上 下
57 / 60

第57話 地下三階『魔境』

しおりを挟む
 「では開けます!」

 宣言して、地下三階の扉を開く。
 その瞬間、カメラは景色を引きで捉えた。

《うおおおお!?》
《えっ?》
《なにこれえっぐ……》
《すっげえ》
《ファンタジーの世界かよ……》

 その幻想的な景色に視聴者がコメントを書き込む。
 俺もより雰囲気を出せるよう、光景を表現した。

「最初に視界に入ってくるのは、真っ直ぐ続く道をいろどるよう、両脇から生える豊かな新緑」

《ん?》
《どした?》

「斜め上からは木漏こもが差し込み、高く伸びる木々をより際立たせる」

《ホシ君?》
《詩人になっちゃった?》

「夏を思わせる風景ではあるものの、セミの鳴き声や暑さはまるでない。耳を気持ち良く通り過ぎていくのは、近くを流れる川とゆらゆらと揺れる木々の涼やかな音のみ」

《これ、誰?》

「まるで都会の喧騒けんそうを離れ、山奥に来た時のような高揚感。この光景は、それを覚えさせてくれる素晴らしい情景だ」

《なんかエモくなってきた》

「って感じで読むのよ、ホシく……あ、やべっ」

 と、余計に読んでしまったところで、浮遊型カメラがぐりんとこちらを向く。
 さっと隠した紙を見られて、コメント欄は納得の様子を見せた。

《なんだあw》
《エリカお姉さんのカンペねw》
《カメラから隠れて読んでるの草》
《詩人になりたかったの?ww》
《最後にボロ出たなあw》

「くぅぅ」

 実はこういうことも出来ちゃうんです、って見せたかったのに。
 姉さん余計なこと書かなくていいよ!

「で、でも、雰囲気は伝わりましたよね!」

《まあねw》
《それっぽかったw》
《ラジオ代わりで聞いてるので助かります!》

「ほっ」

 温かいコメントに安心して、改めて風景を見渡す。

 扉を開けた先は、林道。
 誰が作ったのかは謎だけど、奥に続くように伸びていて道を示してくれる。
 あとは、ちょうど良い陽射しと川があってめっちゃ気持ち良い。

「それにしても不思議ですよね」

 俺が見上げるのと同時に、カメラも上を向く。
 
 すぐ後ろには扉もあるのに、ここに入った瞬間に天井はなくなる。
 どこまでも続く空から陽の光が注ぐんだ。

 ダンジョンって本当に不思議。
 
「じゃあ進みますか」

 そんなエモい地下三階の入口から、俺は目的地を目指して歩き始めた。




 くねくね曲がる林道を逆らわずに歩いて、しばらく。
 
「今度は虫取り網を持ってこようかなあ」

《ホシ君似合うわw》
《ウッキウキでかわいい》
《いよいよ小学生だけどなw》

「べ、別にウキウキしてるじゃないんですからねっ!」

 視聴者さんに気持ちを察知されそうになって、とっさに誤魔化ごまかす。
 そんな雑談も交えながら、結構進んで来たと思う。

《まじで幻想的》
《綺麗だなあ》
《魔素水の川は当たり前に流れてますと》

 ここまで来ても、光景に関するコメントは絶えない。
 むしろ次々と出てくる新しい景色に夢中になってるみたいだ。

「それなら、今度探索配信も良いかもしれないですね」

《え、まじ!》
《してほしい!》
《見たい!》

 うんうん、視聴者さんの反応は良い。
 せっかく夏休みだしそういうのもアリかな。

「あーでも……」

 そこまで大きなことをやるとなると、あの人・・・に許可を取らないといけないのかあ。
 今回は目的があるという名分はあるけど、それはちょっと面倒だな。

 まあ、後で考えよっと。

「お」

 そんな時、ちょうどよく林道の分かれ道が見えてくる。
 ここまで来ればもうすぐだ。

「こっちです。目的地はもうすぐそこですよ」

 分かれ道を過ぎてすぐ。
 ようやく目的地が姿を現した。

「ここですね」

 そこでまた出てきた新たな光景に、視聴者も釘付けになった。

《はえっ!?》
《なんだここ!?》
《急に!?》
《雰囲気はあるけど……》
《まじで秘境じゃん》

 林道の両脇から、通る人を囲むような鳥居。
 それがいくつもいくつも連なり、奥には大きな神社が見える。
 京都にも似たようなものがあったような、なかったような。

「今回の目的地『妖狐神社』ですね」

《妖狐神社!?》
《キツネと神社のイメージはあるけど……》
《世界観すげえな》
《急にこんなの出てくんのかよ》
《これは魔境……》
《どうなってんだ》

「もう少し進みます」

 そうして、幾重いくえにも重なる鳥居の中を進んでいき、最後に大きな鳥居をくぐった。

 目の前には赤色に染まった幻想的な神社。
 伝統的な笛の音なんかが聞こえてきそうな雰囲気だ。

「よし」

 そこで俺は、二週間前と同じように声を掛けた。

「ごめんくださーい」

 すると、のそのそと奥から音が聞こえてくる。
 明らかに大きな獣の足音だ。

 そうして──

「よく来たわね」

 九つの尻尾を持つ大きな狐が姿を現し、こちらをじっと見つめた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。 幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。 そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。 故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。 自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。 だが、エアルは知らない。 ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。 遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。 これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。

【完結】小さなフェンリルを拾ったので、脱サラして配信者になります~強さも可愛さも無双するモフモフがバズりまくってます。目指せスローライフ!〜

むらくも航
ファンタジー
ブラック企業で働き、心身が疲労している『低目野やすひろ』。彼は苦痛の日々に、とにかく“癒し”を求めていた。 そんな時、やすひろは深夜の夜道で小犬のような魔物を見つける。これが求めていた癒しだと思った彼は、小犬を飼うことを決めたのだが、実は小犬の正体は伝説の魔物『フェンリル』だったらしい。 それをきっかけに、エリートの友達に誘われ配信者を始めるやすひろ。結果、強さでも無双、可愛さでも無双するフェンリルは瞬く間にバズっていき、やすひろはある決断をして……? のんびりほのぼのとした現代スローライフです。 他サイトにも掲載中。

目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう

果 一
ファンタジー
目立つことが大嫌いな男子高校生、篠村暁斗の通う学校には、アイドルがいる。 名前は芹なずな。学校一美人で現役アイドル、さらに有名ダンジョン配信者という勝ち組人生を送っている女の子だ。 日夜、ぼんやりと空を眺めるだけの暁斗とは縁のない存在。 ところが、ある日暁斗がダンジョンの下層でひっそりとモンスター狩りをしていると、SSクラスモンスターのワイバーンに襲われている小規模パーティに遭遇する。 この期に及んで「目立ちたくないから」と見捨てるわけにもいかず、暁斗は隠していた実力を解放して、ワイバーンを一撃粉砕してしまう。 しかし、近くに倒れていたアイドル配信者の芹なずなに目撃されていて―― しかも、その一部始終は生放送されていて――!? 《ワイバーン一撃で倒すとか異次元過ぎw》 《さっき見たらツイットーのトレンドに上がってた。これ、明日のネットニュースにも載るっしょ絶対》 SNSでバズりにバズり、さらには芹なずなにも正体がバレて!? 暁斗の陰キャ自由ライフは、瞬く間に崩壊する! ※本作は小説家になろう・カクヨムでも公開しています。両サイトでのタイトルは『目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう~バズりまくって陰キャ生活が無事終了したんだが~』となります。 ※この作品はフィクションです。実在の人物•団体•事件•法律などとは一切関係ありません。あらかじめご了承ください。

羨んでいたダンジョンはおれが勇者として救った異世界に酷似している~帰還した現代では無職業(ノージョブ)でも異世界で培った力で成り上がる~

むらくも航
ファンタジー
☆カクヨムにてでローファンタジー部門最高日間3位、週間4位を獲得! 【第1章完結】ダンジョン出現後、職業(ジョブ)持ちが名乗りを上げる中、無職業(ノージョブ)のおれはダンジョンを疎んでいた。しかし異世界転生を経て、帰還してみればダンジョンのあらゆるものが見たことのあるものだった。 現代では、まだそこまでダンジョン探索は進んでいないようだ。その中でおれは、異世界で誰も知らない事まで知っている。これなら無職業(ノージョブ)のおれもダンジョンに挑める。おれはダンジョンで成り上がる。 これは勇者として異世界を救った、元負け組天野 翔(あまの かける)が異世界で得た力で現代ダンジョンに挑む物語である。

辻ダンジョン掃除が趣味の底辺社畜、迷惑配信者が汚したダンジョンを掃除していたらうっかり美少女アイドルの配信に映り込み神バズりしてしまう

なっくる
ファンタジー
ダンジョン攻略配信が定着した日本、迷惑配信者が世間を騒がせていた。主人公タクミはダンジョン配信視聴とダンジョン掃除が趣味の社畜。 だが美少女アイドルダンジョン配信者の生配信に映り込んだことで、彼の運命は大きく変わる。実はレアだったお掃除スキルと人間性をダンジョン庁に評価され、美少女アイドルと共にダンジョンのイメージキャラクターに抜擢される。自身を慕ってくれる美少女JKとの楽しい毎日。そして超進化したお掃除スキルで迷惑配信者を懲らしめたことで、彼女と共にダンジョン界屈指の人気者になっていく。 バラ色人生を送るタクミだが……迷惑配信者の背後に潜む陰謀がタクミたちに襲い掛かるのだった。 ※他サイトでも掲載しています

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

勇者召喚に巻き込まれたモブキャラの俺。女神の手違いで勇者が貰うはずのチートスキルを貰っていた。気づいたらモブの俺が世界を救っちゃってました。

つくも
ファンタジー
主人公——臼井影人(うすいかげと)は勉強も運動もできない、影の薄いどこにでもいる普通の高校生である。 そんな彼は、裏庭の掃除をしていた時に、影人とは対照的で、勉強もスポーツもできる上に生徒会長もしている——日向勇人(ひなたはやと)の勇者召喚に巻き込まれてしまった。 勇人は異世界に旅立つより前に、女神からチートスキルを付与される。そして、異世界に召喚されるのであった。 始まりの国。エスティーゼ王国で目覚める二人。当然のように、勇者ではなくモブキャラでしかない影人は用無しという事で、王国を追い出された。 だが、ステータスを開いた時に影人は気づいてしまう。影人が勇者が貰うはずだったチートスキルを全て貰い受けている事に。 これは勇者が貰うはずだったチートスキルを手違いで貰い受けたモブキャラが、世界を救う英雄譚である。 ※他サイトでも公開

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

処理中です...