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第12話 伝説の剣

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 「邪魔をするなら、僕が相手になるよ」

 エアルに腰に差されていた“古びた剣”。
 錆びついていたはずの剣は、エアルが構えると同時ににまばゆい光が灯る。
 なんとも目を惹く強い光だ。

「あれは……!」

 リザは大きく目を見開く。

 エアルの話を聞いた時から疑ってはいた。
 だが、出てくるのは曖昧あいまいな情報だったため、確証は得られなかったのだ。

 しかし、この光を前にしてようやく確信する。
 情報通のリザは聞いたことがあったのだ。

(これは……伝説の剣『エクスカリバー』!)

 ──『エクスカリバー』。
 SSSランクダンジョンのどこかに存在するとうわさされる伝説の剣だ。
 詳細は一切不明だが、正しく使う者にはを灯し、偉大なる力を与えると言われている。

 遺跡の文献ぶんけんに残る、いくつかの『ラビリンスの秘宝』。
 その内の一つがこのエクスカリバーである。

 そして、エクスカリバーを構えたエアルが動き出す。

「──!」
「……え?」

 だが、何が起きたかは分からない。
 おそらく・・・・エアルがエクスカリバーを振った。
 リザの目には留まらなかったが、音だけが耳に届いたのだ。

「その線を越えたら、倒されても文句は言わないでね」
「……!」

 エアルが剣で指した方向に、リザも視線を向ける。
 いつの間にか、魔物たちの足元には裂け目が入っていたのだ。
 エアルが見えぬ速さで地面を斬ったのだろう。

「さあ、どうする」

 出産を迎えるフェンリルを守りたいエアル。
 だが、この魔物たちに恨みがあるわけではない。
 これは彼なりの最期の情けなのだろう。

「グオォ……」
「グギャ……」
「ギャオ……」

 対して、魔物の強者たちも少しばかり戸惑う。

 だが、魔物たちはそろいも揃ってAランクオーバーだ。
 こんなところで引き下がるなら、わざわざここまで足を運んだりしない。

「グオオオォォ!!」
「グギャアアァ!!」
「ギャオオオォ!!」
 
 次の瞬間には一斉に向かってきた。

「エアル!!」

 その光景にリザが大声を上げる。

 つい昨日、エアルはジャイアントコングを圧倒した。
 ならば、相手が一体であれば心配もしなかっただろう。

 しかし、その時とは状況がまるで違う。
 ジャイアントコング以上の化け物が十体、それを一身に迎え撃つと言うのだ。
 いくらエアルと言えど、あまりにも無茶な戦いに思えた。

 それでも──

「故郷の友達との鬼ごっこを思い出すなあ」
「え?」
「あの時は百対一だっけ」

 エアルにとっては余興に過ぎない。

「ギャオオオオ!!」
「とあっ!」

 魔物界トップクラスのキック力を誇る『キングカンガルー』。
 そのあしに対し、エアルも同じくキックで対抗。

「ギャオァッ!?」
「ははっ!」

 そして勝利。

「グオオオォォ!!」
「うおっと!」

 さらに、突進に置いては右に出る魔物はいない『トッシンノオウガ』。
 それに対しても、あえて肩から突っ込む。

「グオァッ!?」
「どうだ!」

 そしてまたも勝利。

「……っ」

 そんな光景に、リザは言葉を失う。

 ジャイアントコングの拳。
 キングカンガルーのキック。
 トッシンノオウガの突進。

 どれも魔物界で名をせる恐るべき技だ。
 最も警戒すべきであり、必ず回避するのがセオリーのはず。

 それでも、エアルは真っ向勝負をやめない。
 リザは一つだけ、どうしてもツッコミを入れたかった。

「なんで全部張り合おうとするの!?」

 自ら相手の土俵に立ち、勝利する。

 エアルの美学か、もしくはただの子どもじみた負けず嫌いか。
 どちらにしろ、見ている側としてはハラハラしてたまらない。

 それでもやはり、エアルは全てに勝ってみせる。

「こんなところかな」

 ふーっと息をつきながら、エアルはひたいの汗をぬぐう。
 しかし、そんな呑気な少年の前に広がっているのは、まるで対照的な光景だ。

「ギャウ……」
「グオォ……」
「グガァ……」
 
 何体もの強者たちが、それぞれ鍛えている部位を抑えて倒れている。
 エアルが相手の土俵で戦い、全て完全勝利したのだ。
 彼らにとってこれ以上のくつじょくはないだろう。

 そうして、エアルは再びエクスカリバーを構えた。

「終わらせるよ」

 これで決着をつけるつもりのようだ。
 エアルがぐっと力を込めたのに応え、エクスカリバーの光の刀身が伸びていく・・・・・

「これが……!」

 リザの持っていた情報通りだ。
 エクスカリバーは持ち主の体力を使い、刀身を成長させる。
 その長さは持ち主の強さに比例する・・・・・・・・・・・

(これほど、エアルに合った武器はない……!)

 無尽蔵の体力を持ったエアルだ。
 まさにぴったりの武器だと言える。

「うおおおおおおおッ!」

 そうして、天にも昇る勢いで伸びた光の刀身。
 それを手にしたまま、エアルは遥か高くに飛ぶ。

「行くよ!」

 まさに天から地へ、一閃。

「【メテオ・ブレイク】……!」

 まるで隕石が如く。
 光の刀身が一気に地へ降り注ぎ、魔物たちをなぎ倒した。

「「「ギャオオオオオオォォォ!!」」」

 一匹とて殺してはいないようだ。
 だが、とても動ける状態ではない。

 また、それと同時ににも変化が起きていた。

「“祝砲”とでも言うのかな」
「……ッ!」

 昼間にもかかわらず、まるで夜空のように空がキラキラと光っていたのだ。
 エクスカリバーの光の刀身、その欠片だろう。
 どこまでがエアルの計算かは、リザには検討すらつかない。

 そうして、スタっと着地したエアルは後方を振り返る。
 そこにいたのは、二匹・・のフェンリルだ。

「クォン」
「くぅん」

 その光景に、エアルはニッコリと笑顔を浮かべた。

「無事に出産できたみたいだね」
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