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まるでエンジェル火山測定装置編
61 グレン研究所
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タマラ村で一泊した翌朝、宿屋の近くにあったレンタルショップで、ブレイブホースを二台借りた。一台を私が運転して後部座席にリンが乗り、もう一台はクラースさんが運転して、後ろにジェーンが乗ることになった。
走り出したら、やはりと言ったところか、ジェーンがクラースさんにぎゅっと抱きついたのだった。まるで二人は接着剤でくっついてるかのように離れないので、暫くリンと笑ってしまった。草原を運転している間はずっと、リンはウォッフォンで彼らの動画を撮っていた。
ありがたいことに快晴で、草原で一休みしていると、ピクニックのような気分になった。涼しい風、風に揺れる草花、小鳥の囀り……それらを堪能していると、クラースさんがバッグから、ラップに包まれたサンドイッチを取り出し、皆に配り始めた。中身はツナサンドだった。船の上で捕った魚で料理したらしい。彼の魚料理のレパートリーに脱帽した。
皆で草むらに座り、サンドイッチを食べて、リンは相変わらず恋話をしていた。
その後は、何時間もかけて草原を走った。暫くすると、草原地帯が段々と、灰色の地面に蝕まれていき、終いには岩がゴロゴロ転がっている、火山地帯へと突入した。
火山灰が地面に降り積もっているのか、時々、砂埃が舞い飛んだ。大地の遥か前方には、ボルダーハン火山が黒く、大きく聳え立っているのが見えた。火山に近づいているからか、気温がどんどん高くなっていく。その麓付近に、ぽつっと大きな施設があるのを発見した。それはサイトに載っている写真の外観、そのままだった。
ブレイブホースをグレン研究所の近くに停めて降りると、私はすぐに背伸びをした。ずっと同じ姿勢が続いたので、体をほぐしたかったのだ。ジェーンやクラースさんも同じくストレッチをしていて、リンは何やらずっと一点を見つめていた。リンの視線の先には、グレン研究所とは別の建物があった。
「あれ、何だと思う?キリー。」
リンがその建物を指差して聞いてきた。コンクリ製っぽいが、屋根はトタンで覆われていた。所々錆びついていて、年季が入っていそうだった。建物のドアの横には、古い看板が立てかけられており、その文字は剥がれていて読めない。疑問に思っていると、クラースさんが言った。
「あれはタマラ採掘隊の事務所だ。タマラの村は通っただろう?彼らは昔から農業だけでなく、ここボルダーハン火山で採掘もしているんだ。詳しくはよく知らんが、鉄鉱石や石炭がメインらしい。」
「そうなんだ……。」
納得したその時、グレン研究所から白衣姿の人が出て来たのが見えた。白衣の中には、赤いポロシャツとベージュのハーフパンツを合わせていて、黒髪の短髪を手で整えながら、のほほんとした笑顔を私に向けた。
「よお!どうしてここで立ち止まってるんだ?しかし、ここまで長かっただろう……知ってると思うが、俺はスコピオだ!生で会うのは初めてだな、はは!」
そう挨拶した彼は、順番に握手をし始めた。それぞれ自己紹介を終えると、スコピオ博士は我々を、研究所の中に迎え入れてくれた。エントランスから中に入った途端に、すーっと涼しい風が流れた。クーラーが効いているんだ、とても快適だった。
スコピオ博士は私達を会議室へと案内してくれた。丸テーブルが置いてあり、奥には大きな会議用のモニターがあった。これはソーライ研究所の物と同じだった。テーブルに研究員がお茶を置いている。私達はお茶の置かれた席に、それぞれ座った。そして研究員の男性がお茶を置き終わると、会議室から出て行き、スコピオ博士はモニターの前に立って、話をし始めた。
「まあ、ちょっと待ってくれ……。」
と、博士はモニターを見ながら、テーブルに置かれたPCを操作している。PCとモニターはリンクしているようで、博士が指を動かすと、モニターのポインターも動いた。
因みに、待ち受け画面はボルダーハン火山だった。窓でも覗けば、生ですぐに見れるだろうに、PCでも火山を見たいなんて、そんなに火山が好きなのか。そして博士は、グラフや写真を出して、迷いながら言った。
「さて、何処から話そうか……。」
私はお茶を一口頂いてから、博士に質問しようと思った。マテ茶だった。予想外の苦さに、ごくっと喉を鳴らしてしまった。
「……っ。何だか、火山の奥の測定装置が壊れたとか。」
スコピオ博士は頭を掻きながら苦い顔をした。PCの操作をして、モニターに火山内部の地図を表示した。
「そうそう、キルディアの言った通りなんだ。今日はクラースやリンもいるから改めて説明をするが、このボルダーハン火山のマグマの動きや気温、それから色々と火山について、細かいことを測定する装置があるんだが、それが今回、壊れてしまってな……ここにあるんだが。」
スコピオ博士がポインターで指した地点は、火山の最奥部だった。それを見た我々は苦い顔をした。だってあんなところまで行かないといけないとは……。ジェーンが言った。
「それはまた、随分と奥深くにありますね。」
「ああ、」スコピオ博士がモニターを見たまま答えた。「実はこの装置、結構古いものでな。文献によれば、この世界が生まれた少し後に、出来た装置なんだよ。」
「えっ!?じゃあ千年単位!?」
リンが口に手を当てて驚いている。私もクラースさんも目を見開いてしまった。博士が答えた。
「ああ、古いだろう?それを我々グレン研究所の職員が、昔からずっと補強したり修理したりして、大事に大事に使ってきたんだ。しかし今度はあろうことか、心臓部であるマイクロバルブが故障してしまったんだ。」
クラースさんが聞いた。
「それは結構大変なことなのか?グレン研究所でも。」
「ああ……この機械の設計図は重要史料扱いで、帝国図書館の地下に保存されいてるんだが、何処だったかな……図書館から、マイクロバルブの設計図のデータを送ってもらったんだ。これだ!」
博士は設計図をモニターに表示させた。だがその設計図、かなり廃れていて、所々見えない。そのボロボロの設計図を見て、スコピオ博士は頭を抱えた。
「マイクロバルブは今まで、一度たりとも壊れたことはなかったんだ。あれはこの二千年間、誰が考えても同じ物を作れはしない、かなーり複雑な構造をしている。設計図を見たって、何が何だか理解出来た者は居ない。だから俺たち職員はこの二千年間ずっと、それが壊れないことを、毎日、朝も昼も晩も、天に、イスレ山に、祈ってきたんだ。だが恐れていた事態は起きてしまった……ああ、もっとこの設計図の保存状態が良ければ助かったんだが……それでも修理は無理かもしれないけど。ああ。」
「設計図が見れても、修理は難しいの?じゃあ新しいの作ればいいのでは?」
私の質問にスコピオ博士は首を振った。涙目だった。
「勿論、新しいものを作ろうとする研究者は今まで何十人と居たが、これより正確で、質の良い物は作れなかったんだ。だからこの設計図を見て真似ようにも、肝心な所、つまりマイクロバルブのところだが……その箇所がボロボロすぎで全然読めないんだ。これについては、同じものは作れない。仮に別の装置を一から作成したとしても、完成まで何十年もかかるだろう……それよりも、俺たちはこの美しいまでに、複雑な仕組みを持ち、火山のことを知り尽くしているこの装置を愛してきたんだ!こいつじゃないとダメなんだ!グレン研究所の真の所長は、こいつなんだ!あはぁぁぁぁぁぁん……!」
スコピオ博士は天を仰いだ。その気迫に我々は圧倒されて、スタン状態になってしまった。博士は暫くどこかを見つめて固まっていたが、急にジェーンを指差して叫んだ。
「ところが!英雄はソーライ研究所にいた!ああ~ダメ元でキルディアに頼んでみて良かった!ジェーンさんはこの装置を直せるとか?そうなんだよな?」
「え、ええ。故障した箇所の写真を見る限りでは、修復可能だと判断しました。」
怖いくらいに満面の笑みのスコピオ博士が、ジェーンの元へと近寄り、ジェーンの肩をガシッと掴んだ。
「因みに、その知識は何処で手に入れたんだ?」
「え。」
と、ジェーンが気まずそうに横目で私をチラッとみてきた。
走り出したら、やはりと言ったところか、ジェーンがクラースさんにぎゅっと抱きついたのだった。まるで二人は接着剤でくっついてるかのように離れないので、暫くリンと笑ってしまった。草原を運転している間はずっと、リンはウォッフォンで彼らの動画を撮っていた。
ありがたいことに快晴で、草原で一休みしていると、ピクニックのような気分になった。涼しい風、風に揺れる草花、小鳥の囀り……それらを堪能していると、クラースさんがバッグから、ラップに包まれたサンドイッチを取り出し、皆に配り始めた。中身はツナサンドだった。船の上で捕った魚で料理したらしい。彼の魚料理のレパートリーに脱帽した。
皆で草むらに座り、サンドイッチを食べて、リンは相変わらず恋話をしていた。
その後は、何時間もかけて草原を走った。暫くすると、草原地帯が段々と、灰色の地面に蝕まれていき、終いには岩がゴロゴロ転がっている、火山地帯へと突入した。
火山灰が地面に降り積もっているのか、時々、砂埃が舞い飛んだ。大地の遥か前方には、ボルダーハン火山が黒く、大きく聳え立っているのが見えた。火山に近づいているからか、気温がどんどん高くなっていく。その麓付近に、ぽつっと大きな施設があるのを発見した。それはサイトに載っている写真の外観、そのままだった。
ブレイブホースをグレン研究所の近くに停めて降りると、私はすぐに背伸びをした。ずっと同じ姿勢が続いたので、体をほぐしたかったのだ。ジェーンやクラースさんも同じくストレッチをしていて、リンは何やらずっと一点を見つめていた。リンの視線の先には、グレン研究所とは別の建物があった。
「あれ、何だと思う?キリー。」
リンがその建物を指差して聞いてきた。コンクリ製っぽいが、屋根はトタンで覆われていた。所々錆びついていて、年季が入っていそうだった。建物のドアの横には、古い看板が立てかけられており、その文字は剥がれていて読めない。疑問に思っていると、クラースさんが言った。
「あれはタマラ採掘隊の事務所だ。タマラの村は通っただろう?彼らは昔から農業だけでなく、ここボルダーハン火山で採掘もしているんだ。詳しくはよく知らんが、鉄鉱石や石炭がメインらしい。」
「そうなんだ……。」
納得したその時、グレン研究所から白衣姿の人が出て来たのが見えた。白衣の中には、赤いポロシャツとベージュのハーフパンツを合わせていて、黒髪の短髪を手で整えながら、のほほんとした笑顔を私に向けた。
「よお!どうしてここで立ち止まってるんだ?しかし、ここまで長かっただろう……知ってると思うが、俺はスコピオだ!生で会うのは初めてだな、はは!」
そう挨拶した彼は、順番に握手をし始めた。それぞれ自己紹介を終えると、スコピオ博士は我々を、研究所の中に迎え入れてくれた。エントランスから中に入った途端に、すーっと涼しい風が流れた。クーラーが効いているんだ、とても快適だった。
スコピオ博士は私達を会議室へと案内してくれた。丸テーブルが置いてあり、奥には大きな会議用のモニターがあった。これはソーライ研究所の物と同じだった。テーブルに研究員がお茶を置いている。私達はお茶の置かれた席に、それぞれ座った。そして研究員の男性がお茶を置き終わると、会議室から出て行き、スコピオ博士はモニターの前に立って、話をし始めた。
「まあ、ちょっと待ってくれ……。」
と、博士はモニターを見ながら、テーブルに置かれたPCを操作している。PCとモニターはリンクしているようで、博士が指を動かすと、モニターのポインターも動いた。
因みに、待ち受け画面はボルダーハン火山だった。窓でも覗けば、生ですぐに見れるだろうに、PCでも火山を見たいなんて、そんなに火山が好きなのか。そして博士は、グラフや写真を出して、迷いながら言った。
「さて、何処から話そうか……。」
私はお茶を一口頂いてから、博士に質問しようと思った。マテ茶だった。予想外の苦さに、ごくっと喉を鳴らしてしまった。
「……っ。何だか、火山の奥の測定装置が壊れたとか。」
スコピオ博士は頭を掻きながら苦い顔をした。PCの操作をして、モニターに火山内部の地図を表示した。
「そうそう、キルディアの言った通りなんだ。今日はクラースやリンもいるから改めて説明をするが、このボルダーハン火山のマグマの動きや気温、それから色々と火山について、細かいことを測定する装置があるんだが、それが今回、壊れてしまってな……ここにあるんだが。」
スコピオ博士がポインターで指した地点は、火山の最奥部だった。それを見た我々は苦い顔をした。だってあんなところまで行かないといけないとは……。ジェーンが言った。
「それはまた、随分と奥深くにありますね。」
「ああ、」スコピオ博士がモニターを見たまま答えた。「実はこの装置、結構古いものでな。文献によれば、この世界が生まれた少し後に、出来た装置なんだよ。」
「えっ!?じゃあ千年単位!?」
リンが口に手を当てて驚いている。私もクラースさんも目を見開いてしまった。博士が答えた。
「ああ、古いだろう?それを我々グレン研究所の職員が、昔からずっと補強したり修理したりして、大事に大事に使ってきたんだ。しかし今度はあろうことか、心臓部であるマイクロバルブが故障してしまったんだ。」
クラースさんが聞いた。
「それは結構大変なことなのか?グレン研究所でも。」
「ああ……この機械の設計図は重要史料扱いで、帝国図書館の地下に保存されいてるんだが、何処だったかな……図書館から、マイクロバルブの設計図のデータを送ってもらったんだ。これだ!」
博士は設計図をモニターに表示させた。だがその設計図、かなり廃れていて、所々見えない。そのボロボロの設計図を見て、スコピオ博士は頭を抱えた。
「マイクロバルブは今まで、一度たりとも壊れたことはなかったんだ。あれはこの二千年間、誰が考えても同じ物を作れはしない、かなーり複雑な構造をしている。設計図を見たって、何が何だか理解出来た者は居ない。だから俺たち職員はこの二千年間ずっと、それが壊れないことを、毎日、朝も昼も晩も、天に、イスレ山に、祈ってきたんだ。だが恐れていた事態は起きてしまった……ああ、もっとこの設計図の保存状態が良ければ助かったんだが……それでも修理は無理かもしれないけど。ああ。」
「設計図が見れても、修理は難しいの?じゃあ新しいの作ればいいのでは?」
私の質問にスコピオ博士は首を振った。涙目だった。
「勿論、新しいものを作ろうとする研究者は今まで何十人と居たが、これより正確で、質の良い物は作れなかったんだ。だからこの設計図を見て真似ようにも、肝心な所、つまりマイクロバルブのところだが……その箇所がボロボロすぎで全然読めないんだ。これについては、同じものは作れない。仮に別の装置を一から作成したとしても、完成まで何十年もかかるだろう……それよりも、俺たちはこの美しいまでに、複雑な仕組みを持ち、火山のことを知り尽くしているこの装置を愛してきたんだ!こいつじゃないとダメなんだ!グレン研究所の真の所長は、こいつなんだ!あはぁぁぁぁぁぁん……!」
スコピオ博士は天を仰いだ。その気迫に我々は圧倒されて、スタン状態になってしまった。博士は暫くどこかを見つめて固まっていたが、急にジェーンを指差して叫んだ。
「ところが!英雄はソーライ研究所にいた!ああ~ダメ元でキルディアに頼んでみて良かった!ジェーンさんはこの装置を直せるとか?そうなんだよな?」
「え、ええ。故障した箇所の写真を見る限りでは、修復可能だと判断しました。」
怖いくらいに満面の笑みのスコピオ博士が、ジェーンの元へと近寄り、ジェーンの肩をガシッと掴んだ。
「因みに、その知識は何処で手に入れたんだ?」
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