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meishino

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78 まさか

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 鍛錬の合間、お手洗いがてらウォッフォンを見てみるとメッセージが届いていた。二時間前に届いたものだった。


『お疲れ様ですキルディア。私は今から帝国研究所に向かいます。スローヴェンとリンは二階バルコニー近くの寝室が与えられました。一週間ほど滞在するようです。二人はガレージを気に入っておりました。先に空調をつけるそうです。A.Jane.S』


 確かにエアコンは大事だもんね、と少し笑いながら返事を書いた。


『そっか、二人が喜んでくれたのなら良かった。それにジェーンも。帝国研究所の件、ありがとう。サイモン所長喜んでくれると思う。私の方も順調です。帰ったら皆でおいしいものを食べよう。メリンダ達も一緒に、ちょっとしたパーティだね。K.Gilbert.K』


 返事がすぐに来たので見ようとしたけど、個室のドアがノックされたので急いで出ることにした。


 厳しく人に接しないといけない仕事だから、帰ってからとろけ具合に浸れるのが、私の中で本当に楽しみになっている。


 ああジェーン、今すぐに会いたいよ。そう思いながら懐かしの士官学校で教官と共に訓練に励む学生を眺めていた。時々、訓練に参加した。


 度々トレバーや陛下から連絡があった。トレバーは第七師団の件がメインだった。ついでにジェーンが派遣に付いてくるっぽいということを話すと、「そうですか、まあ頼もしいです」と少し笑った。まだ笑ってくれたので良かった。


 陛下に至ってはあの公務に君は来るかい?とか、あの件は大臣じゃなくて君とやりたいとか、未だに面倒くさかった。


 だからこそ、今夜のプチパーティは楽しみだった。それから怒涛の勢いで仕事が進んで、次にウォッフォンを確認出来たのは私が城の執務室に戻った時だった。


 窓の外はもう暗い。全ての会議を終えて、あと少しだけ、執務が残っていた。


『分かりました。小さなパーティが出来るように、準備をしておきます。A.Jane.S』


「ふふっ……それだけね。」


 おっと、独り言が出てしまった。そう、私はもう既にテンションが高い。この執務室に戻ってきた辺りから、興奮してきているのである。一人であることをいいことに、ニヤニヤした顔でPCを操作してしまっている。


 さくっと全てを終わらせると、私はウォッフォンの画面を出したまま、帰りの支度をし始めた。


 ジェーンに通話をしようと思ったが、コンコンとドアがノックされて、やあもう終わったのかい?から始まる延々とした会話という最悪のパターンを想像してしまった。


 しかし現実は違かった。ドアを開けて中に入ってきたのは、どういう訳かしんみりした顔をした、オーウェンだった。


「ど、どうしたの?様子が変。」


「失礼します……ギルバート様。」


 彼は俯いたままドアを閉めて、ゆっくりと私に近づいてきた。こんな彼は見たことがない。いつもキラキラした顔で、元気あふれているのに。失恋でもしたのだろうか。そうだとしたら、その雰囲気も説明つくけど。


 彼は今にも泣きそうな、見たことない顔をしていて、チラッと私を見てから、聞いてきた。


「ギルバート様、第三師団は、もう担えません。」


「え?……何かあったの?」


「私は団長の補佐の経験もあります。しかし今はトレバーが任務に就いています。しかし彼は、右足が悪い。ギルバート様も、右手も右足もありません。それでも尚、騎士や民はあなたやトレバーを望むのは……理解出来ます。しかし、どうして、私はどうして、騎士団長になれなかったのでしょうか?私の何が、不足しているのでしょう?」


「オーウェン不足していないよ。あなたは私より、勇敢だ。」


「ならば何故……!師団長の任務は、やりがいはあります。しかし、望むものではありません。ギル様、お手を拝借してもよろしいですか?」


「え?え?」


 オーウェンが手のひらを差し出してきたので、文字通り手を借りたいのだと理解した私は、彼を慰めるために、彼の手に自分の左手を置いた。


 その時だった。素早くオーウェンが手錠をつけた。「あ?何これ!」と言っている間に、オーウェンがもう片方の錠を自分の手首につけてしまった。


 そして、泣きそうな顔のまま、彼はウォッフォンに向かって謎の呪文を唱え始めた。


「アカシックコード、2143、05、006。」


「何それ?何の話?何これ?」


「爆弾です。ウォッフォン内部に、最新のものを忍ばせました。」


「……?」


 ……ん?


 ……んん?


 いやいやいや、いやいや。


「本当のことを言ってるの?オーウェンは爆発するの?本当に?」


 するとオーウェンが声を上げて泣き始めた。いやいや、問いに答えて欲しいんだけど。オーウェンが爆発するってことは、私も爆発するってことだ。


 え?私も?


 私は急いで、オーウェンのもう片方の手に付いたウォッフォンを見た。すると時計の画面に、カウントダウンが表示されていた。あと約十四分。


「オアアアア!?これはまずい!オーウェン、解除して!」


「出来ません、一度起動したら止まりません。私が情けない故に迷惑をかけました。ギルバート様、共に私と散ってください。そうか、これがきっと、私が人の上に立てなかった理由なのですね。」


「立ってるじゃない、師団長なのだから……騎士団長と同じことだよ。いや、フォローになってないかもだけど、あなたを慕う騎士はたくさんいる。レジスタンスの時だって、オーウェンに付いて来てくれた騎士はたくさんいた。そうでしょう?だから解除して。」


「ですから出来ません。技術部隊から拝借した最新式の起爆装置です。しかし範囲が狭いので、この部屋だけで済みます。」


「済みますじゃないよ。私がその中に含まれているだろうが。」


「ギルバート様のお言葉はとても嬉しいものでした。最後になって、私を救う言葉を与えてくれて……とても感謝しております。私の最後の願いです、共に散ってください。それが叶うのなら、私は光栄です。」


「それは叶うでしょうね、私は願ってもいないのに。え?これ本当に解除出来ないの?嘘でしょ?」


 私は彼のウォッフォンのホログラムを出そうとした。しかしロックがかかっているのか、うんともすんとも言わない。そんなこんなをしてる間に、一分経過してしまった。


 オーウェンはというと、「はは、はは」と正気でない笑みを浮かべてその場でしゃがみ込んでしまった。そんなに彼を追い詰めていたなんて、だって、第三師団長に任命した時のあの爽やかな笑顔。本当は嫌だったとは。


「じゃあさ、私の方が上に立つのに向いていないよ。オーウェンの本当の気持ちを、理解してあげられなかったんだから。ごめんね。」


「そういうところなんでしょうね、ギルバート様の優しさは、死を目前にしてもなお絶えることのない、絶対的な安心感、さすがでございます。」


「その崇めるのもういいって、本当に解除出来ない?じゃあ技術班呼ぶからね。」


「技術班を呼ぶとはさすがギル様、お目が高い。それは予測済みなので、彼らはもう既に全員帰宅させました。陛下も今日は外出をしております。城に技術者は誰一人残っていません。今から呼んだところで、間に合いませんよ。」


 お目が高いじゃないよ……ならばと私は右手で光のダガーを取り出して、手錠を切ろうとした。するとオーウェンが言った。


「私を一人、置いていくつもりですか?ギル様。」


「え?」……私は切るのをやめた。そうだ、爆弾解除しない限り、彼は助からない。「違う方法を考える。」


「そうですか、お優しいですね。それに手錠の鎖を切れば、すぐに爆発するところでした。もう少し、お話ししましょう?」


 ちょっと腹が立ってきた。私はイライラしながらジェーンに電話をかけた。するとジェーンのご機嫌な声が聞こえた。


『お疲れ様ですキルディア、もう仕事は終わったのでしょうか?ふふ、あなたからこうして電話をかけてくれるなんて、人生とは素敵なものですね。』


「お疲れ様ジェーン。仕事は終わったんだけど、終わってない。人生とは素敵だけど、一歩踏み外せば地獄だよね。……ウォッフォンの爆弾って知ってる?最新式のやつ。」


『……それは、私が開発した、ウォッフォンをオーバーワークさせる手法ですか?それとも帝国研究所の技術部が開発した、ウォッフォン本体に忍ばせるタイプのものですか?最新と言えるものは、その二つのはずですが。』


「流石だねジェーン。後者だよ。それって解除できる?」


『は?』


「もしもし?それって解除出来るの?例えばウォッフォンを操作してパスコードを入れるとかで。」


『……。』


 オーウェンは今、床に座り込んで泣き始めている。こうしている間にも時間がどんどん迫っているので、ジェーンには迅速な回答をお願いしたいところなのに、彼は黙ってしまった。少ししてから聞かれた。


『まさか、あなたのウォッフォンに爆弾が?』


「惜しい。オーウェンのウォッフォンに爆弾が仕込まれていて、私はオーウェンと手錠で繋がれている状態。さらには手錠の鎖を切ると起爆する仕組み。」


 すると彼の震える声が聞こえた。


『嘘だと言ってください、キルディア。』


「嘘だと言いたいよ、本当に。でももうタイムリミットが迫っているので、迅速に回答を願いたい。早くしないと私達は私の執務室で終わるよ。」


『……そ、それは、本当なのですね。……そのタイプの起爆システムは、ウォッフォン自体を操作する事で解除出来るものではありません。技術者がその場にいて、原始的な爆弾のようにウォッフォンを繊細な扱いで解体しなければならない。キルディア、本当ですか?』


「本当なんだって!」


 急に叫んだ私のヨダレが飛んで、オーウェンの頭に付いてしまった。私がそれを拭くと、何を勘違いしたのかオーウェンが頭を撫でられたのだと思ったようで、私の手を握って「ごめんなさいィィ」と更に泣き始めた。


『今のは彼の声ですね。それは本当のようだ。いや、本当なのは理解しています。……ただ、方法が。時間は後どれほどですか?』


「あと十二分。」


『私がそちらに行くのは無理ですね。別の方法を考えます。ナイトアームはありますね?』


「あるよ。」


『ならば私がナイトアームを遠隔で操作して、ウォッフォンの爆弾を解体します。それしかない。非常に困難を極めますが。』


「私はジェーンを信じてる。でも別に失敗しても、ジェーンを責めないよ。だからあまりプレッシャーに感じないで。」


『失敗する訳が無い。』


 こんなにも、彼のことをかっこいいと思った事があるだろうか。ぞくっとしてしまった。そう、私は変態なのである。それでいいから無事に帰ったら彼をハグしたい。


 私がナイトアームの防具を取り外すと、すぐにナイトアームのラインが赤く光った。遠隔操作モードに入ったようだ。


『キルディア、ウォッフォンを動画にします。』


「うん。」


 ホログラムの画面を、オーウェンのウォッフォンに向けた。ジェーンの真剣な顔をホログラムの裏面から見るのは不思議な感じだった。


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