここに閉じ込められるという訳です。そこまでして我々を痛めつけたいとは……帝国の騎士でありながら随分と感情的です。」

「この通路を爆破出来ないかな?」

 私は岩の壊れ方を確認しているタールに聞いた。彼は岩の具合を見ていて、そのうちに岩に足をかけて、高くまでよじ登っていき、隙間を見つけたのか覗きこんでいる。

「うーん……これは参ったな。この入り口から奥までずっと、岩がひしめきあってる。こりゃかなりの落石量だ。俺たちが持ってきた爆弾じゃ足りねえな。」

「そんな!」

 リンが銃を地面に落とした。

「我々が何とかしてみよう!」

 ヴィノクールの民が岩に向かって水属性の魔術をぶつけてみるが、崩落した入り口は、ビクともしなかった。そうとなれば他の岩で塞がれた通路を確認して、通れそうなところを探すしかない。

 そう思った私は他の通路の岩を確認しに走った。何を言わなくても理解してくれたタールが付いて来てくれて、一緒に確認したが、岩の崩落の範囲が思ったよりも広く、脱出するには爆弾が足りなかった。タールが悔しさに顔を歪めながら、地面を蹴った。

「くそ!タマラからもっと爆弾を持って来れば良かった!バカだな、俺は!」

「タールのせいじゃない、何か別の方法を考えれば……。」

 私がそういうが、皆の表情は晴れなかった。ジェーンは何かいい案を思いついただろうか、彼の方を見たが、じっと地面を見つめて、黙っていた。この間にも、最奥部の暑さでアマンダは勿論、皆の体力がどんどんと削られていく。その時だった。

 グオオオオオォ……

「な、なんだ!?」

「ドラゴンよ!火山のドラゴンだわ!」

 誰かが叫び、タマラのヴィノクールの民たちから悲鳴が聞こえ始めた。これはまずい。私は皆に聞こえるように、叫んだ。

「落ち着いてください!あまり騒ぐと、かえってドラゴンを刺激します!静かに、静かに……。」

 私の言葉に皆が従ってくれた。一旦落ち着きを取り戻したかのように思えたが、不安げな表情のままだった。取り巻く不安は、どんどんと加速していく。ドラゴンの羽ばたく音が、近くから聞こえてくる。姿こそ見えないが、近くにいるのは間違いないようだ。スコピオ博士が天井を眺めて言った。

「度重なる爆発音で、怒らせたに違いない……とにかくここを早く出ないと!怒った火山のドラゴンは、かなり獰猛だって、ギルドから聞いたんだ!」

 あああ、なんてことを。博士の言葉によって、皆がまた、慌てふためいた。

「しかしどうやって、ここから出るんだ!?」
「もう駄目よ、ドラゴンに食べられるしかないんだわ!」
「落ち着いてください!まだ来ないから、もう少し、静かに!」

 ザワザワと皆が声を出す。これではこちらに来てくれと言っているようなものだ。私は大声を出して静かに!と叫ぶが、皆の声の方が大きくなっていて、私の声は掻き消されてしまった。

「静かに!お願い、静かに!」

 羽ばたきの音がかなり近い。それを聞いたのか、誰かが悲鳴を出した。するとつられて他の誰かも叫んだ。このままではまずい。

 ふと、そばにいたジェーンと目があった。彼は何だか、苦しそうな表情をしていた。どうしたの?苦しいの?と聞く前に、彼が言葉を発してしまった。

「キルディア、腕の傷が、開いています……。」

「ジェーン、それは今は気にならない。」

「そうですね、そうだ。それは関係のない、私の戯言です。」彼の目が泳いだ。初めて見るジェーンだった。何か考えているようにも見えるし、動揺しているようにも見える。私は言った。

「ジェーン、気遣ってくれたのに、ごめん。なんか様子が変だ。どうしたの?苦しかったら無理しないで。」

「キルディア、私がここは……私がここは、どうにかせねば。私には出来るんです。ですが、いえ……あなたが大変なのに、何を迷うことがありましょうか。そうです、」

「ジェーン?」

 本当に、見たことないジェーンだった。しどろもどろの彼の様子をじっと見ていると、一度彼と目が合った。次の瞬間に、彼はこの場を離れて何処かに向かって走っていった。私は彼を追った。彼はこのドーム状の広場の壁際まで辿り着くと、腕で額の汗をぬぐいながら叫んだ。

「キルディア!此処を爆破するように、タールに指示をしてください!」

「えっ!?」

 ジェーンの声が聞こえたようで、タールとスコピオ博士が、こちらにやってきた。同じく反応した周りの民達が、こちらを見ている。ジェーンは迷いのない様子で、岩の壁を指差して言った。

「此処で間違いありません!此処を爆破するよう指示を!」

 と、言っても……そこは他の岩の壁同様、何の変哲も無い、黒くて固そうな岩壁があるだけだ。私は戸惑いながらも聞いた。

「で、でも何で?」

 ジェーンは私に言った。

「この辺りの壁は意外にも薄いはず。何故なら、ここから旧採掘道に繋がる道が存在しているからです。」

「旧採掘道!?」反応したのはスコピオ博士だった。「そんなの、この最奥部には無いぞ!ずっと俺たちはこの火山のことを研究してきたんだ!それも太古の昔からな。でもこの辺りに採掘道があるなんて、聞いた事もない!無駄に火薬を使ってどうするんだ……?」

 それでもジェーンはまだそのポイントを指差している。そして言った。

「此処には必ず旧採掘道があります。その細い道を抜ければ、現在の採掘道に繋がります。間違いありません。早く爆破を!」

「何言ってんだ!何を!」次に叫んだのはタールだった。「俺たちはこの火山のことなら何でも知ってるんだ!そんな道、昔の地図にだって存在していない!おい、ジェーン!熱で頭をやられたのか!?」

 は!?そこまで言うか!?私は槍の柄の先を地面にガンとぶつけて、タールを睨んだ。彼はヒッと声を漏らして、ジェーンに悪態をつくのをやめた。ジェーンがそこまで言うのは何か根拠があるんだ。彼のことだ、確証のないことを、わざわざこの状況で言うはずがない。私は彼に優しく聞いた。

「ねえ、ジェーン。それは確かなの?」

 ジェーンはぼーっと何処かを見つめたまま、ため息をついた。

「はぁ……確かです。この壁の奥は、約二千年前に使用されていた旧採掘道につながっております。古の時代、このエリアには、今はもう採り尽くされてしまった、あるレアな鉱石が存在していたのです。私の研究にはそれが必要だった。その鉱石の入手と引き換えに、あの測定装置を……」

 独り言のような彼の言葉を、皆が聞いている。この話の流れ、まさか……。

「兎に角、あなた方が知らないのは無理もありません。この火山の地図が正式に作成されたのは、文献を見れば、約一千年前のことですから。」

「じゃあ何で知ってるんだよ……ジェーン。」

 タールの言葉に、ジェーンは意を決した表情でこちらを見た。まさか、まさか。気付いた私は、何度も首を振った。

「それは……それは、私が約二千年前から来た人間だからです。」
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