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第56話 攻撃宣誓

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 2回戦目はグリーンクラス対ブルークラスだった。
 我々の陣の中央の防御壁にはベラ先生とマーヴィンがいて、向かって左側に私が、右側にリュウ達が陣取った。他の皆は後ろの列だ。

 人数に差がありすぎるけど、我々にはベラ先生がいる。それだけがグリーンクラスの士気の高さの理由だ。他はない!

「おい!ヒーたん!本気でいくからな!あ、そうだ、あとでおいしいプリンあげようか?」

 目の前の防御壁からおちょくり大魔神が顔を覗かせて、私に向かって話しかけてきた。他の生徒達からクスクスと笑いが溢れ始めている。

「まずはそこを狙うからね!……」

 私がタライさんのいる目の前の壁を指差して攻撃宣誓すると、しゃがみながらタライさんが狙い通りや…ヒヒと言ってるのが聞こえた。それ作戦なんじゃないの?聞こえちゃダメなんじゃないんだろうか。それ。

「それでは代表者は一言!」

 ブラックストーンを持っているシュリントン先生の言葉に、ベラ先生と家森先生が境界線を挟むように向かい合って立った。最初に口を開いたのは家森先生だった。

「お分かりでしょうが、数だけではなく強力なメンバーが我がクラスには揃っています。怪我されないように。」

「生憎、こちらにも特別な作戦があるの。あなたこそケガしないでね。」

 両者バチバチのセリフにフゥー!という歓声が上がる。
 ベラ先生達がそれぞれ防御壁に戻ってくると、シュリントン先生がストーンを鳴らした。

 途端にブルークラスの生徒達は私たちに向かって魔弾を打ち始めたが、グリーンクラスの皆は静かにしている。

 実はこれ、ベラ先生の作戦なのだ。少ない人数で対等に戦うには効率的に動くしかないと、この戦いが始まる前に彼女に作戦を仕込まれたのだ……どうやら彼女は絶対に勝ちたいらしい。

「いい!Dゾーンに放て!」

 ベラ先生の号令にグリーンクラスの皆が一斉に魔法を放った。Dゾーンはブルークラスの後方、エレンとジョンを始めとした後方射撃部隊がスタンバイする壁だ。

 そこに向かって集中放火された私とグレッグの炎の球、リュウとベラ先生の風の刃、マーヴィンの水の刃など、皆の魔法全てが大きなかたまりとなって飛んで行った。

「撃ち落としてください!」

 家森先生が叫び、ブルークラスの皆が慌てて撃ち落とすように我々の放った塊に向かって魔法や銃を撃っているが、ベラ先生がその後も素早く何度も風の刃を放ってその攻撃から守ると、我々の放った強力な魔弾がエレンとジョン達がいる場所に落ちた。

 爆発音がして砂埃が巻き上がった。よし、Dゾーンの人間に当たったようだ。

「うそ!もう終わり!?」
「もうずるいよー!」

 と声が聞こえたので、壁から覗いてみるとDゾーンの生徒全てに当たったようで、ゾロゾロとその場から離れていくのが見えた。

「なるほど……これは厄介だ。それでは、司令塔を先に落としますか。」

 ブルークラスの前列、真ん中の壁の奥から家森先生の声でそう聞こえた気がする……声デカイでしょ。しかし折角聞こえたのでそのことを隣の壁で待機しているベラ先生に伝えようとしたが、目が合うと私が何を言おうとしたのか理解した様子で「私を狙うらしいわね、大丈夫そうはさせないわ。」と言ってくれた。

 そしてしゃがんだままベラ先生が大きな声で言った。

「みんなよくやったわ!次の機会に備えて!」

 ベラ先生の言葉にはい!と反応した我々は、魔力を体に溜めながらまた静かに壁に隠れるようにしてしゃがんだ。

 するとタライさんが私の足元に向かって、水切りのようにその辺の小石を投げてきたのだ。近くの地面にコロコロとそれは転がって止まった。

 何その攻撃。まあいいや、軽く応戦しながら反撃の機会を待っていよう……。

「ヒイロ聞いて」

「はい?」

 隣の壁に居るベラ先生に呼ばれたので、しゃがみながら壁から出ないように移動する。

「あ」

 次の瞬間、私の視界がぐるりと回転して、ドシャッと上半身から地面にぶつかってしまったのだ。不覚にもさっきタライさんが投げてきた石につまづいて地面に転んでしまった。

 やばい。防御壁から私の上半身がモロに出てしまった。

「今や!」

 タライさんが銃をこちらに向けている!

「危ない!」

 ベラ先生が私を庇うように私の前にしゃがんで、風の防御壁を作って守ってくれた。しかしそれもタライさんの連続早撃ちで消えてしまった。

 魔力を失ったベラ先生は素早く振り返り、私を抱くように体を盾にしてしまった。彼女の背中にタライさんの水の銃弾が何発も当たった音がした。

「ああ!やられたわね!あなた達、後はよろしく。」

 ええ!?そんな!ベラ先生が残念がりながらフィールドから出て行ってしまった。私のせいで司令塔が……あああ。

 それにしてもさっき転んだ時に足をくじいたのか痛みがあって、まだちょっと壁からはみ出しながら地面に手をついてしまっている。両手を使ってにじにじ戻っていくが、まだ相手の中央の壁からだと狙える角度に私はいる。

 このままだと撃たれるのも時間の問題だ……と思っていたが、意外にも誰も私を撃ってこなかった。

「ああ!ここからじゃ角度的に撃てへん!前列中央は何してるんや!」

 前列中央の壁……ああ、家森先生がいるところか。彼は通常実践魔法しか使わないし、そのカウンター技は今日のこの競技には使えないはずだ。ラッキーラッキー今のうちに戻ろう。

 カラン

 家森先生の居る壁の方から音が聞こえたけど、何の音だろう。しかしもうちょっとで元の場所まで戻れる。リュウやマーヴィン達が応戦してくれる間にどうにか壁に隠れるようにしなくては。

「何、目を丸くしてはんのや!そっからならヒイロ狙えるでしょ!行け!先生!銃の使い方分かりますよね!」

 タライさんの声に家森ファンがキャーキャー言いだした。なるほど!確かに、魔術が使えないなら銃を使えばいいんだ!これはやばい!やばすぎる!

「はよはよ!ハンドガンぐらい使えるやろ!行けー!家森先生!」

 ハッとして隙間から相手中央の壁を見る。その壁の脇から家森先生が私に銃を構えたのが見えた。彼の手に握られているのはタライさんのハンドガンだ。やばい!

 ……しかし撃ってこない。

 あれ?よく見ると先生の手が震えている気がする。なかなか撃とうとしない家森先生に向かって、はよはよ!と急かす声が聞こえている。

 パン

 少しの間のあとに、光の銃弾が私に放たれた。銃で攻撃する姿も光魔法を使う姿も貴重で、女子から黄色い声が爆上がっている。

 銃弾は私の頰のすぐ横を通って背後の地面に着弾した。ああ、あぶなかった!壁の影に隠れながら銃弾を放ってきた家森先生を見てみると、彼は俯いていて、その無表情の中に切なさが混じっているのが分かった。

 ……なんかちょっと私だから遠慮してたっぽい。そんなの必要ないのにと私は気にしないでもらうために叫んだ。

「おのれー!撃ちおって!」

 その場にどっと笑いが起きて、家森先生も少し笑ってくれた。

 その間にも互いのクラスの人数は減っていき、グリーンクラスは私とリュウとあと1人になり、ブルークラスは家森先生とケビンとタライさんとあともう1人になっていた。

 人数が少なくてベラ先生も居ない、士気なんてものはとっくの昔に無くした我々だったけど、意外にもブルークラス相手に接戦に持ち込めている状態だ!

 そんな中、思い切ったリュウが壁から少し体を出して風の刃を中央前列の壁に放つ瞬間に、家森先生も素早くハンドガンを構えて光の銃弾をリュウに放った。

 光の銃弾はリュウの腕に当たり、風の刃は家森先生の肩に当たった。

「くそ!やられた!」

「後のことはあなたに任せます、高崎!」

 相殺し合ったリュウと家森先生がフィールドから出て行った。待機している生徒達の方へ家森先生が帰った途端に、マリーをはじめとしたファンの子達が「銃使えるなんてすごいです!」や「かっこよかったです!」とワイワイ彼を持て囃し始めた。

 そのうちマリーが家森先生の腕をいつもみたいに抱きしめたが、何故か家森先生がこちらを見て私が見ていることを知るとニヤリとして、もう片方の腕もファンの子に渡したのだ。

 は?何それ……。これはもしや、さっき私がタライさんとくっついてたことに対する仕返しなのだろうか。そうのなのだとしたら……効果は抜群だよ!

 そんな状況の中で気付けば他の皆はもう撃たれ、あとは私対タライさんになってしまった。

 思わぬ大接戦に観客席から歓声が湧く。

 タライー!いけー!
 ヒイロー!グリーンクラスの意地を見せろー!

 ちょっと相手陣地を覗こうと思って壁から顔を出そうとすると、すぐにタライさんの水の銃弾が私のいる壁に当たった。危なっ!

「あー!あともう少しやったなぁ!」

 タライさんは悔しがっている。そうだ、私にだって魔術があるんだ。どうにか、壁から出ないで放てる方法は無いかな。

「はっ!」

 私は出来るかどうか分からないけど試しに炎の球を放った。そして放った炎は一度グリーンクラス後方に向かったかと思うと空にぐいっと上昇していき、大きく円を描いて……多分タライさんの後ろに回ったはずだ。

 歓声が大きくなった。

「なんや!あっ!」

 タライさんは持ち前の俊敏さで避けて、隣の壁にジャンプで飛んで行こうとしたのが見えた。

 このチャンスを逃してはならない!私は飛んでいる姿のタライさんに向かって炎の豪速球を撃った。しかしそれはあらぬ方向に飛んでしまって当たらなかった。ああ、まだ魔法のコントロールが上手くいかない。

「ああー!おしかったなぁ~」

 失敗したことに私はしゃがみながら口を手で抑えた。

「おうおう!やるやんけ!ケリつけたるわ!」

 タライさんが壁から立ち上がったのか、水の銃弾を私のいる壁に何度も撃ち付けられた。このままではまずい何も出来ない。

 そうだ、私もめちゃくちゃ撃てばいいんだ。数撃ちゃ当たるってね。

 私は壁から立ち上がった瞬間に炎の球を何個もタライさんに向かって撃った。するとそのうちの一球がタライさんの頭めがけて飛んで行ってくれた。それをタライさんは相殺しようとしたが水の銃弾が負けた。

 危ないと真横に飛んで避けたタライさんに炎の豪速球を投げる。タライさんは横に飛びながら水の銃弾で私の炎をギリギリのところで相殺すると、素早く足に仕込んでおいた筒から水の刃を出して、勢いよく私の方へ放った。

「あっ!」

 いきなり飛んできたナイフに反応が遅れてしまい、私の頬に掠れてしまった。ヘッドギアの魔力のおかげで威力が減ったが、ちょっと切れて血は出た。

 タライさんは飛び込んだ姿勢のまま地面にドシャッと倒れた瞬間にシュリントン先生が叫んだ。

「この試合、ブルークラスの勝ち!いやぁ、いい試合だった!」

 大歓声が上がった。あ~負けたか~悔しいな。

「ヒイロとベラ先生に勝ったよ!」

 喜ぶブルークラスの生徒達の中で、そう叫びながらジョンとエレンが抱き合っているのが見えた。そしてグリーンクラスの皆が私に駆け寄ってくれて、労いの言葉やハイタッチをしてくれた。

 少ししてから防御壁のところで転んでいたタライさんが立ち上がった。

「え?勝ったの?当たったのあれ?」

 キョトンとしている。まぐれだったのか……それでもあんな飛びながら素早く武器を切り替えられててすごかったけど。彼の戦い方をちょっと参考にしようかな。

 そして皆の様子が気になって辺りを見たときに、家森先生がこちらを心配そうに見ているのが分かった……それも女性陣にもみくちゃにされながら。

 少しぐらいその状況をどうにかしてもいいんじゃないのと苦笑いして、私はベラ先生に連れられてきたウェイン先生に頬の傷の手当てを受けた。すぐに怪我をした私に気づいたタライさんが血相を変えて近寄ってきて、心配そうに私を見つめた。

「え?頬に当たったん?ごめんな。大丈夫か?痛い?」

 ぷっと笑ってしまった。タライさんって意外と心配性なんだ。私は大丈夫だってことをアピールしたくてタライさんの肩をちょっと強めにどつきながら言った。

「大丈夫!大丈夫だって!タライさんやるやん!」

「まあな!こういう戦い方は得意やからな~。」

 タライさんと肩をどつきあって遊んでいると、ウェイン先生が私に結構な力でどついてきた。なんで彼は今、参加してきたんだろうか。

「まあなんでもいいけど、ヘッドギアのスイッチ入れろよお前……装備している意味が殆ど無いだろうが。」

 え?スイッチ?

 耳横のスイッチを押すと顔面の前にスッと透明な膜が現れた。ああそうか、みんなこうやって付けてたんだ。はい……すいませんでした。



 防御壁を片付けた校庭では、クラスごとに整列して、シュリントン先生からの話を聞いていた。そして私の隣にはタライさんが密着するように立っている。

 何故ならそれが最近の彼の楽しみらしい。そうやって家森先生がヤキモチを焼くのを見たいらしいのだ。当の家森先生はと言うと、ベラ先生の横で立ちながら青空を見上げているが、たまに生徒達に視線を落とした時にこちらの方を見る。確かに我々を気にしているのかもしれないけど……どうなんだろう。

「俺もう最近楽しい。」

「タライさん楽しそう。」

 するとタライさんが私の頭を撫でてきた。

「な、なに」

「今日はよう頑張ったやん、すごいなと思って。」

「それも妬かせたいからですか?ふざけすぎです~」

「……これはちゃう。別にこれで妬くのは先生の勝手やし知らんけど、俺がしたいからしてる。」

 何それ……。

「……ですから、今後もまた、実戦的な練習を重ねて」

 シュリントン先生はいつも話が長い。タライさんはナデナデしてくるし、空は青い。別に家森先生とは特別仲が良いけど、そんなに妬きはしないよねと思いながら家森先生をチラッと見ると目が合った。

 いつもの冷たい目つきで、意味有り気に目を細められた。もしやタライさんから離れろって意味かもしれない。そしてすぐに私の横に視線を向けて隣の彼をじっと睨んだ……ああ、タライさんの言った通り、彼は妬いてくれてるのかもしれない。

「ヒーたん、そういや家森先生と進展あった?」

 ゲッ……あったと言えばあるけど、別に関係としては変わらないよね。なら無いか。

「無いです。いつもと同じ」

「そうなんや~。じゃあさっきから俺に殺し屋のような冷たい視線を向けてくる先生とライバルになろうかな。」

「ん?なんのライバルですか?」

「秘密のライバルや。へへっ」

 タライさんはまた私の頭をナデナデし始めた。何のライバルなのか言ってくれてもいいのに。
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