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第13話 密通とスナイパー

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 ワイワイ騒めく皆をかき分けて闘技盤に近づいて行くと、リュウが反対側から登って来るのが見えた。

 私も盤上に上がると何人かの同じクラスの生徒がリュウ!がんば!と叫んでいるのが聞こえたけど私にガンバとは言ってくれなかった。

 ああ、そう……そうですか!

 なんかみんなの視線が恥ずかしくてあまり周りは見たくなかったけど、リュウの背後の方でさっきの彼女が立っているのが目に入った。しかもそのツインテールの女の子は私のことを睨んでいる。

 なんか、めんどくさいなぁ……私は苦い顔をしながらリュウの方を見る。
 軽く肩を回してフットワークをつけているリュウは私の方を見て、笑顔になった。いざここに来るとちょっと緊張してきた。手が汗ばむ。

「では、互いに一言。」

 シュリントン先生がバインダーを脇に抱えて、我々の方を見て言った。

「よし!」リュウは叫んで軽くジャンプして跳ねている。

「勉強の成果見てくれよな!ヒイロ!」

「私も頑張るよ!」と微笑んで拳を構えた。

 ふと、生徒側から「防具つけなくて大丈夫なの?」と声が聞こえた。
 チラと周りを見ると何人かは心配そうに私のことを見ていた。

 確かにね。お気持ちお察し致します。でも先生方に止められないってことは、ルール違反には、なってないはず。

 先日売店で見た防具の値札を思い出し、これでいいんだ!と再度踏ん張った。

「行きます!」号令係が叫ぶ。
 ブラックストーンがシャランと地に着いた。

「いっけぇ!」

 リュウが風の刃を私に放つ。ベラ先生のよりは小さいが当たったら痛そうだ。
 私は横に飛んで避けたが、連続で投げられた刃の一つが肩にかすってしまいシャツが切れて血が出てしまった。オーマイ!

 すると近くからベラ先生の声が聞こえた。

「やはり防具は必須にした方がよろしいのではないでしょうか?」

 それに反応したのはシュリントン先生だ。

「何を言ってるんだね!防具を用意してこなかったのは生徒自身なんだ!防具がないということはどういうことなのかと学ぶ機会にもなるし、ね!そうだろう!」

「チッ……自分が楽しみたいだけでしょうが」

 興奮感を含んだ声色のシュリントン先生に向かって、ベラ先生が舌打ちして確かにそう言ったのが聞こえた。私はちょっと笑いそうになる。

 すると後方からジョンの声が飛んできた。

「大丈夫だよヒイロ!炎で押せ~!イエローポールだと思ってさ!いけいけ!」

 その言葉に場内はざわめき始めた。

「え?イエローポール倒したのってあいつか?」
「どういうこと?すごくない?」

 ジョン……私のハードルを上げないでよ!何してんの!?

 そして肩から血を流した私に動揺して、動きを止めていたリュウと目が合った。

「今のうちよー!リュウいけー!」

 彼女から発せられたその言葉にハッとしたリュウは、もう一度こちらに風の刃を放ってきた。それを今度は横に飛んでうまく避けることが出来た。

 それからリュウと私は互いに風の刃や炎の球を飛ばしまくった。しかし上手くコントロール出来ない。右に放とうとすれば左に出るし。ここぞと思って全力を出そうとすると魔法自体が出なかったり……コントロールは最悪だった。

 何度もリュウに決められそうになりながらも必死に避けて、咄嗟に私は地面に手を合わせた時に魔法を発動してしまった。

 リュウの足元に火の魔法陣が出現した。

「なにっ!?」

 リュウが足元の異変に気付いたと同時に、魔法陣から大きな炎の柱が吹き上げた。観声も大きくなった。

「うわっ!」

 防具によって守られたが、その熱さにリュウは座り込む。もう一度立とうとしたが、体勢を崩し両手を地面についてしまった。

「勝者ヒイロ!」

 シュリントン先生の声が響いてリュウは「うわー!悔しいー!」と叫んだ。

 私はリュウに近寄って手を差し伸べると、彼は私の手を握って立ち上がった。

「リュウ、ごめん大丈夫?突然出ちゃって……」

「うん!大丈夫だって心配すんなよ!でも今度練習に付き合ってくれよ?うわー!まじか超悔しい!」

 笑顔でそう言ってくれたリュウに感謝したし、また彼と戦ってみたいと思った。

 ……あとやっぱりリュウの彼女さんが私を睨んでいる。何とか気付かないフリをしながら私は闘技盤を降りた。

「次誰かなー」
「まだ当たってない人居たっけ?」

 そんな話し声を聞きながら生徒の一番後ろ側を歩いてジョン達がいるところへ向かって歩いて行く。さっき切れた肩が痛んで血が出ているので手で押さえながら歩いた。

がしっ

 突然、誰かに腕を掴まれた。

「怪我は大丈夫ですか?何故防具をつけないの?」

 背後から聞こえた声に振り返るとそこに家森先生がいた。

 私の腕を掴んだまま、心配そうな瞳で私のことを見つめている。少し、胸がきゅうとなった。何故なのか分からないけど。

「ああ、これ」

 くらいなら大丈夫ですし防具は高くてと言おうとしたら、家森先生の隣に現れたマリーが先生の腕を抱きながら話を遮ってきた。

「かすり傷でしょ?大丈夫だよね?」

 マリーは家森先生の腕に頬をスリスリしながら下僕を見るような目で見てきた。そのマリーもちょっと嫌だし、それを受け入れている先生もちょっと嫌だ。

「ああはい、ほんと大丈夫。心配ありがとうございます先生。」

 私は家森先生の手を振り払ってその場を足早に去った。

 ジョン達の元へ帰って行く途中で、生徒と生徒の間から出てきたタライさんに肩をポンと叩かれた。

「ヒイロやるやん!」とグーポーズをそれだけすると、彼は元いた場所に戻って行ってしまった。何だか今のは面白かったし、さっきの嫌な気持ちを忘れさせてくれた。

 そしてジョンのところまで戻ると、ジョンはお腹に包帯をぐるぐるに巻かれて床に座っていた。防具着けててもこれほどに怪我したのか……痛そう。

「お疲れ!ヒイロも怪我したでしょ?見てもらいなよ!」

「どれ、見せてみろ」

 ウェイン先生にグッと腕を引かれて私は手当を受けた。エレンが口元を押さえて私の肩の傷を見ている。

「大丈夫?やだこんなに切れてる…。」

「防具をつけないからだ。全く!」

 ウェイン先生はまたグッと力強く私の腕を引っ張ってきた。荒々しい治療をする人だと思う……。彼はドクターバッグからペースト状の薬草が入った小瓶を取り出すと私の肩にべちゃっと豪快に塗ってきた。

「ひっ!」

 イッタァ!傷にしみるしみる!これは怪我した状態より痛い!

「ただの切り傷だ。これ塗っときゃすぐに治るさ」

 そう言って先生は薬草を塗ったところにガーゼを当て、包帯を巻いてくれた。

 手当を終えた私にジョンが話しかけてきた。

「ヒイロの炎すごかったなぁ!あの炎の大きな柱ってどうやって出したの?」

 私は首を振って言った。

「あれは自由に出せないみたい。意識して出したんじゃないから。」

「どう言うこと?」

「なんか、コントロールも最悪で、思うように出せない時もあったり不安定なんだよね……」

「そう言う力もあるさ。」

 ウェイン先生の言葉に私たちは彼の方へ視線を向けた。

「え?」

「自分じゃコントロール出来ない力のことさ。その代わり、その人の使う魔術はかなり強力なんだ。稀に、普段全然魔法を出せないが、特定の条件の元に発動できる人も居る。そいつの魔法はとんでもなく大きな力らしいが……ヒイロはまだ出せてるだけいいじゃないか。」

「そうなんだ、全く出せない人も居るのですね」エレンが言った。

「ああ、そう言う人はどんな条件で発動するのか、どんな強靭きょうじんな力なのかは、その人その人で違うらしいが。」

「ウェイン先生はその力あります?魔法使ってるとこ見たことないし」ジョンが先生に聞く。

「はは、俺が持ってるわけねーだろ!俺の魔法はペンライトがわりにしかならねぇ。」

 そう言ってウェイン先生はドクターバッグをパチンと閉じた。

 するとその時、ポケットの中の携帯が震えた気がした。

 あれ?今みんな授業中なのに一体誰が送ってきたんだろうか。私のアドレスを知っているのはリュウやベラ先生、タライさんにあとは………いや、いやいや。幾ら何でも授業中に送ってこないでしょう。

 私は羽織っている赤いチェックシャツの中に携帯を隠しながらチェックした。

 ____________
 傷の具合はどうですか?
 痛くはありませんか?
 ウェインの使用した
 薬草を見る限り、
 大ごとにはなって
 いないようですが、
 少し心配です。
 家森
 ____________

 ……え?

 私は遥か向こうでファンの女子に囲まれぼーっと宙を見つめながら突っ立っている家森先生の方を見た。

 彼は腕をマリーに抱きしめられていて、もう反対側も誰かブルークラスの女の子に腕を抱かれている。その周りには女生徒ばかり群がっていて……ハーレム状態だ。

 え?あの状況で私にメールを送る事など出来るのだろうか。しかも文面から、先生は私が手当を受けていたのを見ていたらしい。この遠距離で薬草の種類まで分かるなんて、何と目のいい……。

 私はシャツの中でどうにかメールを打って返信することにした。

 ____________
 大丈夫です!
 ヒイロ
 ____________

 さあ送ったぞ!彼はチェックするだろうか。

 すると取り巻き達に腕を抱かれたままの家森先生が、コートのポケットの中を覗いた。なるほど。ポケットの中に携帯を入れたまま操作していたのか。それはいい手だ!

 メールを見終えた家森先生が私の方を見てきたので目が合ってしまい、私は咄嗟に視線を逸らした。何だろう……ちょっと胸が苦しい気分だ。なんだろう……いけないよヒイロ。頑張ろうよ。

 その間にも闘技盤では、呼ばれた生徒が次々と試合を繰り広げられていた。どれも迫力のある試合だ。私も思わず何度も声をあげてしまった。

「次は…エレンとマリー」

 ひゃっと反応するとエレンは短機関銃を握った。

「マリーとなんて……レッドクラスじゃない。どうしよう。」

 エレンが不安がると隣のジョンがカバンをゴソゴソして何かを取り出し、
「これ使ってよ。」とゲームのコントローラーのようなものを差し出した。

「何これ?」

「このコントローラーは、これと連動するんだ。」

 そう言って彼はお弁当箱のようなサイズの箱をエレンに渡した。

「この箱は何?」

「これはね、コントローラーを起動させると分かるよ。クックック……僕の技術がたっぷりと詰まった自信作なんだから」

 ジョンはエレンにウィンクをした。

 盤上にはすでにマリーが腕を組んで立っていて、時折家森先生のことを見ている。頑張れー!とマリーの友達たちが声援が聞こえてくる。

 エレンは短機関銃を腰に下げ、ジョンから貰ったコントローラーとボックスを持ち、盤上に登った。見たことのない得体の知れない何かに生徒達がざわつく中、ジョンが叫んだ。

「エレン!箱を置いて、置いて!」

「えっ置けばいいの!?」

「そうそう!置かないと起動しない!」

 エレンは自分の近くの床に恥ずかしそうにボックスを置いた。

「なあにそれ?武器なの?」マリーは聞く。

「多分…そうみたい。」

 エレンはコントローラーを握る。

「それでは、一言。」シュリントン先生の声が響いた。

「今日は敵同士、お互い全力を尽くしましょう。」

 ツンとした瞳でマリーが腕を組みながら言うと、エレンは何度も頭を下げて言った。

「よ、よろしく…。」

 カラン
 ブラッククリスタルの音が響くとエレンはコントローラーの電源を入れた。

 するとボックスはたちまち姿を変形し、狼型のロボットにその姿形を変えてしまったのだ!歓声が一層大きくなる。シュリントン先生も目を丸くし、ロボットに見入っている。

「何これ!?」

 エレンが叫ぶと、盤のふちに手を置きながらジョンが説明をした。

「これは狼型の戦闘ロボットだ!エレンの魔力を使って動いてるから疲れたら使用を中止して!それと、コントローラーの操作方法はドラゴンハンターと一緒にしといたから!」

「ドラゴンハンターって何?」

 私の質問にジョンが笑顔で答えた。

「ああ。ゲームだよ!ハンターを操作してドラゴンを狩るんだ。エレンはそのゲームがとっても上手でね。街で行なわれたゲーム大会で優勝したんだよ!?すごいよね!僕の自慢の彼女さ!」

「な……なるほど。二人ともその、ゲームっていうのは好きなの?」

「うん、まあね。それで一緒に遊ぶようになって、僕は彼女が好きになったから。戦友が今となっては恋人になったのさ。」

 あはは、なるほど。彼らはそんな馴れ初めだったのかと私は微笑んだ。
 そんな話をしている最中にも、狼型の戦闘ロボットはエレンのボタン操作に合わせて俊敏に右往左往に動いた。

「そんなロボットなんか…!」

 マリーはロボットに手を向け、鋭い氷の刃を飛ばした。しかし、狼は寸手のところで交わした。

 そしてマリーに向かって走って行く。慌てたマリーは氷の刃を何度も狼に飛ばす。しかしそれらは全て床や上空に飛んで、狼には当たらなかった。

「そんな…」

 落胆するマリー。私がエレンの方を見ると彼女はいつものふんわりした感じからは考えられない動きをしていたのだった。

 コントローラーを入力する手の速さは目が追いつかない程で、眼球運動も俊敏に動くロボットに合わせて激しく動いている。いつもゆったりまったり過ごしているエレンからは想像出来なかった。

「ロボットは卑怯です!ねえ、そうですよね!?家森先生!」

 マリーは家森先生の方に向かって叫んだ。歓声が一度静まり、皆の視線が家森先生に集まる。

「シュリントン先生!そう言ってますがー?」

 家森は闘技盤の反対側に立っているシュリントン先生に向かって叫んだ。今度はシュリントン先生に皆の視線が集まる。

「…1体なら許可する。」

 そう言うと歓声が元に戻り、マリーはそんな!と言う表情をした。エレンの操る狼ロボットは姿勢を低くして臨戦態勢に入っている。

「こうなったら…!」

 マリーは狼ではなく、今度はエレンをめがけて氷の刃を何本か放った。

「あっ!」

 私は思わず叫んだ。

 しかしエレンは腰から短機関銃を素早く引き抜き、瞬時にエイムを定めトリガーを引き、光の銃弾を放たれた全ての氷の刃に当てて破壊したのだ。

 あまりの早撃ちに、その正確さに、歓声が大きくなる。

「どえらいスナイパーやな!」

 どこからか知っている声が私の耳に入った。

「エレンは銃撃も得意なんだ。ゲームで鍛えたからね!て言うか、この実戦で彼女は負けたことないよ!」

 ジョンは得意げに彼女の自慢をしてきた。その気持ちもこれを見ていたら分かるよ!私は笑顔でエレンに拍手した。

 その後すぐに狼がマリーの足を噛もうとして、マリーは降参した。

 舞台から降りて来たエレンは、
「これすごくよかった」とコントローラーと狼のボックスをジョンに返した。

「また次のためにバージョンアップしとくから」

 ジョンはにっこり微笑んで、受け取った機器類をバッグに入れた。
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